ゼンレスゾーンゼロ ・ 聖剣   作:うどん米

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待たせたな!


第107話・通り過ぎた倫理

 

 

「あれ?意外と早く帰って来たね」

 

結局、ビデオ屋の前までアリエスさんに連れられて帰って来てしまった。

すると、不思議そうな表情をしたリンがポテチを食べながらソファに腰かけていた。

 

 

「アンビーがここからは一人で謝りに行くんだって」

 

俺は荷物を適当なところに置いてリンの隣に座る。

 

「そうなんだ……で、アンビーとナナシが何をしようとしているのかって私たちに話してくれないのかな?」

「話したら、きっと二人は俺たちを放っておけないだろう…ってことらしい。アンビーが話さないなら俺も話す気はないよ」

 

二人からの言いつけを守るなら話すべきだろうが、シルバー小隊のことやツイッギーのこと、俺がボロボロ話すのはあまりにもアンビーに不義理だ。

 

 

「……何だかさ、最近私たちに対して色々隠すようになったよね」

「元から結構隠し事は多かった気がするけど?」

 

自分の聖剣のこと、寿命のこと、ツール・ド・インフェルノの時は勝手に行動してグランに追い詰められたり、きりがなかった。

 

 

「それは記憶が無かったり、自分のすごく話しにくいことでしょ?…今は、誰かのために隠し事をしている気がするんだよね」

「それは、そうかも……」

 

アストラさんの輝きのモーメントではイヴリンさんのためにレインの依頼を受けて結局バレたものの秘密裏に動いていた。

今回も、アンビーに協力して秘密裏に動いている。

 

「なんでだろうね、本当ならナナシの成長を喜ぶべきなのに……これまでは私たち心配して隠し事をしてたのに、それが他人のために私たちに隠し事してるって知るとあんまりいい気分がしないの」

「……?それって、つまり隠し事はしないでってこと?」

 

てっきり、そうなのかと思ったがリンの顔がまるでリンゴのように赤く染まっていくのがわかる。

 

 

「違う、けど違わないって言うか…その……えっと…」

「えっと?」

「何でもない!!」

 

思わず聞き返したその瞬間、勢いよく立ち上がり食べかけのポテチを残して上の階にある自分の部屋まで戻って行ってしまった。

 

 

「……どうしたんだろう?」

 

 

この一連の流れに首を傾げていると入れ替わるように11号を抱えたアンビーが現れた。

 

「こっちは終わったわ」

「終わったわって、言っても11号さんは大丈夫なの?」

「ええ、寝ているだけよ…と言っても記憶はないのだけど」

「どういうこと?」

 

俺がアンビーと分かれた後、ビリー、猫又の元に行ったあと11号さんとトリガーさんと合流してデートしていたらしい。

その後、アンビーは自身の素性とこれまでのことを全て打ち明けた。

 

だけれど、シルバー小隊の兵士が、受賞を折って以降に見聞きした記憶は24時間でリセットされるらしく眠りについたようだ。

 

 

「その人形は?」

「猫又が作った人形よ、一応私を模しているらしいわ」

 

渡された人形は確かにアンビーを模しているようで、猫又が丹精込めて作ったのがわかる。

だが、頭の方が妙に重い――それも、俺が良く知っている重さで少し揉むと何があるのかすぐにわかった。

 

 

「その…あんまり揉まれると恥ずかしいわ」

「あっ、ごめん……それで、これから行くんだよね」

 

渡されたアンビー人形はなんとなく眠っている11号の上に置いて行く、すると安心したのか彼女の表情が少しばかり安らいだ気がする。

 

 

「えぇ、それとナナシの力を借りていいかしら?」

「それは、いいんだけど何をしたらいいのかな」

「難しいことはないわ。今から、プロキシ先生の力を借りに行くその時、ただ私の近くにいてほしいの」

 

本当に難しいことではなかった、確かにあれだけ二人の力を借りないように動いていたのだ。

いざとなれば、緊張するのも無理はない。

 

 

 

ということで、二人の力を借りようと扉を開けた時には既にこちらの意図を察しているのかわからないが二人がスタンバっていた。

 

「うるさくしてごめんなさい、起こしちゃった?」

「アンビー、何かしようとしているね?」

 

開幕真剣な表情でアキラがアンビーに問いかける。

 

「こっちはナナシについてる盗聴器から全部知ってるんだからね!」

「そうなの?」

「そういえば、そうだったね……」

 

最近は無効化したりしていたため特に気にもしていなかったが、俺の体にはいたるところに盗聴器が仕掛けられている。

これまでの一連の会話が漏れていてもおかしくない。

 

 

「なら、話しが早いわ。プロキシ先生、手を貸して。あのホロウに行って、歪なラボを壊すのを手伝ってほしいの。かつての家族と、決着をつけるために」

「私もお兄ちゃんもそう言ってくれるのをずっと待ってたよ」

「なんとなくタダ働きをする流れになっている気もするけれど、これも君の作戦かい?」

 

俺が最初っからタダ働きだった気がするが、とにかく協力を取り付けることができて良かった。

 

「いいえ、邪兎屋からの依頼と思って。全部終わったら、私が払う。でも今は…言っておきたい場所があるの」

「一人でホロウに行っちゃうのはなしだからね!」

「しないわ、安心して。私の決意を…三人には見届けてほしいから。それじゃ、行ってくるわ」

「え、え?俺も!?」

 

良い話だなと、頷いて会話の蚊帳の外にいた俺だったが急にアンビーに引きずられながら邪兎屋の臨時拠点内に向かった。

 

 

 

 

「久しぶりね、シルバー小隊…隊長。もう二度と会うことはないと思ってた……でも、ここで決着をつける」

「うん……ところでさ、俺がいる意味あったかな?」

 

邪兎屋の臨時拠点内に連れて行かれた俺は特に何をすることもなくぼーっと空を見上げているだけだった。

少し、時間が経つと拠点内の奥から着替えたアンビーが現れた。

 

 

「あるは、この格好の感想を言って欲しい」

「感想…?白い隊服がアンビーの髪色に合っててすごく似合ってるし、すごい可愛いと思う」

「それ以外は?」

「二刀流がかっこいい、髪留めが可愛い。ストッキングが良い、背中についてる黄色のビラビラがカッコいい!!」

「ふふっ、ありがとう。それじゃあ、行きましょう」

 

要求された通りに、アンビーの隊服の感想を述べ切ると彼女は満足そうに先に外に出て行ってしまった。

 

「…本当に俺、必要だった?」

 

 

 

***

 

 

 

ホロウに入ると、普段とは違う何か嫌な予感というかおどろおどろしい悪意を感じ取った。

 

 

「来るよ、前方にエーテリアス多数!」

 

数歩進めば、すぐさまエーテリアスが無数に出現する。

 

 

「了解、私が前に出るわ。ナナシは後ろからカバーして」

「わかった!『エデンの星!』」

 

すぐさま『理の律者』へと姿を変え、エデンの星で彼女のカバーに入る。

だが、カバーに入る間もなくエーテリアスはすぐにみじん切りにされてしまった。

 

 

「戦い方も変わるんだ、何だか俺と似てるね」

「ええ、制服に着替えたら、昔のことを思い出したの」

 

俺が理の律者に変われば後衛寄りに戦うのに対してアンビーは隊服を変えることで攻撃の荒々しさが増しているというか容赦がなくなっている。

 

おそらく、こちらがアンビーの本気と言うやつだろう。

 

 

そして、その後はアンビーの活躍もあって道中のエーテリアスたちに特に苦戦はしなかった。

問題は、現場についてからだったのだ。

 

「ガッカリだわ、アンビー……私たち姉妹の問題に、助っ人を呼ぶなんて」

 

ホロウの奥底まで入って行くと、ツイッギーが腕を組みながら待ち構えていた。

彼女は、口でこそ『がっかり』していると言っているものの目はそう言っていないように見えた。

 

「助っ人の力を借りなくても、あなたに負けることはないわ。ツイッギー…シルバー小隊はもうとっくに存在しない。小隊の復活は、アナタにはできないわ」

 

そう、ただでさえクローンというのは製造が難しい。

俺なんか、一番最初の1号機から段々と弱くなるという欠点を抱えている。

 

それこそ、実践レベルの兵士を量産するというのは全く現実的ではない。

 

 

「…その必要ないと言ったら?」

「あなたは一つ、勘違いをしている。私はもう可能にしたの、私だけのシルバー小隊の復活を……!!」

「可能に、した?」

 

その時だった、倉庫のような部屋から続々と現れるアンビーに似た少女たち。

だけれど、違和感があった兵士特有の緊張感と言うか殺気と言うのが全く感じられなかった。

 

 

「…まさかッ!?」

 

 

アポロから聞いていた倫理レベル-1,000,000,000の所業の数々、それらにはクローンを生体燃料として生かすものもあった。

そして、彼女は闇医者に何度も何度も体をいじくられていた。

 

 

「何をしたら…私の内臓をかき回すあの両手を止めさせて、TOPSのお偉いさんから、私の研究に対する資金援助を引き出せたと思う?」

 

 

瞬間――アンビーの脳裏には冷たく骨の髄まで凍り付くようなラボの中、視界の炭に見えたものが記憶の底から、段々と浮かび上がってきていた。

そして、最悪の一言を口にした。

 

「そんな…嘘…あなた、彼女たちの…臓器を売って……その手で私たちの姉妹を作って…家畜のように扱ったの?」

「シルバー小隊の復活に必要な資源を、彼女たちで交換しただけ。私は家が欲しかった、それだけなの」

 

つまり、そのために姉妹の体すら手に掛けて見せた。

もう、完全にツイッギーは超えてはいけない一線を越えたとそう確信した。

 

「『私たちの姉妹』って言ったわね?そう、私たちは姉妹であり、家族なの……家族なのに…どうして同じ痛みを分かち合ってくれないの!?」

「…ッ」

「私もハリンも完璧じゃないのが、本当に残念…どんなに頑張っても『欠陥品』しか作れなかった。臓器を取る以外、何の役にも立てない」

 

言われてみれば、周りのクローンたちは自分のはっきりとした意思を持っているように見えない。

彼女の言う通り、欠陥品なのだろう。

 

 

「でもね、成果がなかったわけじゃないわ!誰にも言わなかったけど…少し前に、技術の改良に成功したの。これからはもっとクローンが作りやすくなる」

「それが…シルバー小隊の復活」

「そうよ、優秀な兵士を作るコストが今よりもずっと低くなって、立案書に書かれた通り……『砂糖と空気から軍隊を作る』そんな魔法が、もうすぐ実現するの」

 

最後に、ツイッギーは恍惚とした表情でアンビーに向かって手を伸ばす。

 

 

「アンビー。アンビー隊長。今ならまだ手を取り合えるわ。あなたはバズルの最後のピース、協力してくれれば、絶え間なく本物の戦士を生み出し続けられるようになる。そして、誰にも知られることなく実験は続くの。巨大な軍隊が出来上がる、その時まで…」

 

 

ツイッギーの言葉は一見、夢物語のように聞こえるが技術の革新が続けばそれこそ新エリー都すら制圧することが可能だろう。

 

 

「私?私はどうなってもいいわ。私が浪費した…いえ、殺してしまった姉妹たちに報いるために処分されたっていい。好きにして…隊長、一緒に家に帰ってくれる?」

 

もう一度、彼女はアンビーに問いかける。

だが、首を縦に振ることはなかった。

 

「こんなもの…家じゃない。胸が悪くなるわ。ごめんなさい、ツイッギー…あなたは、あのホロウで眠いっていた方が良かったのかもしれない」

「あっはははははははははは……!!」

 

拒絶された後、すぐに狂乱したように笑い出す。

 

 

「そうね。私だって、自分が気持ち悪いって思うもの」

 

その瞬間、ツイッギーは薬液が入った注射器を取り出すと自分の体に刺そうとする。

 

 

「させるか!!『エデンの星!』」

 

だが、先ほどから会話の蚊帳の外にいた俺はすかさず『エデンの星』を起動し注射器を重力で粉々に粉砕した。

 

 

「お前!!」

「させるわけ、無いだろ!」

 

あの薬液が絶対ろくでもないものなのはすぐにわかった。

おそらく、自分をエーテリアスに変える薬かなんかだろう。

 

だが、これで相手は手札を完全に失った。

薬を失った今、相手に俺とアンビーに対抗する手段はない。

 

 

「どうする、アンビー。この子たちは、多分…長くは生きられないと思うけれど」

 

エデンの星をいつでも使える状態にしながらツイッギーの元に一歩踏み込む、すると項垂れて動かないツイッギーの前にマスクをしたクローンが立ちふさがった。

 

 

「アナタ…マモル…ミンナ……」

 

その行動に呼応するように、他のクローンたちも続々とツイッギーの前に立ちふさがる。

決して、強制された行動ではない。

 

「意外と、慕われてるな…」

 

確かな情をそこから感じ取った。

 

 

「…私は、一度一緒に罪を償う……そう言ったわ。その覚悟は、今でも変わらないつもりよ」

「何よ、まだ私たちを救えるって思ってるの」

「アンビーがそう思い続けるなら俺は協力するだけだよ。知り合いに孤児院を開いている人がいる。そこで、何とか交渉してみたり、出来るだけのことをするつもりだよ」

 

ニコが寄付していたあの孤児院なら、支援をすればクローンたちも少しの間だけでも幸せに暮らせるかもしれない。

 

 

「…あなた、何で私たちを助けようとするの?」

「さっきも言ったけど、アンビーが思い続けてるからだよ。それと、俺もクローンだからね、少しくらいは気持ちがわかるつもりだからね」

「なるほどね、それでもしここで拒否したらどうするつもりなのかしら?」

「…残念だけど、野放しにするわけにはいかない。殺すかどうかはまだ決めてないけど、少なくとも拘束はさせてもらう」

 

拒まれたら、拒まれたらでそれ相応の対応をする必要がある。

その気なら、痕跡を消すために彼女たちを動けなくしてホロウによってエーテリアスにしてから殺すという手もある。

 

だが、正直それは非常にしたくない。

 

 

「だから、まだ姉妹たちを想う情があるなら……大人しく、従って欲しい」

「なんで救う側がそんなに辛そうな顔をするのよ。でも、そうね……ここで皆死ぬくらいなら、それも…悪くは、無いのかし…「つまらない事、言わないでくれるかな?」…ッ!!」

 

その時だった、突如として現れたぼさぼさ青髪の“彼女”を俺はよく知っている。

 

「『模ムゲン・ザ・ハンド』」

 

そして、見慣れないギアを付けた腕が体の横から立ち昇り頂点で手を重ねると4本の青色の腕が出現しツイッギーたちを襲った。

 

「危ない!!」

 

伸びる青い手は、マスクをつけたクローンに接近している。

それに、気づいたツイッギーは彼女を突き飛ばし避けさせるが、自身に青い手が迫る。

 

 

「『模ジ・アース』」

「ッ、させるか『エデンの星』」

 

すると、青い手が回転し青い光が螺旋を描きながら収束していく、その光は冷たい輝きを放ちながら、静かに渦を巻いていた。

 

それに気づいた俺は『エデンの星』をすぐさま起動させツイッギーを回避させようと力を込めるが間に合わず彼女の腹部をジ・アースが貫いた。

 

 

「あっ、が……」

「ツイッギー!!」

 

間違いない、今使っている技は間違いなく聖剣ジ・アースの物。

そして、それを使用した人物を俺は確実に知っている。

 

 

「やあ、ここまで欠陥品が揃うと壮観だね」

「…なんのつもりだ!アインシュタイン!!!」

 

アポロの記憶では見たことがないほど邪悪な笑みを浮かべたアインシュタインがそこには立っていた。

 

 

 




待たせたな!というのも、しばらく暇がなくてですね。
おそらく、次の更新は11月の終わりごろになると思います。なので、それまではこの話でしのいでください……スマン
ぜひぜひ、総合評価を上げて待っといてくださいな!

皆は閑話とか、IFの話とか読みたい?

  • 読みたーい!(特にヤンデレ)
  • 読みたーい!(ラブラブ!)
  • 読みたーい!(好感度測定器みたいなやつ)
  • いや、読みたいのは本編だ!遅れてんぞ!
  • 作者さんの自由で!
  • こんなアンケートする前に書け
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