ゼンレスゾーンゼロ ・ 聖剣   作:うどん米

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第109話・命を司る神の鍵

 

 

戦いをアンビーに任せた俺は早速ツイッギーの治療に取り掛かっていた。

 

この時点で残っているアンビークローンはツイッギーとマスクの少女のみ、それ以外はアインシュタインによって聖剣の電池によって変わってしまった。

 

 

だが――

 

「直すって言ったけど……」

 

近づいたらすぐに気づいた。

ジ・アースによってお腹を貫かれた彼女は単純な刃物の傷ではなくまるでドリルで貫かれたように抉られている。

 

これでは、臓器は完全に破壊されているし、理の力と言ってもここまで荒々しく破壊されては応急処置すらできない。

 

 

(理の律者で完全に肉体を作れるのは俺の体だけ…他は、応急処置程度が限界……いや、律者の力を何回も使用して…それも、この出血じゃ……)

 

血はドバドバと溢れ、ツイッギーの表情も段々と辛くそして青くなっていく。

それが一層ナナシの思考を浅くさせ焦らせていた。

 

 

「…もう、これしかない」

 

自分が思い当たる彼女の活かすための唯一の手段。

それは、聖剣ゼウスの創造による治癒能力しかなかった。

 

この時、ナナシは到底知るはずもないが聖剣というのは遥か昔の技術の結晶であり、それを再現するというのはその文明を作り出すも同義の愚行であった。

 

 

何よりも、聖剣の力の源になっている律者コアが一つ入っている神の鍵ですらあれだけ消耗するというのにそれが三つ以上は使われている聖剣を作るなんて無謀もいいところだ。

 

 

『待ちなさい、ナナシ。それは危険すぎるわ』

 

 

それに待ったをかけたのはいつになく真剣な声色のエリシアだった。

 

 

(それは……わかってるけど、でも俺の力じゃこれしか方法が……)

『だからって、そんな自爆同然の創造なんてさせないわ。だけど、私もただ止めに来たわけじゃないわ。提案があるわ』

「本当…!?やらせて!」

 

彼女の提案に思わず声を出してしまう。

そして、エリシアの提案に対して内容も知らず了承した。

 

『…わかったわ。一応、忠告だけどこれはアナタにもかなりの負担がかかるわ』

(それで、ツイッギーを救えるなら構わないよ)

 

正直、ツイッギーへはあまりいいイメージを持っていない。

だけれど、彼女は姉妹たちにちゃんと慕われていた。

 

それが踏みにじられるのも我慢ならなかったし、アンビーは罪を一緒に償うと言っていたなら、それを叶えてあげたいと思った。

 

『ふふっ、そう言うと思っていたけれど少し妬いちゃうわね。それで、私の提案って言うのは第六の神の鍵…創世の鍵『黒淵白花(こくえんびゃっか)』の創造よ』

(神の鍵って、エデンの星と同じ…?)

『ええ、使い手が良く早死にする聖槍よ』

(呪いの槍じゃないか!?)

 

てっきり癒すものかと思ったがやはり聖剣と同じ類の呪いの武器だった。

 

だが、今では治せるのなら悪魔だろうが聖剣だろうが呪いの武器だろうがすがってやるつもりだった。

 

『だけど、この槍なら確実に彼女を救えるしアインシュタインにも十分ダメージが入るわ。確実にこの戦況をひっくり返せるのはお墨付きよ』

(…なら、やるよ。でも、どうやって?俺はその槍を見たことがないんだけど)

 

以前のエデンの星はシーザーのピアノによって呼び起こされた記憶で見た、いわば事故のような形だった。

だけれど、黒淵白花は見たことがない。

 

 

『これから見せるに決まってるじゃない』

(え………?)

 

こんな状況で、戦場のど真ん中でエリシアの一言共に俺の意識は闇に消えた。

 

 

 

***

 

 

 

爆音、硝煙と血ともっと悍ましい何かが混ざったような悪臭、ボロボロのビル群、まさに世紀末という光景の中、一人の戦士は走っていた。

 

間違いない、以前エデンの星の映像にも現れた黒い霧に顔が潰された男だった。

 

 

その先にいるのは俺たちが普段見るエーテリアスとは比べ物にならない巨大な怪物、体中にはハチの巣のような穴が無数に空いており、そこから小型の蜂の姿をした怪物が次々と現れている。

 

 

「行くよ、黒淵白花」

 

そう言った男の手の中には黒い柄の白いランスが握られていた。

あれこそまさしくエリシアが言っていた黒淵白花だが、その気配はただものではなく濃厚な死の気配を感じ取れた。

 

 

「『俺は全てを呑みこむ黒。俺は全てを育む白。創世の前に生まれ、隠滅の後に存在する』神の鍵・黒淵白花、第一定格出力解放!!『聖槍開花!!』」

 

詠唱と共に地面に槍を突き立てる、そして一拍置いてその時だった。

白い光と共に飛んできていた数多の蜂は陽炎のように揺らいで消え去り、一面には白い花が咲きほこっていた。

 

 

光が晴れたころには無数の蜂どころかそれを生み出していた巨大な怪物も最初からいなかったように消え去っていた。

 

 

「…エリシアめ、発動コードに変な詠唱をセットしやがって……」

 

戦いともいえない一連が終了したため男はすぐにどこかへ行こうとするが、その時瓦礫の一点に目が止まる。

 

 

「い、痛いよ…助けて……」

「もう、大丈夫。すぐに助けるから」

 

瓦礫の下にいたのは、まだ小学生ほどの少女だった。

おそらく、瓦礫の落下の中でたまたま隙間に潜り込むことができたのだろう。

 

すぐに瓦礫をどけて黒淵白花をかざすと白い光を放ち彼女の体をたちまち直して見せた。

 

 

「…っ、ふぅ…よし、これで大丈夫」

「痛っ、痛くない、ありがとう。おじさん!」

「おじさん……まあ、いいか」

 

体の傷が治った少女はたちまち笑顔になり、その姿を見て男もほっと息をつく。

 

「あのね、私のお兄ちゃんを知らない?家が崩れた時、すぐ近くにいたの!!」

「君のお兄ちゃん…?………っ」

 

少女の言う通り、彼女の兄はすぐ近くにいた。

すぐ近くで無惨な死体になり果てた状態で――

 

 

「…お兄ちゃん!!」

 

慌てた様子で少女は近づいて揺するも全く反応はない。

そりゃそうだ、少なくとも上半身と下半身が分かれている存在が生きているはずがないのだから。

 

 

「………」

「ねぇ、助けてよ!おじさんなら助けられるんでしょ!大丈夫なんでしょ!!」

「………っ、黒淵白花は死者を蘇生することはできない。だから、ごめん…ごめんな」

「う、嘘!嘘つき!!大丈夫って言ったのに!助けるって……!!」

 

少女の涙が落ちるごとに男の黒淵白花を握る手は強まる。

それは、己の不甲斐なさをひたすら責めているようだった。

 

 

「『……!』大丈夫か?」

 

おそらくこの男の名前が呼ばれ振り向くとそこにはヘリからちょうど降りてきた白髪の男が駆け寄ってくる。

 

「ケビン。あぁ、俺は大丈夫だよ…それよりも、彼女を頼む。冷やすなよ」

「大丈夫って…お前、白花を使ったのか。って、待て!」

 

男がケビンに少女を預けると背を向けどこかに歩き出す。

 

 

「……待てって、何が」

「エリシアから聞いた、あの“薬”を持ち出したって…あれは危険なんてもんじゃない」

「…それが?」

「それがって…わからないのか?これ以上お前が摂取すればもう人間に戻れなくなるかもしれないんだぞ!!」

「…それが?」

 

ケビンは必死にこの男を説得するが、彼は全く気にした素振りを見せず何でもないように歩き続けている。

 

 

「それが、じゃないと言っているだろう!」

「それでいいんだ、それで一人でも多くの人間が救えるのなら。それで構わない、今だってもしももっと力があればあの子のお兄ちゃんを助けられたかもしれない」

「…グレーシュが泣いていたぞ。ちっとも笑ってくれないって」

「代わりに謝っておいてくれ……それよりも、俺は行かなくちゃいけない。『虚空万象』」

 

すると男は金色の立方体を持ち出し、その神の鍵の名前を呼ぶとすぐにケビンが乗って来たものと同じヘリコプターが金色の光を放ちながら創造された。

 

 

「ッ、どこに行くつもりだ」

「助けを求める人の元にだ。ケビン、お前はその少女を頼む…それとも、ここで殺し合うか?」

「僕がお前と…?馬鹿言うな、今は人間同士争っている場合じゃない」

「なら、ほっといてくれ」

 

そう言って男はヘリに乗り込み自ら操縦を始める。

 

「…ッ」

 

その光景をケビンは何もできずその場に立ち尽くしながら、やがて少女を連れて自らが乗って来たヘリによって引き返していった。

 

 

「…力だ。力がいる」

 

ヘリを操縦しながら、男がポケットまさぐるとそこから何やら赤白の薬剤を取り出す。

それを、水もなしに服用し飲み込む。

 

 

「…全てをこの手で守れる力が欲しい。欲しい…欲しい…欲しい……もう、誰も……失いたくない」

 

一瞬だけ靄が晴れ、その男の瞳が見えた。

その瞳にはおどろおどろしい絶望が充満しているが、その奥にはそれらと比べてか細い光が瞬いていた。

 

 

 

***

 

 

 

「…はっ!!」

 

最悪の寝覚めで現実に戻って来た俺はとりあえず状況を確認する。

目の前には瀕死のツイッギーとマスクの少女。

 

どうやら、回想中に間に合わなかったという展開は起きていないらしい。

 

 

「『模ムゲン・ザ・ハンド』」

「はぁぁぁぁ!!」

 

アンビーとアインシュタインの方も青色のムゲン・ザ・ハンドと彼女の剣が競り合っているもののどうやら互角のようで戦況の変化は起きていない。

 

なら、俺がすべきことは至極簡単である。

 

 

あんな夢を見せられてものすごく気分は悪いが、それでもやるしかない。

 

『頑張って、貴方なら行ける。私もついているから』

「うん、任せて……」

 

創造するのは黒い柄の白いランス。

黒淵と白花の二振り、その集合体。

 

黒淵は分割の力を司り、白花は創世の力を司る。

共に死を司るものから生まれ、その一撃は無機物すらその命を奪う。

 

 

「いでよ、第六の神の鍵、創世の鍵『黒淵白花!!』」

 

理の律者の能力を全開で引き出し、エリシアの力も借りて創造する。

現れたのは紛れもない黒淵白花そのものだった。

 

その上、幸いにも一度死んでいたおかげかこの神の鍵と俺との親和性はトップクラスで高い。

それゆえに、クオリティはエデンの星を超えている。

 

『やったわね。このまま定格出力解放よ!』

「ああ!『俺は全てを呑み込む黒。俺は全てを育む白。創世の前に生まれ、隠滅の後に存在する』第六の神の鍵・黒淵白花、第一定格出力……!!」

 

詠唱と共に、黒淵白花に光が集まっていく。

それと同時に、俺への肉体の浸食も始まってきている。

 

発動すれば一体どうなるかわからない、それこそエデンの星のように意識を失うだけじゃ済まないかもしれない。

 

 

だが、そんなことは知らないと言わんばかりに覚悟を決めてその名を呼ぶ。

 

「『聖槍開花!!』」

 

眩い光がこの世界を包み込んだ。

 




総合評価が600切った……
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  • 読みたーい!(特にヤンデレ)
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