ゼンレスゾーンゼロ ・ 聖剣   作:うどん米

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あけおめ


エピローグ:希望の始まりと終わり

 

 

夢を見ていた。

体全身がなんとも言えない浮遊感に包まれながらぼやぼやと映し出される映像を見ていた。

 

『神なるもの、変化の極みなり。万物に妙にして言を為し、形を以て話すべからざるものなり』

 

これは、俺がブリンガーに向けてやったものじゃない。

顔の見えない誰かが文字通り全てを投げ出して何かを成そうとしている瞬間だった。

 

 

『太虚神剣』

 

 

男の持っている刃は赤く色を帯び、より鋭い物へと変化する。

それだけじゃない、体もドロドロ溶けて剣の一部となっていく。

 

やがて、彼は火の鳥となり空へと飛び立ち暗雲たち込むホロウを晴らしていく。

 

『あな……たは、だれ?』

 

瓦礫の上にポニーテールで髪をまとめた白髪の女性が立っている。

 

彼女は今にも命を燃やし尽くしそうなほど衰弱しており、その近くには血縁者と思われる人が倒れている。

 

 

やがて、女性の体は塵へと変わり火の鳥の中に納まっていく。

 

いや、それだけじゃない。

辺り一帯いる今にも死にそうな全ての人々の体が火の鳥に吸い込まれていっていた。

 

 

『……』

 

火の鳥は空を一瞬仰いだ後、地上に目を向ける。

それは、もう戻ることがない地上への最後の手向けのように見えた。

 

そして、最後火の鳥はこちらを睨みつけながらこうつぶやいた。

 

『青溟剣を探して……』

 

 

 

***

 

 

 

実験室と思われる無機質な空間には無数の巨大な培養液が設置されている。

その中から、手をかざすと一人の少女が中から現れる。

 

「……死ぬのは久しぶりだな」

 

少し気だるげに青いぼさぼさ髪をかき上げる小学生ほどの大きさの少女。

間違いなく、彼女はナナシがホロウで仕留めたアインシュタイン本人であった。

 

それに加え、そのタイミングで部屋に入って来たのはサラであった。

 

「あら体乗り換えたのね」

「ああ、そっちも怪我は治ったようだね」

「おかげさまでね。全く……ひどい目にあったわよ」

 

そう、つい数週間前に起きた“事故”によって彼女は脇腹周辺の骨が全部折れてしまっていたのだ。

 

「それよりも、ジ・アースの使い手はどうだった?」

「どうだったも何もないよ。未熟も未熟だ。あの程度なら軽くひねりつぶせるだろうね」

「その割には負けてるみたいだけど」

「……あれは、長く体を変えていなかった故の執着が生んだ副作用が原因さ。アポロ以外の力も使えば十分勝利できた」

 

アインシュタインの言う通り、あの戦闘ではアポロの必殺技しか彼女は使わなかった。

その気になれば、様々なコマンド技や鎧装など使える手はいくらでもあったというのに

 

 

「執着ね……なら、今のアナタはそれがないって事かしら?」

「気にするほどでもない程度さ。だから、今の僕にはナナシに対して特別な憎しみもない……もちろん、手を抜く理由もないけどね」

 

彼女の眼光が鋭く光る。

確かに、容赦をする気はないようだ。

 

「それを聞いて安心したわ。それで、ジ・アースはさっさと回収するの?」

「いや、あれと触れてみてわかった。あれは、回収不可能だ。完全に融合している」

 

そう、アポロの時からもそうだが彼やナナシは聖剣と完全に融合することによってその力を行使している。

 

聖剣は奪った後、その使い手を殺さなければ手に入れることはできない。

この手順を間違えれば聖剣は勝手にトンズラしてどこかに消えてしまうのだ。

 

 

「だからって、方法がないわけじゃない」

「方法って?」

「僕の仮説によれば触媒があればナナシから聖剣を引っこ抜くことができると思う。あくまで仮説だが」

 

同時に彼女のにやりという笑みが浮かび上がる。

仮説と言っていたがほぼ確信しているようだ。

 

「それで、その触媒はどこにあるのよ?」

「これを見てくれ」

 

そう言うと彼女は何やらリモコンに手をかけ電源をつける。

すると、プロジェクター越しに何やら地図のようなものが投影される。

 

 

「十年と少し前。旧都陥落時に十人のアポロが目覚めた。だが、このうち足取りが完全にわかっているのは十号のみだ」

「一号はアナタが逃がしたんだったわね」

「君もその片棒を担いでいるのを忘れたのかい?」

「……それで、続きは?」

 

痛いところを突かれたのかサラはアインシュタインに続きを促す。

 

「当然、このアポロは僕たちが蘇生したのを除いて全て死亡している。だが、つい最近おかしな信号をキャッチした」

 

そう言うと地図上に何やら電波の波紋のようなものが発生する。

 

 

「調べたところ、これはジ・アースの使い手のみが受診することができる特殊な電波だとわかった。これを通じて何かやり取りをしているんだと思う」

「それって……」

 

ジ・アースの使い手のみが受診することができる特殊な電波を出せる何ものかがいる。

そして、そんなことができる可能性がある人物を彼女たちは知っていた。

 

 

「ここに、アポロはいる。体を保つ触媒と一緒にね」

「……急にめまいがしてきたわ。それで、ここはどこなの?」

 

衝撃の一言に思わずこめかみを抑えながらサラは彼女に問いただす。

 

「新エリー都衛非地区……場所は適当館辺りみたいだ」

「……術法の勉強でもするべきかしら」

 

 

 

***

 

 

 

アインシュタインを倒した後、俺は一週間丸々寝ていたらしい。

原因は不明、脳の機能にも異常は見られなかったので不思議がられていたようだ。

 

「ナナシ……っ、また、目を覚まさないじゃないかって」

「私も本当に心配したんだから……」

「……ごめん。アキラ、リン」

 

だからこそ、目覚めたときに二人を泣かせてしまった。

 

特にアキラなんかはライに殺されたときのことを思い出してしまったようで落ち着かせるのにかなりの時間を要することになった。

 

 

そして、目覚めたことを聞いてアンビーたちが駆けつけてくれた。

 

「本当ッにあんたは、無茶しすぎなのよ!」

 

珍しくアキラとリンからの説教がなかった代わりに、ニコたちからたっぷりとお叱りを受けて俺はビデオ屋の屋根の上でのんびり腰を掛けている。

 

 

 

「……『真ゴッドハンド』」

 

いつものように黄金の手を作り出すべく力を込めるが、すぐさま霧散して全く形にならない。

 

マジン・ザ・ハンドもムゲン・ザ・ハンドもジ・アースなんて一番もってのほかだった。

 

 

「っ、『真ゴッドハンド』」

 

それでも、無理やり必殺技を発動させようとすると途端に鼻血か吹き出し、体全身がやめろと叫び出した。

咳も止まらない、吐血も出始めたそのタイミングでやっと諦めた。

 

「『熱血パンチ』」

 

ギリギリと言ったところだが、普通の熱血パンチくらいは発動できる。

 

 

「……それ、プロキシ先生には言わないの?」

「っ、アンビー!?」

 

出てきた鼻血と吐血した血を拭いていると唐突に後ろから声がかかる。

振り向くと、心配そうな表情をしているアンビーがいた。

 

「……大丈夫。なんて、無理か」

 

横に座った彼女に何とかごまかしの言葉を紡ごうと思ったが、流石に不可能だと諦めた。

 

「ええ、無理よ。明らかに大丈夫じゃないわ。すぐに病院に連れて行くわ」

「いや、これは病院とかじゃないんだ」

 

目覚めてすぐ、俺は自分の体の異常に気が付いた。

ジ・アースがうまく扱えないと思ったのは本当にこれが初めてだったからだ。

 

エリシアに状況を尋ねることすらできず、理の律者の能力も完全に使えなくなっている。

 

 

「おそらく、アインシュタインの最後の攻撃が俺のコアに当たったせいだと思う」

「コア……それに、攻撃が当たったからあんな風になったって事かしら」

「うん、まさかここまで弱体化するとは思わなかったけど」

 

使用できる必殺技はなんと『熱血パンチ』のみだ。

初期も初期、アキラとリンに出会う前の俺に逆戻りと来た。

 

「……それよりもさ、ツイッギーたちはどう?」

「二人なら、今は邪兎屋にいるわ。二人とも戦いより事務の方が向いてるらしくて、邪兎屋の赤字に頭を抱えてたわ」

「それって、赤字じゃない日は逆にあるの?」

「あるわ。その日はたまたま帳簿をつけ忘れていたの」

 

つまり、年中赤字ということだ。

貸したお金が返ってこない原因もこれでわかった。

 

「一応、ナナシには感謝しているみたいよ。私たちに腕と声と居場所をくれてありがとうって」

「……そっか」

 

黒淵白花の効果はすさまじかった。

俺の生命力をほとんど消費したとはいえ、彼女のなくなった腕を再生させ、不完全な状態で生まれたマスクの少女の喉やら何やらを完治させたのだ。

 

しかし、アインシュタインによってウイルスを打ち込まれたクローンたちは助からずあのまま亡くなってしまった。

 

 

「きっと、ナナシは悔やんでいるのね。私たちの他の姉妹を救えなかったことに」

「……うん。もっとこうしてればな……とか、今でも考えちゃうよ」

「そう、ならその気持ち私にも背負わせて欲しいわ。ナナシの苦しみも悲しみも、嬉しいことも幸せなことも一緒に感じていたいもの」

 

その時のアンビーの優しい笑顔を俺はきっと忘れないと思う。

 

「そ、そっか……ありがとう」

 

柄でもないが、この時の俺は冷静じゃなかった。

というか、聖剣の力がうまく使えなくなったころからかなり冷静じゃなかった。

 

(……何だか、顔が……熱い)

 

思わず手を頬に置くと冷たい手が一気に熱い頬を冷やす。

 

これまで、こんなことは俺には起きなかった。

目覚めてすぐ、アキラとリンを見た時もこの現象が起きた。

 

ニコたちがビデオ屋に駆けつけてきたときもそうだ。

 

(こ、これ……何?)

 

突然のことに俺は動揺を隠せなくなっていた。

 

 

「ナナシ、どうしたの?」

「……な、何でもないよ。それよりも、大人しくアキラとリンに話すよ。隠している方がきっと二人を悲しませるから」

「それが良いわ。行きましょう、私も一緒にいるから」

「え、う、うん」

 

無事に誤魔化すことに成功したナナシ。

しかし、なぜかアンビーに連れられてアキラとリンに自分の状況を告白するのであった。

 

ちなみに、ナナシが弱体化したことを狙って監禁計画が実施されかけたのはまた別のお話――

 

 

 

 

***

 

 

 

 

空は暗く

 

だけれど、星は見えることはなかった。

 

この暗雲を晴らせば見ることができるのだろうか。

 

 

そもそも、自分が誰なのかもわからない。

 

だと言うのに、培養液から出てきた俺?僕?私?は無意識に駆け出していた。

 

多くの命が失われていた。

 

多くの悲しみがありました。

 

多くの嘆きがありました。

 

ですが、―――にはそれを助けるすべはありません。

 

肉体が不完全だからです。

 

 

力が足りません。

 

 

だけれど、諦めるつもりもございません。

 

自身の肉体を消滅を代償に、周辺一帯の死した魂、これから死にゆく魂をこの剣に保管します。

 

なぜこんなことをするのか、その理由ももうとっくに失われてしまったような気がします。

 

 

ですが、そうすべきだと体が叫んでいるのです。

 

 

 

 

やがて、肉体が溶け、魂も風化し自分という存在が保てなくなったとしても――

 

いつか復活するその日を待ち続けましょう。

 

 

 

***

 

 

 

早く来てください

 

早く来てください

 

早く、早く、早く、早く――

 

お願い、お願い、お願い

 

あの戦いからもう十年が経ちました。

 

 

剣は棺に封じ込められ、もはや一刻の猶予もありません。

 

 

『……その、三号様。最近、元気がないように見えますが』

 

大丈夫です。

アナタは、何も心配する必要はありません。

 

『そう、ですか?』

 

はい、時期に助けが来ます。

それよりも、楽しいことを考えていましょう。

 

『そうでしたね。ここを出たら、儀玄に三号様を会わせに行きたいです』

 

妹さんでしたね。

――ええ、会えたらいいですね。

 

『はい、自慢の妹なんです。約束ですよ』

 

はい、約束です。

 

 

 

 

 

ごめんなさい、儀降。

その頃にはもう――

 

 

 

 




ことよろ
ということで、新年もゼンレスゾーンゼロ・聖剣をよろしくね!!

安心してください!この世界では瞬光の記憶が消えたりすることはないよ!!

作者「ナナシが代わりに犠牲になるからな!!」
ナナシ「……え!?」
作者「お前、特に今回の章で聖剣の力で押さえつけられた感情が出てきたんだから覚悟しろよ」
ナナシ「こ、このやろー!!」

皆は閑話とか、IFの話とか読みたい?

  • 読みたーい!(特にヤンデレ)
  • 読みたーい!(ラブラブ!)
  • 読みたーい!(好感度測定器みたいなやつ)
  • いや、読みたいのは本編だ!遅れてんぞ!
  • 作者さんの自由で!
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