プロローグ:怪しい出会いと転換点
十年と少し前、この世界にはとてつもない時代の転換点と言える事件が起きた。
旧都陥落、現在の新エリー都の前であるエリー都が文字通り陥落した事件だ。
この事件には、正直数えきれないほどの原因があるが、その中でも最も重要な転換点はここだろう。
『アポロ一号がアインシュタインと戦わず世界を救った』
そもそも、アポロならアインシュタインを殺さなくともさっさと逃げればいいのだ。
その気になれば、何もさせないように意識を奪うことだってできる。
これによって、全盛期の力を取り戻したアポロが聖剣を使い地球上に存在する全てのホロウを破壊した。
『……ですが、それではいけなかった』
それは、間違いだった。
『ゴッドブレイク!!』
神は堕ち
『デスブレイク!』
鬼は絶望に呑まれ
『スーパーノヴァ!』
起源すらも奴に奪われた
『ジ・アースG5 』
最後には希望すら負けてしまった。
だが、希望は負けたが繋がった。
――次に繋がった。
だが、それ以上は繋がることはなかった。
アポロ一号では――いや、アポロでは世界を救うことはできない。
けれど、この時代にアポロ以上にジ・アースに適合も、扱える人間もいない。
『観測開始』
適合者は見つからない。
この世界には希望を託すべき存在はいない。
誰も希望を抱えきれない。
誰も絶望を背負えない。
誰も願いを捧げない。
いや、いや――前提を変えましょう。
『作ればいいのです。アポロですが、アポロではない。そんな存在を……』
それこそ、希望を繋ぐ一筋の光明になる。
世界は変わりました。
『アポロ一号はアインシュタインに敗北しました』
***
「うわぁ!?」
意識が戻り、俺はビデオ屋の工房で呆然と立ち尽くしていた。
「どうしたんだい?ぼーっとしたと思ったら突然声を上げて」
「また、立ちながら変な夢を見たの?」
心配する二人に大丈夫だと声を掛けながら、さっきまで見ていた何かを必死に思い出そうとしたが何も思い出せない。
何かとんでもないことが起こっていたような気がするが気のせいだろうか
その時、チャリーンとビデオ屋の扉が開かれる。
「予約したお客さんが来たみたいだね」
「……あ、そうだったね」
この間ニコに進められてプロモーション用のアプリを入れたがそれで早速大口の顧客が入ったというわけだ。
そして、今日俺たちがここにいるのはつい五分前に予約した物好きな客を迎える為であった。
しかも、前払いで相当な額を入金してもらっているので、本当に今月の電気代はその人にかかっていると言っても過言じゃない。
「いらっしゃいませ……」
工房を出て客を迎えると、そこには金髪に色白の肌、赤と緑のオッドアイを持つ青年が立っていた。
まるでマジシャンにも見えるその風貌はどことなく知り合いを彷彿とさせた。
「失敬、どうかヒューゴ……と呼んでもらえるだろうか。差し当たって俺のことは、いち収集家と思ってくれていい」
「ヒューゴさん……ですね。ここにはどのような用件で?」
彼を見た途端、俺の直感が警戒心を強める。
何故なら、彼は俺を視界に入れた瞬間本当に注意していないと気が付けないくらいの速度で嘗め回すように観察してきた。
そして、彼は俺がそのことに気づいたのも気づいている。
「ああ、貴店のことは、新エリー都で最も趣のあるビデオ屋だと聞いていてね。今日はこうして門扉を潜る幸運に恵まれたわけだが……なるほど、評判に違わぬ佇まいだ」
「あはは……それで、ご用件は?」
回りくどい言い方で店を評価してくれるのは嬉しいがひとまず要件に入りたい。
まだ敵だと認定してわけではないが、明らかに彼は口がうまいタイプだ相手のペースに呑まれれば何が起こるかわかったものじゃない。
「ふっ、どうやらこのビデオ屋は優秀な店員を雇っているようじゃないか。少し、せっかちなのが傷だがね」
「ええ、ですが防犯には自信があります」
「そのようだね。できれば、店長も呼んできてくれると助かるんだがね」
俺は視線を動かさない。
動かせば、アキラとリンの居場所をばらすことになるからだ。
まあ、と言っても相当な前払いをしてきた時点で店長が店にいるのはバレているだろうが
(狙いは何だ?わざわざ五分前に予約をして、膨大な前払いを払った理由……)
あらゆる方面から怪しいと俺の直感が語り掛けてくるがあまりにも情報が足りない。
素直に二人を呼び出していいものか――
「……いえ、店長は今忙しいみたいなので店員の私が対応いたしますよ」
判断は否、呼び出さないであった。
やっぱり、どう考えても怪しすぎる。
「そうか、それはとても残念だ。名のある者たちがこぞって出入りしている店の店長とはぜひ会ってみたかったのだが……いや、君が嫌というわけではないんだがね」
「ええ、うちの店長は間違いなく有望な方ですよ。それでご用件は?」
俺の頑なな態度にヒューゴの瞳が光る。
互いに感情は見せない、動揺している様子はない。
ただ、淡々とこちらを品定めしているような、気づいたらとって食われてしまいそうな気味悪さだけは常にあった。
「悪魔の子」
「……」
ガタンと工房の中で大きな物音がした。
俺に動揺はない。
だが、背後の扉の中ではそうではないようだ。
「おっと、どうやらあの扉の向こうが騒がしくなったが……」
「何かぶつけたのかもしれませんね。後で見ておきます」
「そうか……『悪魔の子』とは、俺が求めている古い映画のタイトルでね。さして脚光を浴びた作品でもないゆえに、状態のよいビデオテープを見つけられていないのだ」
この言葉選びから見て、偶然とは到底思えない。
やはり、二人を呼ばなかったのは正解だった。
「なるほど、実は聞いたことがなくて……それどういったお話なんですか?」
「ああ、別に構わないさ。この映画はいささかニッチに過ぎるきらいがあるからな。悪魔の二文字を冠してこそいるが、その実は吸血鬼にまつわる伝説を根幹にとらえている」
「吸血鬼……確か、血を吸ったり、十字架とかニンニクに弱い奴ですよね」
鬼にはいい思い出がないが、実在しない分気楽だ。
「ああ、その認識でおおむね問題はない。ビデオに話を戻すが、筋書きはこうだ。吸血鬼となってしまった主人公が、長きにわたる陰謀の末に罪業深き『父親』を殺し、自らもまた灰となって消えてしまう……」
「父親殺し……まあ、主人公の行動が信念をもってそれを成したのなら……ビターエンドってところですね」
「話が分かるじゃないか。俺もそう思う。主人公が己の本懐を成し遂げなたら……それにあたって、死という代償を支払っただけのことだ」
話を聞いて、悪魔の子というタイトルの作品を探したがうちのビデオ屋ではそんな作品は見当たらなかった。
「やれやれ、貴店ほどの店であっても俺の求めるビデオはなかった……残念だ」
「申し訳ありません」
「いや、気にするな。ついては、この店で今貸し出している映画を一つ残らずレンタルさせてもらおうか」
「えぇ!!すごい太っ腹!?」
一体収集家というのはどれだけ儲かるのか気になったが、そんな俺の様子を見てヒューゴは思わず微笑した。
「やっと、表情を変えることができたか。なに、ニッチでつまらん映画の話に付き合ってもらったのだ……礼の一つもしなければな」
「へー……やっぱり、ナシとかやめてくださいよ」
「そんなのするわけがないだろう。正直に言おう、俺の収集家としての目には、貴店そのものが大いに伸びしろあるコレクションとして映っている。故に、俺がここで使う金の全ては自己満足と投資だと思ってもらいたい」
こちらからしたら願ったり叶ったりではあるが、やはり怪しさが抜けない。
収集家としての目というが、それは単に値段や価値を値踏みするだけのものではなく、人間観察とかより実践的なものに感じられた。
それこそ、俺が持つ直感にも近いように感じられた。
「なるほど、そういう所が一流の収集家としての所以ってことですかね」
「ははっ、そう言ってくれると嬉しいな。そうだ、それで思い出したんだがね……近いうちに業界でも著名なオークションが開催されるんだが、収集家垂涎の品々が並ぶ予定だ。それこそ、市場に出回っていない貴重なビデオなども……」
「へーじゃあ、店長に伝えておきますね」
「ああ、そうしてくれ……もし、参加したいと思ったならぜひ友俺に声を掛けてくれたまえ」
少し饒舌になったのを俺は見逃さなかった。
さっきまでのビデオの大量レンタルはまるで本当の狙いを隠すようにも感じられた。
彼からすればオークションの参加者が増えれば自身のライバルが増えるも同じだ。
わざわざ、そんなことする理由が“まだ”わからない。
「そうだ、さきほどルミナススクエアを通りがかった時も、何やら宣伝に勤しんでいるのを見かけたな。抽選会のような催しをしているようだ」
「……そうなんですね」
「興味があるなら運を試しに行くといいだろう……何か面白いことがあるかもしれない。とりわけあの界隈は『上流』に最も近いと言えるだろうからな」
つまり、そこに行けばヒューゴに会えるということだ。
「結局のところ、秘密が明らかになるのは、いつだって光を背にしたときだ……それでは、今日はこれにて。そうだ、名前を聞いていなかった」
「ナナシです」
「そうか、店長たちにも伝えておいてくれまた会いましょうと、な」
そう言い残して、本当にビデオを借りて帰っていく。
そんな後姿を見て俺は思わず呼び止めるように言った。
「悪魔の子……確かに、あまり好きじゃないですね」
「何?」
「だって、結局ビターエンドですし、ハッピーじゃない」
なぜこんなことを言ったのか俺も正直よくわかっていない。
「なら、ナナシならどうする?」
「なんやかんや親友的なキャラが主人公を救うストーリーにします」
「ほう、なぜそんなストーリーにするんだ?」
俺は少し考えた後、微笑んだ後こう答えた。
「もし、俺が主人公の近くにいたら絶対にそうするからです」
「ふっ、そうか……いい……本当にいい話だな」
我ながら結構、突拍子もないストーリーが浮かんできたがそれを聞いてヒューゴは自然な笑みを向けて去って行った。
「……何だか、胡散臭い人だったね」
「アキラもそう思う?」
まあ、胡散臭さを感じない方が無理があると言うべきか。
とりあえず、わかるのは俺たちの知らないところで何かが起こっているという事だけだった。
そして、俺はまだ知らなかった。
この来訪が、まさかの再開をするきっかけになるとは――
……矛盾には理由がある。
この物語にはまだ、隠された矛盾がある。
皆は閑話とか、IFの話とか読みたい?
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読みたーい!(特にヤンデレ)
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読みたーい!(ラブラブ!)
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読みたーい!(好感度測定器みたいなやつ)
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いや、読みたいのは本編だ!遅れてんぞ!
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作者さんの自由で!
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こんなアンケートする前に書け