ヒューゴさんがビデオ屋を離れて少し経った後、俺はリンを連れて彼が言っていたオークションの宣伝を兼ねた抽選会に足を運んでいた。
「……うーん、果たしていいのかな?」
「いいって何が?」
「いや、予想外の収入があったとはいえこんなところで無駄遣いをしてさ」
財布の中を見るとこれまでにないくらい潤っている。
だが、これはヒューゴさんと言う異例中の異例のお得意様が来たからである。
そのため、これをこんなところで無駄遣いしていいのか――と言う、疑問が俺にはあった。
まあ、結局のところはこうやって来てしまっている以上もう手遅れだが
「それにしても、抽選会なんて……俺じゃなくてリンが引いてね」
「え、なんで?」
「俺ってとにかく幸運って言葉と縁遠いような気がするんだよね。だから、リンにやって欲しいんだ」
「そう?じゃあ、私に任せてよ」
そんな雑談をしながら向かって行くと抽選会の列に並んでいるヒューゴを目撃した。
「やはり来てくれたか、ナナシ。それに、君が彼の雇い主の一人である店長くんだね。店員に似て聡明そうだ」
「いやぁ、それほどでも~……そんな大層なもんじゃないけどね、私たち」
明らかに彼は自分たちの急所となる話をしていたと言うのに警戒心ゼロで頬の緩みまくっているリンを見て頭を抱えたくなった。
だが、ひとまず絆される前に会話を逸らさせる。
「それで、ヒューゴさんも……」
その時だった。
突然、俺たちが並んでいた列に割り込もうとする人が現れる。
「ちょっとあんた、割り込みなんてやめなさいよ!」
「なんだ割り込みくらい。僕が誰だが知らないとでもいうのかい?」
「はい、とにかく割り込みはやめましょうよ。今時、5,6歳の子供もしませんよ」
そう言って顔を強調するが、全く見覚えはない。
アストラさんくらい目立つ顔であればいいのだが、彼の顔にはそう言った特徴はなかった。
「っ……本当に何も知らないようだな!!目の前のポスターを見たか?そこにいらっしゃるハルトマン様こそ我が一族の現当主にあらせられるぞ!」
「で、それが?何の関係があるわけ?大体、凄いのはそのハルトマンって人でお前じゃないんだろう?なのに、何でそんな威張れるんだ?」
「うっ、黙れ黙れ黙れ!!」
何というか久しぶりに純粋に悪い奴に出会ったせいか俺の口は良く回った。
気づけば相手の顔はトマトのように真っ赤になり屈辱に震えているのが理解できた。
その時、男は何か異変に気付いたのか自分の荷物をまさぐり出す。
「待った、財布は?僕の財布がどこにもないぞ!?……そうかそうか、だからわざわざ僕の気を引くようなマネをしたんだな!その際に財布を……!!」
「違うけど……もういいや、治安局呼ぶね」
断言しよう、俺の目の前ですりなんて起こったら一瞬でわかる。
なら、こいつの自作自演である可能性が高いと判断した。
そう言って容赦なく個人的に交換した朱鳶さんの番号にかけようとしたその時、ヒューゴが後ろからそっとその手を止める。
「待て待て、それは最終手段にしよう。今はなるべく抽選会に迷惑はかけたくない」
「なら、どうするの?」
「ここは、俺に任せてほしい。華麗に彼を“説得”しよう」
そう言って彼は俺の前に出る。
「なんだ、お前は!僕はカーティス・レイヴンロック……あのTOPSの中でも知られた一族、レイヴンロック家の人間だ!」
「失礼、レイヴンロックの家の家人よ。貴公の告発にいかなる根拠もないことは火を見るよりも明らかだ」
「なんだと!!」
「貴公の装い……うわべは小奇麗だが、よくよく見れば皺が目立つ。大方一張羅なのだろう。それも随分長い事愛用しているようだ」
確かにヒューゴが指摘した服をよく観察してみると、いささか高貴な方にしてはよれが目立つ。
もちろん、お気に入りだと言われればそれまでだがこいつの口から言うにはいささか信憑性に欠ける。
「それに、袖口についている生乾きのそれは……インクか?抽選が終わってしまいやないかと、勤め先から急ぎ駆けつけたのでは?」
「こっ、こいつ……!デタラメをすらすらと!」
「だから、横入りなんてしたのか?」
「っ、くそ!お前たちの顔は覚えたからな……首洗って待ってろ!!」
カーティスはみっともない捨て台詞を残して去って行った。
「ありがとう、ヒューゴさん」
「ははっ、俺は無辜の人々が不当な罪を着せられるのが何よりも耐えられないのだ。と言っても、今回は助け舟を出す必要はなかったかな」
「ううん、出してもらえなかったらまだゴネてたと思うよ。だよね、ナナシ」
「そうだね」
最終奥義の朱鳶さん召喚もなるべく使いたくなかったので助かった。
「それは、治安局ではなく治安官個人の番号かな?」
「……そうですけど、友達なんですよ」
いつぞやの大根事件の清算の時に朱鳶さんと交換した物だ。
俺たちの素性的に下手な治安官が来るとまずいと考えたのでもらっておいた。
と言っても、アキラとリンがパエトーンだとバレた時にひと悶着あったが現在は偶に彼女と出かける時にも役立ってくれている。
『その、今日……お母さん居ないんです。よければ、このままうちに来ませんか?』
こんな風に家にお呼ばれしたこともある。
残念ながらこの直後、アキラから仕事の電話が来てホロウに向かうことになったため有耶無耶になった。
我ながら一度亀裂の入った仲をここまで回復させることができたと感心したものだ。
(……でも、最近朱鳶さんの目が怖いんだよなぁ)
捕食者と言うか、最近なんて背後にライオンの幻覚が見え始めて来た。
「ナナシ!ナナシっ!!」
少し考え事をしていると大興奮をしているリンから声がかかる。
「ど、どうしたの?」
「特賞!特賞引いたの!!」
「え……えぇぇぇぇ!?」
どうやら、俺が考え事をしている時にリンがヒューゴさんからもらった抽選権を使って抽選を引いたらしく。
それでなんと、特賞である50000ディニーを受け取っていたのだ。
こうして、俺たちはホクホク顔で抽選会場を後にしたのであった。
だが、ビデオ屋に帰ってくるとなぜかライカンさんとエレンがいた。
「おかえりなさいませ、リン様、ナナシ様」
「ら、ライカンさん?」
何の用だろうと思い返しても心当たりはない。
だが、二人の表情からしてとてつもない厄介事なのは理解できた。
すると、奥からアキラも現れた。
「揃ったね二人とも。どうやら、ライカンさんが何か相談したいことがあるみたいなんだ」
「ええ、ですがその前にお伝えしなければならないことがございます。ヴィクトリア家政がお仕えするご主人様について……」
「ご主人様?特定の誰かがいるってことですか?」
ヴィクトリア家政って確かスーパー家政婦的な立場ではなかっただろうか。
「左様。私共ヴィクトリア家政がお仕えするのは、メイフラワー家の現当主……そして、新エリー都の市長閣下でもあらせられるお方でございます」
「え、えぇ!?」
「だいじょぶだって。市長ったって、フツーの人には変わりないし。まー会ったことないけど……」
まあ、正直この人達程一流の方々が使える人なんだから相当な大物だとは思っていたが、まさかTOP OF TOPだとは思わなかった。
「実の所、お二方とお話をしたいというのは市長閣下のご意向でございまして。なにせ、お三方はブリンガーとサクリファイスの件に、深く関与されておりますから」
「市長が、私たちと話しがしたいって?」
「……」
俺は無言でリン、アキラとライカンさんの間に立つ。
「ご安心ください。私めの名誉にかけて申し上げますが、市長閣下にはいかなる悪意の類もなく、お三方にいかなる責任も問うことも致しません。また、物理的な対面ではないこともお伝えしておきましょう」
「……どうする?アキラ、リン。俺は大丈夫」
「そこまで言うなら、私は良いよ。お兄ちゃんは?」
「僕も大丈夫だ」
三人が了承したことを確認すると、ライカンさんはすぐ市長と取り次ぐ準備を始めた。
そして、市長との通話が繋がった。
「市長閣下、お三方をお連れしました」
「……こうして、君たちと言葉を交わす機会を得られて、嬉しい限りだ。親愛なる子供達、そして11人目の英雄よ」
「へ?」
11人、まるで市長はアポロ達のことを知っているようだった。
「もちろん、ヘ―リオス研究所のことも君たちの先生であるカローレ君のことも知っている……旧都陥落の責が彼女にあると聞かされた時は、何とも残念に思ったものだ」
「先生は無実です!あの事は、何か裏があるに決まってます!」
「ああ、そうであればどれだけいいか。ただ……旧都の陥落がもたらしたものはあまりに大きかった」
声の奥には強い落胆を感じる。
それと同時に隣からは強い憤りを――
「いつか……私たち、先生の潔白を証明する証拠を見つけます!」
「ああ、君たちの成功を祈っているよ。今回連絡を取るに行ったったのは、ある二つの重要なことを君たちに教えるためだ」
「重要なこと?」
「一つは、二人の目について……そして、もう一つは“アポロ計画”について」
「っ!?」
アポロ計画、その名前が何を意味しているかなんてすぐに理解できた。
間違いなく、旧都で行われたアポロのクローンをつくる計画のことだ。
「まず、目についてだが私は、カローレ君が生前残したデータを発見した。君たちの目に入っているインプラント……その副作用を緩和する方法を彼女は長い時間をかけて求めていたようだ」
「ふ、副作用なんてあったの!?大丈夫、リン、アキラ」
「うん、大丈夫。だけど、ナナシにだけは言われたくないね」
「うっ」
確かに聖剣の代償はかなり大きかった。
寿命の喪失、内臓の喪失、味覚の喪失などなど上げていたらきりがない。
そして、俺はそれらすべてを黙っていた。
簡潔に説明すると、アキラとリンの目に入っているインプラントは大脳と直結している。
この動作は二人の耐えられる負荷に依存しているわけだがH.D.Dシステムを使うことで、二人の持っていたエーテル適性が抑制されていたのだ。
「カローレ君が残したデータサンプルを元に、私は人員を雇い研究を行わせた。時間はかかってしまったが、H.D.Dシステムのアップグレードプランがついに完成したのだ」
「そうすれば、二人のエーテル適性が元に戻るってこと?」
「ああ、それで間違いない」
本来なら喜ぶべきなんだろう。
だが、イアスには悪いがぶっちゃけ二人がホロウに入れるようになるというはあまりいい情報ではなかった。
(二人の性格的に積極的にホロウに入ろうとするだろうし……そうなれば、危険も増す。でも……)
二人の顔を見た。
既に覚悟は決めているらしい。
なら、俺がすべきはそれのサポートだ。
「他にも、こちらで把握している情報によると、これまでに分かっている以上の力が、君たちの目には秘められている……もっとも、これは私が君たちへの接触を控えていた理由でもあるのだが」
「そうなんですか……」
「次に、アポロ計画についてだ」
何だか、空気が変わった気がする。
さっきまで懐かしむように喋っていた市長も心なしか神妙そうなものに変わっている。
「と言っても私が知っているのはごくわずかな情報だ。知っているのは、アポロと言う人間のクローンを作るというだけ」
それは俺も大体想像していた通りだ。
「……そして、この先話すのは未来を見通す目を持つアポロ二号から聞いた話だ」
「え?」
だが、唐突な情報開示にトンカチで殴られたような衝撃が頭を襲うのであった。
皆は閑話とか、IFの話とか読みたい?
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読みたーい!(特にヤンデレ)
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読みたーい!(ラブラブ!)
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読みたーい!(好感度測定器みたいなやつ)
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いや、読みたいのは本編だ!遅れてんぞ!
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作者さんの自由で!
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こんなアンケートする前に書け