ちなみに、閑話・ナナシとアンビー。ナナシと猫又を読んだあとの方がわかりやすいと思います。
「ついたぜ~、お二人さん。お熱いねぇ」
「ありがとう、ほら起きてナナシ」
案の定、車に乗って3秒と言う記録的なスピードで入眠したナナシ、到着したと声がかかり目を開くとアンビーが俺の顔を覗き込んでいた。
「――何事?」
「膝枕よ、ほら行きましょう」
意識が霧の中に入って迷ったみたいに朧気だったため、言われるがままアンビーに手を引かれ車を降りる。
コツコツと何回か足音を鳴らしながら進んむ――だが、数歩進んだころにはっと我に返り手を振りほどく。
「ま、待って――流石に今の時間は映画館やってないよ?それに、お店もね」
現在の時刻は8時出発して綺麗に一時間半時間経過していた。どうやら、パイパーは安全運転で俺達をここまで運んでくれたらしい。
「知ってるわ――けれど、ナナシと一緒に歩きたかったの」
「そっか――当てなく歩くか、確かにやったことなかった――いつぞやで、やった闇映画みたいだね。けれどさ、俺はともかくアンビーはここら辺のことはよく知ってるんじゃないか?」
闇映画とは、目をつぶりランダムで今日見る映画を見るという方法であるちなみに一番役に立ったのはプロレスの人情劇、謎の仮面戦士、シルバータイガーがダークタイガーとの最終決戦で放った、ドライビングジャーマンスープレックスは感動ものだった。
「懐かしいわ、ナナシはあの――マスクを着けていた人の映画で興奮してたわね」
「覚えてたの?――やっぱり素手の格闘は見てて手に汗握るんだよね」
アンビーが覚えているように俺も覚えていた隣のアンビーが微妙そうな顔をしていたのをよく覚えている。
「――そういえば、その頃かなアンビーの表情の変化がわかりやすくなったのは」
「そうかしら――そうね、あなたといるからかもしれないわ」
それだけじゃない、この間までであれば映画の後にその感想に応じて表情が変わるくらいだけだった。
けれど、今は俺の言葉にこうして笑みを浮かべてくれる――それが、俺にはとても嬉しかった。
「けれど、私達とあなたが初めて会った時、あなたの方が表情の変化がわかりにくかったわ」
「え?そうだっけ――そうだった気がする――」
アンビー達と初めて会ったのは、ホロウでビリーとアンビーが遭難しているところに合流した時だった。
なんというか、振り返ってみればあの時は全てを警戒していた気がする。
「でも、今は変わったわ。あの時よりも笑うようになったし――最初は全然喋らない人かと思ったのよ」
「――変われたならよかったよ」
自身の変化をかみしめぶらぶら歩きながら話す――
「そういえば、どうしてアンビーはわざわざ郊外まで来たの?」
「――言わせるのかしら」
「え?――じゃあ、ちょっと待って考える」
これまでの状況からなぜ、アンビーがわざわざ郊外に来たのか推察を始める。
(まず、アンビーが郊外に現れたのは大体6時半、現実的にパイパーに送ってもらったってことはアンビーは推定5時起きの可能性が高い。つまり、早く来て伝える何かがあったと考えるべきだな――)
「わかった――答えは“何か早く来て伝えなきゃいけない用事があった”だ!」
「――不正解よ。答えは、ナナシの顔が見たかったから」
「俺の顔?写真で見ればいいんじゃないか?
と言うか俺の顔なんて見て何か楽しいことでもあるのだろうか、俺は特段美形と言うわけじゃないし見ていて面白味もない気がするのだが。
「写真だとあなたに触れられないから――こうやって」
アンビーの冷たい右手が俺の頬を振れそこから伝って伝って左腕を握る。
「アンビー?――いだだっ!」
普段とは違い、明らかに積極性が増している行動に疑問を抱く、けれど急に強く左手が握られたことで疑問は強制的に封じられることになる。
「よかった――」
「ほ、本当にどうしたの?いつもとなんか――その、様子が違いすぎるんだけど」
そう言うと、アンビーのほのかな笑みが消え、表情が曇る。
「実は本当は早くあなたに会いに来たのは別の理由があるの」
「別の理由?」
アンビーは頷き、数秒の沈黙の後口を開いた。
「夢を見たの――ナナシの左腕が無くなって、ビリーの左腕を付けて私達の前に現れて――こう言うの『あ、この腕?あー確かになくなったけど――助けられた命があった、だから大丈夫!!それに、ビリーの手も動かしやすいしね』って」
「何ともリアリティのある俺だね、誤魔化し方まで同じだ」
口調までも俺を再現している、それに――確かに、アンビーが見た夢のように戦っているうちに体の一部を失わないとは限らない、いつかそんな日が来るかもしれない。
「その後、場面が切り替わって――ナナシが戦ってて、でもなすすべなくやられて――最後には四肢を全部切り取られてるの、目の前でお腹あたりから何かを抜かれてるの。そして、私の前で冷たくなって――動かなくなるのよ。最後に何て言ってたと思う?」
「――『気にしないで、どうか俺のことは忘れて』かな」
数秒考えた後、なんとなくこれと言うものを導き出す、それを聞いたアンビーはわかりやすく目が点になる。
「っ正解よ――ナナシ、死ぬ準備でもしているのかしら?」
「当面その予定はないかな」
確かに、俺は聖剣に蹴りをつける関係上最後には死ぬ運命だがぴったり正解してしまうなんて。それだけ、アンビーの俺への解像度が高いからのどちらかだろう。
「なるほどね、その妙にリアルな夢を見たから心配してくれたんだ」
「――本当によかった。ナナシは生きてるし、ちゃんと左腕もある――これだけでも、無理を言ってパイパーに連れてきてもらったかいがあるわ」
ぽつりと地に雫がこぼれる、本当に彼女は心から俺を心配してくれたんだろう。しかしナナシには別の考えが浮かんでいた。
(正直に“つかまれてる左腕痛いから離してくれないかな?”なんて言える雰囲気じゃないな――痛い)
「ありがとう、アンビー。俺を心配してくれて」
「――ええ、でもそのせいでナナシを強引に連れ去ることになってしまったわ」
でも、気配を断って近づいてきたのは怖かったなーと回想しながら、彼女の右手をそっと離し左手で握り返す。
「これで、大丈夫ってわかるし――離れないだろ?」
「ええ、そうね――離さないから」
ぎゅっとアンビーから悲鳴を上げたいくらいの万力で握られる。
「えっと、時間が来たら離してね」
「離せるものなら」
こんなに強い力で握られているのが確信犯だと発覚したところで時計を確認する、時刻は現在9時ちょうど。
「そろそろ、行こうかアンビー」
「そうね――このまま手を繋いでいきましょう」
俺は頷き、手をつなぎながら映画館へ向かった――左手に違和感を覚えながら。
「そういえばさ、今日って何の映画を見るの?一昨日に聞いてもアンビー、内緒って言って教えてくれなかったし」
なんと、ナナシは当日まで見る映画を伝えられていなかったのだ。
「これを見る予定だったのだけど――変更するわ」
アンビーが指さした先にあったのはクリスマスらしく、サンタクロースが殺人鬼となって襲ってくるというホラー物。見た目、B級映画感が否めないと感じていたのだが、レビューを見るとそうでもないと書かれていて気になっていた作品だ。
「そっか、それじゃあ何を――げっ」
すーっとアンビーの指先が動いた先に会った映画のタイトルは『愛とラブは劇場でW』と書かれていた。
「聞いたわ、猫又と見たそうね。それに、さっきの女にもこのDVDを渡してたわね――だから、この作品を一緒に見ましょう?」
「う、うん全然かまわないんだけど――アンビーは2を見たの?」
「見てないわ。でも、Wは1,2とのつながりはないの――だから問題ないわ」
そういえば、アキラがそんなことを言っていたような、言っていなかったような――それにしても、3じゃなくてWとは――テコ入れは失敗すると大惨事になるというのに。
だが、アンビーが2を見ていないと聞いてほっと胸をなでおろす。
「行きましょう、この映画での思い出は私の物だから」
(うん?確かに、この映画を始めてみたのはアンビーと一緒にだからアンビーの物とは言えるのかな?)
自分で納得しながら、映画館へ入っていった。
「す、すごかったね」
2時間経過した後、近くのベンチで映画の感想を語り合う。
「えぇ、一番最初の作品からここまで変化するなんて驚きだったわ」
まさか、1,2からの映画で深まっていく恋愛からまさかのWで国境を跨いだ世界大戦になっていくなんて――テコを入れ過ぎて作品の原型ごと消滅している気がするが、1,2を忘れれば中々に面白い作品だった。
「普通は映画の3部作目は駄作と呼ばれるのだけど――大幅なテコ入れによって何とかするなんて予想外だったわ」
「うん、まさか最後でヒロインが主人公を救うために大量のロケットランチャーと拳銃片手に敵を蹂躙して最後には敵の本拠地に迫撃砲をぶち込むなんてね」
まさか、眠かった目が迫撃砲の音で完全に目覚めるなんて――
しかし、ナナシはヒロインの戦い方に先代の影を感じたが、あっちの方がやっていることが残虐なせいかヒロインの行動を見ても『もっとやらないんだなー』と思ってしまったことに出て危機感を覚えていた。
「けれど、映画で出会った二人が戦場でさらに愛を深めていく描写はよかったわ。――そういえば、私たちは逆ね」
「――なるほど、確かに俺達が初めて会ったのはホロウの中だったね――戦場で会って、映画で仲を深めていったってわけね」
数秒、アンビーの言葉の意図に気づかなかったが、出会いと言う言葉から徐々に想起していく。
その後も映画の感想を語りあいながら時間は過ぎていった。
「あ、アンビーそろそろ時間だから行くね――あ、あれ?アンビー」
時計を確認すると11時30分。12時にエレンと約束をしているため余裕を持って行くために断りを取り、立ち上り向かおうとした時――左手が離れない。
「離さないわ」
映画館でもずっと握られていた手は再び万力で握られ骨が悲鳴を上げている。
「――ごめん、アンビー。早く行かないとスケジュールが狂っちゃうんだ」
アンビーの目線まで屈み自身の言い分を伝える。
「わかってるわ――けど、話したら他の女の所に行くんでしょ?」
「うん、でもさ事前に伝えてるし、大切な友達との約束を破りたくないんだ」
特に、エレンとの約束を破れば今度はキャンディーを渡す程度ではどうにもならない気がする。
「わかったわ――」
「離れないんだけど――あ、アンビーさん?」
手を離し引っ張ってみてもびくともしない。
「離れないなら仕方ないわね――このままショッピングでもしましょう?」
「っ」
アンビーの目から光が消え、思わず後ずさりするも引き戻される。
(心配してくれてるのか――けれど、時間も制限があるし、仕方ない――こうなったら)
「だったら、あたしが離してあげる――手、出して」
「え?」
声がかかり、その方向を向くと眉間にしわを寄せたエレンが現れた。
(エレンがアンビーに何かするつもりだ――それにこの状況、リンが言っていた一番マズイシチュエーションだ――早く打開しないと)
何でマズイのかはリンの説明からでも全く分からなかったが実際に二人が黙って向き合っているとその覇気から思い知らされる。
「ごめん、アンビー!『ゴッドハンド』」
左手にゴッドハンドをグローブのように出現させその勢いでアンビーの手を振り切る。
すると、それにいち早く反応したアンビーが再び掴もうと手を伸ばすがエレンにはじかれる。
「ナナシはこの後、あたしと一緒にいるの――そうでしょ、ナナシ」
「う、うん――そうだけど、よくここがわかったね」
エレンには丸々1時間のメールと電話での格闘の末、何とか午後だけ遊ぶという形で着陸した。しかしながら、午前中の行動などは伝えていなかったはずだ。だが、なんとその真相はアンビーから語られることになった。
「気づいていなかったの?ずっと、私達を付けていたのよ」
「えぇ!?そ、そうなのエレン?」
全く気が付かなかったことに驚愕しながら、エレンの方を向くと気まずそうに視線を背ける。
「だって、ナナシと一日過ごすつもりで予定開けちゃってるし――暇だったから」
「そっか!!確かに付けてたらすぐに遊びに行けるもんね!」
ナナシが納得したことに『こいつマジか』と言う視線を向けるアンビー。しかし、普段からパエトーンの二人から発信器と盗聴器を装備のどこかに取り付けられていることを知っているナナシはとっくに感覚がマヒしていたのだ。
「それじゃ、連れていくから。ここからはあたしの時間だから――わかってるよね」
「――わかったわ」
しぶしぶという感じでアンビーは諦め、俺に伸ばした手を置く。
「行くよ、ナナシ」
「わかった――あ、そうだ忘れてた――ちょっと待ってて」
エレンに断りを取り、アンビーのもとに戻ってくる。
「アンビー!これ、クリスマスプレゼント!!」
鞄から取り出したのは『愛とラブは劇場で2』のDVDだった。
「最初のを見た後に、2も出てるって知ってね――アンビーも興味があるかなーって思って買ってきたんだ」
「ふふっ、ありがとう――でも、ナナシはもう見てるのよねだったら一緒に見れないわ」
「いや?俺も見てないよ――何だかさ初めてはアンビーと一緒に見たいなって思ってあえて見なかったんだ。だから、今回の作品と2がつながらなくて実はラッキーって思ってたんだ」
アンビーの顔が赤く染まり、目を背ける。
「――そうね、その初めては私がもらうわ」
それを最後に満足そうにDVDを抱えてアンビーは去っていった。
なお、本編では左腕は失ってるもよう。もし、アンケートでアンビーの2を書いてたらナナシが危なかったかもしれない。
皆は閑話とか、IFの話とか読みたい?
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読みたーい!(特にヤンデレ)
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読みたーい!(ラブラブ!)
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読みたーい!(好感度測定器みたいなやつ)
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いや、読みたいのは本編だ!遅れてんぞ!
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作者さんの自由で!
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こんなアンケートする前に書け