ゼンレスゾーンゼロ ・ 聖剣   作:うどん米

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住人の気持ち

 

ルミナススクエアから帰ってきて数日後、朱鳶さんは六分街に訪れていた。

 

「――近頃不穏分子が活発になりつつあります。ヤヌス区治安局は、市民の皆さんに防犯知識を身に着けてもらう目的で、『治安パトロール強化月間』と言うイベントを展開します」

と、朱鳶さんたちは住人たちへ一人一人訪問して説明を行っていた。

 

 

だが――

 

「治安局が市民向けに行うイベントですか。懐かしいですね、実は私も、何年か前に参加したことがあるのです」

と言う好意的なティンさんの前置きから、長々と治安局の現状をコーヒーを使って皮肉るという口達者な方法で断られ――

 

 

「その日はちょうど――俺の一番上のおばさんのそのまた二番目のおばさんの爺さんの息子のいとこの結婚式なんだ。大事な親戚なもんで、欠席するわけにはいかなくてな」

とエンゾウおじさんからはものすごいわかりやすい『行きたくない』と言う言葉で断られてしまっていた。

 

 

「朱鳶さん、青衣さん、おはようございます」

「ナナシくんに、アキラくん、リンちゃんあなた達でしたか。おはようございます」

「これ、私達三人分のアンケートね。私とお兄ちゃんで、講習に参加することにしたから」

リンは俺達が書いたアンケートを朱鳶さんへ手渡す。だが、二人の手元からどうやらあまり参加人数は多くないらしい。

 

 

「これは僥倖。もしぬしらが来てくれなんだら――わららはまだ、一人も参加者を集められずにいるところであった」

「せ、先輩――何もそんな、あけすけに言わなくても――」

「あはは、居ないんだ――でも、優しいみんなが講習に誰も参加したがらないのは不思議だよね――」

相当、ブリンガーの印象が地の底の底まで落ちているのか、それとも治安局自体のイメージが悪いのかわからないが、ともかく朱鳶さんや青衣さんに罪はないだろう。

 

「何か、私達にお手伝いできることはある?」

「そういうことで言えば、ぬしら二人に教えを乞いたいのだが――六分街の住民台帳には名前だけで住所が登録されておらん者たちがいる。彼らが今、どこにいるか分からぬか?」

青衣さんから渡された名簿に書かれていた、名前はアシャさんにチョップ大将、そしてスパイクさんの3人。

 

「なら、私とお兄ちゃんとナナシでアンケートを渡してくるよ!」

「そうしよう。六分街のみんなは普段、あまり治安局の人と関わらないからな。警戒してしまっているのかもしれない」

「そうだね、同じ六分街のご近所の俺達の言葉なら聞いてくれるかもしれないからね」

だが、朱鳶さんの反応はあまり芳しいものではない。そんな朱鳶さんを説得したのは青衣さんだった。

 

「朱鳶、『門を出でては道を尋ねよ、郷に入っては郷に従え』であるぞ。リンにアキラ、ナナシが手伝ってくれるというのだ、お言葉に甘えようではないか」

「そうですね、ありがとうございます。二手に分かれて、またこの近くで落ち合うようにしましょう」

 

そして、アンケートのチラシを受け取った俺達は住所が記されていない人の所にまで向かったが好意的な反応は得られなかった。そして、最後に向かったのはチョップ大将の麵屋だった。

「おう、アキラにリン、ナナシもいるじゃねえか珍しいな、客から聞いたぞ。あの治安局の嬢ちゃんたちを手伝って、チラシだがなんだが配ってまわってんだってな。ご苦労なこった」

「知ってたんだ、チョップ大将」

「ガハハ、こういうとこに店を開いてると、何かと事情通になるんだよ――とにかく、その日は用事があんだ。参加できねぇと、治安官さんに伝えてくんな」

「やっぱりそうか、実はここに来る前から、チョップ大将も参加してくれないんじゃないかって予感がしてたんだ」

どうやら、朱鳶さんたちに罪がないのはこれで証明できたようだ。つまり、ここまで住人が非協力的なのはこのポスターにその顔面をデカデカと貼り付けている、ブリンガーのせいだろう。

 

 

「なんでえ、俺『も』っつーのは。お前さん達、他の連中にも断られたのか?」

「そうだけど、もしかしてチョップ大将は何か知ってるの?」

「ハン、そんなに摩訶不思議な事でもねぇよ。昔かっらの六分街の住人にゃ、お前さんたちが知らねぇことを知ってる奴もいるってこった――」

「それって、ブリンガーについて?」

このイベントの発起人であるブリンガーが印刷されたチラシを指さしながら聞く。

 

「ああ、こんなことは聞いたことねぇか?かつてのエリー都の時代、治安局にゃ『ホロウを征服した英雄』がいたって話を」

「それって、もしかして――」

話の脈絡から察するにブリンガーだが、ニュースなどで見ている限りの印象に絞れば、どう考えてもホロウに征服される側にしか見えない。

 

 

「おう、旧都陥落前、ブリンガーの野郎はちょうどオレの住んでたとこで分署の副署長をやってた――」

当時のブリンガーは、現場からのたたき上げのせいか副署長になっても現場主義で住人とよく触れ合う立派な治安官だったらしい。

だが、転機は訪れた――ある救援活動の途中、ブリンガーがホロウの中で行方不明になった後、誰もがホロウで死んだと思われていたが――奇跡的に生還した。

 

「そんで『ホロウを征服した英雄』になったブリンガーの野郎は、ほどなくしてヤヌス区の治安総局に栄転――ここ数年も出生街道まっしぐらよ」

「いい話のように聞こえるけど――」

どうにも、今のブリンガーとは人相が一致しない。そういえば、エーテリアスの中には『ドッペルゲンガー』みたいに、姿を変えるエーテリアスもいるという。

もしかすれば、人の精神を変えてしまうエーテリアスもいるのではないだろうか。

 

「これだけならな。『ホロウを征服した英雄』はホロウん中にガッツを置いてきちまった――今じゃもっぱらそう言われる始末だ」

「なるほどね、それが本当なら今の六分街の住人の皆からすれば――印象はよくならないよねぇ」

「それだけじゃねぇぞ。ここ数年、あの野郎は明らかにTOPSにすり寄ってやらぁ。あいつが治安局で進めているとかいう取り組みのほとんどは、住民のためだ何だと言いつつ、結局は大企業を潤して終いのモン――」

然もタイミングは市政選挙を控えた前と来た、かつてのブリンガーを知っている面々からすれば一種の裏切りに近い。

 

(予想通りと言えば、予想通りだけど六分街の皆からすれば昔の――綺麗なブリンガーを知っている分、辛いだろうな)

 

「安全講習だ何だってのは別にやったらいいが、その後ろでブリンガーの野心が何かたくらんでるのかと思うと、心穏やかに参加できねぇってなもんよ――そう言うことだ、悪いな。今回ばかりは、お前さんたちの力になれそうもねぇ」

「分かった、ありがとう。チョップ大将」

「おうよ、もっとたくさん店に来いよ、ナナシ」

そう言って、チョップ大将の麵屋を離れた。

 

 

「リン、ナナシ。ひとまずご近所の3人の所はもう回った――少し言いづらいけれど、帰って朱鳶さんたちに結果を伝えよう」

 

 

一方朱鳶さんたちも苦戦を強いられていた。

 

「くっ、六分街中を走り回ったのに、講習に参加したいという市民は10人にも満たない――!」

「朱鳶――『人事を尽くして天命を待つ』とは古人の言葉、言ったではないか。事ここに至っては、白湯でも飲んで一息つくしかあるまい」

だが、朱鳶さんたちには焦らせる理由があった。当日の、会場の収容人数は300人、このままいけばどう見積もっても届くどころか、下手をすれば閑古鳥が鳴く会場になりかねない。

 

 

もちろん、朱鳶さんたちが悪いわけじゃない。とにかく、六分街でのブリンガーの印象が地の底の底まで落ちているのだ。

「はぁ――」

「どんな面倒な任務もため息一つ吐かないぬしが、今日に限って何故かようにも落ち込んでおるのか、さっきまで首をかしげておったが――忘れるところであったわ――ブリンガー長官はぬしの『恩人』であったな」

周りからすれば“意外”の一言であるが、朱鳶さんにとっては自分を救った長官が非難されるのは耐え難いだろう。

それは一重に朱鳶がブリンガー長官のことを信じてるからだ。

 

「『祭るべくなき祭るは諂いであり、義を見てせざるは、勇無きなり』本来祭るべきではない御霊を祭るのは、ただのご機嫌取りであるということ。また、身を挺するべき時に手をこまねているのは、すなわち臆病であるということよ。“我らは治安官として何をすべきで、そして何をするべきではないのか、それを知ることが最も肝要」

つまりは、ブリンガーのことを信じるのはいいが妄信はせず、しっかり治安官としてなすべきことをせよと言うわけだ。

もちろん、ブリンガー長官のやってることは端から見れば異なる解釈が存在する。だが、本当に疚しいことがないのであれば人の噂も七十五日で収まるが故に、いつかその誤解も解けるはずだ。

 

 

その話の途中だった、誰かがこの場に近づいてきたのだ。

「ごめん、話の途中だった?」

「大丈夫です。雑談していただけですから。どうでした?例の住民たちは見つけてもらえましたか?」

「残念だけど――皆、それぞれ用事が有るみたいでダメだった」

「大丈夫です。彼らに取り次いでくれただけでも、十分感謝しています。六分街では、これ以上アンケートを取れそうにありません。今日の所は、私と先輩は局に戻りますね」

そう言い残し、二人が六分街から帰ろうとしたその時だった――

 

 

「ちょっと待ったあ―!治安局の嬢ちゃんたち!待ってくれ!」

チョップ大将が急ぎ足でこちらに走ってくる、そして着くなり一言――

 

 

「ふぅ――よかった、まだ行ってなかったか」

「どうしたの?そんなに急いで」

「いやなんつーか、簡単には説明できねぇんだが――とにかくあっちで事件だ!今はまだにらみ合いってところだが、嬢ちゃんたち、早く来てくれ!」

事件は起きた――

 




ちなみに、この治安官編はナナシがいることによってあるイベントが全カットされる代わりにナナシが――どうなるんだろう?

皆は閑話とか、IFの話とか読みたい?

  • 読みたーい!(特にヤンデレ)
  • 読みたーい!(ラブラブ!)
  • 読みたーい!(好感度測定器みたいなやつ)
  • いや、読みたいのは本編だ!遅れてんぞ!
  • 作者さんの自由で!
  • こんなアンケートする前に書け
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