色々ごたごたがあったものの、順調に講習会の期日は訪れた。
「朱鳶さん、青衣、また会ったね」
会場につくとすぐ、二人を見つけ駆け寄る。約束通りと言うか、アンケートを出したため俺達も参加しに来たのだ。
「店長のご両人にナナシ、よくぞ来てくれた」
アキラが挨拶するとすぐこちらに向き直り挨拶を返してくれる。だが、気のせいだろうか妙に青衣さんの視線が厳しいような、こちらを品定めしているような――?
「会場は人で一杯だね、すっごく賑やか!」
周囲を見渡してみれば人、人、人――これも全てブリンガーの人気ではなく任務を受けた朱鳶さんたち、治安官の働きによるものだ。
「これも六分街の皆さんのおかげです。自発的に参加してくれただけでなく、いくつかの街区で宣伝もしてくれたんですから」
「全部、朱鳶さんたちのおかげだよ。そういえば、このチラシによればこの後副総監と一緒に、市民の質問に答えるんでしょ!俺とリンもどんどん質問するから待っててね!」
満面の笑みでリンとうなずき合うナナシ、この日のために新エリー都の大体の法律などは予習してきた。
「えっと――それは、お手柔らかに――ハハ――」
だが、どうにもいつもの凛々しい姿とギャップのある反応に首をかしげていると青衣さんが補足してくれる。
「ふっ、ぬしらは知るまい。朱鳶はこの手のことが一等苦手でな。緊張して咳をするまいと、我の茶壷から三杯も飲んだのだぞ」
「へぇ~そうなんだ~!」
ニヤニヤと一見完全無欠に見えた朱鳶さんの弱点を知れて上機嫌になったところ、分署の治安官が話しに入ってくる。
「長官、お客様とお話し中のところ申し訳ありません。こちらは先ほど届いた報告書です。カルロ・モロンから提供のあった、ホロウ内の複数拠点について、具体的な座標を解析しました。お二人に目を通していただきたく」
どうやら、この間とっ捕まえた、男の調書が終わったらしい。こいつの逮捕によって結果的に強盗団を一網打尽に出来たらよいのだが。
「また先ほど連絡があり、ブリンガー長官が間もなく到着攫えるようです。メディアも既にあなた方の写真を撮るために待機していますよ」
「確かに――」
わらわらとメディアが集まってきている。講習に来ているの皆には申し訳ないが、確実にこれはブリンガーの点稼ぎだ――きっと、とても鼻につく演説をするだろう。
それによって、朱鳶さんたちのような素晴らしい治安官さんたちへヘイトが向かないことを祈るまでだった。
「朱鳶、我らもお迎えに上がらねばならぬようだ。これらの地点については2、3日中に人を連れて、現地に――」
ここで、急に青衣さんの言葉が詰まる。
「む?なんぞこれは、何やら奇っ怪な座標に見えるが――」
「奇っ怪?先輩、何か気づいたんですか?」
残念ながら、情報は死角にあるため全く見えないがとにかく何かあったことは確かだ。
「何かあったのか?」
「リン、アキラ、ナナシすまぬな。受け取った報告書に、どうもおかしなところがある。少し朱鳶と相談する必要があるゆえ、ぬしらは先に建物に入っておれ、失敬」
朱鳶さんと青衣さんは重い表情でその場を立ち去って行った。
(一体何が?単純に考えれば、カルロ・モロンが吐いた座標に不備があったと考えるべきだけど――青衣さんはスーパー機械人だ。過去の事件と参照して何か感じ取ったのかも――って結局いくら考えても意味はないか)
「カルロ・モロン――何だか、いやな予感がする。リン、ナナシ、朱鳶さんたちの近くに行って、様子を伺ってみよう」
「い、行くの!?」
「行くよ、ナナシ!」
少しは抵抗したものの、結局二人が向かったそばの路地の影にバレないように隠れていた。
「先輩、モロンが提供した座標ですが――確か彼の組織が、以前に下見をしていたという地点だったはずです。先輩は奇っ怪と言いましたが、具体的にどういうことです?」
「朱鳶よ、前に広場で見つかった例の怪物、覚えておるな」
「もちろんです。あれの残骸を回収する作業が、確か今日の午後に――」
ここで、朱鳶は青衣の意図を理解した。つまり、カルロ・モロンの事件と謎の怪物の事件はつながっていると考えているのだ。
「気づいたのだが、モロンが提供したいずれの座標も、残骸を運ぶ自動輸送車の走行ルートと重なっておる!」
対車に特化したEMP発生装置を持っていたモロンの所属していた組織の座標が、残骸を運ぶルートにかぶっているなんて流石に出来過ぎている。
それも、既に『天馬エクスプレス』のトラックで簡単に電装系を開錠できるのは周知の事実だ。
「それに加えて、組織がエーテル物質用の密閉容器を仕入れたという、モロンの証言から、治安局は奴らの狙いを、大企業が希少なエーテル資源を運ぶ輸送車と仮定した。が――実の所、企業の輸送車両と治安局の自動輸送車は同じ型式なのだ!」
衝撃の事実が告げられ、思わず身震いするのを感じる。
(一体、あの怪物は何なんだ!?そこまでして、奪いたいってことはやっぱり何か重要な――もしかしたら、俺の過去も――過去の俺が言っていた聖剣についても何かわかるかもしれない)
「もしそうなら、自動輸送車が危険です!車両は今どこに?」
「確認する――見つけたぞ。信号に遅延はあるが、車両は目的地に近づいているようだ」
順調に目的地に進んでいるということは、輸送車に危機が迫っていると同義である。いよいよ、まずくなってきたというわけだ。
「だが、記録によると、およそ15分前、ホロウ内のある地点で10分前後停車しておる」
「10分――一見短いようですが、EMP発生装置を手に、ルート上であらかじめ待ち伏せておけば、証拠を持ち去るには充分な時間です!」
そして、その停車が意味することは治安局内部に内通者がいる可能性を示している。もちろん、ホロウ内での構造変化に対応するために一時停車することはある。しかし、それが今は足かせに変わっていた。
「今局に報告したとて、自動輸送車が襲撃された根拠はない――この段階で報告したところで、局は人をよこしたりせぬ。せいぜい規定に則り遠隔分析、と言うあたりが関の山であろう」
「確かに――ですが、そんな悠長なことをしていては間に合いません」
「さよう。いま輸送車のことを報告すると藪蛇になりかねぬ。状況を鑑みるに、我が自らホロウに向かった方がよさそうであるな」
「待ってください先輩、それは服務規程違反ですよ!第一リスクが大きすぎます!」
相手は単なる強盗ではない、強盗“団”なのだ。例え、青衣さんほどのスーパー機械人であろうとも多勢に無勢は厳しい――最悪、と言うのも考えられる。
「朱鳶よ、これは一刻を争う事態なのだ。我らが言い争っている場合ではないぞ。今日の講習には大変な準備を費やしたうえ、メディアも大勢詰めかけておる。ぬしにとっても、ブリンガー長官に良い所を見せる得難い機会――この場は任せたぞ」
青衣さんは一人で行く気、満々だ。確かに、この後朱鳶さんにはメディアの露出がある。ここで、どこかに行って、なおかつそれが服務規程違反となれば朱鳶さんの今後にすら影響が出るかもしれない。
「我はぬしの部下だが、それでも先輩と呼んでくれるではないか。今日ひとたびはその先輩を信じてみよ。必ず無事に、証拠品を持ち帰ってくる」
ちょうど、その時だった――けたたましいサイレンと共にブリンガーの車が講習の演説のために現れた。
「長官が到着した。逡巡しておる暇はないぞ。朱鳶よ、後は任せた。ではな」
そう告げ、青衣は背を向ける。一方の朱鳶さんは青い顔のままだ。
「『祭るべくなき祭るは諂いであり、義を見てせざるは、勇無きなり』」
六分街でのチラシ配りの際に聞いた先輩からの言葉を、次は自身が漏らす。
「先輩が言ってたことですよ。大事なのは、私達が治安官として、何をすべきかを知っていることだと。確かに、私は長官の影響でこの仕事を選びました。ですが、それは彼への恩返しでも、褒めてもらうためでもありません」
再び、拳を強く握り――誓う。
「あの時の長官と同じように――誰かを守れる人間になりたい、それだけです!」
夕日は彼女らの行いを祝福するかのように二人を照らしていた。
「先輩、私も一緒にホロウに行きます――あのホロウに居る敵は、一筋縄ではいきませんよ。二人で証拠品を守り抜きましょう!」
「ちょっと待った~!!」
今、まさにホロウに赴かんとする二人の前に現れたのは、体を大きく広げ大の字になり立ちふさがるナナシだった。
「な、ナナシくん!?」
「話は――その、ごめんなさいこっそり聞いてました。心配だったので、それでもし二人がホロウに行って――その?証拠品って奴を守るんだったら俺も連れってくれ!!絶対に足手まといにはならない」
「えっと、許可できません。足手まといになる、ならないではないんです。なぜなら、たとえ零号ホロウの調査ライセンスを保有していても、貴方は民間人です。なので、連れて行くわけにはいかないんです」
(うーん、もっともな意見。と言うかそれが当たり前、アキラ、リン――流石に二人の作戦は成功しないよ)
と言うのも、先ほど俺達3人は影から二人の会話を聞いていたのだがあの怪物の証拠が危ない以上、指くわえてみてられないというわけでダメもとで俺を同行させることができないかと考えたのだ。
納得できる理由を告げられ、大人しくビデオ屋に戻ってモニタリングしようかと思ったその時だった。
「待て、ナナシよ。ぬしは、もしや拳でエーテリアスと戦うのではないか?」
「え?う、うん――そうだけど――それがどうしたの?」
どこかで戦った姿を見せたのか、それともモロンを捕まえた状況からそう推察したのか――だが、青衣さんは少し考える素振りを見せた、後朱鳶さんに交渉を始めた。
「よいではないか、朱鳶よ。今は、猫の手も借りたい状況ゆえ、ナナシがいればこの作戦の成功率は跳ね上がるであろう――」
「ですが、これ以上民間人を危険に晒すわけには――」
「今は一刻を争う状況であるぞ、忘れたのか?治安官養成マニュアル、173頁。緊急事態発生時、治安官は市民を身元調査無しで『協力者』に任命できる」
「ですが――わかりました」
何か思うことはあるのだろうが、俺と青衣さんの顔を交互に見て、決心したようだ。
「行きましょう、ナナシくん。あなたを私達の協力者として任命します」
「――うん、わかった!!」
(うっそだろ!?朱鳶さんや青衣さんとはいえ治安官と一緒に任務に行くのはリスキーすぎる。それに、なるべく目立たないために『必殺技』無しって釘刺されてるし――大丈夫か俺!?)
内心ではとても困惑しながらも平静を保ち笑顔を張り付けるナナシ、ぶっちゃけ断られてすぐ帰れるものかと思っていたためそのダメージは計り知れない。
こうして、治安官二名と、民間人?の合計3人でホロウに向かうのだった。
ナナシの命日も近いか――
皆は閑話とか、IFの話とか読みたい?
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読みたーい!(特にヤンデレ)
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読みたーい!(ラブラブ!)
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読みたーい!(好感度測定器みたいなやつ)
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いや、読みたいのは本編だ!遅れてんぞ!
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作者さんの自由で!
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こんなアンケートする前に書け