同時刻――
「いかん――行くも戻るも、敵が完全に塞いでおるぞ。どうにかして注意を逸らさぬ限り、活路を見出すことはできぬな」
「じわじわと追い詰められてるね――」
上も下も完全にふさがれた今、最悪の場合『必殺技』を使ってこの場を切り抜ける可能性も増してきた。というかぶっちゃけ建物に穴を開けて脱出するというチート技を使わねばならないといけない可能性がある。
「朱鳶、ナナシよ。この窮地を脱する策が浮かばぬ場合は、我が敵を引き付ける。ぬしらはその隙にここを脱し、生き延びよ」
「はあ!?先輩、何バカなこと言ってるんですか!」
「そうだ、囮なんて許さないよ!!もしやるんだったら、俺がやる!!」
「ホロウへ調査に入ることを、頑なに譲らなかったのは我だ。我が思いとどまっていれば、ぬしらまでも危険に晒すことはなかった。それに、ナナシよ。囮を自らがやると言ったが、我は人の身にあらず。ボディを失うことは大した問題ではない」
確かに青衣の言う通り、機械の体の彼女が囮になるのが最も効率がいい。けど、そういうことじゃないんだ。
「大した問題だよ、青衣さん!仲間が傷つくのをみすみす見逃したくない。朱鳶さん、この3人の中で俺は最も身体能力が優れています。それに加えて囮をしながらの撤退戦は得意だと自負しています。俺に囮を行かせてください!!」
「ナナシよ――」
「それは一番ダメです。特に私たち治安官がそれを許すことは死んでもあり得ません。もし、あなたの身体能力が最も優れているというならば、逃がすとすればより生還する確率の高いナナシくんであるべきです」
「でも、今は言い争ってる場合じゃ――」
言い争いの口論が続く中、それらが止まるきっかけを作ったのは一つの通信だった。
『その通り。言い争うのはやめよ、三人とも』
突然の声――聞き覚えがありすぎる声色から大きく目を開け驚くナナシ。だが、すぐさま冷静に戻り背筋を伸ばす。
「無線から声が――私たちの暗号化周波数を解読した?一体どうやって――?」
突然の通信にも冷静に分析する朱鳶。どう考えてもリンの声なのだが、どうやら気づいていない様子にホッと胸をなでおろす。
『誰かを囮にするなんて、そんな話をしてる場合じゃないよ。三人揃ってここを切り抜ける方法、聞きたくない?』
「ぬしは何者だ。どうして我らが、ぬしの言うことを信じられると?」
「待って、青衣さん。あっちの言い分も聞いてみるべきじゃない?俺達にはこいつの言う通り、場合じゃないんだから」
なんとなく察したナナシはリンのサポートのため話を聞いてみようかと提案するもまだ、不信感はぬぐえていないようだ。
『こいつ――?ンッン!信じる根拠になるようなものは、ないんだけど――私はプロキシだよ。本当なら、あんたたちの前に現れるべきじゃなかったんだけどね。プロキシだからって、良識がないわけじゃないよ。あんたたちを見殺しにはできないってだけ』
「プロキシ――?」
「よかろう。ぬしの見立てでは、いかにすべきであると?」
(まさか、リンが治安官二人の面前に出るなんて――賭けだね、あとで“こいつ”って言ったのは謝っておくか)
『私が、逃げるチャンスを作る』
青衣さんの言葉に返答するリンの声は自信に満ち溢れていた。
数分後、強盗団どもは業務用のエレベーターに乗り俺たちがいる建物に入ってきていた。
当の、俺たち3人はやつらからは見えない影に隠れ勝機をうかがっていた。
『それじゃ指示を出すよ!』
既に居場所はばれているため、少し顔を出せばボウガンの矢がこちらに飛んできている。
(まずいな、そろそろ本当に後がない。チャンスを作るって言ってたけど、どうやって――?)
「どうするんだ、リン?もう最悪俺が『必殺技』で何とかしようか?」
少し、離れ立ち位置にいるため小声でリンと話す。
『大丈夫、私を信じて――いつもみたいにね!!』
「安心した、待ってるよ」
『うん、私たちも待ってるから』
言葉を交わした直後、何やらやつらが乗っているエレベーターから『ビリィ』という音が聞こえたと思えば構成員二人を乗せたエレベーターは落ちていった。
「なにぃ!?」
「今だよ!急いで!」
驚きの声を上げる、構成員に対して冷静な声色で合図をするリン。その合図と同時に影から出てやつらの背中を拝みながら横をスルーっと通り抜けていった。
「逃げたぞ!!」
「バレたか――次はどうするんだ?」
一直線にコンテナの上を進んでいく3人。後ろを振り返れば同じく3人――いや、ちょうど増えて大量の構成員が俺たちの後を追っかけていた。
(よし、自然な形で一番後ろに来れた――これならこっそり『ゴッドハンド』くらいなら使えるかな)
もしもボウガンを射って来たらいつでもはじけるように準備しつつ指示を待つ。
「裂け目に向かって直進して!!」
「裂け目?」
後ろを振り向きながら朱鳶さんと青衣さんに随行していたので気づいたら景色が変わっていた。
「おわぁっ!」
「うわぁっ!」
朱鳶さんと共に声を上げてしまうナナシ。しかし、不運かな――残念ながらナナシが声を上げたのは裂け目を抜けた朱鳶さんにうっかりぶつかってそのまま背負い投げを決められたものによるのだ。
「いったぁ――流石、朱鳶さん。今のは、避けられなかったよ」
「ご、ごめんなさい!本当にごめんなさい!」
「ぬしらよ、今は漫才をやっておる場合ではないぞ」
すぐさま体制を立て直し、走り出す。だが、待てよとナナシの足が止まる。
「先行ってて!大丈夫、別に囮になるわけじゃないから!」
「な、ナナシくん!?」
一人裂け目の前に戻り、構える。
「追え!!あっ」
「こんにちはぁっ!!」
追ってきた構成員と目を合わせたナナシは裂け目が向こう側からでは見えないことを利用して出待ちすることによって完全無防備の構成員に対して思いっきりアッパーカット決め気絶させる。
「追ってくるな!!」
そして気絶させた男をまるでバットのように振り回し、裂け目の向こう側に放り投げる。
『ぐおっ』なんて、何かに当たったような音がしたと同時に先に走る朱鳶さんたちに追いつくため走る。
「これでしばらくは追っては来れないだろ!!」
「いや、後ろを見よ。ついてきよるぞ!!」
結構勢いよくやったと思ったのだが思ったより簡単に裂け目を抜けこちら側に現れた。
「いたぞ、追え!」
数発放たれるボウガン。それを青衣さんは持っている三節棍で弾き。一番後方を突っ走っていたナナシは、矢を軽くキャッチしその矢で次々放たれる矢をはじいていた。
「この先にも道がないんだけど!」
『大丈夫!前方、裂け目がもう一つ!』
言われた通り突っ込むと裂け目が出現し再び景色が変わる。しかし、これをいくら続けても裂け目が通れるのはやつらも同じ、埒が明かないのだ。
「どうする?やっぱり相手の限界が来るまで粘るのか?」
『大丈夫!それよりもいい方法があるよ。危険は伴うけど、三人なら大丈夫!!』
次に言われた裂け目の入り口はなんと仮設トイレの内部。ちょうど、裂け目があるトイレの隣にあるトイレから出てきた男を無視して入り込む。
「うっ――っと」
裂け目を出た先はなんと地上から数十メートルは離れている高い鉄塔の道とも言えない幅の上だった。
そこをまるで平均台を進むかのようにバランスを保って進んでいく三人。
後ろを少し確認してみれば追ってはみんなビビッて鉄塔に思わずしがみついている。
『ここからダイブだよ――でも、さすがに三人同時は難しいね』
「なら、朱鳶さんたちが先に飛び込んでください。後に俺が行きます」
「――はい、それしかないようですね」
そうさっきの足止めのせいかナナシの順番は一番最後のため先頭を走っていた二人に先に飛び込んでもらうほかないのだ。
もちろん、こんな高度から落ちれば普通に死ぬし、それも見ず知らずのプロキシからの指示だ。先に飛ぶというのはどれだけの恐怖か計り知れない。
「先に行っています。ナナシくん――絶対に来てくださいね」
「もちろん」
うなずきあった後、朱鳶さんたちは互いに手をつないで少し下にある鉄塔に飛び込んでいった。ちゃんと、二人が裂け目に飲み込まれていくのも確認した後、飛んできたボウガンの矢を掴む。
「はぁ――散々、追っかけやがって」
イラつきを隠せなくなっているナナシは、続いて飛び込むこともなく逆に追手に向かって走り出した。
「な、なんのつもりだ!!」
「ここにいたらお前ら死ぬだろ――命だけは助けてやるって言ってんだ。ほら、さっさと証拠品の場所を言え――それとも、ここから紐なしバンジーでもやりたい?」
そう、ここにわざわざ来た本来の目的は証拠品を押収すること、こいつらからおめおめ逃げることじゃない。
「うるせぇ!言うと思ってんのかよ!!」
棒をぶんぶん振り回そうが、片手でへし折り。矢を放てばキャッチされ適当に捨てられる。かなり地上から離れ、その分風も強くなっているというのに全く動じずナナシは淡々と行っていた。
「これで、お前らが取れる行動も少なくなったな――」
「ひぃっ!」
やつらが満足に取れる攻撃手段はすべて使い切った、煙幕弾を使われようがここでは大した問題ではない。
「この状況わかる?お前らはもう身動きは取れない――そして対して俺は動き放題――例えば、お前らの手をそっとここから離して落とすなんて簡単だと思わない?」
「お、お前治安官じゃねぇのかよ!」
「お前らの質問に答える必要はないね。それよりもさ――話してくれない?あ、そうだせっかくなら指の爪くらい剝がしてやろうか?何枚剥がれたら落ちちゃうんだろうね。俺、試してみたいかなぁ――ねぇ?」
一番近くにいた男の手をガバっとつかみ手袋を外させ、その爪を触る。
「や、やめてくれ!!し、知らないんだ――知らないんだぁ!!」
「ふーん――嘘つきだな。仕方ないか、どの指から行きたい?」
「し、知らねぇよ!!ぼ、ボスからあそこに来た治安官を殺せって言われただけなんだ――頼む、見逃してくれ!!」
視線をちらっと移し、他の奴らも知らないかと暗に訴えるが、全員が首を横に振る。
「知らんな――」
グキッ、生々しく鳴った音はいったい何が起きたのか想像させるには十分な音
「うっぐぅ――お、俺の指がぁ」
「いいだろ、まだ爪は剥いでないんだから――あぁ、それとも指を折るより爪を剥いだ方がよかった?」
「い、いいわけねぇだろ!お、おい何すんだよ!!」
いまだに往生際の悪い男に対ししゃがみ込み、次は別の指を掴む。
「――教えろ」
「わかった!わかったから!――俺の胸ポケットの中にキャロットが入ってる、その通りに行けばたどり着けるはずだ!」
「ふーん、俺の目をよく見ろ――本当にそのキャロットは本物?」
(位置を喋った瞬間、目線がキャロットの入った胸ポケットじゃなく別のところに動いた――それに、あぁそういうことか)
本物かと聞いた瞬間、殺気を放ちながらさっきへし折った指を刺激してみれば一瞬視線が別の仲間の方に向いたのを確認した。
「お前か?本物を持ってるのは」
「は、はぁ?何言ってんだ、お前がもう本物は持ってるだろ!」
「嘘はもういいぞ、ほら出せ――それともさ、その嘘しかつかない舌を抜いてもいいのかい?」
ナナシに問いかけられた男はハッタリだと、そう考えていた。
「うごっ――おえっ」
「ほら、言え次は喉の奥に手を突っ込むだけじゃ済まないぞ?――あぁ、もちろん舌を抜くから」
だが、その考えは目の前にいざあのナナシが現れた時、消え去る。
(こいつ、マジの目だ――本気でやるつもりだ)
組織を裏切るということになるが、男も死にたいわけじゃない――否、目の前の男がやろうとしているのは死よりも恐ろしいことかもしれないと“錯覚”した男は口を腕を動かしお目当てのものを取り出す。
「こ、こいつが目的地までのキャロットだ――だが、これは組織を裏切るってことだ――わかるだろ?」
「あぁ、裏切りはご法度だもんな、俺の口からは何も出ないさ――ありがとう」
すると、ナナシは突然足を振り上げ一本足で鉄塔の上に立つ。
(まさか、マジでキャロットが手に入るなんて――まあ、やってみるもんだな)
ドン――と強く踏み込んだ後、握られた拳は一直線に進んでいく。
「『正義の鉄拳G3!!』」
裂け目に飛び込んでいった正義の鉄拳を確認した後、何かを吹っ飛ばした感覚を腕に残しつつ、朱鳶さんたちが飛び込んだ裂け目にナナシも続いていった。
仲間判定がめちゃくちゃガバガバな癖に、傷つけた相手には容赦がないナナシなのだった。
皆は閑話とか、IFの話とか読みたい?
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読みたーい!(特にヤンデレ)
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読みたーい!(ラブラブ!)
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読みたーい!(好感度測定器みたいなやつ)
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いや、読みたいのは本編だ!遅れてんぞ!
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作者さんの自由で!
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こんなアンケートする前に書け