話は数日前、ちょうどニコと初めて孤児院前で会ってしばらくたった日まで遡る。
ちょうど時間は昼時。グレースに一緒にご飯を食べないかと誘われたのだ。
(けれど――。意外だな、てっきり昼飯なんて忘れてるほど没頭していると思ってたんだがまさか誘われるなんて)
然も、今日で連続五日目だ。
「でもなんで、他の人を誘わないんだ?」
疑問を口に出してみるが思い当たることはない。クレタとかベンさんとかアンド―も一緒に誘ってみようかと話をしたが、グレースが一瞬動きを固めた後――。
『ナナシは一緒にお昼を食べるのが嫌なのかい!?』
と言われ、その気迫とゾワリと背筋に走った嫌な予感と共に否定して、ずるずると五日間他の社員と昼飯を食べることもなかった。
(一応、弁明しておくが決してビビったわけではない)
「あれ?ナナシ、今日はいつもと弁当が違うんだね」
俺が持つ弁当を覗き込みながら、品定めをするような目で嘗め回すように弁当を見ていた。
いつもは、アキラに弁当を作ってもらい、食べていたのだが今日は出勤しようとしたらビデオ屋のすぐ前にニコが待っていたのだ。そこで――。
『はい、これ。弁当――。じゃあ、さようなら~!』
と、流れるような手つきで弁当を渡され、俺が声を上げる間もなく、漫画のような足の回転スピードでどこかへ走り去ってしまった。
「ってことがあったんだよね」
「ふーん。そうなんだ、それでおいしかったかい?」
何だろう、ここエアコン効きすぎじゃない?設定温度20℃くらいになっていない?
なんて考えているがエアコンがついているわけでもない。だというのに、グレースの一睨みで俺の頭のてっぺんから爪先まで冷え切ってしまった。
「お、おいしいさ!特に、この卵焼き「じゃあ、ちょっともらおうかな」がーー!!」
今まさに俺の口に運ぼうとしていた卵焼きは隣のグレースにガブッと一口で食べられ彼女から「おっ、おいしいねこれ」と感想を言われてしまった。
「うぅ――。無念」
ガックシと肩を落とす。ちなみに食べられたのが最後の卵焼きだったのだ、本当においしかったため衝撃も図り知れない。仕方あるまいとさらにおかずに箸を伸ばす。
だが、その時横目であることに気づいた。
(ッ!?まさか、俺が箸でつかんだタイミングを狙ってる!?)
どう見ても、箸の先端部分を凝視している。
「――食べたいの?」
「え?」
「今だ―ッ!!」
必殺の作戦、逆に聞きそのすきを使い、一瞬でウインナーを口へ運ぶことに成功した。
「残念!これ以上はあげないよ!」
してやったり、と言う気分で鼻からフンスと擬音が出そうなくらいのどや顔を決める。
「気にしてるのは、私だけか――。そうだ、これ食べるかい?」
そう言い、グレースの箸から渡されたのは卵焼き。
「そういえば、昨日から弁当になったよね。クレタにでも作ってもらってるの?それはそれとして卵焼きはいただきます」
差し出された、卵焼きへパクリと食いつき。
「流石におチビちゃんに作らせてはないよ。最近、少し興味が出てねやってみているんだ。そうだ、どうだい?それでお味はどっちがおいしい?」
「え!えっとぉ・・・」
(ど、どうする!?こういう質問て、どれが正解なの!?も、もちろんどっちもおいしかった、でも正直ニコの卵焼きの方がおいしかったとか言っちゃダメそうじゃん!――くっ、ここはやはりどっちもおいしかったで――)
「そうだ、どっちもおいしかったはナシで頼むよ?」
なんときれいに退路をふさがれてしまった。そして、どうしたもんかと頭を悩ませたが、何も言い答えが思いつかなかった。
「なるほどね、沈黙は答えを言っているようなものさ。まだまだ、練習が足りないみたいだ」
「ごめん」
謝る事しかもはやできない。ここで、もしアキラだったら気の利いたセリフの一つや二つ言えたのだろうが残念なことに俺にはそこまでボキャブラリーがあるわけじゃない。
「気にしないでくれ、むしろ正直に言ってくれた方が私は燃えるよ!」
「さ、流石だね。」
(白祇重工の知能重機たちを開発してるわけだもんな――。やっぱりグレースは凄い!)
クレタから少し聞いたが。あの知能重機たちは完成までかなりの月日がかかったらしく、その途中で何度もケガをしたり、最終的にはエーテルの刺激がいるとかぶつぶつ呟きながらホロウに行って起動させたらしい。
(一人でホロウか――。これに関して俺は何も言えないなぁ)
俺も『正義の鉄拳』の完成のために何度も一人でホロウに入っていたし。なんだか似ているのかもしれない。
はい、回想終了。
グレースと一緒に昼飯を食べたり、仕事をしていると思うことが一つある。それはとにかく距離が近い!!俺が鋼の精神を持っていなかったら今頃、豚箱行きだろう。
こないだなんて一番やばかった。
「ナナシー!疲れたからちょっとおぶってくれないかい?」
その日は、クレタからなんと機械のエーテリアスが出現したとか何とかで毎度毎度理性を失う、グレースに襟をつかまれ引っ張り出されたのだが、結局その後子供のように目を光らせながら分解やらなんやらをしていたらどうやら疲れ果ててしまったらしくその場で腰を下ろしていた。
「いいぞ。ほら、乗った、乗った」
この時俺はものすごい軽い気持ちで背中を差し出した。
ムニっ。
そう擬音が漏れ出そうな、衝撃が背中に伝わる。
(・・・!?)
そうおぶると同時にグレースの立派な双丘が背中に押し付けられ来ていたのだ。
「だ、大丈夫かいナナシ?」
「――はっ!うん、大丈夫だよ。グレース、さっさと出よう!!」
(まずい、まずい。完全に意識が飛んでいた。耐えろ、耐えろ。発動しろ!俺の心の『マジン・ザ・ハンド!』)
何言ってんだという話だったがそのくらい俺は冷汗だらだらだった。
現実では発動しないくせに心の中では発動した『マジン・ザ・ハンド』のおかげでその場は乗り切ったのだった。
だから――。
「気にしないんだね――」
気が付かなかったのだ。
ちなみに、仕事は早朝のみだったため、グレースをおぶった後、猫又に誘われた猫の集会場に向かうのだった。
そして、時間は戻る。
(うおー!煩悩滅却!)
「行くぞ!ナナシ!」
「おう、ベン!『マジン・ザ・ハンド!!』」
特訓開始を開始してちょうど今日で一カ月。最初とは見違えるほどオーラは立ち昇り、最初は何も背負っていなかった背中はタイヤが8つも連結され、飛んでくるタイヤも止められるようになっていた。
だが、いまだにマジンは現れていなかった。
「どういうことだ、ナナシの実力は確実に向上している。だが、未だにマジンが現れないとはな」
「兄弟、もしかしてやり方が違うんじゃねぇか?」
「やり方か――」
タイヤを中心に円卓を囲む3人の男たちは、なぜ『マジン・ザ・ハンド』が完成しないのか知略を巡らせていた。
「どう、順調かい?」
目を開く、すると目の前にグレースの顔があった。思わず飛び上がる、そのさきにクレタもいてまた飛び上がった。そして、やっとそこで落ち着きを取り戻した。
「おお、グレースと社長じゃないか。珍しいな、こんなところに来るなんて」
そう、特訓場所は建設現場の端の端なのだ。普通の奴はこんなところに来ない。
「ナナシが頑張ってるって聞いてね、これは私も力になれるかもと思ったんだ」
「あたしもだ。何か手伝えることがあったら手伝うぜ」
「た、確かに。二人は俺がマジン・ザ・ハンドを反射的に発動させたのを間近で見てるしアドバイスがあるなら是非ともほしい!」
ベンが見たマジン・ザ・ハンドもあるが見ている情報はほしい。
だが、二人の話を聞いても『マジン・ザ・ハンド』を完成させるには至らなかった。
何かだ、根本的な何かが足りない。直感的にそんな感じがしたんだ。
(なんだ――何が、何が、何が、何が、必要なんだ――!!)
申し訳がない。こんなにみんなの力を借りていながら到達できない自分が情けない。
きっと表情に出ていたのだろう。誰かに肩をつかまれる。
同時に顔を上げると、真剣な顔をしたグレースがいた。
「私は君の今の表情をよく知ってる。きっと、おチビちゃんも。だからこそ、私が言うことにするよ――。」
「何を?」
『ナナシ、君は私達の誇りだ。私達の仲間だ。胸を張って進むんだ。君ならできる』
「これは、私がホルスさんからもらった言葉なんだ。子供たちを作るときはずっとこれを聞いていた。」
『グレース・ハワード。君は我が工の宝だ、胸を張って進むといい。君ならできる』
ラジカセに収録されていた、誰かの声。
「親父――。」
(ホルス社長――か)
「ナナシ。君ならできる、なぜなら私達が君の凄さを知っているからさ。胸を張って進むんだ」
「――今の俺に足りなかったものが少しわかった気がする」
少し情報を整理してみよう。
(発動方法は。左手を振り上げ、力を放出。マジンを出現させ受け止める、薙ぎ払いも自由。きっと大事なのはへその下に力を入れること全力で踏ん張る事、後腰の体重移動だ)
だが、それでも『マジン・ザ・ハンド』は成功しなかった。きっと足りないピースがある。
「――胸を張って」
グレースの言ったフレーズが不思議と頭の中を反響していた。
(――胸を張って、左手、力の放出、へその下、全力で踏ん張る、腰の体重移動)
パチン。と音を立て脳内のピースがつなぎ合わさっていく。
なら、することは一つだ。俺は、みんなに一つ頼みごとをした。
「準備はいいか兄弟!」
それは、一番最初に立ち向かったクレーンにつるされた鉄球だった。
「あぁ!いつでも来い!」
構える。
『ナナシ、君は私達の誇りだ。私達の仲間だ。胸を張って進むんだ。君ならできる』
(俺ならできる!)
「大丈夫なのか、ナナシは」
ベンが心配そうにあたりをふらふら歩きだす。
「大丈夫だろ。見ろよ、アイツの顔」
「そうだね、おチビちゃん。迷いがなくなったみたいだ」
「行くぞ!」
クレーンが操作され、その鉄球が真っすぐ俺の元へ向かってくる。
「はぁ!」
左手を上に振り上げる。だが、今までとは違う、気を溜めるのは胸。いや、心臓!!
「胸を張って!」
左手から放出された気は巨大な青と黄色のマジンを形成する。そのまま、左手を振りかぶる。
へその下に力を入れて、全力で踏ん張る。
「いっけぇぇぇ!『マジン・ザ・ハンド!!』」
マジンと鉄球は激突する瞬間、まるでコンクリの壁にぶつけているみたいな音がした後すぐ、鉄球を止められていた。
「やったね!ナナシ!」
駆け寄ってくる、白祇重工の皆。
今日は成功祝と言うことでなんとクレタがアキラとリンも誘って食事に誘ってくれた。
だが、どんちゃん騒ぎの後。
(これが―――。俺のマジン・ザ・ハンドなのか?)
左手に残る、マジン・ザ・ハンドの衝撃。それは確かに『正義の鉄拳』や『ゴッドハンド』を軽く凌駕する物だったが、同時に違和感がその手の中に残った。
ちなみにその後。
グレースがラジカセの再生ボタンを押す。
『グレースって、本当に頼りになるよね。今日も助かったよ』
グレースがラジカセの再生ボタンを押す。
『マジン・ザ・ハンドを使えるようになったのはグレースのおかげだよ。本当にありがとう!!』
グレースがラジカセの再生ボタンを押す。
『グレースの卵焼きおいしい!毎日食べたいくらいだよ!』
グレースがラジカセの再生ボタンを押す。
『グレースさ、ちょっと最近まともすぎるよ。どうしたの、熱!?』
グレースがラジカセの再生ボタンを押す。
『え?最近おすすめの映画はないかって?そうだな――『愛とラブは劇場で』とかどうだ、恋愛映画なんだが、他とは一線を画すくらい面白いんだ!――え?ああ、アンビー・・って知らないか。まぁ、とにかく友達と一緒に行ったんだ!』
「これも、いらないかな。」
ラジカセからカセットテープが抜き取られ、捨てられる。
聞いたカセットテープも、捨てられたカセットテープたちにも日付が振られていた。
彼女の選別作業はまだ続く。
白祇重工の閑話終わり!あと、残りもやったら第4章・ヴィクトリア家政編に突入するよ!
マジン・ザ・ハンド(アレス)
皆は閑話とか、IFの話とか読みたい?
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読みたーい!(特にヤンデレ)
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読みたーい!(ラブラブ!)
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読みたーい!(好感度測定器みたいなやつ)
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いや、読みたいのは本編だ!遅れてんぞ!
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作者さんの自由で!
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こんなアンケートする前に書け