ゼンレスゾーンゼロ ・ 聖剣   作:うどん米

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閑話・ナナシとリン

 

 

いつぞや、俺の失言を覚えているだろうか。そう、グレースへの『きれいだな』発言、それをニコ達に広めないことを条件にガシャポンを奢るという話になったのだ。

 

「と言うことで――どうぞ」

とガシャポンを回しやすいようにと両替したディニーをリンに献上する。

「え、どういうこと?」

だが、一向に受け取らず、むしろ俺の行動に戸惑っているようだ。

 

「うん?いやさ、この間のグレースへの失言に目をつぶるのを条件にガシャポンを奢るって約束しただろ。まぁ、こんな約束しなくてもいつもお世話になってるから奢ることに躊躇はないんだけどね」

「うん、でもどうしてナナシが私にディニーを献上することになってるの?」

「そりゃあ、ディニーを献上しないと奢ったことにはならないだろ。これで、目いっぱい楽しんできてな!」

実に、俺のバイト代の半分を切り崩しているのだ、だがあの失言を取り消せるなら安いものだろう。

 

(あれ――?)

ちらっとリンの表情を見ても、『やったー』とかじゃなくて呆れ顔をしていた。

 

「――はぁ。行くよ、ナナシ。ほら、ディニーはしまって~」

「え?ちょ、ちょちょ、腕引っ張らないでえ!!」

振りほどこうとは思わなかったが、かなり強い力で勢いよく引っ張られながら、俺達はビデオ屋を後にした。

 

 

 

 

(待てよ、考え方を変えてみれば、いわゆるこれは上司との接待と言うやつなのでは――)

一回考えると不思議と背筋が伸びて来るが、まぁ相手はリンだし、問題はないだろうと再び背筋が戻る。それほど、リンと一緒にいるのに息苦しさは感じなくなっていた。

 

「一緒来るの久しぶりだね。ナナシ」

「ああ、この前アキラに呼び出された時はガシャポンで金を使いすぎたんじゃないかと背筋が冷えたよ」

ガシャポンがまるで壁のように並び、中に入れば様々な筐体が我々、ゲーマーを迎えてくれる古くからあるらしい店だ。

 

「ほら、ナナシ早速やろうよ!」

そう言い指さしたのはいつぞやにぼこぼこにやられた格ゲーだった。

「乗った!今度こそ、ぼこぼこにしてやる!」

「フフーン。やれるかな~ナナシに」

 

 

(相手は完全にこちらを見くびっている。だが、あの時の俺となめてもらっては困る。そもそも、俺は反射神経がずば抜けている。だからこそ、正確にコンボを決めつつ、相手のコンボは発生を見てからでもよけれる!!はっはっはっは―――!最初から、リンに勝率など万に一つもないのだ!!)

リンが座った向かい側の筐体に座り、ディニーを投入する。

 

「そうだ!罰ゲームやらない?負けたほうがチョップ大将のラーメン奢りってことで!」

「それも乗った!」

(ふっふっふっ――。まだ笑うな、堪えろ。この勝負、俺の勝ちだ!!)

 

 

 

数“秒”後。

 

 

「―――負けた。負けた」

白く燃えつきた姿の俺が膝から崩れ落ちていた。あの後、開始3秒くらいまではいい勝負をしていたのだが、何が何だかわからないうちにリンに瞬殺され。ラウンド2でも体力を一ミリも削れずパーフェクトゲームで敗北したのだ。

 

「ふふっ!ほんとにナナシってゲーム弱いよね。私初めてだよ、一分もかからず勝ったの」

「―――無念」

こうして、敗者は勝者に嘲笑されるのだと、身に染みて実感した。

 

 

「一体、どうして――。俺の理論は完璧だったはずなのに」

「理論?」

俺は、自分自身が立てた理論をリンに説明した。

「あはははっ!」

すると、普通に笑われた。

 

「ナナシ、流石にゲームのキャラがナナシの思い通りにそのまま動くのは無理だよ。だって、普段のナナシの動きっていつもくねくねしてて、なんというか洗礼された動きなんだけど、それをそっくりそのまま格ゲーのキャラにしようとしても成功しないよ」

「ぐっ、た、確かに。」

脳みそが考えたことを電気信号にして体に伝えるまでわずかな時間が必要となる。それと同様に俺が考え、体に染みついた動きと言えどそれをそっくりそのまま格ゲーのキャラにやらせるのは不可能だ。

 

 

「そもそも、ナナシはいつも3次元で戦ってるんだから、2次元の格ゲーのキャラに当てはめるのは難しいよね。」

「―――難しい」

 

「じゃ、後はガシャポンしたらチョップ大将の所に行こう!」

「うん――。あ、そうだ、いつもお世話になってるしアキラにも誘おうかな」

普段から、バイト前にはおにぎりを用意してもらったり、昼飯を作ってもらったりしている。恩返し、これは当たり前のことだろう。

だが、アキラに連絡しようとしたスマホはリンに取り上げられてしまう。

 

「だーめ。今日は私と約束してるんだから、お兄ちゃんは呼ばないで」

「そ、そう――。まぁ、別日に誘うか」

約束しているのはリンだ。それなのに、別の人を呼ぶというのは野暮と言うものだろう。

だけど、てっきりアキラなら来てもいいと思ったのだが。――ニコならともかく。

 

 

 

「そういえばさ、ビデオ屋にキッチンってあった?俺が来た時、無かった気がするんだけど」

確かあの、おかゆもレンジでチンした奴だった気がする。そこから、いつからか忘れたが鍋でおかゆが渡されて――。

「それはね、ナナシが『ゴッドハンド』を使って倒れた後、お兄ちゃんが『ナナシは必死に戦ってくれたんだ。僕たちも彼にできるだけできることをしよう』って言いだして、それにまず『健康的な食事が必要だ。』って急に言いだして、調理場を用意しちゃったんだよ」

「や、やっぱり!あの時、鍋で渡されて不思議だなって思ってたけど、調理場が増設されていたのか!?」

「うん、しかもそれだけじゃなくてね。どうやら、お兄ちゃん、料理にはまったみたいで料理の本が着々と増えてるんだよ!」

そういえば、前までは本棚に数冊くらいだったはずなのに、今ではびっちり詰まってた。

 

「特に、ナナシは気を付けてね。気づいてないかもしれないんだけど、ナナシが外食するって連絡来た時ちょっと、お兄ちゃん不機嫌になるんだから」

お茶らけた表情ではなく、真剣に一本指をさしながら注意してくるリン。

最近、ニコとか、アンビーとかと外食行くことが多い。そのたびに、不機嫌になっているのだろうか。

「待てよ、それならビデオ屋で食べればいいのでは!」

猫又と一緒に猫の集会場に行った後、ビデオ屋で昼を食べていたのを思い出す。

「そう言うことじゃないと思うよ。うちにいるときくらい私と――。」

「え?ごめん、最後の方聞こえなかった」

後半が小声過ぎて聞き取れず思わず聞き返す。

 

 

「なんでもない!」

「え、いや、でも」

 

 

「なんでもないから!それに、ナナシが他の人の弁当食べてるのもよく思ってないんだから」

俺は普段、アキラからの弁当を食べ、たまにニコの弁当も追加で食べ、たまにクレタからもらった弁当を食べる、運が良ければ3人分の弁当を昼で食べている。

で、そのことを話すとそのたびにアキラから。

 

『そうなんだ、どれが一番おいしかったかい?』

なんて聞かれる。グレースに聞かれた時は正直ニコが作った弁当の方がおいしかったので、答えに悩んだが。これは間違いなくアキラが一番おいしかった。

『そりゃあ、当然アキラだよ!本当に、お世辞とかなしに、いつもおいしい弁当ありがとう!』

もちろん、お世辞はない。

『そうか、どうやら僕の弁当がナナシの力になれているようでよかったよ』

満足そうに笑顔で喜ぶアキラ。それに、背中の裏でガッツポーズしているのも見えている。

 

 

 

なんて、話をリンとしたら。再び、俺がディニーを渡した時のような呆れ顔になった。

「うーん。お兄ちゃんも私も――。まぁいいや!とにかく、早く行こう、ナナシ!」

「え、ガシャポンはいいのか?」

「もういいよ。それよりも、早く行かないとお兄ちゃんが気づいちゃうかもしれないからね!もちろん、ナナシの奢りね!」

リンに腕を引っ張られ、俺達はチョップ大将の元へ向かった。

 

 

ゲームで遊んでいたからか昼時は少し過ぎており、待ち時間なく座ることができた。

「おう!リン、ナナシじゃねぇか!今日はアキラと一緒じゃねぇんだな。――もしかして、デートか?」

「違います。チョップ大将、そう言う話にあんまり踏み込むと俺みたいに失言して痛い目見ますよ」

冷静に、リンの名誉を守るため。俺のようにはしないため、諭すように答える。

 

「は~そうかい。つっても、リンの方はそうでもねぇ見てぇだがな」

ちらっとリンの方を見ると、顔を赤らめている。

(いや、違うだろ。ここまで、走ってきたから単純に熱くて顔が赤くなっているだけだな。大体、最近運動不足がどうのこうのと言うのを聞いた。まぁ、これを機に運動誘ってみるかな)

「リン、とにかくラーメン食べよう!――後、明日一緒にランニングいかない?」

「え?う、うん。伸びちゃうもんね。でもなんで、ランニング――?」

いつの間にか、出されたラーメンをすすりながら、リンとの会話を楽しんだ。

 

 

 

 

ちなみにその後――。

 

リンが言っていたアキラが外食すると不機嫌になるという話が気になったので、チョップ大将でラーメンを食べたという話をした。

「へぇ、リンと一緒にラーメンを食べに行ったんだね」

「ああ、久しぶりにチョップ大将のラーメンを食べたんだが、おいしかったよ。よければどこか機会があったらいつものお礼としてラーメンを奢らせてくれないか?」

 

(なんだ、リンの思い違いじゃないか。別に不機嫌になったりはしていないぞ?)

 

「いや、遠慮しておくよ。――ところで、ナナシ。何味のラーメンを食べたんだい?」

「醤油だけど。どうかしたのか?」

「なんでもないさ、そうだナナシ明日は少し仕入れと買い物に付き合ってくれないか?」

 

ゾワッ

 

(ッ!?一瞬、悪寒がしたような――。)

 

「もちろん、是非とも俺を使ってくれ」

「ああ、こちらこそ頼むよ、ナナシ」

 

約束をした後、リンに早朝にランニングに行こう!と約束を取り付けその日はゆっくり眠りについた。

 

 

 

 

 

ナナシはよくその日起きたことをご飯の時話してくれる、最近は白祇重工とみんなと一緒に『マジン・ザ・ハンド』を完成させた話だったり、『敵』のことだったり。

「ナナシ――」

 

初めて会った時は路地裏でごろつきに歩きスマホをしてたら肩があたりそこから因縁を付けられたところを助けてもらった。

その後も、イアスとしてたくさんの場面で助けてもらった。

「私から何かできることはないのかな――」

 

そもそも、ナナシが好きなことは何だろう。特技は、趣味は、将来やりたいことは――。

彼には記憶がないから、家族は誰がいたんだろう。今のナナシには戦うことがすべてになったら――。

 

 

 

「私が、教えてあげなきゃ。与えてあげなきゃ。ナナシが、いつか普通に生きれる時まで」

 

 

 

 




戦うことは手段でなければならない。それが目的になったときそれは殺人鬼と変わらない。記憶がなく、戦うことしかなくなった彼の末路は――。
ゲームをしている人はわかると思うですけどあのビデオ屋キッチン(多分)ありません。なので、これは第1話の伏線回収ですね。

皆は閑話とか、IFの話とか読みたい?

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