リンと一緒に出掛けた翌日、俺はリンを誘ってランニングを終えた後、アキラと約束したビデオの仕入れと買い物に付き合っていた。
「ナナシ。どうやら、仕入れ側に問題が出たらしい。少し遅れるみたいだから先に、買い物に行こう」
「了解。バンバン、荷物持ちに使ってくれ!!」
買い物の目的は食材調達らしい。
「あれ?でも、まだ冷蔵庫に色々入ってたと思うけど――?」
主要な肉類はちらほら見えたし、野菜も揃ってた。調味料は最近買ってたし、特に困る要素はないような気がするが。
「そうなんだけどね、個人的に作りたいものがあったんだ」
「そっか、いや~アキラが作ったご飯おいしいからさ。楽しみだよ!」
(なんだろうな~。作りたいものって言ってたし最近食べてなかったやつかな、それとも新しい料理!?なんにせよ、楽しみだな!)
今日のご飯は何かな~と期待に胸を膨らませながら買い物に向かった。
「さて――。必要な物はフェアリーに調べてもらったからひとまず今日は試作してみようと思うんだ。幸いにもうちにあるものも多かったからね」
買い物のメモ帳には今日の食材達が丁寧な字で書かれていた。
・長ネギ
・中華麺
・メンマ
・煮卵
「うん?」
何だろう、すごいどこかで見たことがある。それも超最近に。
「アキラ、もしかして今日のご飯って」
「ああ、醤油ラーメンさ」
直後、リンの言っていた言葉が頭の中で反響する。
『特に、ナナシは気を付けてね。気づいてないかもしれないんだけど、ナナシが外食するって連絡来た時ちょっと、お兄ちゃん不機嫌になるんだから』
(まさか、本当なのか。)
チョップ大将の店で食べたことを話しても大して反応があったわけでもないので、てっきりリンの言いがかりじゃないのかと思ったのだが昨日の今日では信じざるを得ない。
「えっと、もしかして昨日。リンと一緒にチョップ大将の店に行ったこと気にしてる?」
(いや、待てよ。よくよく、考えてみろ。アキラにとってリンは大事な家族だ。それが、記憶がない文字通り何処の馬の骨かもわからないやつと一緒にいるのは不機嫌になってもおかしくない。いや、それにかける!)
「気にしてはないけど。僕も誘ってほしかったなとは思うかな」
「う、うぅ。ごめん、俺も誘おうとも思ったんだけど、リンに止められたんだ」
「そうなのかい?」
俺は昨日あった出来事をアキラに話した。もちろん、リンが言っていた。アキラが外食したり他の人の弁当を食べたら不機嫌になるという話は抜いて。
「なるほどね――。なら、もし次機会があったら僕も誘ってくれ、それで許すから」
「ほ、ほんと!もちろん、もちろん。いつも、アキラにはお世話になってるからね。それくらい、お安いもんだ!」
昨日、リンが予想以上に早くガシャポンを切り上げてくれたので幸いにも軍資金はまだある。これなら、しばらく奢るくらいわけないだろう。
「ありがとう、ナナシ。でも、今日は僕の作ったラーメンを食べてほしい」
「うん、うん!楽しみ!」
「僕も、ナナシの期待にこたえられるように頑張るよ」
食材を買い揃え、とりあえずビデオ屋に戻り食材を冷蔵庫に入れる。
今日は、さっきも言っていたが試作らしく、ラーメン屋みたいにスープのために煮込んだりはしないらしい。
そして、俺達はビデオの仕入れに向かった。
「仕入れってこんな感じにやるんだね」
「ああ、それにしても今日は仕入れる数が多かったから車でくればよかった。ナナシがいてくれて助かったよ」
段ボールいっぱいに、敷き詰められたビデオたち。俺は、特にジャンルに好みがあったわけではないのだが『愛とラブは劇場で2』がおかれていたので続編が気になって仕入れることにした。
対してアキラが借りたのはドキュメンタリーが中心で、俺も何度か見ているが知的な印象を受けるアキラにぴったりなジャンルだと思った。
「アキラってドキュメンタリー好きだね。こんなに箱一杯に仕入れるなんて」
「まあね、でも最近はそうでもないんだ」
「どうして?」
確かにドキュメンタリーは事実が元の為、あまり万人受けする物ではないが、そこそこ収入の目途が立ってきた今、アキラが我慢する必要はあるのだろうか。
「ナナシと一緒にいると毎日がドキュメンタリーみたいなんだ。それに、僕は画面の前で見ているだけだから余計にそう感じるのかもしれない。」
「毎日がドキュメンタリーって、それって褒めてる?」
何だか、俺が事件を引き寄せているみたいに聞こえて来る。
「どうだろうね。でも、ナナシと一緒に仕事をしてるといつも楽しいし、この間ナナシが取り込まれそうになったときは本気で焦ったんだ。」
「あはは、その節は無茶してすみません」
思い当たる節しかない。特にデッドエンドブッチャーを単独で相手どったり、謎の怪物に飲み込まれそうになったり、アキラにはかなり心配をかけてしまっている。
「だからこそ、僕はナナシの力になりたいんだ。だから、ナナシにはおいしいって思ってもらえるご飯を食べてほしい。」
「そんなに、思われてるなんて幸せもんだな、俺」
ここに来て、倒れて、パエトーンに拾われた。そこから、目まぐるしく俺の取り巻く環境は変わった。仲間もできた。
「――本当に、最初に拾われたのがパエトーンでよかったよ」
それでも、環境が変わろうが俺が俺でいられるのは二人のおかげだ。
「こちらこそ、ナナシがあんまりおいしそうにご飯を食べて、いつも『おいしい!』って感想を言ってくれる。とっても嬉しかった。だから、料理を始めたんだ。」
『あぁ、最近食ったもの中で一番おいしかった』
そういえば、最初おかゆを食べた時こんなこと言ってたな。確かに、あの時絶食状態で食べたおかゆのおいしさを俺は今も忘れていない。
「何回も、僕たちはナナシに助けてもらった。本当に、あの時拾ったのがナナシでよかったよ」
その後は互いに顔を見合わせて、笑いあいながら帰路についた。
当然今日の夜ご飯は、アキラが作ったラーメン。もしかすれば、リンが文句を言うかもしれないと思ったので先に訳を話し納得してもらった。
「お待ちどおさま。僕の特性ラーメンだ、召し上がれ」
ラーメン屋でよく見る椀に乗って現れたオーソドックスな醤油ラーメン。だが、本能的にそれは食欲をそそらせ、口の中に唾液の分泌が始まっていた。
そして、3人が席に座ったところで。
「「「いただきます」」」
ラーメンを食べ始めた。
一口食べて、てっきり試作と言っていたからカップラーメンとおんなじくらいかなと思っていたが予想外。めちゃくちゃうまい、スープの素に市販の麺等々しか使っていないのにおいしい。
「めちゃくちゃ、うまい!!なんで、麺の喉越しとか、スープの味の深みが市販のそれじゃない。一体――?」
「それは企業秘密。だけど、どうやら期待に応えられてみたいでよかったよ―――それで、チョップ大将とどっちがおいしかった?」
(き、来たー!!来ると思ってました!この質問、前は確実にアキラの方がおいしかったから正直に物を堪えられたが、チョップ大将の方が今回は軍配が上がる。こういう時、前回は手も足も出なかったが今回は最適解を事前に用意してるんだ!)
「チョップ大将の方がおいしかったかな。このラーメンももちろんおいしいんだけどね」
必殺、もう正直に言おう。
説明しよう、ここで嘘ついたらきっとアキラには察せられる。ならば、正直に言うことによって前回アキラの方が弁当おいしかったという話に信憑性を持たせられる必殺技だ。
「やっぱりか。まだ、チョップ大将には負けるみたいだ。待っててくれ、ナナシ次作るときはチョップ大将を超えるラーメンを作ることを約束するよ」
「う、うん。」
(ラーメン屋にでもなるつもりなのかな?)
まぁ、アキラの作るご飯のクオリティが上がることに越したことはない。
俺は?
アキラはビデオ屋の店長としてのスキルはもちろん。『パエトーン』としてプロキシ業は百戦錬磨と言っても過言ではない。それはリンも同様だし、料理の研究、努力も欠かさない。
俺は?
何もないわけじゃない。戦う技能。強い体、鉄骨も片手で持てる筋力。多種多様な技。全て、戦うためのものだ。
(俺は一生、戦い続けるのかな。)
学歴もない。記憶もない。残ったのは体に染みついた戦闘能力のみ。
(もし記憶が、戻らなかったら――。)
一生、一生――。その過程で、誰かを失うかもしれない。もしかしたら、怪我で戦えなくなるかもしれない。そしたら、もう死ぬしかない。
一瞬、自分の足元に薄氷が張っている幻覚が見えた。
ッ、ならきっと俺の末路は――。
ザザッ、頭の中で砂嵐のような雑音が脳をかき乱す。思わず、右手で右目ごと頭を押さえる。
その瞬間、右目に映ったのは。
『こんな結末――。認めないんだから』
どこかで聞いた声が脳みその中を反響すると同時に、両腕を肩の根本から失い。膝を折る、誰かの後ろ姿だった。
「ど、どうしたのナナシ?」
急に頭を押さえ初めた俺をリンが心配する。
「う、う・・あぁ!」
思わず、ラーメンを放置してビデオ屋を飛び出してしまった。
「ナナシ!ナナシ!」
後ろから呼ぶアキラの声を背にして。
数秒後、実はそこまで遠くには行っておらずビデオ屋の屋根に座っていた俺は、己の醜態を思い返し悶絶していた。
「ふぐぅぅぅぅ!やっちまった!あれじゃ、アキラのごはんを食べて急に走り出したみたいじゃないか!」
めちゃくちゃ感じの悪い奴になっていた。
(ど、どうすればアキラとリンに謝罪を切り出せる――?)
「と言うか、俺らしくもない。直近の未来は深く考えても、遠くの未来なんて気にしないだろ俺!」
と言うか、こう悩んでいることがバカバカしくなってきた俺は屋根から飛び降りる。
「あれ、アキラ!?」
「ナナシ、案外すぐ戻ってきたね」
俺が飛び出して数秒しかそもそも経っていないのもあってアキラたちがそもそも広域を探していなかったのだ。
「そ、その――」
「多分、何かあったんだろう、話を聞かせてほしい。いつものご飯の時みたいにさ」
「――ああ!!」
きっと、周りから見れば将来お先真っ暗男なんだろう。そんなの最初からわかってたことだし、気にしても仕方がない。
だったら、いつもを全力で生きるんだ。きっと、未来はその後ろについてくる気がするから。
でも、結局再びもう一度思ったことがある。
『パエトーン』に拾われて、よかった。胸に抱いた、確かな暖かさを感じながらその日は眠りについた。
今日は、怖い夢は見ないだろう。
ちなみにその後。
見たことの詳細について、アキラとリンに話した。
と言っても見たのはほんの数秒だけ、それが何なのかもわからないし、俺の心が見せた幻覚のようにすら思える。
(だけど、その割に――。幻聴ははっきり聞こえたんだよなぁ)
「ともかく、ナナシ。そう言うのを見たり聞いたりしたら僕かリンにすぐ相談してくれ――。記憶が戻りかけてるとか、そう言う前兆かもしれない。それに、どういう経緯でナナシが記憶をなくしたのかもわかっていないんだ。それで、戻ろうとするときにナナシの心にとてつもない負荷を与えているのかもしれない。くれぐれも一人で抱え込むことだけはしないでくれ」
と厳重注意を受けた。
自分の両手を見る。
「あるんだよなぁ」
ならきっと、あれは俺の幻覚だろう。あれが、俺の過去なら腕はないはずだ、だって人間の腕が新しく生えて来るなんてありえないんだから。
それこそ、奇跡でも起こらない限り。
(そういえば、一週間外食禁止って言われたな~なんでだろう)
ある“参考書”を読みふけるアキラ。
「へぇ、擦り傷の場合人間の皮膚は一週間くらいで入れ替わるのか――」
不穏。人の記憶ってそう簡単にはなくならないのに――。やっぱり、何かあったのか――。いや、無かったからないのでは?
皆は閑話とか、IFの話とか読みたい?
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読みたーい!(特にヤンデレ)
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読みたーい!(ラブラブ!)
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読みたーい!(好感度測定器みたいなやつ)
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いや、読みたいのは本編だ!遅れてんぞ!
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作者さんの自由で!
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こんなアンケートする前に書け