「そ、そんな――あの邪魔さえなければ間にあったのに」
あの時、全速力で走ったのは俺とライカンさん危機を察知し、瞬時にイアスをエレンに預け、向かった。だが、寸でのところで、エーテリアスが物陰から現れライカンさんの足が止まってしまう。
俺も来ていたので、行けると思ったが、赤いデュラハンの攻撃によってそれも阻まれた。
「カリンちゃん、お顔を上げて?どんな時もお客様を安心させるのが、メイドの責務でしょう。そして、何より誰一人欠けることなく窮地を脱すことができたのです。それ以上に喜ばしいことはございません」
「その通りです。ナナシ様が私と共にシャッターが閉じるのを食い止めようとしてくださったおかげで、私は命を拾うことができました」
だが、あれは完全にたまたまだ。何より、俺はあの赤いデュラハンの気配を感じ取れていなかった。
「気にしないでライカンさん。それよりも、ここをどうやって開けるか考えないとね」
正直、マジン・ザ・ハンドを使えばすぐぶち破れそうだが。
「手動の開閉装置があるかもしれませんわ。辺りを見てきますから、少しだけお待ちください」
「リナさん、そんなことしなくてもこんなシャッター程度ぶち破れますよ」
「私も同感。鉄でできてるから、まあまあ頑丈だけどさ。あたしとカリンちゃんなら穴開けるくらい余裕だから。――ていうか、ナナシもしかして鉄のシャッターを壊せるの?」
触ってみた感じ、そこまでの厚みはない。これなら、『真・熱血パンチ』でも殴り続ければ壊せるだろう。
「問題ないけど――。リナさんはそれができないと思ってるわけね。まあ、雇い主さんの物だから勝手に破壊しちゃいけないなら破壊しないけど」
「そこは気にしなくていいでしょ。ご主人様には、噂さえ何とか出来ればいいんでしょ?誰も言わなきゃバレないんだしさ」
ならもうぶち破っちゃうかと、正義の鉄拳を発動させようと足を振りかぶる。
だが、ここでフェアリーから待ったが入る。
『注意、建物に構造的ダメージを与えることは推奨できません。アトリウムは二棟を繋ぐ唯一の実態ある構造物ですが、ホロウの影響下のため不安定な状態にあります。ひとたび強烈な衝撃を受ければ、局所的な構造変化を生じさせてしまう可能性があります』
「――なるほどね」
納得し、足を下ろす。だとすれば現実的なのは、手動で降ろすか、操作している電気室とかに行くくらいだろう。
数分後ライカンさんが戻ってきた。調査の結果、手動で動かせる装置は渡り廊下の向こう側、つまりここを今通る術はないのだ。
ヴィクトリア家政が、通る方法を模索してくれるという話なので、ここはお願いすることにした。
(予想が正しければ電気室に行くことになると思うだが――。大体こう言う二棟構造の建物はどっちにも電気設備がついてるものだからね)
だけど、それを機に休息をとれるということなのでお言葉に甘えて、休むことにした。
「はぁ、はぁ」
息を切らしながらビデオ屋に帰ってくる。
(くっそ、マジン・ザ・ハンド一発で結構疲れるな――)
「お疲れ様。ナナシ、ほらこれでも食べるんだ」
アキラから渡されたご飯を食べ、とりあえずヴィクトリア家政からの連絡を待つ。
「で、どうだいナナシ、もう謎が解けかけてるんじゃないか?」
「うーん。まぁ、そこそこかな。まだ、証拠が少ないし確証は持ててない。あくまで、確率が高いってだけだ。直感に近いな」
それに、当たってた場合相当めんどくさいことになる。
「私は聞いてみたいかな。ナナシの推理!」
「僕もだ。ナナシの直感は大体当たるからね」
まあ、ここまでお膳立てされたら、答えないのもおかしな話だろう。
「まず、最初の謎はレインがなぜ空メールを送ってきたかだ」
「ああ、そもそもニコ含めた同業者たちに一斉に空メールが送られてきたのがすべての始まりだったね」
それが、ちょうど2週間前。そこらへんから消息もつかめなくなったらしい。
「確か、ナナシの考えではレインは誘拐されて、捕まっている。という話だったね、だったらなぜレインはメールを送れるんだい?普通、電子機器類は没収されると思うんだけど」
「そこだ、重要なのはレインはハッカーであるということ。」
「――それって!!レインを誘拐したのはハッカーだからってこと!?」
「その可能性は高いと思ってる。多分、隙をついて空メールをばれないように送り続けているんだと思う」
そもそも、それ以外に風貌はただの女子高生であるレインをわざわざバレエツインズの屋上まで連れていく理由がない。
じゃあ、逆にハッカーのレインを連れていく理由とは?
「まあ、何かをハッキングしたいんだろうけど――。問題は何をだ、わざわざ高いところにまで登ってハッキングをする理由がわからない。しかもだ、おそらく誘拐した奴らは電気室で停電を演出してる」
「なるほど、ナナシは最近になって噂を体験した人が現れたのも人払いの為だと思ってるということだね」
アキラの言葉にうなずく。どうにも、タイミングがかみ合いすぎている。故意を疑うべきだ。
「でも、誰が連れ去ったとかもわからないし。おそらく集団だろうし――。やっぱり、ヴィクトリア家政にレインがハッカーだってことを明かすべきかもな」
「その必要が出てきたら話すことにしよう。これ以上、不用意に怪しまれるべきじゃない。」
その時だった。うちの電話が鳴る。
リンが受話器を取り、スピーカーモードにする。
「プロキシ様でございますね」
「うん、ライカンさん停電の理由がわかったの?」
「まだ、推測の段階ではございますが、可能性は極めて高いかと――」
図面を確認したところ、バレエツインズの電力供給構想は完璧なもので、大規模な停電は回避できるようになっていた。その上、地下には独立して稼働できる発電所があり、ホロウに呑まれた後も電力を供給し続けられたのはそれが理由らしい。
「やっぱりか、立派な建物には大体ついているもんだし、じゃあ停電が起きた理由は誰かが操作したと考えていいな」
「操作ですか。なるほど、それでは噂の原因は――」
考えとしてはこうだ。
1. 誘拐犯がレインをバレエツインズの屋上まで誘拐した。
2. 誘拐犯は人払いのためにかつて囁かれていた噂を活用した。
3. 結果、ヴィクトリア家政が調査に入ることになった。
相手にとって予想外だったのは、侵入者がこれまで来た度胸試しとかではなく、ゴリゴリのプロ集団が来てしまったことだろう。
「ですが、それではなぜレイン様を屋上まで連れ去ったのかがわかりません」
(ここで、レインがハッカーであることを明かせば何かわかるかもしれないけど――。)
アキラの方を見ると首を振っている。まだ言わないで、と言うことだろう。
「そこは、俺達もわからない、外れてる可能性もあるし。とにかく、まずは電力を復旧させるべきだと思う」
「その件でしたら幸い、メンテナンス用の書類に停電時の対応が書かれていました」
バレエツインズの二棟にはそれぞれ独立した『制御室』と『非常用発電室』が設けられている。もしかしたら、制御している奴がいるかもしれないし、そこで予備電力に切り替えれば電力の復旧も可能らしい。
(ホロウ内部でそこまでの設備が生きてるとは――。籠城する場所としてこれ以上適した場所はないな)
「じゃあ、早速とっちめに行きますかね」
再び、俺はイアスを連れバレエツインズへ向かった。
(――あっ、また塩と胡椒置いてくの忘れてた)
イアスを取り出した瞬間。鞄の奥底に見える二つの小瓶。お化け対策にと持ってきたが、どうやら効くのはナメクジだけらしく、意味がない。割れたら大惨事だなと思いながらそっと見て見ぬふりをした。
「プロキシ様、以前の調査によると、棟内の電力を復旧するにはいくつかの手順を踏む必要がございます」
復旧させるために二手に分かれることになった。
まず、制御室に向かい。停電の原因を突き止める。もし、復旧が難しかったら予備に切り替える班。
次に、発電室に向かい予備のエーテル発電機を起動させる班。
前者の場合、電気回路の複雑な操作が要求されるため、ライカンさんとリナさんが行くことになった。
後者は、主に発電機と、エーテル原料の運搬が主になるので、力しか能がない俺はこっちに着くことになった。
「力仕事でしたら、カリンでもお役に立てるかもしれません!」
「頭が疲れるほうと、体が疲れる方の二択ってこと――?どっちもヤなんだけど。でも、ナナシとカリンちゃんとなら、いちいち作法がどーとか言われないもんね」
と言うことでエレンとカリンも一緒に来てくれることになった。
二手に分かれ数分後。ライカンさんとリナさんは制御室にすでに到着していた。
制御室の内部にまでエーテリアスは進行しており、設備が無事かどうか心配ではあったが、幸いにも予備電源のランプはついていた。
早速ライカンさんは作業に取り掛かるも数分後その手が止まる。
「うん?妙ですね――いや、これはまさか」
『ライカンさんどうしたの?』
思わず、制御盤が壊れて電力の復旧は難しいのかと思ったがそれは杞憂に終わった。
「これは失敬。私の独り言が思わぬ誤解を生んでしまいました。実のところ良い知らせでございます――」
制御室は正常に機能しており、非常用発電機が使える限りすぐに電力は復旧できるとわかったのだ。しかし、地下の発電所に故障も見られなかった。つまり、本来なら停電など起ころうはずがないのだ。
「まあ――そうなのですね?では、どうして停電が起きたのでしょう?」
「現時点では何とも――ですが、先ほどナナシ様が語られていた話が信憑性を帯びてきたように思われます」
『それって、誰かほかの人が操作してるってことだよね』
確かに、第三者がいると仮定すれば辻褄があう。
「ですが、制御室はB棟にもあります。そこで発生した何らかの問題が、停電をもたらしたという可能性もあるでしょう。あくまで、可能性ですから、実態を把握するにはアトリウムを渡って調査しなければなりませんが――」
その時、ナナシから通信が入ってくる。
『こちらナナシ、発電機の準備は完了した。発電の方は問題ない?』
「少々お待ちください。――はい、問題ありません。後は、こちらでやっておきますので制御室までお越しください」
そこで、通信は切れた。
エーテル燃料を運び終え、制御室に向かう。こんなに早く終わったのは理由があった。
「それにしても、ナナシって結構役に立つね――『ゴッドハンドW』だっけ?あれで、いっぺんにエーテル燃料運んだのはすっきりしたよ」
「はい、本当にすごいです!電車も持てるゴッドハンドが二つになって――でも、ごめんなさいカリンは役に立てなくて」
そう、エーテル燃料は同じ場所に重ねられていたため、ゴッドハンドWを発動させ全部持って運んだのだ。
白祇重工のバイトのおかげで、ゴッドハンドWの制御もエネルギー効率もかなり改善したおかげでできる芸当だ。もし、前の俺だったら握りつぶしてしまっていただろう。
「いいや、カリンとエレンが運んでいる途中の無防備な俺を守ってくれたからできたんだ。ありがとう、二人とも」
と言うか、予想以上に二人が強くてびっくりした。
班を分けた時リナさんが戦力は(俺を除いて)同じくらいになったとか言っていた気がするが。二人とも俺がエーテリアスに視線を向ける前に倒してしまうなど圧倒的な強さを見せてくれた。
(――だったらヴィクトリア家政で一番強いのは誰なんだろう)
全員の戦闘を詳しく見ているわけではないのでわからないこともあるが、正直ライカンさんとリナさんのツートップかと思っていた。
そうこう考えているうちに俺たちは制御室まで到着していた。
「お待ち申し上げておりました、プロキシ様、ナナシ様。発電室の方はつつがなく進行しているようで何よりです。それでは、こちらで電気の普及状況を確認いたしますので、スイッチを押していただけますでしょうか?」
俺は、イアスを持ってスイッチの前に連れていく。
『ンナナ!』
リンがイアスの声マネをしながらスイッチを押す。すると、先ほどまで停電していた明かりがつき始めた。
「プロキシ様、建物の電力が復旧しつつあります。また、B棟の制御室に影響が及ばないよう、A棟の電源は独立させました。これより、アトリウムに向かいB棟へ向かいましょう。ご友人の消息が、そこでつかめるとよいのですが」
こうして、俺達はアトリウムに再び向かうのだった。
皆は閑話とか、IFの話とか読みたい?
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読みたーい!(特にヤンデレ)
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読みたーい!(ラブラブ!)
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読みたーい!(好感度測定器みたいなやつ)
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いや、読みたいのは本編だ!遅れてんぞ!
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作者さんの自由で!
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こんなアンケートする前に書け