ゼンレスゾーンゼロ ・ 聖剣   作:うどん米

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1ハンド=1人


閑話・ナナシとライカン

 

 

「うぉぉぉぉ!!」

目の前には何が起きようとしているのかもわからずつい首をかしげるエーテリアス。

対する、うなり震えながら両手を重ね背中から生えた二本のゴッドハンドを操作しているナナシ。

 

 

「『ム、ムゲン・ザ・ハンド!!』」

二本のゴッドハンドがエーテリアスに襲い掛かる。

 

「あっ」

だが、勢いはなくそのままエーテリアスにはたき落とされて落下し地面に突き刺さる。

「むぐぅぅぉぉぉ!!」

頑張って、動かそうとするも全くびくともしない。

 

「そこまで」

好機ととらえたエーテリアスに襲い掛かられるナナシ、だが間一髪で目の前で氷の粒が舞う。問答無用の踵落としを食らったエーテリアスは消滅した。

 

「――はぁ、っはぁ」

思わず、その場でしりもちをつく。現在、俺達はムゲン・ザ・ハンドと言う必殺技の特訓をしていた。

 

「集中が切れていますよ。連続でも集中は切らさないように」

「――うぐっ、さ、さすがライカンさん」

なぜ、こんなことになっているのかそれは数時間前に遡る。

 

 

 

精神世界

 

相変わらずの真っ暗な空間。そこに二人の全く同じ顔、同じ体同じ服装の二人が向き合っていた。

 

「じゃあ、早速必殺技を教えていこう」

「ああ、頼む」

この前の約束通り、アルターエゴに必殺技のやり方を教えてもらうことになっていた。

だけど、目をつむってすぐにここに来れるとは思わなかったが。

 

「ナナシ、お前が覚える必殺技は『ムゲン・ザ・ハンド』だ」

「ムゲン・ザ・ハンド?」

思わず聞き返す、アポロがビジョンでは使っていなかった必殺技だ。

 

「ああ、ゴッドハンドからの派生技で――って、百聞は一見に如かずというやつだやって見せるから見てくれ」

両手を横に広げ、上でパンッと音を立て合わさる、最後に胸に合掌した手を持ってきた瞬間。

 

「『ムゲン・ザ・ハンド!!』」

4本のゴッドハンドが背後から展開し、俺に向かってくる。

 

「ッ!」

後ろに跳びながら回避する、だが割と複雑に動いているはずなのだが全く振り切れない。

 

「これが『ムゲン・ザ・ハンド』だ。ゴッドハンドを複数展開しつつ、なおかつその腕を精密に動かす――それも遠隔でね」

「――それって本当に必要なのか?いや別に、ムゲン・ザ・ハンドが悪いってわけじゃないんだ。だけど、覚えるなら『ゴッドキャッチ』とかとにかく強い技を覚えたほうがいいんじゃないのか?」

「お前が本当にそれでいいならね」

首をかしげる。ムゲン・ザ・ハンドは確かに強力な必殺技だがあの映像で見た『ゴッドキャッチ』よりは各段に弱い技とも思えた。

ならば、そっちを覚えたほうがいいのではないか――。

 

 

「ナナシ――お前が今一番欲している力はどんな力だ?」

「他の聖剣使いを倒す力だ」

即答した、他の聖剣使いを打倒し聖剣を全て集め破壊する。その果てが、どうなろうとも心に俺は決めている。

 

「ああ、確かにそうだが――少し聞き方を変えよう。もしも、リンやアキラ――自分の仲間がピンチだったらどうする?」

「絶対助ける」

 

 

「うん、そうだね。きっと、比喩なく命を懸けてしまうと思うんだ。だけれどさ、ナナシが命を懸けても助けられないものはある――だからこそ、ムゲン・ザ・ハンドを習得すべきなんだ。この必殺技を習得すれば、これまでは手が届かなかった場所にも出が届く――そんな経験があるんじゃないのか?」

「―――」

確かに、直近でエレンを助けようと熱血ジャンプで駆け出したときもしもムゲン・ザ・ハンドがあれば俺が怪我をする必要もなかった。

手がもっとたくさんあれば、ゴッドノウズが及ぶ範囲からみんなを逃がすこともできたし、ヘリポートから自分以外を逃がすこともできた。

 

 

「教えてくれ、ムゲン・ザ・ハンドを」

「よし!そう来なくちゃ」

パシッと拳を手のひらで覆い、意を決し習得していくはず―――だったのだが。

 

 

 

数分後

 

 

「はぁぁぁ!『ムゲン・ザ・ハンド!』」

現れるゴッドハンド単品

「ダメ―全然ダメ、力の構築が雑!ものすごい雑!なんとなく感覚でやってるから、ゴッドノウズをマジン・ザ・ハンドで止められなかったんだよ!」

確かに、俺のムゲン・ザ・ハンドはアルターエゴが出していたものより小さいし、手のひらすらうまく構築できていない。

 

 

これまた数分後

 

「よっし!やっと二本生やせた!」

「――うーんまあ、及第点かな。じゃあ、動かしてみて」

少々不格好だが、終わりよければなんとやら――動かそうと思ったが――動かない。

 

「あ、あれ?」

「やっぱりか、力の操作が雑!ものすごい雑!もっと集中して、気を緩めるな!」

集中、集中と念ずる――手が少し動いた。

 

「よっし!」

「うん、その調子その調子――」

 

 

これまた数分後

 

「はぁ、はぁ――ゼぇはぁ」

膝に両手を置き、肩で息をしていた。ものすごい疲れる、結局あの後二本のムゲン・ザ・ハンドをかろうじて動かすのが限界だった。実践レベルなんて、遥か彼方と言う場所だった。

 

「うーん、気を張りすぎ。と言うか元の集中力があんまりないな――これじゃあ動かせて4本かな。とりあえず今日はここまで――明日も特訓するよ!」

「あ、ありがとう」

お尻から地面に倒れ、全身で息をする。ムゲン・ザ・ハンドがここまで難しいなんて思わなかった。この世界は現実よりも疲れにくいと言っていたのに今の俺はもう一歩も動けない。

 

 

「あ」

そういえば、ふと気になる事があったので倒れたまま首だけ動かしアルターエゴを呼び止める。

「アポロは一体何本まで出せたんだ?」

参考までアポロが出せる最大本数が知りたくなった。なぜなら、現時点で俺が目指すべき存在であるアポロにはどれだけやれば近づけるのか知りたくなったのだ。

 

すると、アルターエゴは数秒、手を顎に当てうなると答えた。

「――大体37564本かな?」

「嘘つけ!!」

 

瞬時のツッコミの後、アルターエゴは「うそうそ」とごまかす。

 

「実際に出したのは最大で五十万本ってところかな――ちょっと色々あってね」

「ご、五十万本、50万本――500,000!?――背中から――五十万本?」

背中の面積的に五十万本って出せるのかそもそも物理的に。

 

「実際には途中から枝分かれさせたり、マジン・ザ・ハンドと併用したりしてたってのもあるんだけど――」

「それでもすごいな、それだけあれば何人でも救える――いや、何でもない」

つい、何人でもと言ったがアポロは全ての仲間を失っている。手があっても届かなかったのだ。

 

「――まあ、とにかくこの技は間違いなくアポロの技で一番多くの人を救ってきた必殺技だ。」

「わかってる。もっと特訓してアポロみたいに五十万本使えるようになる!」

倒れ込んだ体に鞭を打ち立ち上がる。その衝撃で、俺の意識は浮上していった。

 

そして、誰もいない暗闇の空間でアルターエゴは――

「そして、一番多くの人を殺した必殺技でもあるんだけど」

 

ぼそっとつぶやいた。

 

 

 

 

 

朝、重い瞼を開け体を起こす。

(すごいな、精神世界。なんというか、体は疲れていないけど心が疲れてる感じがする。――なるほど、効率二倍ってことか)

 

早速現実で体を動かすために着替え、アキラとリンに行き場所伝え向かう。

 

「さてと――久しぶりだなバレエツインズ」

さて、なぜここに居るのかと言えば数日前に修行と仕事に復帰したいとクレタに連絡をしたら――。

 

『全治一か月って言われてんだろ――じっとしてろよ、あたしがそっち行くからよ』

と間接的に断られ泣く泣く特訓場所を失ったのだ。

え?デッドエンドホロウに行けば良いって?アキラとリンにこっぴどく怒られたからな――と言うことで場所を変えればよくね?と言うことで、ライカンさん達に確認を取り現像物に致命的な被害を与えない限りはOKと言ってくれたのだ。

 

「一応アキラとリンにはゲーセンに行くって言ってたし――うんうん!バレる未来が見えないね!」

フラグを建設しつつ、鼻歌を奏でながらバレエツインズに乗り込んでいくのだった。

 

 

「第一エーテリアス発見!早速!『ムゲン・ザ・ハンド!!』」

手のひらが重なり現れる2本の手――。

(思った通りだ、精神世界よりも肉体の方が制御しやすい)

 

なんというか肌で敵を捕らえているからかあまり集中が要らないのだ、そして――何よりも死への実感が近い状況の方が成長しやすいことが最近の出来事からわかった。

 

(失敗したら――死)

その荒療治が、ナナシの集中力を極限まで高めていた。

二本の手はエーテリアスへと迫り――ぐちゃ、ぐちゃと音を立てながら潰れた。

 

「――ふぅ、とりあえず2本は成功か」

それにしても、すぐエーテルの体は分解されたが思いのほか手の一本一本が強い。

(人間の頭蓋骨くらいだったら握りつぶせるな、それに今はパーで握って使っているが、これをグーにすれば普通に攻撃に使えるな――ッ)

ここで、もしかしてアポロも同じ使い方をしていたんじゃないかと思考にノイズが走るが――ありえないと思考を捨て――ッ

 

確かに、ナナシの集中力は極限まで高められていた。だが、未熟故かそれと同時にナナシの視野は狭くなっていた。

肌で何かを感じたナナシは緊急で身をひるがえし回避する。

(エーテリアス!?気づかなかった――あっ、まずい姿勢悪すぎて回避が――)

二撃目、その刃が俺に振り下ろされる。どうすればいい、どうすればいいと考えを巡らせるも妙案は思い浮かばない、回避も間に合わない。

 

「ッ」

だが、そうまるで薄氷が打ち砕かれたような音と共に光の粒が舞う。

エーテリアスは、吹き飛ばされそのまま消滅した。

 

「まず、ご挨拶を――お久しぶりです。ナナシ様」

「あ、あはは~お、お久しぶりでご、ございます――今日はお日柄もよ、よく」

別に許可を取ってるなら動揺しなくていいんじゃないと思うくらいに動揺しまくっているのだが、実は理由がある。

許可は取った、うん取ったんだよ。ただ、ものすごくライカンさんの目が笑ってない、その圧で思わず使い慣れない言葉が出てきたのだ。

 

 

「確かに、私共はナナシ様に対して許可を出しました。しかし、少し遠方から拝見させていただきましたが、わざと命を危険にさらしているのではありませんか?」

「うっ――そ、はい」

今こそ百戦連敗の言い訳作戦を出すべき時かと思ったがライカンさんの一睨みで無に帰す。

 

「そ、そのーお、怒っていますか?」

「もちろんです。私共はナナシ様を危険に晒すためにここをお貸ししたわけではございません。――ですので」

 

 

 

なんてことがあったわけだ、結局修行したい俺をこのままバレエツインズから追い出してもどっかで危険なことをしでかすということで、ライカンさんが直々に特訓に付き合ってくれるってことになったのだ。

一応、ライカンさんに迷惑が掛かると言い断ろうとしたが、ナナシ様への貸しを返すために本日丸一日使えさせていただきます。

 

貸しとはなんのことだと思い当たることがなかったのでライカンさんに聞いたがはぐらかされてしまった。

 

 

「そ、それでどうですか――ライカンさん」

「おおむね理解しました。『ムゲン・ザ・ハンド』とは疑似的なナナシ様の必殺技ゴッドハンドを手以外の場所を起点にし出現させ、遠隔で操作する必殺技ですが、ゴッドハンドとは違い、例えるならゴッドハンドが無線、ムゲン・ザ・ハンドは有線の必殺技と言ったところでしょうか」

流石ライカンさん、すごいわかりやすい。確かに、ゴッドハンドは無線――つまり、なんかふわふわした赤外線通信みたいなので繋がっていたがムゲン・ザ・ハンドは物理的につながっている。

そりゃあ、有線の方が動かしやすい。

 

「どちらかと言えば、まだゴッドハンドの意識が残っているようですね。まずは、そこを徹底的に払拭していくのが一番かと」

「なるほど」

有線――有線。根元から、繋がっているイメージ――そうだ、マジン・ザ・ハンドと同じように一点に気をとどめて放出させてみよう。

 

心臓のすぐ前で手を合わせる。

「『ムゲン・ザ・ハンド』」

違いはすぐ結果となって現れた。

 

「違う――」

ムゲン・ザ・ハンドの色は先ほどまで薄かったのだが、今はアルターエゴが使っていたムゲン・ザ・ハンドと同じくらいの濃さになっている。

それに、まるで腕が増えたみたいに動かせる。

 

 

「その調子でそのまま集中を切らさずに――ちょうどいいですね、あちらのエーテリアスに向けて発動を」

「はい!」

あちらと言ってもかなり遠い。目を凝らさなければはっきりと距離がとらえられない位置だ。今までのムゲン・ザ・ハンドなら届かなかった―――でも。

 

 

「いけぇ!!」

伸びる二本の腕、途中で止まることも地面に埋まるなんてこともなく直進していく。

 

エーテリアスはその接近に気づき、迎撃するもむなしく拳に刃ははじかれ直撃する。

 

「及第点と言ったところでしょうか」

「はぁはぁ、手厳しいな。でも――大きな一歩だ!よっしゃぁ!!」

思わずその場に倒れ込む。精神世界と同じだ、心が疲れたように体が疲れたのだ、あいにく様なれないことは大きく力を消耗する。それを連発したならなおさらと言うやつだ。

 

「ふふっ、でしたらここで今日の特訓は終わりといたしましょう」

「ああ、そういえばライカンさんはどうやって俺がここに居るって知ったんだ?」

俺は誰にもここに来るなんて言っていないはずなのだ。ライカンさんに相談したのも数日前、今日だと特定するのは難しい。

だからと言って四六時中ライカンさんが監視していたとも考えづらい。

 

「それは――プロキシ様からあなた様に取り付けてある発信器の発信源がバレエツインズに向かっていると私共が連絡を受けまして、そこで――」

「も、もしかして許可を取ったのは――」

「お話ししました。あまり関心しませんよ、行く場所を偽るのは」

スーッと血の気が引いて行くのを感じる。その上、ちゃんと俺の悪事もバレていたようだ。

(ど、どうする――言い訳が通じる状況じゃない、ていうか発信器だと!?そんなものが一体どこに――い、いやそんなことは今大事じゃない)

 

 

 

「大人しく謝ります」

「それが一番よろしいでしょう――ですが、まだ日は完全に傾いておりません。帰るのはもう少し後でもよろしいかと」

確かに、今日は朝一でバレエツインズに乗り込み、ライカンさんに稽古をつけてもらい、昼を食べてまた特訓してと――。だが、時刻はまだ午後4時回ったところ、帰るのにも中途半端と言うものだ。

 

(謝る言葉を考える時間はあると――)

 

「そうだ、ねぇライカンさんってお酒飲める?」

「はい、嗜む程度ですが」

にやっと思わず口角が上がる。おそらくだが、俺の体は推定20歳、酒を飲んでも大丈夫なはず。アポロが酒でひどい目に遭っていたのを見て少し気になっていたのだ。

 

「俺さ、お酒飲んだことないんだよね。よければ付き合ってくれない?」

「私でよろしければお供いたします」

「ありがと!」

善は急げということで――と思ったがどこで飲むのかもはっきりしていないんだった。もちろん、お酒を飲める場所なんて俺は全く知らないし、お酒片手にビデオ屋に戻ったら――。

 

『ナナシ、どこほっつき歩いていたんだい?』

『え、えーとバレエツインズです』

リンがこちらを見下ろす。その手には、俺が勝ってきたお酒が入っている袋が握られている。

『それで、お酒片手に帰ってきたんだ~』

 

(うん、やばいな。火にお酒を注ぐみたいなもんだな)

 

「あ、あのライカンさん。どこかお酒を飲めるお店ってご存知だったりしますか?」

「えぇ、もちろん存じ上げていますが――いえ、今回は少し趣向を凝らしましょう。少々お待ちください」

そう言い残し、ライカンさんはホロウの外に出ていってしまった。

 

 

数分後、少し息を切らしながらライカンさんがクーラーボックスを持って帰ってきた。

 

「ら、ライカンさん!?どうしたんだその荷物?」

「少し材料が足りなかったので買ってまいりました。それでは行きましょう」

 

「い、行きましょうってどこへ?ていうか、いくらかかりましたか払いますよ」

「いえ、結構です。最初に申しました通り本日はナナシ様への貸しを返すために使えさせていただいております。ですので、こちらの材料も私が払うということで」

なんだか、悪いと思ったがなんというか、少しこの雰囲気に水を差したくなかった俺は素直に感謝を告げ、ライカンさんに連れられるままにバレエツインズの最上階へとやってきていた。

 

 

「うわぁ」

思わず、口から声が漏れる。バレエツインズはホロウに呑みこまれる前は有数のホテルと聞いていたが――。

目の前には、夕日があたり一帯を照らしながら輝いている町並みがあった。

「きれいだな――そうか、俺は気絶してたから」

残念ながら俺はアフロディを追っ払ってからすぐ倒れてしまった。だから、こんな宝石があたりを包んでいるみたいに輝く町を見ることはできなかった。

 

 

「それでは、こちらを」

ナナシがライカンから目線を外し、あたりの景色に目を奪われている間、ライカンはひそかにシェイカーを取り出し材料を入れカクテルを作っていた。

 

「これって――カクテルだよね?」

「はい、こちら『ジントニック』でございます」

差し出されたカクテルグラスを受け取る。確かジンとトニックウォーターで作るんだっけ、確かにジントニックは最も定番で柔らかい飲み口が特徴って聞いたけど――。

 

 

初めてのお酒、ワクワクと同時に廃人になり果てた己のオリジナルの姿が想起する。

だが、俺とアポロは違うと意を決して口に含む。

 

「おいしい――ていうか、あんまり驚かなくなってきたけどライカンさんってカクテルも作れるんだね」

どっかの映画で、ジントニックはバーテンダーにとっての名刺代わりなんていうくらい人によって味の差が出るジントニック。

と言うか、お酒デビューがこんなにおいしいお酒なんて俺は大丈夫なのだろうか。

 

「もの騒がせで申し訳ありません。この程度の技術は家事代行スタッフにとって、極めてありふれたものでございます。」

「は、はは」

どこにそんな家事代行スタッフがいるのだろうか、なんというか圧倒的格の差を感じる。

 

「続いてはこちらをどうぞ」

話している間にもライカンさんは別のカクテルを調合し終えたようだ。

 

「白い?」

先ほどのジントニックは透明なカクテルだったが今回出されたのはまるでカルピスかのように白い。

 

「こちら『ダイキリ』でございます」

「――ダイキリ?」

残念ながら存じていない御方だった。

 

「こちらのカクテルはライムのジュースが使われておりまして、酸味と甘みのバランスに優れております。今のナナシ様の体にはピッタリかと」

「おー、ありがとうございます」

グイッと、一杯流し込む。それと同時に、強烈な清涼感が喉からさらに奥へと進んで行く。

 

 

「ふわぁ――」

呼吸するたびに、新鮮な空気が肺に入ってくるのを感じる。確かに、先ほどまで体を動かし、ライカンさんがいない間もこっそり鍛錬していた俺の体を癒してくれる。

 

(――うーん?あれ―なんか――うーん?)

その後も、ライカンさんのカクテル作りは続いた。途中、ビールが飲んでみたいとぼやいたらクーラーボックスからビールが出てくるなど相変わらずの圧倒的気の利き方を見せるライカンさんに驚きながら、飲み進めていった。

進めたと言ってもライカンさんは本当に嗜む程度に済ましているらしく表情からも余裕が感じ取れる。

 

「ひゅー、お酒おいちいですね」

「なるほど、ナナシ様がお酒を飲むと少し精神年齢が下がるようですね」

そろそろ、夕日も沈みかけ黄金の時間は終わりを告げようとしている。

 

「一応、私の方からも話しは通しておきますか」

「へへへへ~、のみたーい!お酒~!」

ナナシの方も十分出来上がってしまっている、これならば流石にプロキシの二人にこっぴどく怒られることはないだろう。

むしろ、あの二人ならこの姿のナナシをカメラに収めようとしそうだが。

 

 

「でしたら、最後にこちらを私の気持ち――『ブルドッグ』でございます」

そろそろ、酩酊するナナシに対して最後の切り札と言わんばかりにウォッカが主な酒となるブルドッグを作るライカン。

 

「お・さ・け~!!」

案の定、脳みそが退化しているナナシはそれを一気飲みし、その場に倒れた。

 

「ゆっくり、お休みくださいナナシ様。どうかこの時だけは嫌なことを忘れられますように」

ナナシを抱き上げ、彼を帰路に送る。きっかけは、ナナシがアポロのクローンだと知ってしまったことに負い目を感じたが故だったが――己の口角が上がり尻尾が無意識に揺れる。

「気づかれなくてよかったです」

そんな独り言は誰にも聞かれることなく、落ちる夕焼けと共に闇に沈んでいった。

 

 

 

ちなみに、その後――

 

「頭痛い~!」

言わんこっちゃないとはこのことかと、見事に俺は二日酔いの症状に悩まされていた。

「全く、調子にのってたくさん飲みすぎるからそうなるんだよ、ほら味噌汁を飲むんだ」

「ありがとう、もう二度と嘘つきません」

アキラの優しさが文字通り、味噌汁と共に伝わってくる。

 

 

「それにしても、ナナシはお酒飲むの初めてだったんだろう?どうして、言わなかったんだい?言ってくれたら、いつでも僕が付き合うのに」

「い、いや~お酒にあんまり縁がなかったし、そもそも興味を持ったのも最近だから――その、別にアキラと飲むのが嫌だったわけじゃ――」

「冗談だよ、ナナシ。この後はゆっくり休んでおくんだ、お酒は今度僕と飲もう」

冗談の目ではなかった気がするが。まあ、これ以上気にすると――なんか嫌な予感がするので触らないようにする。

 

 

だが、相変わらず頭は痛いままなのでそのベッドで横になる。

「ふぅ~」

ピロンッ

 

スマホのメールの通知音が鳴る。誰からかと確認するとライカンさんからだった。

 

『先日の件で二日酔いは大丈夫でしたか?』

最近、変わったことがある。ライカンさんとメールすると少しだけ砕けた口調になるのだ。本当に少しだが。

 

『大丈夫じゃないです、痛いです。でも、お酒はおいしかったのでまたチャンスがあれば依頼してもいいですか?』

嘘をつかないと誓ったばかりなので本当のことを言う。

 

『そうでしたか――でしたら、依頼などは結構です。どこか、空いた時間で一緒に飲みましょう』

 

『ありがとうございます。楽しみにしています!!』

ここで一旦スマホを置く。

 

「あー痛い~」

聖剣の力でどうにかならないのかと、うなるナナシだった。

 

 

 

 

 

 

 

「少し、良い店でも探しておきますか――」

 

 




お久しぶりです。投稿はただサボってただけです。次回はモチベが上がれば明日?明後日?一週間後?来月?来年?には出ます。
反省はしていない!!
『ジントニック』・・・強い意志
『ダイキリ』・・・希望
『ブルドッグ』・・・あなたを守りたい
カクテルっていろんな意味があるんですね~

皆は閑話とか、IFの話とか読みたい?

  • 読みたーい!(特にヤンデレ)
  • 読みたーい!(ラブラブ!)
  • 読みたーい!(好感度測定器みたいなやつ)
  • いや、読みたいのは本編だ!遅れてんぞ!
  • 作者さんの自由で!
  • こんなアンケートする前に書け
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