ゼンレスゾーンゼロ ・ 聖剣   作:うどん米

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あんまり出来が良くない気がする。


閑話・ナナシとエレン

 

 

「お酒、最高!!」

何も学ばない男ナナシ。しっかり、アル中のオリジナルの素質を引き継いでしまった彼は今日もお酒の魔力に当てられ堕落の一途を辿っていた。

ライカンさんからお酒のおいしさを学び、リナさんとの食事の過程でつまみのおいしさにハマってしまったことによって見事悪酔いナナシが完成した。

 

 

なぜこんなことになったのかは――実は壮絶な理由があった。

 

数分前

 

「―――お酒は、やめる――やめるんだ」

 

カシュ

 

「あっ――開けちゃった」

気づけば、ナナシの手には開けられたストロング缶が握られていた。でも、ここはビデオ屋の為アキラやリンに見つかれば没収は不可避。

 

「――あ、開けちゃったし仕方ないよね」

ビデオ屋を出て、人目につかない場所で一杯喉に流し込む。

 

「ふゅー」

思わず口から声が漏れる

 

 

 

「――ぐっ、やばいこれ以上飲むと、本当に正気が」

頭がゼリーになったみたいにゆらゆら揺れているのを感じる。

気を紛らわせるために、とりあえずゲームセンターに行く。

 

 

目の前にはYOU!LOSE!と表示されている。

「――くっ、NPCにすら負けるとは成長の兆しが見えない――お酒――いや、いやダメだ!!これ以上飲んだら、本当に呑まれる――でも、ちょっとくらいなら――」

ゲーセンでお酒を一口含んだ後、止まることはなかった。

――と言う、壮絶な理由があった結果見事ナナシは出来上がってしまった。

元のアポロが、ヤニカスパチカスサケカスの三拍子そろった存在とはいえ流石にここまでお酒にハマってしまうことを中にいるアルターエゴとサクラは予知できなかったため手を打てなかった。

 

 

 

やがてナナシは酒の魔力に侵されつくしゲーセンの筐体を枕にして眠り始めてしまった。

そんな、無防備な姿を見れば誰かが寄ってくるのは世の常だ、その例にもれずナナシのもとに誰かが近づいてきた。

 

「ねぇ、この子お持ち帰りしない?」

「そうだね、ちょうど寝てるみたいだしこのままホテルに運んじゃおうよ!」

二人の女性がナナシを連れ出そうと手を伸ばす、その時だった。

 

「何してんの?」

その手を、エレンがつかむ。

「え?――す、すみませんでした!!」

連れと勘違いしたのか、それとも彼女の眼光に恐れをなしたのか足早にその場を去っていった。

 

 

「ふわぁ――本当に何してんのナナシ」

「―――」

返事はない、完全に泥酔してしまっている。

 

「ちっ――はぁ、連れてくか」

ナナシを持ち上げ、肩に乗せてビデオ屋に運んでいった。

 

 

一方その頃、精神世界ではサクラとアルターエゴが話し合っていた。

 

『やばいわ、ナナシがお兄ちゃんと同じ末路を辿りかけてるわ』

『いや、別に辿ると言ってもアポロは特に酒で何か事件を起こしてるわけじゃないだろ?』

アポロもナナシと同様に少し精神年齢が下がってしまうなど、今のナナシと同じ状態くらいになる事はあった。

 

 

 

『問題はそこじゃないのよ――お兄ちゃんがパチンコとかたばこにハマり始めた玄関口がお酒だったのよ――このままいけば、ナナシがお兄ちゃんみたいなダメ人間に!!』

頭を抱えうずくまるサクラ。

 

『――まあ、流石にビデオ屋に住まわせてもらいつつ朝から酒を飲み、たばこを吹かし、ギャンブルに金を浪費するナナシは見たくないけど』

ナナシの交友関係も見ていた、最悪の場合周りに貢がれるなどすれば正気に戻りそうな気がするが――でも、依存させてきそうなやつが多い気がするし――。

 

『早急に手をうつわ!!お兄ちゃんの二の前にしない!!』

『うん、それは同意だけど。具体的にどうするんだ?お酒に触れたら電流を流すとかするのか?』

 

『無駄よ、元はお兄ちゃんだからきっとすぐ電流にも慣れるわ――単純な話よ、無毒化してあげればいいのよ』

『――ああ、なるほどね』

そして、ナナシの知らぬ間で体内に入ってきたアルコールを強制的に分解し無毒化、飲んでも高揚感が出ないようにした。つまり、酒を飲んでもただの水と言うことだ。

 

『でも、どうしてアポロもナナシもお酒にハマるんだ?父親は酒が飲めなくてその代わり薬物の常習犯だったわけで、オーバードーズで死んだけど』

『よく、ぽろっと言えるわね。お兄ちゃんは、目の前で嘔吐物にまみれて死んだ父親のことをずっと夢に見るくらい覚えてたのに、そうね――どちらも、つらい現実から逃げ出したかったんじゃないかしら?』

 

 

『――俺は、聖剣を破壊する』

いつぞやにナナシが宣言した言葉が自然と再生された。

 

『どんなに取り繕っても死ぬのは怖いの、ましてナナシがやろうとしているのは盛大な自殺、そこに救いなんてないわ』

『だから、アポロも救われなかったのか?』

『そうよ、結局は周りを巻き込んだ盛大な自殺に過ぎないわ――その過程でたくさんの人が救われただけ、それをあたかも自分が救われたと誤認する破綻者の最後よ』

まるで、それはナナシがアポロのような最後を迎えるような言い方だ、だがサクラの表情は固まったままどこか遠いところを見ている。

 

 

 

 

「ナナシ、お酒を飲むときはなるべく外で飲まないって約束したよね?」

「う――ごめんなさい」

ゲーセンで泥酔して数時間後俺はエレンに運ばれた後リンから説教を食らっていた。

どうやら、エレンの話を聞くと俺は女性2名にホテルに連れ込まれそうになっていたそうでそこを助けてもらったようだ。

 

目覚めた時にはエレンはすでにビデオ屋から去っていて『お礼まだ?』と書かれた手紙が俺の机の上に乗っていた。

(お酒の魔力――恐ろしい。注意しないと――あっでもそうだリナさんの一件で買った分がまだ残っていたような――はっ)

 

「ナナシ、聞いてるの?」

「はい!もう二度とお酒は飲みません!!」

「そ、そこまでは言ってないよ!?」

一本くらいなら大丈夫、ちょっとだけなら、もったいないしなどの思考が俺を酒へいざなっているそう判断した俺は禁酒を誓った。

え?どうせ、また一話後には飲み始めるだろって――流石に大丈夫!!

 

 

散々叱られたその翌々日、俺はエレンを誘い約束のパンケーキ屋に来ていた。

 

「ナナシ、忘れてたでしょ」

「ごめん、お詫びの気持ちって言うことで今日は俺が奢るよ。――それにしても、私服は初めて見たかも」

普段見慣れたメイド服ではなく、外用のラフな服装のエレンは新鮮に感じられた。

 

「変?」

「いや、新鮮で少し驚いただけ、メイド服の時も可愛いと思ったけど、なんというか別のベクトルの可愛さを感じるよ!!」

エレンの顔が下を向き、表情は見えないが心なしか顔が赤いように見える。

「―――忘れてたくせに」

 

下を向きながらぺちぺち攻撃してくるエレンに再び急所を突かれる。

 

(な、なんか変なこと言った!?)

だが、ここは無抵抗に受け続ける。

さて、エレンが不機嫌かと言うと、バレエツインズの一件でパンケーキの店に行く約束をしていて予定を会わせる云々言っていたのだが、直後意識を失った影響ですっかり忘れていたのだ。

 

「あっ、そうだこれあげるよ。忘れていたことのお詫びってことで!」

バックから棒キャンディーを取り出す、常に棒キャンディーを咥えているエレンのために買ってきたのだ。

「ふーん、物で買収ってことね。――まあ、許してあげる」

棒キャンディーを咥えるエレン、どうやら許しはいただいたらしい、早速パンケーキ屋に向かった。

 

 

パンケーキ屋につくと早速席に案内され腰を掛ける、もはや顔見知りくらいにはなってしまった店員がこちらに話しかけて来る。

「お久しぶりですね。――って、また違う女性を連れてきたんですか?罪な方ですね~」

「違いますから!あ・く・まで、お礼の一環で連れて来ただけですから!」

 

「そう言うことにしておきますよ、ご注文はいつもの特製パンケーキでよろしいでしょうか」

「――はい、お願いします。けれど、違いますから!!そうだ、エレンは?」

「あたしも同じもので」

誤解はうまく解けず、店員さんは笑みを浮かべながら去っていった。

 

「へぇ~他の女とも来てたんだ」

「待って、多大なる誤解が生まれてる――」

確かに、ニコとアンビー、直近ならリンも誘って来たり、バレエツインズの時の挽回と言うことでカリンも誘っていたりしているが誤解なのだと弁解の数々を唱えたが彼女の機嫌はなかなか戻らない。

 

「ねぇ、ナナシはよく女と遊ぶの?」

沈黙を破ったのはエレンのエレンらしくない問いかけだった。

 

「――黙秘「無理」わかった」

黙秘権はどうやら使えないらしい、エレンに促され直近の行いを振り返るが、確かに女性と遊ぶことも多いし、男連中と遊ぶことも多い。

 

「うーん、別に女性と一緒に遊ぶのが特別多いわけじゃないかな。それこそ、最近ならライカンさんとも一緒にお酒飲んでたしね」

「そっか――ならいいけど――いや、何でもない。そうだ、あたしは何番目なの?」

「ッ!?」

意図を察することができず思わず固まる、だが直後の誤解からある回答を導き出す。

 

「えっと――ニコ、アンビー、リン、カリンだから5人目かな」

「5人目ね、そういえばリナのご飯食べたんでしょどうだった?」

一瞬表情が暗くなる、だがすぐ話題を思い出したくない直近の物に変えて来る。

 

「死ぬかと思った」

「だろうね、あたしは食べられるけど普通の人はそうもいかないから」

逆にどうやって食べているのかと不思議に思ったが、一周回ってエレンの味覚が壊れてるんじゃないかと言う懸念が浮かぶしかしその考えは杞憂に終わる。

 

 

 

「お待たせしました。特製パンケーキでございます」

テーブルに並べられるパンケーキ。普段から、これしか頼まないのでたまには他の物を食べようと思ったりもするのだが結局この特製パンケーキのおいしさに引かれついついリピートしてしまうのだ。

早速、食べ始める。最近はお酒に合う料理ばかり食べていたからか純粋なスイーツの優しい甘さが体に波のように伝わっていくのを感じる。

 

エレンも口にあったのかいつもは細く大きくは開かれない目を開き、また一口、二口と口に運んでいる。

「どうしたの、そんな――じろじろ見て」

「――あぁ、ごめん。エレンがここのパンケーキを気に入ってくれたみたいでよかったな―って」

「ばっ――まあおいしいけど――」

一瞬赤面して、口元があわあわと緩む。

 

「そんなわかりやすい?」

「うん、でも悪いことじゃないと思うよ。それに、美味しく食べているエレンを見ているのは楽しいからねッ!!」

「バカ――」

思いっきり足を踏まれ声が上ずる、でもエレンが喜んでいる姿を見れて今日は来たかいがあったということだろう。よし、このまま無事ハッピーエンドと言うことで――

 

 

 

 

「それで、どんなことしたの?――他の女と」

「ひゅっ、え?」

口から空気が漏れ再び、話題が俺の身の上話になる、もしかして逃げられないようにパンケーキ来てから話題を出した?

いや、あくまで思い出話を語れと言われている状況のはずだしかし、まるでエレンの目力は尋問のそれだ。

ここでの発言によっては無事にビデオ屋に帰るのは難しいかもしれない。

(胆は正直にしゃべるかどうかだ――何で、エレンが不機嫌になっているかわからないから、どんな言葉が地雷を踏むかわからない)

 

「どうしたの、早く言いなよ」

(――さらに状況が悪化してる。普段の怠そうなエレンはどこに行った!?)

口が渇くのを感じる、水を一杯含むがその渇きは潤うことはない。

 

 

 

「べ、別に何かしたと言っても――普通に食べてるだけだけど――あっ」

過去を振り返っていく中で、アンビーからのあーんが想起する。

 

「何、“あっ”って」

「――あっと、その――“あーん”してもらいました」

まあ、足を踏まれたりアンビーの目が怖かったりしてなし崩し的にしてもらったのだが――うん、嬉しくなかったと言ったら嘘になる。

顔は下げたまま目線だけでエレンの表情を確認しようとする、地雷を踏んだか、踏んでないか。

 

「ふーん」

(踏んだぁぁぁぁ!!は、ハイライトが消えた!?)

目に光は灯らず、声からも生気を感じずまるで処刑人が犯罪者をこれから断罪するような構図になっていた。

どうやら、全体重で思いっきり地雷を踏んだらしい。

 

 

「そ、そうだ!!エレンって学生なんだよね、最近何かなかった?」

我ながら強引の上、かなりおかしなことを聞いているのはわかっているだが、こうでもしないと胃が破裂しかねない。

 

「――学校で?最近は何もないけど、よく部活の勧誘はされるかな」

「部活!なんだか、青春っぽいな!」

俺には存在しないものだが――きっと、アポロには――いや、確かアポロが戦い始めたのって15歳?それでは、青春のせの字もなかっただろう、だからこそクローンの俺に青春への憧れがあるのかもしれないが。

 

「青春って、ナナシにもそう言うことがあったんじゃないの?」

「――ウン、ソウカモネ」

一応、エレンたちには記憶喪失だということで通しているため仕方がないのだが、ここまで自分の急所にストレートが飛んでくるとこちらも動揺を隠せない。

 

 

「でも、演劇部からよく誘われるかな」

「へぇ、演劇部」

ビジュアルが良い彼女のことだ、演劇部に誘われるのも必然と言うことだろう、だけど俺にはどうにもエレンが演劇をしている情景を想像できなかった。

 

「今、向いていないって思ったでしょ」

「い、いや!――うん、嘘思ってる――でも、勘違いしないでほしい!エレンって本当にお姫様みたいに可愛いし、結構冷たいかと思ったけど優しいし、それにバレエツインズでも俺はたくさんエレンに助けてもらった――えっと―よ、要するに!!エレンはとても魅力的だと思う!!」

頭の中で言葉が固まる前に本心をぶちまけてしまったので、顔が段々熱くなるのを感じる、思わず顔を手で覆いその恥ずかしさを何とかしようとするが手の隙間からエレンが見えた。

不思議と、こちらを見てはおらずその代わり顔を背け、外の景色を眺めている。

 

「え、エレン?」

「あたしメイドなのに――見ないで――後、ありがと」

表情は伺い知れないが耳が赤く染まり、先ほどまで俺の胃を蝕んでいた圧迫感は消えた、どうやら気づかぬうちに地雷原を突破していたようだ。

一口パンケーキを運ぶ、そのほのかな甘さはまるで壁を越えた俺へのご褒美のように全身に祝福を運んでいた。

 

 

「はい――あーん」

「え?」

彼女のフォークから突き出される一口分のパンケーキ、切り分け方からエレンの性格がうかがえる。しかし、そんなことよりも俺はさっき地雷原を突破したはずではなかったのか、そう思い思わずあたりを見渡すとまるであたり一帯に地雷原が点在しているように見えた。

(っ――新たな地雷エリアに入ったか)

 

「他の女の“あーん”は喜んで受け入れるのに、あたしのは断るってこと?」

「い、いや――そう言うことじゃないけど――ええい、ままよ!」

もうどうにでもなれと言う心づもりでフォークにかぶりつく、確かにパンケーキはうまい、うまいけど――これが果たして正解なのか、それにエレンが妙に口元を見てきてなんだか怖い。

 

 

「あたしからの“あーん”は嬉しい?」

「え、う、うん」

頬杖を突きながら、今のエレンはまるで獲物を逃がさないように見張る鮫のようだった。

 

「何その返事、じゃあ他の女の時より良かった?」

 

(また、疑問形。つまり、これも選択肢をミスったら地雷が爆発する、どうする?ぶっちゃけあーんに差なんてないし、どっちも嬉しかったし。――い、いや思い出せ何かないかこれまで似たような出来事はなかったのか――思い出せ、思い出せ――)

 

『ニコと一緒に食べたものよりもおいしかった?』

意図がよくわからない質問だ。

『いや、あの時と変わらぬおいしい味だけど・・・?っと』

今度はアンビーからの足踏みを察知しよける。すると、ぷくーと頬を膨らませるアンビーがいた。

そして、“そのまま”彼女はパンケーキを完食した。

 

思い起こされたのは、かつてアンビーと闇映画の帰りニコと行ったパンケーキ屋での出来事だった。

 

(つまり、変わらないという返答は厳禁――ここは、エレンの方がよかったというのが最適解!!QED!完璧~ってことだ!)

 

「エレンの“あーん”の方が嬉しかったよ」

「嘘つき、返事をするのに30秒くらいかかってるのに、わざわざ気の利いた返事を考えたんでしょ」

(しまった!完璧~な理論は出たけどその代わり時間がかかりすぎた)

 

誤魔化すべきかと頭をよぎる。

「――うん、正直言って“あーん”に差はないかな」

 

 

「そうだけど――ごめん、あたしも感情的になってた」

確かに、パンケーキ屋に入ってからというもの常にドライかつ面倒臭がり屋の彼女にしてはガンガンこちらの急所を責めて来るので違和感は感じていた。

 

(俺は何をしているんだ、今日はエレンのためにこの店に来たんだ、なのに俺は空気を読めず苛立たせるばかり――そして、それを改善しようとしない俺が情けない!)

 

「俺は、今日エレンに楽しんでほしくてパンケーキ屋に誘った。情けない限りだけど、俺は君を不快にさせてると思う――だから、教えてほしい俺の何が君を不快にしてるのか!!」

頭の中でPDCAサイクルを回していたが、どうにも能力が足りなさすぎると痛感した。そのため、ナナシが取った手段とは頭を下げ紳士にご教授願うことだった。

 

「――あんたは別に悪くないよ。あたしが――その、めんどくさいだけだから」

「めんどくさい!?――じ、実は俺、結構強引に誘っちゃったりしてた?」

 

 

「違う――あたしが、めんどくさい女ってだけだから」

「めんどくさい女?それってどういう意味?」

めんどくさい女なんて単語は聞いたことがないが、とりあえず誘ったこと自体が相手を不快にさせたわけではないとほっと胸をなでおろす。

 

「気にしすぎてるってこと、ナナシは知らなくていいよ」

「うーんそっか、じゃあ忘れておく」

 

 

その後も、たわいのない話を続けながらパンケーキを完食し俺達は店を出た。

 

「いいの?パンケーキのおかわりまで奢ってもらって」

「もちろん、今日はエレンの為へお礼するために来たわけだし――でも、誘うのを忘れてた件をチャラにしてくれると嬉しいかな」

ちょうど15時のおやつの時間に店に入って、少し回って出てきたのは16時流石に解散には中途半端な時間にも思える。

普段の俺ならばどうしよう、どうしようと頭を抱えるのだがこんなこともあろうかと俺はニコから切札を受け取っていた。

 

(さてと『ピンチになったら開きなさい!』って言ってたな、さっきも十分ピンチな気がするがまあ、忘れてたし仕方がない)

懐から手紙を取り出し、開き中身を確認する。そこには一言

 

『気合で全力突破よ!!』

ぐしゃ、手紙を握りしめ懐にそっと戻す。やはり、ニコではなくアキラに知恵を授かればよかったと思いながら。

 

(どうしよう、どうしよう!)

頭を抱え始める。

 

 

行先も特に浮かばず歩いていると、エレンが会話を切り出してくる。

「ねぇ、ナナシ。今日はありがと」

「き、急だね――こちらこそ、俺も今日でいろんなエレンが知れて楽しかったよ」

 

バレエツインズの時はエレンの怠そうな雰囲気が良く目に写ったが今日だけで知らない面をたくさん知れた。人を知るというのはこんなにも楽しいんだと実感させてくれる一日だった。

 

「―ナナシはあたしに何かしてほしいことある?」

「え、どうしたの?」

唐突なエレンの発言、どうしたのと聞くがどうやら俺からのお返しをもらいすぎだと感じちょっと引け目のようなものがあるらしく、何か自分もできないかということらしい。

 

断るのも野暮と考えた俺はすぐさま返答した。

「実は、ずっと触ってみたかったんだ!!」

「え、ふーん。でも、ナナシなら――その、いいけど」

 

なぜか、顔を赤らめながらこちらに尻尾を向けるエレン。

 

数分後――。

そこには、呆れ顔のエレンと目を輝かせるナナシの姿があった。

「おー!カッコイイ!いや~エレンの武器ってハサミだろ?ずっと、どんな武器なのか、触ってみたかったんだ」

ナナシの手に握られているのはエレンの武器いわゆる大鋏なのだが一目見て、剣でも槍でもましてや薙刀でもない新しい武器に目を奪われていた。

触ってみたいと思ってはいたが、エレンの性格から難しいと思っていたのだが、こんなチャンスが転がっているとは。

 

「うわー、本当に鋏だけどちゃんと薙刀みたいに使えるんだな――なるほど、二つの持ち手の長さが違うからあんな動きができるのか~」

二つの持ち手を掴みカチャカチャ動かす。俺は正直、アポロが使っていたみたいな拳銃とか手榴弾とか閃光弾は使いたくない。

やっぱり、こういうユニークな武器を使ってみたいという思いは一定ある。

 

「ナナシが一番向いているのは徒手空拳でしょ、あたしの武器見てて楽しい?」

「うん!めっちゃ楽しい!!確かに、徒手空拳が一番向いてはいるんだけど――それとこれとは話が別!」

落ちかけた日の光にエレンの鋏を当てながら細かく観察する。

 

 

(この武器結構大型だな、結構身長がある俺が振るっても違和感がない――やっぱりシリオンって身体能力高いんだな~)

片手で一回振ってみる、空を切ったが反動はそれなりにある――まあ、カリンが振るってるチェーンソーほどではないだろうが。

観察していると、腕にざらっとした何かが触ったのを感じた。

 

「エレン?」

目線をやるとエレンの尻尾が俺の腕をつついていた。

「あ、あたしの意志じゃないから、勝手にヒレが動いただけだから!」

「そっか――あっ、ここから氷が出てるのか、俺も殴った瞬間に衝撃波とか出ればなあ」

 

現状、俺の攻撃手段は『真・熱血パンチ』と『正義の鉄拳G3』と『マジン・ザ・ハンド』後それらの派生技くらいだ、遠距離は相変わらずの正義の鉄拳頼み『ムゲン・ザ・ハンド』はまだあまり安定しないから実践レベルとは言えない。

 

 

すると、再び俺の腕をエレンの尻尾がつつきだす。

「どうしたの、エレン?」

「い、いや――勝手にやっただけ」

「そっか」

 

(なるほど、エレンの場合この大型の武器を扱う上で俊敏さも彼女は持ってるから通用するのか――俺の場合だと『熱血ジャンプ』くらいしかない――アポロも移動だとそれらしき必殺技はなかったし、当分の課題かなッ)

 

今度は、エレンのヒレが腕ではなく眼前まで迫ってきていたので回避する。

「エレン、本当にどうしたの?ヒレの制御ができていないのかい?」

「――バカ、おさわりはそこまでね」

唐突に終了が告げられ少し不満はあるも、仕方なくエレンに大鋏を返す。

 

 

 

それが、最後になり解散となるはずだった。

「ナナシ、ちょっとこっち向いて屈んで」

「うん?わかった」

 

ビデオ屋への帰路を辿ろうとした時エレンに呼び止められる、振り返った直後エレンと目と目が合う。

「何を――痛っ!」

エレンのギザ歯が俺の首元に刻まれる。

 

「――はっぁ、これで良し」

「よくないけど!?ちゃんと血も出てるからね!」

傷口を軽く触れてみたがエレンのギザ歯でサクッと行かれたからかしっかり歯形もついている。

 

 

「じゃあね、ナナシ」

「ええ!スルー?まあ、いいけど。さようならエレン」

改めて二人はこうして帰路についた。

 

 

 

ちなみにその後――

 

「ナナシ、その首元の傷どうしたの?」

「これね、エレンにガブリと行かれたんだ――ってな、何でそんなに顔近づけて来るの?」

ビデオ屋に帰った後、リンに傷について詰められる。

 

「そっか、じゃあナナシ。屈んで」

「え?い、いいけど――何するの?」

屈んでと言うワードで、エレンに噛まれたことが思い起こされるのだが、嫌な予感を感じつつ俺は屈んだ。

 

「カプッ!」

「リンもかい!?」

エレンと違い弱弱しい嚙みつきでエレンとは逆の位置に歯形を付ける。

(改めて流石サメのシリオンだな。噛みつく力じゃ圧倒的だな)

 

リンからの噛みつきの後だと余計にそう思う。

「その傷しっかり覚えておいてね」

「?覚えておくも何も、ついてるうちは忘れないと思うけど」

 

「――はあ、まあそう言う純粋な部分もナナシのいいところだと思うよ」

リンが何を言っているかはわからないがともかく、首の両側から感じる痛みをしばらくは忘れられなさそうだ。

 

 

 

「――はあ、やりすぎた」

首に嚙みついた瞬間、やりすぎたことが分かった。少し痕を付けてやろうと思いやったが予想以上に深く自分の牙はナナシを傷つけていた。

それと同時に、ナナシの血の匂いがまだ鼻の奥に残っている。

 

 

「どうして――」

なぜあんなことをしたのか自分でもよくわかっていない、ナナシを傷つけたいわけじゃなかった。でも、蔑ろにされたのは少しイラついたのは事実だ。

けれど、一番驚いているのは――

 

 

「あたし、喜んでた?」

ナナシに歯形をつけたのが初めてだというのはナナシの表情を見てわかった。

だから――。

 




あと一つ閑話を入れた後、次の章に入りたいと思います。
え?誰だって?次回を待つんだ!!

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