プロローグ
ヴィクトリア家政と共にバレエツインズでの事件を解決して数週間が経った。その間にも、継続的に郊外で活動する手立てを探しているのだが芳しくなかった。
「『パエトーン』にナナシ、我が友よ!しばらく見なかったが――調子はどうだ?」
店に現れたのは、我々に仕事を提供してくれる通称『羊飼い』という名を持つ、金髪に黒の帽子に目立つ紫のシャツを着た怪しい奴――まあ、仕事を斡旋してくれる仲介人兼情報屋みたいなものだ。
「おかげさまで、悪くはないけれど――君の持ってきた仕事次第ではもっと上向くかもしれないな」
俺達が求めているのは郊外についての情報や活動するための手立てだ――どうにも最近パールマンの情報を聞かなくなったのだ。
だが、羊飼いの表情から状況はあまり芳しくないように思える。
「――はあ、羊飼い。君の事情も俺達はなんとなく理解してる。あらかた、最近の市政選挙で町中がピリピリしているせいで郊外のトレーダーたちがこぞってビビッて物を売るのを辞めたとかそんなんだろう?」
最近は街中で取引なんて大胆なことをする奴は見ないし、そもそも俺が大根泥棒ができなくなった原因がこの市政選挙だ。
「おっ、わかってるじゃないか――ナナシの言う通りほとんどのトレーダーは危ない橋を渡れないってんで、辞めちまった。例えリスクを冒そうとって奴がいたとして―――この手のトレーダーじゃあんたらが欲しがってるものは扱ってないだろうな――」
「でも、あんたほどの人物が手ぶらで来るわけないよな?何かしらの情報をくれ」
「――はあ、あんたら俺の儲かる依頼は袖にするくせに、郊外の方にはつなげてほしい、だもんな――もちろんだ、ちゃんと情報を持ってきてやってるからよ」
羊飼いが提示した情報と言えるかはわかないが、郊外の走り屋連中と仲良くなる方法を探れというものだった。
「郊外の人間は、あちこち散らばって暮らしてるからな。物資の輸送をほとんど走り屋に頼ってるのさ。連中は住民たちに信頼されてるだけじゃなく、情報通でもあるってわけだ」
郊外は広大だ、そこから情報をちまちま集めるってのは現実的じゃない。確かに、多くの場所を行き来する走り屋?って言うのは情報源としてこれ以上ないだろう。
そして、羊飼いは去っていった。
「使える情報ではあったけど――パールマン探しが簡単になったわけでもないね」
「――うん、パエトーンは走り屋の知り合いとかいたりしないのか?」
「残念ながらね、郊外は完全に僕たちの守備範囲外なんだ」
パールマンの情報を掴むためには、走り屋から情報を収集する必要がある、その前に走り屋との伝手を作らないといけない。
でも、完全に希望が無いというわけじゃない、ここ数週間パールマンの情報はほとんど出てこなかった。流石に、郊外とはいえあいつも生きている人間だ、噂の一つや二つは出てもおかしくない。
もしかしたら、パールマンは同じ場所に留まっている可能性がある――と思う。
(まあ、いくら考えたところで郊外への伝手を見つけないとどうしようもないか)
一方、飛行船ハイジャック事件翌日、明け方。郊外の旧油田エリア某所――
「わかった――負けた!!認める!俺の負けだ!!」
「よ―しオッサン、それでいいったく――とっとと参ったすりゃあお互いに、もーちょい楽で来たのによ」
赤いタンクトップを来た男が少女の前で震えながら腰を抜かし倒れている。
「さて、他に挑戦したいやつぁいるか?」
彼女が、周りを見渡すが誰一人何も言わないそれもそのはず、ここら辺には先ほどの男のように敗北した奴らがぶっ倒れているからだ。
「ま、いねえか――」
唯一聞こえるのは、敗北者をなでるように鳴く風の音だけだった。
「『火打石』はオレ様のもんだ!オヤジ!オレらはツール・ド・インフェルノに出るぞ!これでもう、まだ早いなんて言わせねぇ!オレらカリュドーンの子は最強だぜ!この勢いのまま、覇者の座についてやる!鉄は熱いうちに『食えだ!』」
「熱いうちに『打て』ですわ、おバカ」
金髪の少女からツッコミが入る。
その時、仲間の一人から『すっごいの見つけっちゃったー!!』と報告を受ける。
「都市の連中の飛行船だ!こんな間近で見るのは初めてだぜ!」
岩山に飛行船が突き刺さり、動けなくなっていた。
「お~いシーザー。ここに生きてる奴がいるぜい」
とんでもない大事故だというのに、五体満足で転がっている白髪が目立つ男。
その面を見て――どうにも見覚えがあると思いだそうとした瞬間。
「確か、ヴィジョンコーポレーション事件の被告が確かこんなお顔だったような――」
端末を取り出し調べると、驚きの金額で治安局に指名手配されていることが分かった。
「懸賞金すっご!?向こう30年、ニトロフューエルを水みたいに飲めちゃうよ!?」
「ア、 アイアンタスクが5台は買えちゃうぜい――!治安局も太っ腹だぁ~」
まあ、それだけのことをしでかした犯罪者と言うことではあるが、それが目の前に転がってくるなんて中々ないことだ。
だが、その時男が意識を取り戻しシーザーの足にしがみつく。
「ち、治安局には突き出さんでくれ!頼む!私は真の黒幕を知っているんだ!私は、奴らの犯罪のしょ、証拠を――」
その言葉を最後にパールマンの意識は途切れた。
話は、ビデオ屋に戻る。
「――正直なところ、僕はそもそもパールマンが生きているかどうかを疑っている」
「まあ、死んでる可能性もあるよね――でも、結局は郊外への伝手は必要だしどうしよっか」
(こういう時に頼れるのは――ニコは、人脈の面からなら期待できるけどなあ――ニコだしなあ――ニコだもんなあ。でも、ニコはともかく人脈という点では邪兎屋が一番すぐれてるだろうし――けどなあ、何かでかい事件をさらに大きくして持ってきそうなんだよなあ)
ニコに連絡するのを渋っていると、メールにビリーからの連絡が入っていた。
「アキラ、リン。ビリーから、大事な話が在るって連絡が来てるんだけど、行ってきていいかな?」
「ああ、折角だからビリーに郊外についての情報が無いか聞きに行ってくれないかい?」
「わかった」
ビリーのメールに返信をして指定の場所に向かう。
(ていうか、いつもビデオ屋の裏に止めてるのにどうしたんだ?)
ビリーが指定した場所に行くといつもの邪兎屋の車ではなく大きなトラックが止めてあった。
「おう、ナナシ来てくれたか!」
「――ああ、来たけど――どうしたのこれ?」
ただのトラックではなく側面には『猪突猛進』と書かれておりニコの趣味が急に変わったでは済まされない違和感たっぷりな外装になっている。
然も、見たことがないデザインのボンプも並んでいる、どう見ても邪兎屋ではない。だからと言って、ビリーが邪兎屋を転職したり裏切ったりするとは思えない。
「よく聞いてくれたな!このトラックとボンプの持ち主は『カリュドーンの子』っていう郊外の走り屋さ――」
なぜ、ビリーが運んでいたのかというと、このトラック自体には何も問題はないのだが、最近市民じゃないやつはやたら出入りに長時間並ぶ羽目になっているようで、ビリーは古巣に義理立てと言うことで協力しているらしい。
「待って、郊外の走り屋!?ビリー知り合いなのか!?」
「ああ、実は長いこと郊外で暮らしててよ。都市の方に来たのは、偶然の通り合わせって奴だ――とはいえ、ナナシこの話はまた今度な、もっと大事な話があるんだ―――」
ビリーが持ってきた情報と言うのは、郊外の走り屋にしてビリーの古巣『カリュドーンの子』がパールマンの情報を持っていること、いわく相手のナンバーツーから聞いた確かな物らしい。
そして、カリュドーンの子は俺達がパールマンを探しているのを知ってる。独占情報と言うのを提供できるというのだが、その対価として『パエトーン』と、面を向かって協力の話し合いがしたい――。
「――って言うことなんだけど、いいかアキラ、リン?」
『そうだね、つまりその人達はプロキシを探しているということになるね。――こちらからしたら願ったり叶ったりだ、了承してくれナナシ』
電話をスピーカーモードにしてアキラと連絡を取る。
「――とのことです」
「わかった、この後俺はここ2、3日でボンプを強化してやったり、荷物を仕入れたりする。それが終わったら、街を出て落ち合う手はずになってる。その時に一緒に行こうぜ!」
そこで一度、ビリーと分かれ俺はビデオ屋に帰った。
ビデオ屋に戻ると二人はフェアリーの前にあるリビングに腰かけ俺を待っていた。
「まさに、渡りに船な状況だね――まさか羊飼いの話を聞いたすぐにビリーが郊外の走り屋との伝手を持ってきてくれるなんて」
「うん、そうなんだけどさ――今更聞いても後の祭りなんだがよかったのか?相手が要求しているのは面と向かっての協力と話し合いだ。つまり、正直荒っぽいイメージのある郊外にリンを行かせても」
「そこは私は心配してないかな。一応、ビリーもナナシもいるしそれに古巣?とか言ってたし、今でもお手伝いしてるならそれなりにいい関係のままなんじゃないかな」
まあ、自分の所属している組織には義理を通したり、裏切ったりはしないビリーと未だに仲が良好だというだけである程度信頼できそうな相手には思える。
「それよりも、僕が心配しているのは君だナナシ」
「え、俺?」
「ああ、バレエツインズの戦いから体は回復したとはいえあまり日にちは経っていないんだ――あまり無理はしないでくれ」
両手で肩をそれぞれつかみながら懇願するようにアキラが話す。思わず、吐いたつばを飲み込みながら俺はうなずいた。
それに、郊外で活動することはデメリットだけというわけじゃない。郊外は新エリー都の管轄外のため、プロキシの活動を制限する人はおらず、俺も特に周りを気にせず戦えるわけなのだ。
「それじゃあ、何日か準備してからビリーに声をかけて出発しよう」
「わかった」
数日後、郊外道路にて――
俺とリンはビリーの運転の下、郊外の道路をかっ飛ばしていた(安全運転で)
車の窓から外を見ると、広大な荒野が広がり、ぽつぽつとホロウが点在していた。
「うわあ~!ひっろ~い!」
「確かに、こんな広かったら走り屋は必須だな」
旧時代の映画では荒野でガンマンが戦うものがあったが、そこでは列車や馬が主な交通手段として活躍していた。
だが、ここには列車なんて便利な交通網もない、だからこその走り屋なのだろう。
「どうよ店長、ナナシ!郊外の景色も悪かねぇだろ?ここを車でぶっ飛ばすのは最高なんだぜ!」
「でもこの道――結構ホロウに近いね。周りにもホロウがぽつぽつあるし――」
原因は郊外のエーテル技術が乏しいことがあげられる、都市とは異なりエーテル資源の採掘もできず、ホロウの消滅も難しいようだ。
「でも、近いからと言って――まさか、この車がホロウに落ちるなんてありえないだろうし今はこのドライブを楽しもう!」
「なんだかフラグに聞こえた気がするが――店長、ナナシあそこのデカブツが見えるか?」
ビリーの指さした先には郊外の雰囲気にマッチしない機械が地下に向けて何か作業していた。
「あの機械は――ひょっとして、石油かなんかを汲み上げてるの?」
「おっ、流石だな!この辺りは『旧油田エリア』ってんだ。今でも古き良き化石燃料時代なんだぜ」
(化石燃料――)
リンと俺がよそ見したその瞬間ビリーが声を荒げる。
「あのトラック、どういうつもりだぁ!?」
眼前には、猛スピードで下ってくる逆走トラックが迫ってきていた。
(迎撃!――いや、中の運転手事殺しちゃう!)
「ビリー右!ホロウに入るの!」
リンが機転を利かせ指示する、ビリーはハンドルをそのまま右に切りガードレールを突き破り体が浮遊感に襲われる。
「――正直こうなると思ってた」
そのつぶやきを最後に俺達は車ごとホロウに落下した。
一方その頃、道路では――。
「ハァ――ハァ」
一仕事終えたように、息を切らしながら男が車の扉を開け降りて来る。
「おやおや、おやおやまあまあ――ホロウに飛び込むとはね」
そこにやってきたのは金髪に片目を隠した男と、狼のシリオン、そして赤髪色白の少年の3人が現れていた。
「骨砕け肉飛び散るような――景気のいいとこが見たかったんだけどなぁ」
「ル、ルシウス様、言うとおりにしました――こここ、これで勘弁してください!」
ルシウスと呼ばれた男はそっと、トラック運転手の肩に手を置く。
「カリュドーンの子をホロウに葬るか――結末としては61点ってとこだけど――君の頑張りに免じて、合格。この教訓をしっかり胸に刻んで今後は余計な事すんなよ」
手に持っていたライターに火をつけ青い手紙を燃やす。
「『覇者陣営のナンバーツーが都市エーテル企業とグル?』頼むからさぁ、こういう冗談をあちこち言いふらさないでよね」
「ねぇ、ルシウス――少し気になる事があるから行ってくるよ」
赤髪色白の少年が、ルシウスに進言する。
「どうしたんだい、グラン?普段から静かなお前が珍しいじゃないか――まあ、かまわないが」
グランと呼ばれた少年はトラックが落ちたホロウに目線を向けながら、笑みを浮かべる。
「俺の予想が正しければ――」
少年はホロウへ身を投げる――その手には短剣が握られていた。
何だか不穏な予感――
皆は閑話とか、IFの話とか読みたい?
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読みたーい!(特にヤンデレ)
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読みたーい!(ラブラブ!)
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読みたーい!(好感度測定器みたいなやつ)
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いや、読みたいのは本編だ!遅れてんぞ!
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作者さんの自由で!
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