商店街の福引で美少女スキンが当たった話 作:緑立
突撃型サイボーグの外観を一言で表現するならば、それは"鉄塊"である。
要塞線を突破するために与えられた重装甲と大火力、それを支える巨大かつ頑丈なフレーム。突撃型に採用された独立連動式サーボ・モータ駆動は、国防軍制式サイボーグの標準的構造であった人工筋肉式と比較して高コストかつ著しく柔軟性を欠いていたが、全備重量1300kgを超える巨体を215km/hで機動させる圧倒的高出力を彼らに与えていた。
彼らは正に人型の戦車と呼ぶに相応しい性能を有し、同型サイボーグによって編成された浸透突破大隊は、ベンガル、ロッキー、シベリアと言った主要な戦線で絶大な戦果を挙げたという。
それはさておき、ハンマー投げとは、ワイヤーに吊された鉄球を放り投げ、その飛距離を競うスコットランドの伝統的な競技に起源を持つスポーツである。
生身においては、7kgほどのハンマーを3~4回転のターンを行うことで加速させて投げ放つスタイルが一般的なレギュレーションであったが、体重1t、身長3mの突撃型サイボーグの縮尺では、7kgのハンマーは余りにも小さく軽い。最低限10倍の重量がなくては、ハンマーとバランスを取りつつターンを行う事すら叶わないだろう。
そして、バフォメット種ミュータントの体重は450kg程度である。生身の比率を拡大しただけでは今度は重量過大だが、そこはサーボ・モータのトルクで十分に補えるだろう。故にフルタは、今回のミッション遂行に当たってハンマー投げのスタイルを選んだのだ。
『シーン8! テイク6! ライト良し! カメラ良し! いざぁアクションッ!!!』
ゆっくりと肩を回し、呼吸を整えたフルタは、冷凍倉庫から引っ張り出されたバフォメット種の在庫、その脚を引っ掴む。頭上で二度三度と振り回して勢いを付けた後、今度は身体全体を素早くターンさせ、独楽の様に回転しつつ"ハンマー"に遠心力を蓄積させる。
肝心なのは"力任せ"に陥らないこと。各関節に埋め込まれたサーボ・モータの総合出力は絶大だが、単一のモータの出力には限界がある。全身に分散配置されたモータの作り出すエネルギーをフレームを通じて集約し、ある一点で一息に解き放つ。独立連動式の高出力は、肉体を完全に支配し制御する優れた理性があって初めて実現されるものなのだ。
鈍く、ワンテンポ遅れてターンに追随するハンマーを巻き上げるように引きつけ、加速させる。そして8度のターンを経てハンマーに十分なエネルギーが蓄積された瞬間、フルタは全身のサーボ・モータを一斉に駆動させてハンマーを後方へと"引っこ抜い"た。
「うぉおおおおおッ! バンザァアアアアアアアアアアーーーーーーーーーーイ!!!!!」
裂帛の叫びが響くと同時、円運動から解き放たれたその"砲撃"は、フルタの後背100mの位置にスタンバっているFS91ー682に向かって水平軌道をカッ飛んでいった。
対するFS91は、やかましいロックアラート共に飛来する血抜き済みの解凍生肉を迎撃するべく、抜刀の構えを取る。
アクセラレータに引き延ばされた時間の中、「さっさと射線外に逃げろ馬鹿」とばかりに数十択もの回避ルートを提案してくる戦闘演算を黙殺する。今回のオーダーは「なるたけド派手な感じでヨロシク」である。全ての労災ポイントは派手な画面の完成という至上命題の前に無視されるに至ったのだ。
そして訪れたインパクトの瞬間、眼前に迫る羊頭を、FS91は全技量を動員した神速の抜刀術を以て両断した。左右に別たれたバフォとメットはそれぞれ数十メートル吹っ飛び、横並びで落着するや轟音と土煙を上げる。
数秒の残心を終え、する必要もない血振るいを大仰に決めつつ納刀したFS91は、トドメとばかりに手近なカメラへ向かってNo.09"不敵な笑み"を叩き込んだ。
『………………はいカットォ!!!!! ユカリちゃん! バッチリ撮れてる!?』
『ええ、1カメから45カメまで32K映像で撮れてるわ監督さん。ウチの子たちは優秀なのよ』
『よぉし! 高速で迫り来るミュータントを一刀両断するサムライ・ガール!!! 社長のオーダー通りのド派手な映像の完成だ!!! うんうん、順調に進んでるねぇ! フルタ君、キューイチ君、こちらハセベ、今のでシーン8の撮影は終了! お疲れ様!!!』
……その日、連日に渡った多摩川河川敷でのジオフロント向け広報PVの撮影は、いよいよ佳境を迎えていたのだった。
「……戦中は近接格闘など、進退窮まったサイボーグの破れかぶれとしか認識していなかったが……こうも毎日キューイチの大立ち回りを見せられていると、むしろ積極的に活用するべき有効な戦術と誤認してしまいそうになるから困ったものだ」
「ジャンキー共に毒されてんぞイチモンジ。ブレードなんてもん見栄えするだけの棒振りだ。銃は剣よりも強し、リーチこそが正義、コイツが世の真理だぜ?」
右肩にアンテナユニットを生やした犬頭のボヤキに、狙撃砲を構えたロボット頭が応じた。
「しかしタチバナよ、お前だって一時期ブレードを振り回していただろう」
「復員の頃の話か? ありゃ弾代ケチってただけだ。誰が好き好んで使うかあんなもん」
「その誰かが目の前にいるから困っているのだろうが」
「……全くだぜ」
警護がてら、多摩水道橋から撮影風景を見下ろしていたタチバナとイチモンジは揃ってため息を落とした。
崩壊の直後ならまだしも、弾薬生産に最低限の目処が立っている現在では近接格闘への偏重に優位性はない。寧ろフレームへ多大な負荷を強い、その寿命をすり減らす愚行とすら言えるだろう。
故にこそ、友人には健康を第一に考えた常識的な装備へ換装して欲しいが、その見栄えの良さを利用した商売の片棒を担いでいる現状では全否定する訳にもいかなかった。八方塞がりである。
「……まあ、若気の至りってヤツだろ。満足するまでやらせてやろう。俺にもそういう時期あったし」
「下手に矯正しようと意思を歪めれば、溜め込んだ弾性エネルギーで余計におかしな方向へ突き抜けかねん。……しばらくは様子見に徹するべきか」
詰まるところ、現状維持。日和見主義的な結論に至ったところで、土手の上でメガホンを振り回していたハセベが全体無線を飛ばす。
『よーし! 良い感じの流れが来てるし、このままシーン11も撮っちゃおっか! イチモンジ君、工兵部隊と特殊建機は回せるかい?』
『スタンバイ自体はさせています。ですが、そろそろ昼時です。ここで一度休憩を挟んではどうでしょうか? キャストにも疲れが溜まっているでしょうし、工兵連中にも仕事の前に腹ごしらえをさせておきたいのです。それに、飛び散った羊の死体は早めに回収するべきかと存じます』
『あー確かにそうだねぇ……。特に羊肉の方はこの後関係者で美味しくいただく予定だし、夏場に野晒しで放置ってのもマズいかも』
うーんどうしよっか、唸るハセベの声が無線から響く。
『……くっ、申し訳ありません皆さん! わたくしがノーコンだったばかりに無用な時間と手間を掛けさせてしまいました……ッ! 何と言ってお詫び申し上げれば良いか……ッ!』
『フルタ、気にすることはありません。数百キロの生肉の塊を"良い感じに飛びかかって来てるっぽい軌道と角度と姿勢"で投擲しろ、というオーダーを一発でクリアできるようなサイボーグは、恐らくこの世に存在しません』
『そーそー、気にしないで。我ながら前代未聞の大雑把指令だったし、ホントはもっと時間掛かる予定のシーンだったんだよ? お詫びどころか、短時間でコツを掴んで見せたフルタ君を褒めるところさ』
『み、皆さん……ッ! わたくしのためにとんだお気遣いを……ッ!』
無線の向こうで平伏低頭する勢いのフルタに、ユカリが苦笑しつつ応じる。
『全くもう……。ほら、送った動画を見てみなさい。この死体が水切りしてるカットと、地平線の向こうまでぶっ飛ばしちゃったカット、それからこの遠心力かけすぎて爆散させちゃったカットなんて、編集の時に使い勝手が良さそうじゃないの。映像を生かすも殺すも監督の腕次第、無駄な映像なんてないのよ?』
『そ、そうなのですかユカリ殿!? NG映像にそんな使い道がっ!?』
『そーよ。後は特典映像に使うとかもあるわね。ま、全ては監督さんというか、ハセベのおじ様の腕次第だけど』
『はっはっはっ、……あの、ユカリちゃん? 地味に僕にプレッシャー掛けてきてない?』
結局その後、『確かにイチモンジ君の言うとおりだけど、時間も余ってるし、今の流れで撮れるシーンは撮っちゃいたいから、大道具なしでやれるワンカットだけ済ませちゃおう』というハセベの鶴の一声で短時間の撮影続行が決まった。撮影組は土手で集合し、絵コンテを見つつ読み合わせの作業と撮影の段取りを組み始める。
「……しかし、ハセベ殿は実に多芸でいらっしゃる。日頃の対空迎撃や軟目標殲滅はもちろん、今回の社長の無茶ぶりにおかれては、監督として撮影の陣頭指揮ばかりか、この台本や絵コンテまで独力で手がけられ、聞けば編集作業まで担当される予定だとか」
フルタは突撃型のゴツいマニュピレータで器用に絵コンテのページをめくると、感じ入った様子で呟いた。
「わたくしなど、バンザイ突撃と銃の扱い以外は殴る蹴るが関の山、世に"作品"を生み出す業の何と尊いことか」
「いいやぁ、僕なんて無駄に長生きしてるだけだよ」
死に損なっただけ、とも言うね。ハセベは丸めた絵コンテを額に押し当てた。
「テレビでバラエティやら広告やらを暢気に流してた時代を知ってるのが、社内で僕ぐらいだった。っていう話でね。戦争が始まってから公共の電波はプロパガンダ塗れになって、そのプロパガンダすら効率化だなんだでAIに丸ごと業務委託って有り様。そんな時代しか知らない子たちにさ、いきなり『自力でPV作れ~』だなんて言えっこないでしょ? 全く、社長の中枢型嫌いも困ったもんだよねぇ、僕も嫌いだけど」
苦笑の後に、言葉が続く。
「で、戦前に辛うじて卒業してた映像製作の専門学校を、入社の時に出した履歴書でうっかり最終学歴に書いちゃってた僕に白羽の矢が立った、って訳さ」
「映像製作の専門学校などというものがあったのですか! 戦前は国家が文化芸術に力を入れていたとは聞いておりましたが、よもやハセベ殿がそうした分野に携わっておられたとは……。このフルタ、感服いたしました!」
「ああいや……、ホントに褒められたような話じゃあなくってね? 都内のね、私立のね、アニメの学校だから。何か目標があって入学したとかじゃなくて単に勉強から逃避してただけだし、しかも僕は業界就職できなくって仕方なしに軍に入った口だから。……だからね? その、そんな目で見られる資格なんて……僕には……」
もはや消え入りそうな声であった。
「ま、まあ僕の経歴はともかく! 今回の企画じゃあキューイチ君の見た目を使ってSNSでバズろうっていう社長の魂胆が見え透いてたから、手段と目標が始めから明確になっててやりやすい仕事だったよ、うん。それで予算もたっぷり、製作進行はイチモンジ君に丸投げ、スタッフやキャストも自社完結だから面倒な根回しは不要で、しかもみんな優秀! いやーはっはっ! こんな楽しいことやりながらお金貰っちゃってホントにいいのかなぁ~!」
長きに亘る戦乱を生き残り、後に残ったのは崩壊した世界だけ。それでも生きてさえいれば、かつての夢に程近い場所に思いがけずたどり着くこともある。消え去る選択肢すら与えられなかった老兵は、しかし、殊の外余生を満喫していた。
「……へぇ、監督さんも色々あったのねぇ」
「人に歴史あり、ですね。興味深いです」
「アニメーションの学校も立派な学校だと思われますが……何か違うのでしょうか?」
聴衆が感嘆の籠もった言葉を落とす。
「……歴史、歴史かー。いやー、うん。振り返って見ると我ながらろくでもない歴史だなぁ。……なーんであの時親の言う通りちゃんとした大学に行かなかったんだろう? 公務員にでもなってれば大戦の後半ぐらいまでは最前線送りを回避できてた筈で、あんなことやこんなことも全部なかった訳で、もーホント我ながら行き当たりばったりが過ぎるよ……ああ、全部やり直したい……」
まあ最終的には全部纏めて滅びるから、やり直しても仕方ないんだけどね。と、ハセベは長い独白を酷い一言で総括した。
閑話休題となり、そろそろ撮影の段取りに戻ろうという現場の流れを引き止めるように、フルタが口を開いた。
「所でハセベ殿、お一つよろしいでしょうか?」
「うん? どうかしたかいフルタくん?」
「先ほどのお話で少々引っ掛かった部分がありまして、お聞きしたいのですが……その、てれび? の ばらえてぃ? とは、一体何なのでしょうか?」
「……え?」
「後、えすえぬえす? で、ばずる? とは一体どういう意味なのでしょうか?」
「……え、あ……え???」
「……ハセベ殿?」
瞬間、ハセベの脳裏を打ち抜く落雷の如き衝撃。
それはつまり、ジェネレーション・ギャップ。生きた時代の違いから生じる常識の差違。巧まずして仕掛けられた日常の中の地雷原であり、一つ踏み抜かれる度に消えない傷を刻みつけられる。主に年長者ばかりが。
「そ、そうか……! テレビもバラエティも……! なんだったらSNSやバズるという概念すら……既に死語ッ! この世界もろとも滅んだ概念だったのか……ッ! いや、もしかしたら世界よりもずっと前に……ッ!」
戦前の技術、文化の多くは30年にも渡る戦争の中で摩耗して失われ、テレビという単語もまた戦中には死語と化していた。その上で技術や文化の礎たる文明が九分九厘消し炭になった現代にあっては、こんな言葉を知っているのは老人ぐらいであろう。
ハセベは絵コンテを取り落とし、その場で失意体前屈を晒した。
「じ、自分が老人という自覚は、あったつもりだったんだけどねぇ……。それこそ、若い子は戦前の事なんて知らないって、分かってた筈なのに……。そうか、これが"気付き"か、ははっ、なかなか……効くじゃないか……」
「ハ、ハセベ殿! 大丈夫ですか!!! お気を確かに……っ!!!」
「……衛生兵の手配が必要でしょうか?」
「別にいらないわよキューイチ。……後はそうね、スマホなんかも若い子には通じないんじゃないかしら、監督さん?」
「嘘でしょユカリちゃん!? マジで!? スマホも通じないの!?!? ……はっはっ……ぐはっ」
「ハセベ殿ーーーーーッ!!!!!」
追撃まで喰らい、いよいよハセベは大地に崩れ落ちる。これが、幾度の戦場を乗り越え、生き残り続けた男の末路であった。
『……おいおい爺さん大丈夫かよ? いよいよ寿命か?』
その時、倒れ伏す老人の姿を見かねたスナイパーが無線を飛ばした。
『あ、ああタチバナ君……僕は、僕はもうダメだぁ……突撃型の、奇襲が、バイタルパートに……』
かつて各戦線にて無双の誉れを得た突撃型サイボーグだが、その運用のキモは浸透突破戦術にあった。
如何に頑強な装甲を持つ彼らであっても、無策で敵陣に飛び込めば蜂の巣にされて屍を晒す末路は避けられない。故に事前の偵察で敵陣の綻びを見つけ出し、仮になければ徹底的な集中砲撃で綻びを作り出し、闇夜に乗じた奇襲攻撃でもって敵の鬼門を穿つのである。
防衛線を突破した後には速力を生かして敵の抵抗を迂回し、敵司令部に直接攻撃を加える。そして、その命令系統を完膚なきまでに破壊することで敵戦力の大半を烏合の衆とならしめ、大規模な決戦を経ずに無力化させてしまうのである。
スペック任せの力押しではなく、戦場の機微を捉えて行われる電撃的かつ大胆な浸透突破戦術。それこそが突撃型サイボーグに数多の栄光をもたらしたのだ。
……意図せぬ浸透突破が精神の脆弱性を直撃し、内側から脳を破壊され倒れ伏す対空型サイボーグにスコープ越しの黙祷を送ったタチバナは、イチモンジに切り出した。
「おいイチモンジ、ありゃ助からんぞ」
「どうやらそうらしい。では製作進行管理者権限に基づいて、以降の指揮は俺が引き継ごう」
社内承行令に基づいて指揮権を継承したイチモンジは、即座に指示を飛ばす。
『ハセベ監督が再起不能に陥ったため、以降の作戦指揮は製作進行のイチモンジが引き継ぐ。只今より撮影を一時中断し、休憩とする。以降、各員には昼食の支度に従事してもらう。タチバナは野外炊具四号96改を指定地点に輸送、フルタはバフォメットを回収し同地点に集積してくれ。キューイチはハセベを安全な場所に安置した後、肉の解体を任せる。ユカリ、装備換装の上で偵察任務の引き継ぎを頼む、それが済み次第私も野菜の処理に入ろう。工兵部隊は20分後を目安に河川敷に集合、調理の支援を開始してくれ。それでは各員、行動を開始せよ』
斯くして、指揮官の突然の死にも関わらず、現場の混乱は最小限に抑えられたのであった。
「……嗚呼、なんということか、わたくしの所為でこんな……っ、……キューイチ殿、申し訳ありません。どうか、どうかハセベ殿の事を頼みます……っ!」
「はい、頼まれます。フルタは現在のタスクに集中を」
「……はい! わたくしにお任せあれ!!! 最短最速にて食材を回収してご覧にいれましょう!!!」
フルタは深々とした最敬礼から勢いよく頭を上げるや、地鳴りに等しい足音を響かせながらバフォメットの落着ポイントへと疾走していった。
バンザイだの何だのと喧しいその後ろ姿を見送ったFS91は、地に伏していたハセベを担ぎ上げ、近くの木陰へと輸送して安置した。今日のハセベは連装式対空機関砲を備えた外装拡張骨格を着用していなかったため、輸送自体は楽な作業であった。
完全に脱力したハセベの身体を地面に転がし、下顎を突き出させて気道を確保。そして手の甲を顔の下に差し込んで固定する。これで不慮の事態の心配もないだろう。一仕事を終えた所で、FS91はバフォメットの吊るし切りの準備が整うまで自分に仕事がないことを発見した。
「……」
タスクとタスクの隙間に生じた、何かをできるでもない僅かな時間。FS91はなんとなしに、目の前に倒れ伏す細身のサイボーグを見遣った。
……71式改。ハセベの戦歴からすれば当然だが、それは実に古い型式であった。
骨格の拡張は行われず、生身の体格をそのまま残しての強化手術。肉体へ大規模な改装を加えることにまだ幾らかの抵抗があった時代の設計で、置換よりも補強に重きを置いた構造である。
こうした形式は被改造者の精神安定や軽快な運動性能の確保、生身の装備やインフラをそのまま利用できる点では有利だが、タチバナの94式やフルタの96式など、大戦後期に登場した生身より遙かに巨大なサイボーグと比較した場合、火力面での拡張性が著しく乏しいとされている。
そのため、国防軍がなりふり構わぬ大火力に傾倒し始めた大戦中期以降、同形式のサイボーグは"軽サイボーグ"に再分類され、外装拡張骨格無しでは運用できない二線級の補助戦力として扱われるようになった……らしい。
いつだったかイチモンジに聞いた国防軍サイボーグ部隊の変遷の歴史を思い起こし、100式軽サイボーグは一人嘆息する。
「……テレビは既に死語、ですか。また一つ、勉強しました」
その呟きは誰の耳に届くこともなく、消えた。
〈monologue:やっと色々落ち着いて来たのでぼちぼち再開。前話の顛末は次回で〉