商店街の福引で美少女スキンが当たった話   作:緑立

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ドキドキ☆混浴大作戦!!!(男湯):上

世界の崩壊から帰国に至るまでに要した期間は、実に二年と半年であった。

 

ウラルの西から、人の手を離れたミュータント共が支配する極寒のユーラシア大陸をひたすら東へ。そして数多の戦場を横断し、這々の体でたどり着いた祖国は他国の例に漏れず滅亡していた。

 

しかしその地の文明が完全に死に絶えたという訳でもなく、その残骸に縋り付くようにして生きる人々の姿があった。耐汚染能力を持つ軍用サイボーグ達が築き上げたコロニー群、そして遅きに失しながらも核戦争を見据えて整備されていたジオ・フロント。

 

……物資の欠乏は深刻だったが、それ以上に人員の欠乏が深刻だったことは僥倖だった。自分たちのような敗残兵にも潜り込めるだけの余地が生まれたからだ。カンバラ傭兵派遣なる企業に拾われ、スクラップ漁りとミュータント狩り、そして野盗に身を落としたサイボーグを討伐することで生計を立てる日々。

 

数多の同胞の死によって生かされている現実を"僥倖"と思える自分の心に、タチバナは世界の滅びを実感していた。

 

「……ポーン、目的地周辺に到着しました。案内を終了します」

 

「終了するな。周辺じゃなくてキッチリ目的地の座標まで案内しろ。このクソみたいな密林の中から地下に抜ける入り口を探せだって? ふざけんじゃねぇよ」

 

「いやぁ、僕もできる限り頑張ったんだけどね、こればっかりは仕方ないんだ。そもそも秘匿された兵器研究所の正確な位置なんて記録に残ってる訳がないじゃん? だからこそ今まで誰も見つけられてないし、だからこそ僕らで儲けを総取りできるって話だったじゃん? つまりタチバナ、この面倒くさい捜索作業も必要経費ってことだよ」

 

「へいへい、そんじゃ精々費やした労力をペイできるだけの儲けを期待させてもらいましょうかねぇ。あーあ、これで戦中の欺瞞情報掴まされてるだけだったらお前をスクラップにしてその狙撃砲ユニットごとパーツ全部売っぱらってやる」

 

「うーん、こんなオンボロに買い手がつくかなぁ?」

 

……その日タチバナらが訪れたのは、霞ヶ浦水上都市の跡地であった。戦前から戦中にかけてアジア最高峰のアカデムゴロドクとして栄華を極めていた水上の摩天楼も、今ではその大半を核で消し飛ばされた挙句に農地制圧用ミュータントの大増殖によって完全に飲み込まれ、ジャングルと化していた。それでも、かつてこの地に生きた科学者たちの執念と狂気の遺産は、この密林と廃墟の地下に眠っている筈だった。

 

「グワーッ! 食人植物ッ! しかも生かしたまま触手をブッ刺してじっくり養分を吸い取るタイプの食人植物ーッ!」

 

「バッカ野郎お前何捕まってやがる! ……クソッ、動くんじゃねぇぞ! ブレードでツタ全部ぶった切ってやる!」

 

──途中いくつかのアクシデントに見舞われながらも、二人の探索は確実に進行していき、

 

「あー死ぬかと思った。助かったよタチバナ……どしたの、地面なんて見つめちゃって」

 

「……いや、入り口ここじゃねぇか? なんかゲート半開きになってっけど、コイツの根っこもここから伸びてるし。……獲物を求めて内側からこじ開けたってとこか? 外側から開けられたって雰囲気じゃねぇ」

 

「え? あー、すると今のが門番だったってこと? 流石は国立兵器研究所、観葉植物も洒落てるんだなぁ」

 

──封印された研究所の中へと脚を踏み入れる事に成功し、

 

「……なんか思ってたよりも地味だね。もっとこう……『人間と兵器をくっつけてみました!』みたいな冒涜的な代物が出てきたりするのかなーって思ってたんだけど、なんか普通の新型ミュータントの死体が転がってるだけだし」

 

「いや人間と兵器をくっつけた冒涜的な代物って俺らの事だろ。つーか首が三つある犬とか顔中眼球まみれの豚とかを"なんか普通"呼ばわりする感性が全く理解できねぇんだよ」

 

「ん? あれなんだろ!?」

 

「オイ待て! 急に走るなっていつも言ってんだろ!!!」

 

──やがて、施設最奥の部屋へとたどり着いた。

 

「ありゃあ……サイボーグか?」

 

コードと配管が這い回る薄暗い部屋の中央、液体に満たされたアクリルガラスのシリンダーの中に浮かぶシルエットは、確かに人型であった。

 

「ふむ、ミュータントの研究所のトップシークレットがサイボーグってかい? ……ミステリーの匂いがするねぇ」

 

「いよいよ人間を作る所まで行ったってか? おっかねぇなあ科学技術の進歩ってヤツは。ま、もうこれ以上進歩することはねぇから一安心だが」

 

それから二人はシリンダーの手前に設置された操作用と思しきインターフェースを確認した。通電されてはいないが、どうやら設備その物に異常はないらしい。

 

「とりあえずコレを起こしてみよっか、なんか生きてるぽいっし」

 

「オイ馬鹿やめろ! マジでやめろ!」

 

一悶着の末、予備電源を用いての覚醒処置は思いの外あっさりと成功した。液体が排出され、シリンダーの壁面は床に収納される。

 

……そこに居たのは、顔もない軽サイボーグだった。

 

タチバナはブレードを構え、仮想敵の一挙手一投足に最大限の注意を払った。この間合いならば銃よりもブレードの方が速い。不穏な動きを見せれば、即座に斬り殺す。大戦での経験は、慈悲と無防備の罪深さを彼に教えていた。

 

「やっおはよう、そして初めまして! 僕はミシマっていうんだ! そっちのデカくておっかないのはタチバナ、ああ見えて案外優しいヤツなんだよ、仲良くしてやってあげてね!」

 

「……おはよう、ございます」

 

途切れ途切れの音声、しかし音に濁りはない。口がない辺り、スピーカー発声だろうか。

 

「お、言葉は分かるんだ。君の名前を教えてくれないかい?」

 

「………………わかりません。わたしの、なまえ、を、わたしは、しりません」

 

「へぇ、それは難儀だねぇ……ん? それ、ドッグタグじゃない? ほら、首から下げてるヤツ」

 

ミシマは無警戒に正体不明のサイボーグの首元に手を伸ばすと、銀色の板切れをつまみ上げた。

 

「……FS91-682、ふーむ、識別番号だけか。これじゃあ君の名前は分からないねぇ」

 

どうしたもんかなぁ……、ミシマは呟きを落とした。

 

……今のところ、このサイボーグに危険性は見られない。この様子ならば警戒よりもコミュニケーションを優先してもいいだろう、タチバナは構えを解いた。それでも、武器を納めることはしなかったが。

 

「……キューイチ」

 

「ん? どしたのタチバナ?」

 

「そいつの仮の名前だ、分からねぇなら番号で呼ぶしかねぇだろ。それにまあ、発音もそれっぽいしな」

 

「ほーん、安直に過ぎる気がしないでもないけど……うん、いいねぇ! 気に入ったよ! それで行こう! ……さて正体不明のサイボーグくん、君の名前はキューイチだ! そこのデカくておっかないのが名付けてくれたんだぞー!」

 

「きゅー、いち?」

 

サイボーグは、首をかしげながらたった今から己の名前となった言葉を呟いた。

 

「そう、キューイチ! これからよろしくね! ほら、タチバナも!」

 

「……よろしくな、キューイチ」

 

……西暦2103年。その出会いは、終戦から三年後の出来事であった。

 

 

 

登戸コロニー上層のカフェテリアは、夜間にはバーとして経営される。フェンス際の席を抑えたタチバナは、喧噪を背後に月明かりに照らされる関東平野を見下ろしていた。

 

ここからの眺望も、かつては光に溢れていたのだろう。人々の作り出す文明の光、空の星々をかき消す地上の煌めき。そんな夜景は、人々ごと18年前に消え失せた。今では砂丘と荒野が延々と連なる砂漠だけがそこに残されていた。……いや、あるのは砂だけではない。闇夜の中に、気色の悪い影が蠢く気配が滲んでいる。タチバナは顔面を構成する21枚のパネルを有機的に連動させ、口を曲げ眉を寄せた。何だってバーってヤツはケチくさい量の酒しか出しやがらないのか。

 

「……つくづくアンニュイな表情が似合わない男だな、お前は」

 

「やかましいんだよ。俺が何を見て何を考えようが、俺の勝手だ」

 

狼頭の指揮官型サイボーグ、イチモンジは、タチバナの向かいの席に腰を下ろした。彼は呼び出したウェイターに一つ二つ注文を済ませると、椅子に深くもたれ掛かる。イチモンジの視線は砂漠ではなく、そのやや上方、夜空へと向けられていた。

 

「……人が作る余計な光が減ったお陰で、天の川がよく見えるようになった。昔の東京の空というのはそれは殺風景なものでな。見えてオリオン座、木星、金星、シリウス……首都圏に住む人間にとって"満天の星空"などというものは、プラネタリウムがドーム天井に投影する光点の群れとしてしか在り得なかった」

 

「俺の目は光学測距機能付きの高感度カメラだ。星空なんざ、いつどこから見上げても同じようなもんでしかねぇ。いつでもどこでも、余計なノイズまみれの映像だ。……つーか、星ぐらいお前だって戦地で散々見ただろう」

 

「まあそれもそうだが。要は物事は常に多面的ということだ。一つの面に囚われていると他の面を見落とすことになる。今のお前のようにな」

 

「見透かし屋を気取るな、小っ恥ずかしい」

 

「失礼、指揮官型の性でね。誰が何を考えているのか、それを片端から把握していないと気が済まなくなる。我ながら悪癖と言う他ない」

 

イチモンジは口角を吊り上げ、"犬歯"を剥き出しにして笑った。タチバナはテーブルに頬杖を付き、軽くため息を落とす。

 

「……んで話って何だ? 呼び出したくせに遅れてきやがって、待ってた時間の払いはテメェが持てよ?」

 

「そうだな、さっさと本題に入るとしよう。単刀直入に言えば、キューイチの件だ」

 

ウェイターの持ってきたタチバナには良く分からない名前のカクテルを、イチモンジは牙の並ぶ口で器用に飲み下す。

 

「ユカリが言うには、キューイチは随分訝しがっていたらしいぞ? 最近お前がやたらと自分を気に掛けていると。スマート弾頭を惜しみなく使った援護射撃、妙に高頻度で行われる予備パーツやらオイルやらの差し入れ。もしかしたら、自分は何かの過失を犯してタチバナからの信頼を損なってしまったのではないか、そんな事まで言っていたらしい。……思うところがあるのは分かるが、あまり露骨に態度を変えてやるな」

 

「……別に、態度を変えてなんかいねぇよ。そもそもアイツは高負荷の近接格闘ジャンキーだ。お前も知ってるだろ? ほっとくと何時か自壊するのは目に見えてる。誰かが面倒見てやらなきゃならねぇ、このままじゃぶっ壊れるって時に、ブレーキを踏んでやらなきゃならねぇ。今の俺がやってるのは、そういうことだ」

 

「それは友人としての気遣いのつもりか?」

 

「ああ、友人としての気遣いのつもりだ」

 

タチバナは、遠方の砂丘に目を向けたままそう答えた。

 

「言い訳するように喋る男だな、お前は」

 

「だから言い訳じゃねぇ。アイツは、キューイチは、昔っからただの友達だ。昔からそうだし、今もそうだし、これからもそうだ。……何も、変わらねぇ」

 

「……これは、アプローチを変える必要がありそうだな」

 

イチモンジは深々とため息をついた。そして二度三度と咳払いをして、プランBへと作戦を切り替える。

 

「さてタチバナよ」

 

「……なんだよ?」

 

「……タチバナよ。最近馴染みの風俗店で指名する女の子の趣向がブロンド短髪グラマラスから黒髪ロングスレンダーにガラッと変わって色々と怪しまれている男よ」

 

「なんでんなこと知ってやがんだテメェ!!!」

 

「お前の性生活など知らん。適当に鎌を掛けただけだ」

 

「んなっ、……クソが」

 

言葉に詰まり、タチバナは黙り込まざるを得なかった。グラスを一息に呷るその姿に、イチモンジは鼻を鳴らす。

 

「問うに落ちず、語るに落ちるとはこの事だな」

 

「あークソッ! ……自分でも気持ち悪ぃとは思ってんだよ、今までずっとダチとしてやってきた。それが皮が変わっただけでこれだ!」

 

肥大化したコンプレックスは、一度決壊すれば止めどなく口からあふれ出す。

 

「アイツに"顔"がどうだの"人間性"がどうだの酔っ払って説教かましたのは俺だが、結局人間ってのは中身だろう!? アイデンティティとか魂ってもんが皮に宿るのか!? 俺はキューイチの中身をよく知ってる! アイツが起きてから15年の付き合いだ! ……だが、だがそれが、こんなあっさり変わっていいもんなのか? 皮が変わっただけで、中身に向ける感情まで変わるもんなのか!? なぁイチモンジ!!!」

 

自分の内側に渦巻いていた感情が言葉になって吐き出される度、タチバナは惨めさの中にある種の心地よさを見出していた。問題が言語的に構造化され、無意識に他責に転嫁していた己の罪が白日の下に晒され、シンプルな結論にたどり着く。

 

「……俺は、ふざけた野郎だ」

 

出力された結論の前に、タチバナは項垂れた。それまでただ黙って聞いていたイチモンジが、改めて言葉を紡ぐ。

 

「……無理もない。サクライ・シリーズは、前線にある多くのサイボーグ兵士にとって救いだった。精神的な依存傾向が現れるのは必然だろう」

 

汚染された戦場に立ち、放射能に侵されたサイボーグに抱かれたがる女などいない。故にこそセクサロイドの開発と配備は急務となった。異様に潔癖な政府と世論を、あくまでもサイボーグ用スキンの開発という名目で誤魔化し、軍の支援を得たサクライ・ゲルが開発したセクサロイド用外装。その登場は、過酷な戦地にある兵士達の士気改善に大いに貢献した。

 

「お前もサクライの商品には世話になったのだろう? その系譜にある商品、しかも最高級品を友人が身に纏っているとなったら気が気でなくなるのは当然だ。今思えば、キューイチがあのスキンを着てきたその日にダメ出ししておくべきだったのかも知れんな。まあ、会社の登録プロフィールまで更新してしまった以上後の祭りだが」

 

「……慰めにもならねぇよ。そんな理屈を並べられた所で」

 

「別に慰めている訳ではない、この状況を打開するためのプランを提示するために背景情報を前もって説明しているだけのことだ」

 

「はぁ? なんだって? 背景情報?」

 

イチモンジは右手の人差し指を立てた。

 

「何はともあれ、どんなきっかけであっても一度抱いてしまった感情に嘘はつけまい。それが人間というものだ」

 

「犬面に人間どうこう言われてもな」

 

「犬ではない、ダイアウルフだ。そういうお前も人のことは言えまい、このロボット頭が」

 

「……ロボットじゃねぇ、メカニックヘッドだ。……で? そのプランってヤツをさっさと教えろよ」

 

イチモンジはタチバナへと向き直る。その視線には、ある種の呆れが滲んでいた。

 

「簡単な事だ。俺から言わせればなぜお前がこんな事にも気づかないのか不思議でならないのだが……つまり、感情恒常化アプリを使えばいい。人間性に問題があると言うのならば、科学の力でねじ伏せるまでだろう」

 

「……ああ、あったなそんなもん」

 

感情の恒常化。ありとあらゆる感情を殺し、凪いだ平常心を何時如何なる時でも取り戻すことが出来るお手軽人間性破壊装置。これがあればどんなクソッタレな任務でも最低限の士気を確保できること請合いだった。

 

「かつての戦争では散々使ってきただろう? あれを用いれば性欲など簡単に押しつぶせる。なにせPTSDすらねじ伏せて兵士を恐れ知らずの死兵に作り替えることが出来る代物なのだからな」

 

「……なるほど、なるほど! そうか! 恒常化アプリがありゃあ丸っと全部解決じゃねぇか! ……戦場で使うもんって思い込んでたせいで全く気づかなかったぜ!」

 

タチバナは膝を打った。感情恒常化アプリには色々と副作用はあるが、少なくとも当座の問題を解決するには充分に思えた。要は外見に惑わされる浮ついた心をねじ伏せてしまえばいいのだ。そうすればかつての関係性を取り戻すことができる。信じたくない、認めがたい自分の心理を上書きしてしまえる。

 

「するってーと? 扁桃体抑制とか大脳皮質制御用の薬品を準備しねぇといけねぇ訳か。……結構高ぇんだよなぁアレ」

 

「スマート弾頭をやたらとぶっ放すよりは余程マシな出費だろう」

 

「そうだな、違いねぇや」

 

へっへっへ、と。タチバナは久方ぶりに笑うことができた。そうやってすでに問題が解決した気でいるタチバナに、イチモンジが畳みかける。

 

「それでは、感情恒常化アプリがキューイチのスキンに纏わる一連の問題に対するソリューションたり得るか、一つテストを行うとしよう」

 

「テストだって?」

 

「アプリがあるから大丈夫だと高を括って、いざミッションに繰り出した時に問題が再発しては元も子もないだろう? 実戦の前に、お前には一つテストを受けてもらう」

 

「はぁ、そりゃまあなぁ。……それで? 具体的に俺に何をやらせる気なんだ?」

 

「何、そう難しいものではない。ごく日常的な行為に過ぎん。……ここに2枚のチケットがある」

 

イチモンジは財布から2枚組のチケットを引っ張り出し、タチバナに寄越した。チケットを見れば『知性の湯』とある。タチバナも利用したことのある近所の温泉施設の名前であった。

 

「……タチバナ、キューイチと二人で風呂に入ってこい」

 

「バッカ野郎お前何言ってやがる! 犯罪だろうが! あそこに混浴はねぇ!!!」

 

タチバナはイチモンジに食ってかかる。見つめ返すイチモンジの視線には、例によって呆れが滲んでいた。その濃度は先ほどよりも幾分か高くなっている。

 

「何を言っている、はこちらのセリフだ。キューイチの素体は男だ。男二人で風呂に入ることに何の問題がある」

 

「え? ああ、そ、そうか……何の問題も、ないのか」

 

「そうだ、何の問題もない。……さっきも言ったが、キューイチはお前からの信頼を損なったのではないかと不安がっていたらしい。この際だ、裸の付き合いを通じて関係を改めて育んでこい。このプランは、謂わば感情恒常化アプリのテストと人間関係の再構築を同時に行う一石二鳥のものということだ。分かったら"友人"を誘って風呂に入れ、いいな?」

 

「ああ分かった! 行ってくる! "友人"と、風呂に!!!」

 

タチバナは勢いよく立ち上がり、叫んだ。その全身には力が漲り、失われていた活力を取り戻した様子である。

 

「ではここに、オペレーション"ドキドキ☆混浴大作戦!!!(男湯)"の発動を宣言する。……キューイチの裸を見てもなんとも思わなければテストは成功だ。幸運を祈るぞ、タチバナ!」

 

「……お前、相変わらずネーミングセンスが終わってんな。ま、んなこたぁどうだっていい!!! こうしちゃ居られねぇ、さっさと薬を買ってくるぜ!!!」

 

言うなり、タチバナはフェンスを乗り越えて夜の闇へと飛び降りていってしまう。……どうやら、この場の払いは自分が持つしかないらしい。イチモンジはため息をついた。相変わらず情緒と行動が直結しすぎている男だ。扱いやすいのは結構だが、見ていて不安になる。

 

呼びつけたウェイターに領収書を切らせつつ、イチモンジは呟きを落とした。

 

「……さて、姑息療法がどれほどの効果を発揮するのか、見物だな」

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