四方世界の狩人【完結】   作:合間理保

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第6話

 見慣れぬ冒険者の三人組が現れたのは、朝の依頼処理が一段落した頃合いだった。

 

 森人に鉱人、蜥蜴人という世にも奇妙な取り合わせだ。彼らは身分証明に認識票を見せてくる。みな銀色だ。受付嬢は少し気を引き締めた。

 

 弓を背にした森人が前に出る。

 

「人を探してるのだけれど」

 

「人……? はい、行方不明人捜索のご依頼でしょうか?」

 

「ああ、いえ、違うわ。ここの冒険者よ。オルクボルグって名前」

 

 知らない名前だった。そんな冒険者いただろうかと困惑していたところで、背後の鉱人が森人をとがめる。こちらは道士然とした装いだ。

 

「おい耳長の、森人の呼び方はこっちじゃ伝わらんわい。かみきり丸って名前ならどうじゃ」

 

 やはり、知らない名前だった。いよいよ受付嬢も困り果てる。

 息をついたのは蜥蜴人だ。僧侶の礼を取り、二人に割って入った。

 

「二人が失礼を。そうですな、こちらの呼び方だと、小鬼殺しになるはずです」

 

「小鬼……ああ! ゴブリンスレイヤーさん!」

 

「ふむ、やはり合っていたようですな」

 

 蜥蜴人の表情はよく分からないが、探し人を当てられて得意そうだというのは、受付嬢にも感じ取れた。

 けれど、と彼女は眉を下げる。

 

「すみません。ゴブリンスレイヤーさんは今依頼に出ておりまして……」

 

「依頼? なんの?」

 

「そりゃあ、お前さん。ゴブリンだろう」

 

 小首をかしげた森人に、ひげを撫でる鉱人が小気味よく返す。

 うるさいわね、と彼女は肩を怒らせた。

 慣れた二人のやり取りに受付嬢は困った笑みを浮かべる。

 

 森人が受付嬢に向き直る。

 

「それじゃ、オルクボルグは後でいいわ。もう一人探しているのだけれど」

 

「はい」

 

「狩人って冒険者は居るかしら?」

 

 ああ、それなら、と受付嬢が建物の中を見回す。

 彼女はすぐに見つかった。

 テーブルで紅茶を飲んでいた。いつもの黒い革のコートは椅子に掛けていて、のんびりとした服装だ。三人を引き連れ、彼女のもとへ向かう。

 

「狩人さん。お客様のようですが」

 

「私に? ありがとう。ええと、初めまして、よね?」

 

 軽く手を掲げた狩人の姿を見て、三人は困惑げに顔を見合わせた。鉱人が髪を撫でつける。

 

「失礼じゃが、狩人は男と聞いておったが……」

 

「ぅん? ……ああ、古狩人の方ね」

 

 狩人が手を叩く。

 古? と森人が首をかしげた。受付嬢が答える。

 

「今まで狩人と呼ばれていた男の方がいらっしゃったんですが、幾ばくか前に、なんと言いますか……代替わり? をしまして……。今は彼女が狩人と呼ばれています」

 

「で、もとの狩人は隠居気取りで古狩人を名乗ってるの」

 

 狩人が肩をすくめた。

 代替わりと言うからには師弟かなにかなのだろうと三人は思ったが、それにしては彼女の古狩人に対する態度は気安かった。

 

「誰が隠居気取りだって?」

 

 そこに、男の声が投げられた。見れば、腕をまくったシャツに臙脂のベストの男だった。

 一見して荒くれ者の冒険者には見えない。

 目的の人物が出てきて、森人が胸を撫でおろす。

 

「ああ良かった、あなたが狩人ね」

 

()狩人だ。そちらは?」

 

 自己紹介がまだだったわね、と森人が手を打った。妖精弓手に鉱人道士、蜥蜴僧侶の順で簡単に名乗る。

 ずいぶんと遠距離主体の一党だなと狩人は思った。

 

 蜥蜴僧侶が受付嬢に向きなおる。

 

「拙僧ら、彼に話がありまして。部屋を貸していただけますかな?」

 

「ええ、分かりました。みなさんついてきてください」

 

 こちらです、とにこやかに受付嬢が手で指し示した。三人組は素直について行ったが、動かなかったのは古狩人だ。妖精弓手が声を荒げた。

 

「ちょっと! ついてきなさいよ!」

 

「お前たちが求めているのは『狩人』だろう。ならばそれは私ではない。彼女だ」

 

 古狩人が狩人の方へ視線を向ける。その言いように、当の狩人すらびっくりした。

 偏屈な態度を気に入ったのか、鉱人道士がくっくっと笑みを漏らす。

 妖精弓手は目を吊り上げた。

 

「私たちが用を預かったのは()()()よ!」

 

「私は()だが()()()()()()。彼女は()だが()()()。困ったな、当てはまる人物が居ないぞ。ならば今の狩人の彼女で良いだろうさ」

 

 妖精弓手が、きーっと肩を怒らせた。勢いのまま、狩人のほうを見る。

 

「あなた! 等級は!?」

 

「えっ、はい、銅ですけど」

 

「ほら見なさい! 私たちが聞いた狩人は銀等級よ!」

 

 どうだ、とばかりに古狩人を指差す。彼は大きく舌を打った。受付嬢を目を細めて見やる。

 

「彼女はあとは手続きさえ終わればすぐにでも銀になるという話だ。なあ?」

 

「……さて? そういったことは内々の話なので私のあずかり知るところではないですね」

 

 空とぼける受付嬢に、彼女からの援護が期待できないと知った古狩人は肩を落とす。あからさまに恨みがましい態度の彼を、受付嬢はまあまあとなだめた。

 

「お二人で話を聞けばいいじゃないですか。古狩人さんは助言者として同席してもらうのはいかがです?」

 

 古狩人はその言葉に、腕を組み、しぶしぶと答えた。

 

「助言者か……。ならば良いだろう。同席するが、あくまで主体は彼女だぞ」

 

 それでいいな、と古狩人は念を押す。

 偏屈だなあと三人は呆れ果てた。

 

 

 五人は応接室で向かいあって座った。

 

 狩人と古狩人は、なぜここに来たのか妖精弓手の説明を受けた。

 つまり、魔神王の復活、それに伴うデーモンらの活性化、種族間連合、そして選ばれた冒険者たちの話だ。

 

 意気揚々と語る妖精弓手に、古狩人は呆れたため息をついた。

 

「要は正規軍の露払いだろう。冒険者が泥にまみれて道を整え、連合軍様がその道を歩くわけだ」

 

「んなっ!?」

 

「しかも、使い走りの冒険者まで天秤が釣り合うようにする念の入れようか。ずいぶんなことだ」

 

 これ見よがしに長く息を吐く古狩人に、隣に座る狩人も困った笑みを浮かべるしかできなかった。

 

 妖精弓手が気勢よく立ち上がる。

 

「露払いじゃなくて冒険よ! ぼ、う、け、ん! 未知の土地! 未知の敵! 未知の出会い! 道なき道を切り開く旅路こそ、私たち冒険者の本懐でしょ!」

 

「なればこそ、やはりお前たちが求めるのは彼女のほうがいい。こいつはこれからの冒険者だ。そういう冒険にふさわしいのは私より彼女だよ」

 

 古狩人の態度は一貫して変わらない。狩人はアゴに人さし指を当てて思ったことをそのまま口に出す。

 

「ええと、でも話によると、狩人以外にもゴブリンスレイヤーさんも一党に加わるよう言われているのよね。彼が加われば種族間のバランスは保てるんじゃあ……」

 

 この一党は各種族一人ずつだ。その中に只人二人はバランスが崩れるのではないかと、狩人は疑問に思った。

 

 鉱人道士がひげを撫でる。

 

「ふむ、狩人の参加は只人の王の強い意志が働いていたと聞いておるが」

 

「あれは命令を聞かせて、私をあれより下だと認識させたいんだろうさ」

 

 古狩人の投げ捨てるようなもの言いに、四人は一瞬その意味を受け取りそこねた。一拍遅れで意味が分かり、さすがに全員がぎょっとする。

 妖精弓手が指差す。

 

「あれ呼ばわりって、あんた何者なわけ!?」

 

「古狩人だ。それ以上でもそれ以下でもない」

 

 彼は面倒くさそうにしっしっと手を振る。

 

「とにかく。人手が必要なら狩人たる彼女を連れていけ。こいつは信頼に足る冒険者だ。もし仮に、こいつで手が足らないようなら私も手を貸そう。助言者としてな。それで十分メンツは保てる」

 

 話は終わりだと、彼は部屋を立ち去った。

 

 残された四人は顔を見合わせる。蜥蜴僧侶が狩人に水を向けた。

 

「それで、狩人殿はどうされますかな? 本来ならば古狩人殿への話です。無理に連れていくのも拙僧としてはどうかと思いますゆえ」

 

 ええと、と狩人は宙を見た。どうしたものか。

 古狩人はきっと私の意志に委ねているのだろう。

 世界の危機、冒険、人々の平和。

 どうしたいのか。どうするべきか。ふむ。

 

「この街の近辺でいいなら、私も一党に加わるわ。国をまたいで西へ東へとはいかないけれど、手の届く範囲で私も助けになりたい」

 

 感謝する、と三人がうなずいた。

 

「で、人を集めているってことは何か目的があるんでしょう? この街の近くに解決すべき問題が」

 

 狩人の問いに三人が顔を見合わせる。妖精弓手がソファの背もたれに体を投げ出すように預けた。

 

「ゴブリンよ」

 

 ゴブリンかぁ、と狩人は頬をかいた。

 

 

 ◆◆◆

 

 

 その後、例の三人はゴブリンスレイヤーとも話を付けてきたらしい。ギルドの一角で六人で情報の共有と出立前の顔合わせをした。

 使い込まれた鎧の男に狩人が声を掛ける。

 

「あなたがゴブリンスレイヤーね。私は狩人。よろしく」

 

「ああ」

 

「で、そっちは?」

 

 短い返事に気を悪くした様子もなく、狩人は女神官に水を向けた。女神官がぺこりと頭を下げ、名乗ってあいさつする。

 

「よろしくお願いします。狩人さん」

 

「よろしくね。しかしだいぶ大所帯になっちゃったけど大丈夫なの?」

 

 もとは異種族混成の三人の一党が、いまや只人三人とその他三人といった趣だ。鉱人道士が片目をつぶって答えた。

 

「まあ、ええじゃろ。正式な命を受けた人員じゃなくとも現地協力者は多いに越したことはないからの。ギルドのはともかく、同盟の紙の上では元から予定されていた一党じゃ」

 

 女神官はそういう扱いにするらしい。かわいそうに。彼女も事前に聞かされていたようで、困ったような笑みを浮かべるだけだった。狩人は肩をすくめた。

 

「ちゃんと報酬分配して昇格の実績にしてあげてよね」

 

「それはもちろん」

 

 断言する蜥蜴僧侶に、なら私から言うことはないわ、と狩人は息を吐いた。

 

「狩人、優秀な冒険者だと聞いている」

 

 と、そこに呟きが入ってきた。ゴブリンスレイヤーだった。その言葉に女神官が首をかしげる。

 

「聞いている、って会ったこともないみたいな……」

 

「ない」

 

「実際、ギルドですれ違うくらいよねえ」

 

 狩人がやれやれとばかりに首を振る。

 

「ま、私もあなたのことは聞く程度にしか知らないけれど。……古狩人が話していたわ。いい狩人になるだろうって」

 

「獣狩りに興味はない。俺が狩るのはゴブリンだ」

 

 はいはい、と狩人は軽く両手を掲げた。それで、と妖精弓手の方を向く。

 

「これから向かうのはどういう話なの」

 

 妖精弓手が地図を広げる。

 

「森人の領域の近くに遺跡がある。で、そこにゴブリンが住み着いたって話よ。領域の狭間近くにあるものだから、どちらも軍を動かせない。余計な誤解が生まれかねないからね」

 

「しかもゴブリン程度に、じゃ」

 

 鉱人道士が付け加える。さもありなんと狩人とゴブリンスレイヤーはうなずいた。

 

「そこで私たち冒険者の出番ってわけ。軋轢を生まない混成部隊でゴブリンを倒すのが目的」

 

 ゴブリンスレイヤーが地図の遺跡を指で叩いた。

 

「数は」

 

「大規模としか」

 

「遺跡の内部構造は」

 

「不明じゃ」

 

 問いにそれぞれ蜥蜴僧侶と鉱人道士が答える。

 むう、とゴブリンスレイヤーがうなった。狩人も眉をひそめる。

 

「現地で柔軟かつ大胆にってことね」

 

「やるしかない。ゴブリンは皆殺しだ」

 

 準備を整え次第行こう。とゴブリンスレイヤーがドアに向かった。

 とてとてとゴブリンスレイヤーについて行く女神官を見て、狩人はわずかに顔の筋肉がゆるんだ。

 

 狩人の狩りとは本来一人のものだ。そう教わったし、実際一人で動くことが多かった。 

 この一党で、自分はうまくできるだろうか。胸に起こるのはわずかな不安とそれ以上の期待だ。

 きっと、これから何かが起こる。そんな予感がしていた。

 

 

 六人は遺跡に向けて出立した。




書きだめがもう無いのと本編時間軸を書くにあたりアニメ見返しながらの制作になるからちょっとペースが遅くなります

嘘です
夜を渡りに行くからです

これからも応援よろしくお願いします
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