79本の巨大なマングローブの木で構成された島、シャボンディ諸島。
2年間のタダ働きにて、シャッキーへの借金を返済しきった俺はとうとうこの島を出て新たなる冒険の旅へと出掛ける決意をした。
成り行きから仲良くなった女の子、エスネに別れの挨拶を告げる為、41番
「? なんか静かだな……」
いつも賑やかで活気に満ちている41番
不思議に思いながら歩みを進めていくと、俺はそこで、この静けさの意味を理解した。
「て、天竜人……!」
そこにいたのは、忘れようにも忘れられない、ち○ぽみたいな髪の毛をした権力者、天竜人。
マリージョアで見た、奴隷へのあまりにもあんまりな仕打ちは2年経った今でも記憶に新しい。
このシャボンディ諸島に、たま〜に降りてくるのだ。天竜人。
「……おおぅ……やべぇな、ビビってるわ俺……」
途端に冷や汗がだらだらと垂れてくる。
“強さ”だけ見るなら、シャッキーやレイさんの方がよっぽど恐ろしいはずなのに、天竜人には俺を心から震えあがらせる“恐怖”がある。
人を人と思わない、あのサイコパスな振る舞いが、俺はどうにも苦手なのだ。
現に今も天竜人は、四つん這いになったボロボロ奴隷の背に乗り、頭を蹴っ飛ばしながらジュースを飲んでいる。
何で同じ人間にあんな真似が出来るんだ……
天竜人には理解を越えた恐ろしさがある。
「と、とりあえず見つからないように隠れてよ……」
触らぬ神に祟りなし。厄介事に巻き込まれない為には、かかわらない事が一番である。
周りの人達もそれを理解しているようで、誰も彼もが天竜人に道を譲り、端へと避け、頭を垂れて蹲っている。
うんうん。賢い選択だとおも──
パァンッ!!
「!!?」
突然の銃声。
何だと思い覗いてみると、天竜人が一般人に向けて銃で発砲していた。
…………は? なんで? 何で撃った!? 今……
「お前の着ている服、僕たんの嫌いなデザインだえ。腹立たしい」
……………………はい?
服のデザインが嫌い? ま、まさかそれだけの理由で今、撃ったのか……?
撃たれた男を見てみると、肩からだくだくと血を流している。「うぅ……うぅ……」と呻いている。痛そう……
周りの人達は声を押し殺しながらガタガタ震えている。正直俺も震えている。
マジで天竜人って嫌だ。常識が通じないっていうか、人としての何かが欠けているというか……
「…………」ガタガタ
(あ、エスネだ……)
震える人達の中から、エスネの姿を見つけた。
今ちょうど天竜人の目の前だ……
(そ、そのままジッとしてろよ……エスネ。めちゃくちゃ怖いだろうが、今は動くんじゃない。我慢だ。触らぬ神に祟りなしだぞ……そう、ジッとしてるんだ……いいぞ……)
天竜人がエスネの横を通り過ぎていく……
と思われた、その時だった──
「んんぅん?」
天竜人が、エスネの方へと、顔を向けた。
「ん〜……」
「………」
「お前、なかなかぷりちーな顔してるえ」
「…………え」
「よぅし! 僕たんの21番目の妻にしてやるえ!」
触らぬ神に祟りなし……
だけど、神の方から近付いてきた場合、人間は一体どうすればいいのだろう……
「お、お待ちください! 娘はまだ12歳になったばかりでして……!」
「はぁ? 下々の分際で僕たんの前で立ち上がるな!」
エスネのすぐ近くで頭を下げていた男性……エスネの父親が、天竜人から娘を守ろうと立ち上がった、その瞬間──
パァンッ!!
──彼は頭を、撃ち抜かれた。……即死だった。
「え、お……お父さ……ん……?」
「きゃあああ!! アナタぁああ!!」
「……うるさいえ」
パァンッ!!
撃たれたエスネの父親……その亡骸に縋りついた女性……エスネの母親も、続いで銃で撃ち抜かれた。
「…………ァ゛あッ!!? あ、あああああ……!!」
「!? おかあさ……」
エスネの母が撃たれたのは足。当然その一発で死に至る事はなく、激痛からか彼女は足を抑えてのたうち回っている。
「うるさいと言っておろうえ」
その姿が気に食わなかったのか、天竜人は続け様にエスネの母に銃を向けた。
パァンッ! パァンッ! パァンッ! パァンッ!
「……ッ!! !! …………ッ …………」
手、腹、胸、頭と撃ち抜かれ、エスネの母は動かなくなった。
エスネの目の前に、両親の死体が、無残な形で横並びになった。
………………なんだこれは?
俺は今何を見させられている? 夢か? 悪夢か? 幻か? 現実味が……なさすぎる……
「ああああああああああああッ!!!! おがぁざああんん!! おが……おどうざ……! うあ……あ……
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ああああああ゛あ゛あ゛あ゛…………ッ!!!!」
今まで聞いたことのない絶叫がエスネの口から発せられる。
俺は耳を塞いだ。ただただこの状況が恐ろしい。やめてくれ……やめてくれ……
「うるさいと言っとろうえ! お前も撃ち殺されたいか!?」
「…………!! うぁ……あ、ぐ……!! ………………ひっぐ……」
「そう。それでいいんだえ。さ、マリージョアに帰ったら、たっぷりと気持ちいい事しような〜、むっふっふ〜♡」
奴隷の上から降りた天竜人が、エスネの前へとやって来る。そしてガシッとエスネの腕を掴んだ。
「さあ〜、僕たんのところに来るんだえ〜」
「……ァ……! やっ! やめて! 嫌! 嫌ァ!! 誰か……誰か助けてェ……!! うぁ゛あ゛ぁ゛あ……!」
「こら! 抵抗するなえ!」
やめろ……よ……
誰か、誰か天竜人を止めろよ……
エスネを助けてくれ……お願いだ……
周りを見る。誰も彼もが目を伏せ、ジッと息を殺していた。
触らぬ神に祟りなし。それが正しい生き方……それは、分かるけどよぉ……!
「やだ! やだぁぁぁ……」
「抵抗するなと言っている! 僕たんを……誰だと思っている!」
バキッ!
泣き叫ぶエスネの顔面を、天竜人が殴った……
ボタボタとエスネの顔から鼻血が溢れる。エスネの涙は止まらない。その瞬間……
俺の中で……
何かがキレた──
「ウオオオオオオオーーッ」
「え……?」
「ラァ゛ァアーーーーッ!!!!」
「!!!」
ボッッゴォオオンッ!!!
気が付くと俺は、天竜人の顔面に、思いっきり拳を振り抜いていた。
奴の頭部を守るヘルメットのようなシャボンを叩き割りながら、向こう側に建ってる建造物にめり込むくらいの爆裂パンチ。
周りにいる人達は目を飛び出させながら驚いていた。
「エスネ! 大丈夫か!? 大丈夫じゃないよな……! すまん!」
「お゛にぃ……ざん……!! ……お、おどうざんが、おがぁざんが……! あ、うぅ、うぁあ゛……!!」
「分かってる! ごめん……な……とりあえずここから逃げるぞ!」
泣き崩れるエスネをなんとかして立たせようと奮闘していると、ヂャキッと何本もの銃がこちらを向いた。
「貴様、小人か? ……虫けら風情が、ボミオール聖に手を上げるとは、死を以って償え」
天竜人のボディガード……全部で四人いる。
しかし、俺の最初の一撃すら見切れなかったお前らに、俺のこの動きを回避する術は無い!
「加速!!」
「なっ!? 消え……うおっ!? 銃が消えた!?」
「俺の銃も!」
「俺のも!」
「私のも!」
これぞトンタッタ直伝のひったくり術。
穿いてるパンツすら一瞬で剥ぎ取る俺の腕にかかれば、目の前に構えられた銃なんて撃たれる前に楽勝でひったくれる。
「!! 荷物がいきなり消えた! あれは、巷で話題になってる『不可視の怪盗』……!」
「ええ!? あの小人が『不可視の怪盗』の正体だったの!?」
「天竜人が殴り飛ばされたのも含め、こりゃ大ニュースだ! クワハハハ!」
……なんかギャラリーがうるさいが、放っておこう。今はとりあえず目の前のこいつらだ。
「我流・トンタッタコンバット……あごしっぽ!!」
「「「「!!!」」」」
ボディガード達の顎に、しっぽの一撃を叩き込み、全員をノックアウトしてやる。
いや待て、ボディガード四人だけじゃないな。まだなんか出てきた。めっちゃ出てきた。
「ぬおおお! よ、よくも僕たんを殴ったな……! 捕まえてやる……捕まえて奴隷にして、ゴキブリとまぐわせながら殺してやる……!」
壁にめり込ませた天竜人もいつの間にか救助されている。結構本気で殴ったのに、気絶もしなかったのか……
案外タフ…………いや、今なんか恐ろしい事言わなかったかこいつ!? ぜってー捕まる訳にはいかねぇ!!
「エスネ! 泣く時間は後でいくらでも作ってやる! だから今だけは堪えてくれ! こっから逃げ出せなかったら死ぬより恐ろしい目に遭わされるぞ! 主に俺が!」
「……は……いっ!」
「良い子だ!」
ボディガードだけじゃねぇ、いつの間にやら海軍達も集まってきてる。
俺だけなら隙間を縫って逃げられそうだが、エスネには無理だ。なんとかしないと。
「小人! 無駄な抵抗はやめろ! おとなしく捕まれ!」
「誰が捕まるか! 我流・トンタッタコンバット……しっぽクラッシュ!!」
「!!?」
勢いよく尻尾を地面へと叩き付けて大地を粉砕する。バキバキバキィと瓦礫やら土煙やらシャボンが宙を舞う。
とりあえずの目くらまし。チャンスは一瞬。
「今だエスネ! ウサギになれ!」
「え?」
「早く!!」
「は、はい!」
シュルルル……とエスネの体が縮んでいき、20cm弱のウサギの姿となる。
そんな彼女を背に抱え、土煙にまみれながら、猛ダッシュで戦線を離脱した。
「はぁはぁはぁ! 脱出成功! こっち……は、海軍でいっぱいだな。ならばこっち……も海軍だらけだ……!」
人の間や細かい隙間、誰にも見つからないようにジグザグジグザグ動いて、なんとかシャッキーの店まで避難しようと考えているんだけど……
海兵が多すぎてエスネを抱えたままではちょっと無理そうだ。集まるの早すぎだろ海軍……
俺はエスネを背中から下ろした。
「エスネ、よく聞け。13番
「え? お、お兄さんは……?」
「俺はちょっと、海兵と遊んでから行く」
「お、おとりになるって事!? そんなのダメですよ! 絶対ダメ! 一緒に行きましょ! お願い、お願いですから……! 一緒にいて……! 一人にしないで……」
ぽろぽろ泣きながら俺にすがり付いてくるエスネ。
両親が殺され、今のエスネには俺しかいない……
こうなるのも無理はないか……だけど一緒にいたらそれこそ共倒れだ。
「俺とお前! 二人が生きる為だ! 怖いかもしれないが行ってくれ。お前がウサギになる瞬間は誰にも見られていないから、ウサギのまま走っていったら必ず逃げ切れる! 俺もすぐに後を追うから安心しろ! ご両親の為にも、生き残るんだ!」
「…………!! は、はい゛……!」
「本当に良い子だ!」
エスネのほっぺたをこしょこしょ撫でて、俺はニッコリ微笑んだ。
そして海軍達がいる方向へと向き直る。
「13番
「はいっ!」
ウサギになったエスネが茂みから飛び出し、13番
一部の海兵達がそれを見て、ん? と反応するが、そっちには向かせない。お前らの相手は俺だよ!
「おらぁあ!! 我流・トンタッタコンバット・しっぽバルカン!!」
ダダダダダッと海兵達をなぎ倒し、俺はエスネとは反対方向へと駆けていく。
「ふへへへへ〜!! バーカ! バーカ! お前らがどんなに束になろうとも! ライン様には敵わないって事を教えてやるぜぇ! おらおらおらおらーー!!」
ぼったくりBARで2年間鍛え上げた尻尾の味、存分に喰らわせてやるよ!
「おらぁあ!! しっぽハンマー!!」
「ぐぁああああーー!!」
プルルル……
プルルル……ガチャ……
「ん〜? 天竜人が小人に殴られたァ〜……? オー……そりゃぁ……マズいねェー……分かりました、わっしが出ましょう……ご安心なすって……」
10話目です! わーい!
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次話、VS大将。