私が“お兄さん”と出会ったのは、私が悪魔の実を食べてしまった、翌日の事だった。
ウサウサの実を食べ、ウサギ人間となってしまった私は、能力の制御を覚えようと41番
「あっ!? ウサ耳を消すつもりが、ウサギになっちゃった……」
気を抜くとウサギになったり人間に戻ったり半分だけウサギっぽくなったり……
ウサギの姿に変身すると、人間だった時の姿から一気に目線が下がったりしてちょっぴり混乱。四足歩行にもなるし、難しいなぁ。
着ていた服は体に合わせて縮んでくれるみたい。うん……こんな所で裸にならなくてすんで良かった……
そんな感じでウサウサの能力について調べていると……
「よ〜しよしよし、怖くないぞ〜」
ウサギになった私とほとんど同じくらいの大きさの男の子が、へらへら笑いながら近付いてきたんだ。
「えっ!? こ、小人!?」
「は……?」
ビクッと固まる小人さん。そして……
「ウサギが喋ったーー!!?」
「小人が喋ったーー!!?」
それが私と、ラインお兄さんとの出会いだった。
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年の近いお友達はおらず、能力者にもなってしまった私に、お兄さんはとても優しく接してくれた。
たくさん遊んで、たくさんお喋りして、お兄さんと過ごす日々はとても楽しかった。
「俺はな、デカデカの実を食って、誰よりもでっかい男になるんだ! それが俺の夢、ふへへへ!」
お兄さんは『デカデカの実』? とかいう悪魔の実を求めて、ドレスローザって島からはるばる旅して来たんだって。
故郷にはヴィオラさん、モネさんていう、おっぱいの大きいガールフレンドがいて、お兄さんはそれはもうモテモテだったらしい。
……本当かなぁ?
お兄さんとの会話は面白くて、楽しくて、あっという間に時間は過ぎていった。
そしてお兄さんと出会って、だいたい1年が過ぎた頃……
私にとって、忘れられない悪夢のあの日がやってきた……
世界の創造主の末裔、天竜人が、シャボンディ諸島に降りてきたんだ。
「お前、なかなかぷりちーな顔してるえ」
「…………え」
傷だらけの奴隷に乗った、見た目30代後半くらいのおじさん。そんな天竜人に、私は目をつけられてしまった……
「よぅし! 僕たんの21番目の妻にしてやるえ!」
意気揚々とそう言いながらニタつく天竜人。……正直意味が分からなかった。
妻? 21番目? してやる? 訳が分からず混乱していると、横にいたお父さんが立ち上がり、天竜人に言ってくれた。
「お、お待ちください! 娘はまだ12歳になったばかりでして……!」
そしてお父さんは天竜人に撃たれた。そしたらお母さんが泣きだして、お母さんまでも天竜人に撃たれた。
私の目の前に、血で赤く染まり、動かなくなったお父さんとお母さんの亡骸がぽつん……
「ああああああああああああッ!!!! おがぁざああんん!! おが……おどうざ……! うあ……あ……あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ああああああ゛あ゛あ゛あ゛…………ッ!!!!」
「うるさいと言っとろうえ! お前も撃ち殺されたいか!?」
「…………!! うぁ……あ、ぐ……!! ………………ひっぐ……」
天竜人が私に銃を向ける。私は黙るしかなかった。
「そう。それでいいんだえ。さ、マリージョアに帰ったら、たっぷりと気持ちいい事しような〜、むっふっふ〜♡」
天竜人に腕を掴まれる。ゾワッと鳥肌が立った。私は今からお父さんとお母さんを撃ち殺した人のお嫁さんにならなきゃいけないの?
違う……お嫁さんなんて、そんな聞こえの良いものじゃない……
こいつは、私の事を……
「……ァ……! やっ! やめて! 嫌! 嫌ァ!! 誰か……誰か助けてェ……!! うぁ゛あ゛ぁ゛あ……!」
「こら! 抵抗するなえ!」
嫌で嫌でたまらなくて、抵抗したら顔を殴られた。鼻血が出る。痛いよ、怖いよ、悲しいよ、苦しいよ、助けてよ……
お父さんとお母さんは殺されてしまった。私を助けてくれる人はもういない。愛してくれる人ももういない。
周りを見る。誰も助けてはくれない。この広い世界で、私は今、一人ぼっち……
当たり前だ。天竜人に逆らうな。子供でも知ってるこの世界の常識……
それでも、誰か、助けて……ッ
「ウオオオオオオオーーッ」
「え……?」
「ラァ゛ァアーーーーッ!!!!」
「!!!」
ボッッゴォオオンッ!!!
あの光景を、私は一生忘れないだろう。
ラインさんが、お兄さんが……世界の常識を破って、私の為に天竜人に手を上げた光景は……
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それから私は、お兄さんのおかげでシャッキーさんのお店で暮らしていけるようになった。
私の為にボロボロになるまで戦ってくれたお兄さん……
行く当ての無い私の為に必死で頭を下げてくれたお兄さん……
お兄さんのおかげで今の私はある。本当に……感謝してもし足りない。
「ありがとう……お兄さん……」
シャッキーさんのお店での暮らしは、結構充実している。
「エスネちゃん、もうちょっと足に力入れて。……うん。そう。中々良い感じよ」
「は、はい! ありがとうございます。シャッキーさん」
「ウフフ、物覚えも良いし、結構才能あるわよあなた」
シャッキーさんは厳しくも優しい、まるでお母さんのような人だった。
「エスネ、この前行ったシャボンディパークは楽しかったかい?」
「は、はい、レイさん! とても楽しかったです」
「そうか、それは良かった。また皆で行こう」
レイさんは甘くて優しい、まるでお父さんのような人だった。
「エスネ! ハッピーバースデー! これは俺からのプレゼント、花で作ったイヤリングだ!」
「綺麗……ありがとうございます、お兄さん」
「いいって事よ! 妹の面倒を見るのは、兄貴の義務だからな」
「妹……」
「そ。お前はもう俺の妹だ、エスネ。何があっても兄ちゃんが守ってやるからな!」
「うん……」
お兄さんについては……言うまでもない。
世界一優しくて、カッコよくて、素敵なお兄さん。
素敵過ぎて、最近は“妹”って呼ばれるのがちょっぴり辛かったりする……
(お兄さんは私の事、ただの妹としてしか……見てないのかな……)
私だって女の子だ。恋だってする。私はお兄さんの事を、異性として好きになってしまった……
だけどお兄さんにはヴィオラさんとモネさんがいる……
故郷に残してきたおっぱいの大きいガールフレンド。18歳になって一応私もおっぱい大きくなったけど、ダメなんだろな……
お兄さんはデカデカの実を食べたら、彼女達と恋人関係になるんだと思う……
それは別にいい。
私が、お兄さんに選ばれなくても……別にいい。
だってお兄さんが幸せになれるなら、それが一番だから。
……だけど問題なのは、そんなお兄さんの幸せを、私が邪魔しちゃってるって事である……
(私はいつまで……お兄さんにおんぶに抱っこされ続けるんだろ……一体いつまで、お兄さんを停滞させ続けるんだろ……)
あの頃は自分が生きる事で精一杯だったから、深くは考えていなかったんだけど……
6年も経つと私の存在がお兄さんをこの島に縛り付けてるって事くらい、嫌でも分かる。
もしも私がいなかったら……
お兄さんはデカデカの実を求めて、すぐにでも新しい冒険の旅に出掛けていただろう……
シャボンディ諸島を出て、自らの夢に向かって全力で突っ走っていたのだろう……
それを私が……私という存在が邪魔してしまっている……
「ううぅ……お兄さん……」
私はお兄さんに大きな幸せを貰った。
だからお兄さんには、それよりもっともっと大きな幸せを掴んで欲しい……
お兄さんの夢を……私が、邪魔してはいけない……!
・
・
・
それから私は、別の
1〜29番
そんな感じで私は島中を駆け回り、デカデカの実についての情報を集め回った。
ウサギの姿で駆け回り、人間の姿で聞き込み調査。そんな感じ。
「あ、あの……デカデカの実って……知ってますか?」
「知らないねぇ」
「デカデカの実っていう果実を探してるんです!」
「悪いけど知らないよ」
「デカデカの実を探してて……」
「おっほほ♪ お嬢ちゃんの胸に、二つのデカデカの実が……ぶへっ!? 蹴らなくてもいいだろ!」
結果は中々振るわなかった。
それはそうだ……お兄さんだってずっとこの島でデカデカの実を探し続けてきたんだから。私ごときが、ちょっと探した程度で見つけられる訳がない……
それでも、私は探し続ける。お兄さんの為に、お兄さんの幸せの為に……! お兄さん! 大好きなお兄さん……!
いっぱいいっぱい探して、そしてついに──
「お嬢ちゃん、デカデカの実を探してるんだろ? フェフェフェ……あたしの占いで見つけてやろうか?」
49番
「う、占い……ですか?」
「ああ、アタシはウラウラの実を食べた占い人間。どんな探し物でもズバリと言い当てる事が出来ちまうのさ……フェフェフェ……!」
「本当ですか……!」
やった! と思った。
私のせいで、お尋ね者であるがゆえに聞き込み調査が出来ないお兄さんの代わりに、頑張って聞き込みし続けたかいがあったと、そう思った。
「占い料金は50万ベリーだよ」
「ご、50万ベリー……は、払います……!」
シャッキーさんから貰ったお小遣い。貯金してきたお小遣い。それを今ここで使う。
お兄さんの為なら全然高くない。
「フェフェフェ、毎度あり。それじゃあ占うよぉ……ウラウラウラ〜……カァア!!」
「……」
「出たよ。お嬢ちゃんの探し物は、明日の朝、2番
「明日の朝……2番
「その場所にお嬢ちゃん一人で、誰にも内緒で行けば、探し物は見つかると出た。フェフェフェ……」
「あ、ありがとうございます! お婆さん! 本当にありがとう!」
「いいって事よ。あたしゃ能力で占いをしただけさ。フェフェフェ……」
デカデカの実を見つけられる! お兄さんの夢が叶う! やったあ! その時の私は、のんきにもそんな風に考えていた。
……
そして翌日。
お婆さんの言っていた通り、2番
すると……
「むっふっふ〜♪ ようやく見つけたえ……」
「え……?」
そこには、私にとって、世界で一番嫌いな男が立っていた……
6年前、私の両親を殺した、天竜人が……!
「な、なんで……なんで貴方が……だって、ここには、デカデカの実があるって……」
「フェフェフェ……! ある訳ないだろ? あれは私のついた嘘さ!」
「占いのお婆さん!」
天竜人の隣に、昨日の占い師のお婆さんがいた。
「そもそもアタシはね、占い師でもなんでもないのさ」
「!!」
「近頃、デカデカの実を探し回ってるお嬢ちゃんがいるって聞いて、なんとなく調べてみたら、6年前“不可視の怪盗”によって攫われた天竜人の妻に顔がそっくりじゃないか! それで連絡してみたら見事に大当たり! 思わず大笑いしちまったね、フェフェフェ!」
「……私は天竜人の妻じゃありません……」
「そんなんどうでもいいさ! お前さんを誘い出せたら天竜人が大金を払ってくれるっていうから、それで占い師のフリをしてお前さんを誘い出したって訳さ。ウラウラの実を食べた占い人間? そんなのある訳ないだろ! フェフェフェ!」
「……」
ガックリと膝をつく。いや、ついてる場合じゃない。
私は即座に人獣型へと変身した。この形態が一番身体能力が上がるから。
「!!? 悪魔の実かえ!? おおい! 逃がすな! 奴隷31号!」
ピョンっと大きく飛び跳ねて、倉庫の中から外へ飛び出した、その瞬間……
私の体に、グルリと触手のようなものが巻き付いた。
「ごめんなさいねぇん。……ご主人様の言う事、ちゃんと聞かないと酷い目に遭わされるの……」
「!!」
私を捕らえたのは、イカの人魚のおじさん……いや、オカマさんだった。
オカマさんの首には首輪がついてる。あれは確か……天竜人が奴隷につける、爆弾首輪だ。
無理矢理外そうとしたり、逃げ出そうとしたら爆発する……最悪の首輪……
「むっふっふ〜♪ ようやく捕まえたえ〜♪」
捕まった私を見て、天竜人は両手を上げて小躍りしている。
「さぁて、私の41番目の妻よ! 6年の間にすっかり育ってしまったのは残念だが、ぷりちーな顔は健在だな。マリージョアに帰って、よろしくやるえ」
天竜人がニタニタ笑顔で私の前へとやって来る。喋る度に唾が飛ぶ。気持ち悪い……
「フェフェフェ……それでボミオール聖……約束の金ですが……」
「ああ、そうだったな。受け取れ」
パァンッ!!
持っていたピストルで、占いのお婆さんを撃ち殺す天竜人。
何も……何も変わっていない。最低だ……この人……
「むっふっふ〜♪ それでぇ、僕たんの妻41号……」
「……私は貴方の妻じゃありません」
「んん? おーん? そんな事言っていいのかえ? 今マリージョアには海軍大将、青キジが来てるんだえ」
海軍……大将? 昔お兄さんが戦って、いっぱい蹴られて大怪我させられた大将……
あれと同じのが、また来るの?
「奴に命令して、シャボンディ諸島にバスターコールを仕掛けてもいいんだえ?」
「え……」
「バスターコール。知ってるか? 軍艦による一斉射撃で、島を全部吹き飛ばすらしいえ!」
そんなの、大将がやってくるどころの話じゃない……
シャッキーさんも、レイさんも、お兄さんも……
シャボンディ諸島に住んでるたくさんの人達が、皆殺されてしまう……
「お前が僕たんに誠心誠意尽くして、い〜っぱい気持ち良くすると誓うなら、特別に見逃してやってもいいえ〜?」
気持ち悪い笑みで、ニタニタと私の反応を楽しんでいる様子の天竜人……
こんなの……選択肢なんてないじゃない……
「誠心誠意……き、気持ち良く……させていただき……ます……ぐ……!!」
「むっふっふ〜♪ それでいいんだえ! さあ、急いでマリージョアに帰るえ! 奴隷31号! 何をグズグズしてる! 僕たんを乗せて
「ッ!! ……!!」
オカマ人魚さんの背中にまたがり、ゲシゲシとその頭を蹴り始めた天竜人。
彼(彼女?)はしぶしぶニュルニュル歩き出した。
……
シャボンディ諸島から少し離れた位置に存在する、
私と天竜人とオカマ人魚さんは現在、ボンドラに乗ってマリージョアを目指している真っ最中だった。
「むっふっふ〜♡ 今回は何人孕ませられるかな〜♡ 楽しみだえ〜♡」
「……」
楽しそうに笑いながら、カギの束をくるくる回している天竜人。
オカマ人魚さんは、物欲しげな様子でそのカギを睨み付けている。
「あの……オカマ人魚さん」
「…………私の名前はロズオよ……」
「あ、ごめんなさい。私はエスネです」
「そう、あんたも大変ねん。天竜人の妻だなんて……まあ私達みたいに、奴隷にされるよりかは幾分マシかもしれないけど……」
「………………ロズオさん。シャボンディ諸島の13番
「は?」
「もし……可能だったら……そのお店にいるラインて人に……お世話になりました。探さないでください。大好きですって……伝えてくれませんか?」
「?? あなた……何を言って……」
私はウサギに変身して跳ね上がった。そして一瞬にして天竜人が持っていたカギの束を奪う。
まだまだ未熟だけど、お兄さんから習ったトンタッタ流ひったくり術。
「ほあっ!? 何をするえ!?」
そして私は、ロズオさんの首輪についてる鍵穴に、カギを差し込み、グルリと回した。
ガチャンと外れる爆弾首輪。
「行って!」
「え……」
「行って! ロズオさん! 逃げるの! 早く!」
「!!」
ボンドラの上からピョンと飛び出すロズオさん。まだ、この高さだったら、大丈夫のはず……
数秒後、ドボンと音がしたので、ロズオさんは無事海へと着水出来たようだ。
天竜人の方を見てみると、愕然とした様子で下の様子を眺めている。
「お、お、お、お前……なんて事をしてくれたんだえ!? 僕たんの大事な……人魚コレクションの1匹を……!」
「…………ざまあみろ」
「!!?」
ちょっとだけ胸がスッとした。
ジャキッとピストルを向けられる。だけど、後悔はない……
ううん。嘘。たくさんある。
だけど仕方ないじゃない。
こんな奴の好きにされるくらいなら……誰かの命を一人救って、それで今この場で殺された方が、ずっとずっと良いって、そう思えたんだから。
「ラインお兄さん……」
私に向けられたピストル……
その引き金に、天竜人の指がかかる。
「……今までありがとうございました。大好きです……!」
パァンッ!!
次話は木曜日……もしくは金曜日予定。