気が付くと、俺は風呂場にいた。
使い慣れた浴槽。ここは……シャッキーの店の風呂場だ。ぬるいお湯の中にチャプチャプと浸かっている、そんな状況。どゆ状況?
「ふにゃ……力が抜ける……あれ……ここは?」
俺のすぐ隣にはエスネもいた。
ほわほわ〜っと混乱している様子のエスネ。そして俺も混乱している。なんだ? 何が起こった? なんで俺は服を着たままエスネと混浴している?
「良かった。気が付いたのね……二人とも……」
混乱する俺達の前に、シャワーヘッドを持ったシャッキーの姿があった。俺達に向かってお湯をかけている。……??
………………あっ! そうだ、思い出した。
俺とエスネはマリージョアで青キジと戦って、そんでそのまま凍らされて……
「シャッキーが……助けてくれたの?」
「……マリージョアから貴方達を助け出したのはレイさんよ。私は凍り付いた貴方達をお風呂に入れて溶かしただけ。ホント……無事で良かった……」
自らが濡れてしまうのも厭わず、シャッキーは俺とエスネを浴槽から拾い上げ、そのままギュッと抱き締めてくれた。
凍らされてヒエヒエになった体が、じんわりと温まっていくのを感じる。
「しゃ、シャッキーさぁん! うぇ、うぇえ〜ん!」
安心したのか気が抜けたのか、エスネがえんえん泣き出してしまう。それに釣られて俺もついつい貰い泣き。ポロポロと涙が溢れる。
マジで怖かった。凍らされた瞬間、終わったって思った……
見るとシャッキーの目からも涙が溢れていた。それを見て、俺はさらに泣いた。
……
さて、
風呂から上がった後、俺達に待っていたのはシャッキーが作ってくれた温かいスープとカルボナーラ。そして反省会という名の『落ち込みタイム』だった。
「「はぁ……」」
ガックリと落ち込む俺とエスネ。
「意気揚々と乗り込んでおいて、青キジには惨敗……レイさんに迷惑をかけ、エスネを守るという誓いもダメだった……ダメダメのダメだ俺は……」
「私のせいでお兄さんにもレイさんにもシャッキーさんにも迷惑かけた……青キジとの戦いでも、絶対役に立つって言っといて、全然ダメでした……」
「「はぁ……」」
「…………せっかく用意した食事を、そんな落ち込みながら食べないで欲しいんだけど」
「「ごめんなさい……」」
シャッキーの料理はとても美味しい。物理的にも精神的にも温かくて美味しい。……けど、やっぱりそれ以上に青キジ相手にボロ負けしてしまったのが心にきている。
レイさんが助けに来てくれていなかったら、俺達は確実に青キジに捕まっていた。その後で待っているのは、監獄行き、奴隷落ち……もしくは死……
ゾッとする。
「「はぁ……」」
「おや、二人して……思ってた以上に落ち込んでいるな」
落ち込む俺達の元に、いつも通りな雰囲気のレイさんがやって来た
この人、今までどこにいたんだ? お礼……そして謝罪……したかったのに……
「レイさん、俺……あの……」
「ライン。せっかくお客さんが来てくれたというのに、そんな落ち込んだ態度でいると気を悪くされるぞ?」
「いや、でも……ん? お客さんって?」
レイさんが店の扉の方にクイッと視線を向ける。すると扉はカランカランと開き、店の中へと入って来たのは──
「ラインちゅぁ〜ん! エスネちゅわ〜ん! 私よぉ〜! ロズオよぉ〜ん!」
「あんたかよ!!」
店の中に飛び込んできたのは、ハゲ、デブ、青ヒゲ、オカマ……個性という個性の塊、ホタルイカの人魚、ロズオだった。
「二人とも無事で良かったわ〜ん!!」
うおお〜んと男らしく号泣しながら、触手の足を使って俺達を掴み上げるロズオ。
これ結構気持ち悪いからやめてほしい。触手プレイは見るからこそ良いのだ。されるのは嬉しくない。
「……それで、何しに来たのさ、ロズオ」
「何って、アンタ達にお礼を言いにきたのよぉん!」
「お礼?」
はて、このオカマにお礼を言われるような事したっけかな?
「エスネちゃんのお陰で私は天竜人から解放されたわん! 他の大勢の魚人、人魚達も、エスネちゃんとラインちゃんのお陰でマリージョアから逃げ出す事が出来たのん! その事について、今回、私が代表してお礼を言いにきたのよん。皆本当に感謝してたわん。心からありがとうんっ!」
「……」
成行きだったし、お礼を言われる為にやった訳じゃないけど……
それでもやっぱり……
こうしてお礼を言われるとジーンとくるものがあるな……!
俺達のやった事は間違いじゃなかったんだって……認識させてくれる。
「ふへ、ふへへへ……」
ぽりぽりと頬をかく俺。エスネも何だか照れ臭そうだ。……よし! くよくよタイムはオシマイ! 俺はダッと椅子の上に立ち上がった。
「ふへへへっ! まあ流石は俺とエスネといったところだな! ロズオ、帰ったら人魚仲間に言っとけ! もし次会った時は俺とエスネを目一杯もてなしまくれってな! 鯛やヒラメの舞い踊り! そして爆乳人魚達によるおもてなしだ! 分かったか!? ふへへ〜へっへ!」
「分かったわん。かならず伝えておく。もしダメだったとしても、その時は私の料理と私のお胸で二人をおもてなしするわねん♡」
「いらんわ!!」
グイッとマッスルポーズを取りながら、胸筋をぴくぴくさせるロズオ。
やめろやめろ、近付いてくるな!
「ハハハ、ようやくいつもの調子が戻ってきたな、ライン。負けてしまった事よりも、今日は命が無事だった事を喜ぼう。シャッキー、酒だ! 今日は飲むぞ!」
「はいはい、レイさん。……ロズオちゃんも何か飲んでく?」
「あら、いいのん? それじゃあお言葉に甘えて……」
「やめろ! ロズオ! ぼったくられるぞ!」
「ラインちゃんのお友達からお代は貰わないわよ」
「え゛……俺、ロズオとお友達って思われてんの……?」
「いやん♡ 不服そうにしないでよんっ♡」
そんな感じで、店の看板を『本日休業』とし、俺、エスネ、シャッキー、レイさん、ロズオの5人は、夜遅くまでプチ宴で盛り上がったのだった。
・
・
・
そして次の日。
昨日の宴で、なんとか落ち込み状態から回復する事が出来た俺であったが……
そんな俺は今、再び落ち込み状態へと突き落とされていた。
それというのも……
WANTED
“不可視の怪盗・ライン”
懸賞金・480,000,000ベリー。
「懸賞金上がっとるやないかァーーッ!!?」
しかも上がり幅がエグい! 4倍である! いきなり4倍! こういうのって、もちっとチクチク上がっていくもんじゃないの???
俺、青キジに負けたよね? なのに何でこんな上がってんだよ!
「まあ、生身でマリージョアを登っていって、天竜人に暴行を加え、何十人もの奴隷を解放して、青キジと戦って生き延びて、冥王とも知り合いとなれば……そりゃあねぇん……」
やれやれフゥ〜と息を吐くロズオ。
いや……なんでお前まだここにいるんだよ。さっさと自分の家に帰れよ。
「てか“冥王”って誰だよ?」
「え!? まさかラインちゃん知らないのん? レイリーさんの事よぉん」
「?? レイさんがどうかしたの?」
「だぁかぁらぁ! レイさんが冥王なのよん! 冥王シルバーズ・レイリー! 海賊王の元副船長よぉん! すっごい人!」
「え……えええええッ!!?」
衝撃の事実!!
レイさんの正体は海賊王の元クルーだったらしい。いや、強い強いとは思ってたけど、そりゃ強ぇえわ!
ビックリ。
「おいおい、ロズオくん。一体いつ気付くかとラインには“あえて”言っていなかったのに……ついにバラしてしまったか。ワハハ!」
手配書をヒラヒラさせながら、心底面白そうに笑うレイさん。
「ワハハじゃねぇよレイさん! え、これ知らなかったのって……まさか俺だけ? エスネは? 知ってた? レイさんの正体」
「え? あ……はい。最初は分かりませんでしたけど、6年も一緒に暮らしてたら、まあ……有名人なのでなんとなく……」
俺は8年も一緒に暮らしてるってのに全然気付かなかった……
「……いやまあ、レイさんの正体なんて今更どうでもいいけど」
「どうでもいいて……」
「だって、俺にとってのレイさんはレイさんだし……」
今更海賊王の仲間だったって言われても、ふ〜んて感じ。
「ほぉ……じゃあラインにとっての私とは?」
「アホみたいに強い癖に、飲んだくれで、全然働かなくて、ギャンブル依存症で、白髪で、変なヒゲで、女好きで……」
「おいおい……」
「そんなどうしようもないけど、父親みたいな人……かな」
「……」
「びゃーー!! 言わせんな! 恥ずかしい!」
俺はバンッと机の上に自分の手配書を叩き付けた。
「そんな事より俺の賞金額! 4億8000万て、これサラリーマンの生涯年収よりもだいぶ高いじゃねーかよ! 勘弁してくれよ! まったくもう!」
俺って世間で一体どんなレベルの極悪人だと思われてんだろ。はぁ〜ガッカリ……
まあ今回、エスネが賞金首にならなかった事だけが不幸中の幸いかな。ウサギになってたから気付かれなかったのだろうか?
「レイさん新聞貸して。今回の事件、どんな風に載ってる?」
「お、ラインが新聞読もうとするのは珍しいな。だが今回の事件、政府は世間に公表しないみたいだぞ」
「へぁ?」
レイさんから新聞を受け取り、中身を読んでみると……レイさんの言う通り、俺によるマリージョア襲撃事件は新聞のどこにも乗っていなかった。
「なるほど……な」
小人なんかにマリージョアを攻め込まれたなんてニュース、政府としてはあまり世間に広まってほしくないから、だから内緒にしておくって訳ね。分かります。
……それなら俺の懸賞金額も上げないで欲しかったんですがね……
「えーと、今回の新聞の一面を飾ってるのは、サー・クロコダイル。王下七武海から除名される……か。誰だよクロコダイルって?」
聞いた事のない名だな〜、興味ないな〜と、新聞をパタンと折り畳む。すると……
「はああ!? ラインちゃん! あんた冥王どころか、七武海も知らないのん!? どんだけ世間知らずなのよぉん!」
ロズオが突っかかってきた。
「何だよ、そのしちぶかいって……」
「教えてほしい? 教えてほしいのねん? んも〜! 仕方ないわねぇん! それじゃああたしが、七武海について手取り足取り教えて……あ・げ・るん♡」
「…………エスネ。教えてくれ」
「はい。お兄さん」
「いや〜ん♡ 無視しないでよぉ〜ん♡」
話を聞くに……
王下七武海。通称“七武海”は、世界政府によって略奪行為を特別に認められた7人の海賊達の事を指すんだって。
要するに、犯罪しても許される海賊って事。
ドレスローザで泥棒するのを許されてるトンタッタ族みたいなもんかと思ったが、それは全然違うらしい。
「七武海っていうのはねん、他の海賊なんて目じゃないくらいとぉっても強い海賊なのよん!」
「その強い七武海が世界政府に所属する事で、他の海賊達への抑止力になるらしいです」
なるほどね。目には目を。海賊には海賊をって事か。
……いや、海賊の犯罪を抑制する為に、犯罪OKな海賊を作るって、なんか根本的に間違ってる気がするのは俺だけですかね。
「そういえばお兄さんの生まれ故郷って、ドレスローザだって言ってましたよね?」
「まあ細かく言えばグリーンビットなんだけど……そだな、ドレスローザだ。それがどうかした?」
「ドレスローザの王様もその“七武海”の一角なんですよ。知ってました?」
「…………は?」
ドレスローザの王様が七武海?
スカーレットとヴィオラの父ちゃん、リク王が? 七武海?
あの人海賊だったのか!?
「ひ、人は見かけによらないなぁ……まさかリク王が七武海だったなんて……」
「リク王? いえ、ドレスローザの王様はドンキホーテ・ドフラミンゴって人ですよ」
「は!?」
「8年前、お金欲しさに軍隊を使って国民に襲いかかったリク王……その蛮行を七武海であるドフラミンゴが止めたんです。それでドフラミンゴはそのままドレスローザの王様になったらしい……って、お兄さん聞いてます?」
「……………………」
お金欲しさにリク王が国民を襲った? マ!?
確かにドレスローザは貧乏国家だったが……あの平和主義な王様がそんな事するのか? いや、お金は人を変えるというし……分からん! 判断するには情報が足りねぇ……!
てか王様が変わったってなら……ヴィオラ達はどうなったんだ? トンタッタ族は? 皆は?
俺が国を飛び出してから、ドレスローザで一体何が起こったってんだ!?
シャッキーが残しておいた新聞の束から、ガサガサと昔の新聞を探る。8年前の新聞……
そこには、ドンキホーテ・ドフラミンゴ。ドレスローザ国王に就任。と書かれていた。
一面を飾る、グラサンをかけたニタニタ顔の金髪男……
身長高そうだし、なんとなくいけ好かないと、そう思った。
今回、魚人島にて、おっぱいパラダイスのフラグを立ててやったぞ。
早く書きたいと思っている自分と、エタッてしまいそうって思ってる自分がいる。
お、オラに元気を分けてくれ……! 高評価を、感想を……ガク……
ちなみに次話は、ちょっぴりおっぱいシーンあります。エスネっぱいです。