黄猿と戦闘しながら、俺は必死に考えていた。
俺の目的は黄猿に勝つ事ではない。
麦わらの一味をこの場から逃してやる事である。
問題なのは、黄猿と戦いながらどうやって金太郎&クマえもんコンビからルフィ達を逃がすのか……
遠距離攻撃を持たない俺では、黄猿と戦いながら援護に回るというのは物理的に不可能……
かといって黄猿を振り切って助けに行く事も物理的に不可能……
そこで思い付いたのが、黄猿のレーザーを金太郎に当ててやるといったものだった。
(俺に向けられたレーザーを、寸前の所でかわして金太郎に当てられれば……!)
要するにフレンドリーファイア。
それが第一のプラン。
しかし流石は海軍大将というか……そんな俺の作戦にも黄猿はすぐに気が付いてきやがった。
わざと隙を作り、レーザーを撃たせ、俺の背後にいる金太郎へと当ててやろうと画策してみたのだが……失敗。
だから俺は第二のプランに作戦を切り替える事にしたんだ。
すなわち、わざとレーザーを喰らって、隠し持った『鏡』でそれを反射。金太郎を狙い撃ちするというプランだ。
何の因果か、鏡なら持っている。
手鏡、マッチ、3万ベリー、コーヒーカップ。拾ってただろ? ……それの手鏡を使うのだ!
黄猿は言っていた。自分はピカピカの実の光人間だと……
ならその攻撃は『鏡』を使えば反射させられるのではないかと俺は考えた。
(……だがしかし……ぬーん……)
上手く行けば値千金。だけど……
はっきり言って、この第二プランの成功率は限りなく低いものだと思ってしまう……
不確定要素が多過ぎるのだ。
不確定要素その1。
黄猿がレーザーを撃ってきてくれるかどうか……
それがそもそものスタート地点。
レーザー以外の技で攻めて来られたら、この作戦は始まる前から終わってしまう。上手いこと煽って、レーザーでトドメを刺してやろうと思わせる事。それが大事。
不確定要素その2。
仮にレーザーで攻めてきてくれたとして、それを上手く反射させて、金太郎に当てられるかどうかが怪しい……
これはいわゆる初見殺し。一度失敗すれば二度目はない。一発限りの出たとこ勝負なのだ。
不確定要素その3。
そもそもの話、黄猿の超火力レーザーをこんな小さな手鏡なんかで反射させられるのかどうか……そこが一番の疑問点だった。
光は鏡で反射する。だからレーザーだって跳ね返せる……と、俺は考えているのだが、あの火力を見ると鏡ごと体を貫かれてしまいそうで怖いのだ。
そうなれば当然だが、俺の人生はそこでザ・エンド。
だからこそ、俺は腹に仕込んだ鏡にありったけの『覇気』を纏わせる事にしたんだ。
武装色の覇気は自分自身だけでなく、手持ちの道具にも纏わせる事が出来る。
気休め程度かもしれないけど、そうやって鏡の耐久力を引き上げる事で、鏡を破壊される事なくレーザーを跳ね返す事が出来る! と思う。
でも……それでも100%の保証はない。
リスクをあげればキリはなかった。だけど──
「我流・トンタッタコンバット……」
「ん?」
「ミラーシールドォッ!!!」
ピカッ ドオオオオーーンッ!!!
「ぐああああ〜〜ッ!!?」
──結果として、俺は賭けに勝った!
腹に仕込んだ武装色の鏡は、黄猿のレーザーを見事に反射して、奴の斜め後ろの位置にいた金太郎へとぶち当てる事に成功したのだった。
「!!?? !? !??」
今まで見た事のない表情で動揺を露わにする黄猿。
何が起こったのか心底理解出来ていないご様子。
そうして黄猿は、俺の腹部に仕込まれていた鏡を見つけ、驚愕に染まった瞳をさらに見開くのだった。
「鏡……!?」
「ふへへへっ! ビンゴ!」
俺はブイッとピースサインしてやった。
「……まさか……そんなオモチャみたいな鏡で、わっしのレーザーを跳ね返したとでもいうのかい……!?」
素状態の鏡だったらやっぱり反射出来ていなかったのかな?
身に付けておいて良かった武装色の覇気。
とりあえずこれで黄猿の部下を一人ダウンさせる事に成功した!
ルフィの方を見てみると、彼もものっそい驚いた表情をしていた。その他麦わらの一味も同文。
全員が驚愕に固まっている、今がチャンス!
「おらァーー!! ピーエックスワンとやら! こっち向けぇ!!」
俺はバーソロミュー・くまの見た目をしている(たぶん)未来の世界のクマ型ロボット、クマえもんに向かって全速力で突っ込んでいった。
「んォ? な、何をして……はっ!?」
俺の狙いに、いち早く気が付いた黄猿であるがもう遅い。
黄猿のレーザーを跳ね返せたんだ……
ならきっと、それとそっくりなクマえもんのレーザーだってきっと跳ね返せる!
俺という標的に向けて、クマえもんが片手を向けてきた。その動きに躊躇は全くない。
ピピピピと光のエネルギーが溜まっていき、そして──
ピカッ
「ミラーシールドぉ!!」
「!!!」
ドガァアアンッ!!
自らのレーザーに焼かれ、クマえもんはそのまま大破した。
「「「「!!??」」」」
「ふへへへっ! お前の敗因はロボットだった事だ! 人間並の警戒心があればやられなかったかもな!」
これで金太郎、クマえもん、共に撃破。
あとは俺が黄猿を抑えておけば麦わらの一味は無事逃げ出せるという訳だ。
「ここは俺が引き受けた! ルフィ達はこのまま逃げちまえ!」
「ライン! ありがとう!!」
「あいつスゲー!」
「伊達に海軍大将返り討ちにした事があるとか言われてねェな」
「やっぱ冥王の息子は怪物なんだな……!」
いや……今回はたまたま鏡があったから何とかなっただけで……
あんまり過大評価され過ぎるのも困るんだけど……
と、とりあえず、ルフィ達はそれぞれバラバラに逃げてってくれた。
これで俺の目的は達成……
後は黄猿の相手をしながら、なんとか俺も逃げる隙を──
「……やってくれたねェ……不可視の怪盗……!!」
「ぶげへェッ!!?」
くまロボットを破壊した俺の元に、黄猿が光速で突っ込んできて蹴りを入れてきた。
一応未来視は出来ていたのだが、あまりのスピードにギリギリ対応する事が出来ず、缶蹴りの缶のように蹴っ飛ばされてしまう。
めっちゃ痛てぇ……!
「戦桃丸くんに……そしてパシフィスタァ……よくもまあ、うちの大事な戦力をここまでボロボロにしてくれたものだ……」
今まで見た事がないくらい怖い顔になっている黄猿。激おこプンプン丸だ。
「わっしがついていながら……自分の不甲斐なさに泣けてくるよォ……」
「ぜ、全然泣いてるようには見えないけど……」
「………」
「!!」
黄猿が指を向けてくる。レーザー攻撃だ。
俺はそれを鏡で反射してやろうとして──
ピカッ ドオオオンッ!!
「が……ッ!?」
黄猿のレーザーは、俺……ではなく、俺のすぐ真下の地面へと命中させられた。
そのお陰でレーザーを直に喰らう事はなかったが、地面が爆発して、その爆風によって俺はふっ飛ばされてしまう。
「隙だらけだねェ……」
「ぐっ!」
弾き飛ばされ、バランスを崩した俺の元に黄猿が光速で飛びかかってくる。
黄猿の攻撃に合わせてしっぽで反撃するも、やはり正面からの殴り合いでは分が悪いようで、俺はそのまま地面へと叩き落とされてしまった。
「がはっ!? いだ……! おおぶぅう……!!」
落ちた衝撃で仕込んでいた鏡が木っ端微塵に割れてしまう。
ヤバイ……これじゃもうレーザー跳ね返せない……
「お望み通り、麦わらの一味は逃してやるよォ〜……だがその代わり、お前さんだけは何があっても絶対に捕まえてやるからねェ……」
「ぶげっ!?」
追撃とばかりに、頭をズンッと踏まれた。
「これでもう……こざかしい真似は出来ないよねェ? それともまだ何か隠し持ってたりするのかい?」
「……ぶ、ぶへ……ふへへぇ……も、勿論さ……こっから俺は、見事華麗にお前から逃げきってやるからよ……」
「減らず口をォ……。……いいよォ、この状況から、見事逃げ出す事が出来たなら、わっしは素直に負けを認めてやろうじゃないか……不可視の怪盗……それが出来たらの話だけどねェ〜……」
「ふへへ……言ったな? 後悔すんなよ?」
と、強がってはみたものの、流石にもう何も無い……
虎の子だった鏡は割れてしまい、実力では当然敵わない。万事休すってやつだ。
「……油断はしない。このままトドメをささせてもらうよォ」
黄猿の足がピカーッと光り始める。
俺の見聞色が言っている。これを喰らったらお終いだと。でも、これを避ける方法は何もない。
あ、ヤバイ……レーザー撃たれる。
くる! くるよ! なまじ未来が見えちゃうからめっちゃ怖い! ヤバイヤバイヤバイ! 死ぬ死ぬ死ぬ! もうダメd──
「ゴムゴムの! JET“ダメだ”!!」ヒョイッ
「うおわッ!?」
ピカッ ドゴオオーーン!!
黄猿がレーザーを放ったその瞬間……
どこからともなく謎の腕がものっそい勢いで伸びてきて、俺の事を掻っ攫っていった。
「……って、る、ルフィ!?」
「ありがとうライン! 一緒に逃げよう! はぁはぁ、ぜぇぜぇ……!」
初対面の時と同じように、ルフィに鷲掴みにされた俺。
もう限界なんだろうに、せっかく逃げ出させてやったってのに、俺の為にわざわざ戻ってきちゃったのかよ! 馬鹿野郎! ありがとう!!
俺を握り締めたまま、黄猿から逃げ出そうと猛ダッシュで走り出すルフィ……だが。
「オ〜、戻ってきてくれるとは好都合。不可視の怪盗と一緒に、お前さんも捕まえてやるよォ、麦わらのルフィ……
ひぃいい〜! ダメだ! 黄猿のスピードからは逃げられない!
もうすぐ後ろまで来てるって! なんかライトセイバーみたいなの構えてる! くる! くる! 斬られ──
「鬼斬り!!」
「
「
「火薬星!!」
「
「
「ストロング・
「
「!!?」
「麦わらの一味ィ……」
一体何を思ったのか、船長+俺のピンチに、麦わらの一味が誰一人かける事なく駆け付けてきて、各々が黄猿に必殺技を繰り出した。
覇気の乗っていない攻撃なので、当然効果はないのだが、流石にここまでの一斉攻撃……目くらまし程度にはなったらしい。
って……いやいやいや! 何やってんだよ!?
せっかく……逃してやったっていうのに……全員戻って来ちゃったらマジで意味ないじゃんか……
どんだけ仲間想いな集団なんだよ……馬鹿野郎! ぐすん……
「オ〜、一味全員で向かってきてくれるとは、一層好都合……」
「「「「!!」」」」
あー、くそ……
漫画とかなら激アツ展開なんだが、実際のところ絶望的状況である事には変わりない。
言い方は悪いけど、覇気が使えない足手まとい集団が集まった事で、俺もやや戦いづらくなったと言える。
さて、どうやってこの窮地を脱するか……
俺が覇気を使って黄猿の攻撃を捌き、その他の奴らは黄猿の気を引いてのかく乱……
その間に誰か一人がこっそりこの場を抜け出して、レイさんを呼びに行く……
それが一番現実的な勝ち筋かな……?
「麦わらの一味、よく聞け……この場をなんとかする方法を思い付いた。それは……」
俺がルフィ達に作戦を伝えようとした、その時だった。
「旅行するなら、どこへ行きたい?」
「は?」
……突然、俺達のすぐ後ろに、クマえもんが現れたのだった。
さっき倒したはずなのに、なんでこいつまだ動いてんの?
いや、さっき倒したクマえもんはあっちで倒れてる……てことはさっきのとはまた違った奴だ。量産型だったのか!?
さっきのクマえもんは無機質なザ・ロボットって感じだったけど、このクマえもんはなんか雰囲気がロボットっぽくない。
ロボとーちゃん?
「……」
付けていた手袋を外すクマえもん。するとその手の平には、なにやら肉球みたいなものがついていて──
ぱっ!!
「へぁ?」
肉球のついた手を、クマえもんが振るったその瞬間……
ゾロの姿が消えた。
そしてそのまま、クマえもんは連続して手を振るっていく。
ぱっ!!
ぱっ!!
ぱっ!!
ぱっ!!
ぱっ!!
ぱっ!!
ぱっ!!
「!!?」
クマが手を振るう度に、ルフィの仲間達が次々に消えていく。
なんだこれ? ……何が起こってる? 悪魔の実の力か? 人を消す能力……
黄猿の方を見てみると、黄猿も驚いたような顔をしている。
つまり、これはあいつらの作戦て訳じゃなく、クマえもんの独断行動。一体何の目的が……
「何やってんだお前ェェ〜〜!!」
「ま、待て、ルフィ……!」
仲間を消されて怒り心頭なルフィ。俺を握り締めたまま、クマえもんに殴りかかった……が。
「──もう二度と会う事はない……」
そんな言葉を吐きながら、ルフィ(+俺)に向けて、肉球のついた手を振るうクマえもん。
ヤバイと思った時にはもう遅かった。
ぱっ!!
こうして、麦わらの一味&不可視の怪盗は……
シャボンディ諸島から完全に消えてしまったのだった。
──完──
「お前ェ一体どういうつもりだい? くまァ……後一歩で不可視の怪盗を捕らえられたってのに……」
「………」
「これは大問題だよォ……わっし、逃げられたら素直に負けを認めるって言っちまったよォ……」
「……それは知らない」
バーソロミュー・くまの能力によって、ルフィと共にシャボンディ諸島から飛ばされてしまったライン。
彼らは一体、どこに飛ばされてしまったのか……
ヒントは、世界一おっぱいまみれの島だよ!!