「……ふへ?」
一瞬、意識が飛んだ……そんな感覚に陥った。
そして気が付いた時、俺の目の前にはめっちゃ笑顔のルフィがいた。
?? これは一体、どういう状況なんだ?
「ライン! 良かったァ! 死んじまったらどうしようかと思ったよ!!」
バシバシバシと肩を叩かれる。何でこいつはこんなにも喜んでんだ?
死んじまったらどうしようって……俺は一体何をしてたんだっけ?
「ふん、ルフィに感謝するのじゃな。小人」
「!! 美人おねーさん!」
ニカニカ笑顔のルフィのすぐ後ろに、黒髪美人のおねーさんがいた。ジロリと俺を睨み付けてくる。
あ、そうだ……
俺は確か、ルフィと一緒に風呂場に突入して、そんでこの黒髪美人さんの入浴現場に出くわしたんだっけ。
それから、えっと、どうなったんだ?
とりあえず今いる場所は風呂場ではなく豪華で広い部屋な訳だが……いつの間に移動したんだろ?
「混乱しているようね」
「石化前後の記憶は少し飛ぶからね、無理もないわ」
ルフィと黒髪美人さんの他に、オレンジ髪の女の人と、緑髪の女の人がこの場にはいた。身長おっきいなぁ……この二人。
「ふむ、何が起こっているニョか分かっておらんニョじゃろう。とりあえず、わしが一から説明してやろうかニョ」
そしてもう一人、小柄なしわくちゃお婆ちゃんがいた。
こつこつと杖のような蛇を床に打ち鳴らし、お婆ちゃんは俺の前へとゆっくり進み出てくる。
「えっと、お願いします。しわくちゃお婆ちゃん」
「うむ。よかろう。 誰がしわくちゃお婆ちゃんじゃ!? わしニョ事は“ニョン婆”と呼べ!」
「あ、はい……ニョン婆ちゃん」
しわくちゃお婆ちゃんこと、ニョン婆。
彼女が言うには、俺はついさっきまで黒髪美人さんの能力で石化していたんだと。
「って石化!?」
「そうじゃ」
黒髪美人さんの名は“ボア・ハンコック”。
なるほど、彼女が女ヶ島の現皇帝、蛇姫様ことハンコックだったのね。
世界一の美女と謳われる女海賊。通称女帝。う〜む、確かにそう呼ばれるだけの容姿をしておられる。
ちなみに緑髪のコと、オレンジ髪のコは、ハンコックの妹なんだってさ。あんまり似てない。まあそれはどうでもいいか。
ハンコックは“メロメロの実”の能力者で、自身に見惚れてしまった者を石像に変えてしまえる力があるんだって。
そのせいで俺は気付かぬうちに小一時間ほど石化してしまってたんだと。マジかよ……
「石化してしまったおぬしを助ける為、麦わらニョルフィが命をかけて
「ふんっ、もしもルフィがおらぬかったら……おぬしの事などとうに蹴り砕いて殺しておったわ……!」
「お、おおぅ……」
ギロリと俺の事を睨み付けてくるハンコックさん。なんか俺、嫌われてる?
いや、でも……不機嫌そうなお顔も美し……いやいやいや!! そじゃなくて!
「つ、つまり、石にされた俺をルフィが助けてくれたんだな! ありがとう!」
「ししし! おう、気にすんな!」
カラッとした態度だな。
……にしても、メロメロの実か。見惚れてしまった瞬間にゲームオーバーとか、あの美貌でその能力はちょいと凶悪過ぎるんじゃありませんかね?
「っていうか、待てよ。それじゃあルフィはハンコックの美貌に見惚れなかったって事?」
「……そ、そういう事になるな…………というか小人! わらわを呼び捨てにするな! 無礼じゃぞ!」
不機嫌そうに怒るハンコック。そんな表情もまた美し……やめろやめろ俺!
ダメだ、回避出来る気がしない。ルフィはこんな美女を前に、どうして見惚れなかったのか。
「はっ!? ……ルフィ、まさかお前……」
「ん?」
「ED……なのか?」
「おれはモンキー・Dだぞ」
「……あ、そっすか……」
なんか話が噛み合ってないが……まあいいか。
きっとルフィのこういう天然なところがハンコックのメロメロ攻撃が効かなかった所以なんだろうな。
俺には無理だ。絶対無理だ。
「あ、そうだライン! こいつらがさ、おれ達の事をさ、シャボンディ諸島まで海賊船で送ってってくれるんだって!」
「え!? マジで!?」
すげぇなルフィ。俺の石化を解かせるだけじゃなく、そんな事まで交渉してたのか。
見たところ、このハンコックという女、なかなかに堅物そうだけど、一体どうやって……
「ふん……ルフィの頼みだからじゃ。小人、おぬしはついでじゃからな! ルフィがいなければおぬしなど、またすぐにでも石にして……!」
「おいハンモック! おれの友達を石にしようとすんな!」
「うっ!? す、すまぬ……ルフィ……今のはその、冗談じゃ……あと……わらわの事は、ハンモックではなく、ハンコック……と呼んでくださいまし♡」
「分かった。ハンコック」
「はぁあんっ♡♡」
ん……?
なんか今、ハンコックの、ルフィに対しての反応……
ちょっとおかしくなかったか?
俺には呼び捨てにするなと言った癖に、ルフィに呼び捨てにされたら怒るどころか逆に嬉しそうに頬を赤らめて……
まるで恋する乙女のような反応……
は?
いやいやいや!
まさかまさかまさか!
ルフィに惚れたとか? い〜や、いやいやいや……!! まさかまさかまさか……!!
あり得ないだろ……
俺はハンコックの姿を見る。そしてルフィの姿を見る。
うん。やっぱり。ハンコックがルフィに惚れるとかどう見てもあり得ないわ。
別にルフィに男としての魅力が無いって言ってる訳じゃないぞ?
それよりもっと、根本的な部分で、ハンコックがルフィに惚れるのはあり得ないと言ってるんだ。
「……だって……だって……」
だって、ハンコックの身長は……目測190cmくらいで、それに対してルフィの身長はだいだい170cmくらいだ。
どこからどう見てもルフィの方がハンコックよりも小さい……
だ、だから……低身長なルフィが、自分よりも高身長なハンコックに惚れられるというのは、あ、あり得ない訳で……
「はぁん♡ ルフィ♡ そなたの頼みなら、わらわは何でも聞いてやりたいぞ……♡」
「ん? そっか。ありがと」
心臓が、ドクンと鳴った気がした。
目の前の光景を、俺の魂が必死に否定している。
こんな光景はあり得ない……
あり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ない……!!!!
だって! だってだってだってだって……!!
女の人が、自分よりも身長の小さい男を好きになるなんてそんな事……! あり得るはずがないんだから……ッ!!!
「はぁはぁはぁはぁ……!!」
「ん? どうしたライン。なんか顔色悪ィぞ。それにすっげェ汗かいてるし」
「……い、いや……別に……だ、だいじょぶ……だ……」
「あ! もしかして腹減ってんのか? おれもさ、腹ぺっこぺこでさ!」
しししと笑いながら、腹の虫をグ〜と鳴らすルフィ。
だけど俺の頭はそんな事を気にしていられるだけの余裕はなかった。
頭がふらふらする。うまく過呼が出来ない。血の気が引いていく。気持ち悪い。
自分の中の大切な何かが……価値観が……壊れていってる……
「ルフィ、おぬし腹が減っておるのか?」
「ああ、なんか飯食わしてくれねェか、ハンコック」
「ああん♡ またハンコックと呼んでもらえた……♡ これが……両想い!? フ……フフ♡ ルフィよ、今部下達にとびきりの馳走を作らせている。ここより下の階じゃ。そこで思う存分腹を満たすといい」
「本当かァ!? ありがとうハンコック! シャボンディまで送ってくれるし、飯も食わしてくれるし、お前って良いやつだな!」
「そ、そのようなことは……♡ ポッ♡」
やめて……
やめてやめてやめて……
ハンコックが誰に恋をしようが、それはハンコックの勝手だと思う。
だけど、それは違うだろ? ルフィは無いだろ? 女ってやつは、自分よりも小さい男は、生理的に無理……そういう生き物なんだろ? そのはずだろ? そうだと言ってくれ。
自分より小さい男の事を好きになる女は……いるはずがないんだ……
「飯ィ〜〜!!」
目を肉に変えたルフィが勢いよく部屋を飛び出していく。
それを見たハンコックの妹達も、やれやれと言いながら出ていった。ニョン婆もゆっくり出ていった。
そしてハンコックも部屋を出ていこうとして……そんなハンコックを、俺は呼び止めた。
「あ、あの……! ハンコック!」
「………なんじゃ、小人。わらわの事は呼び捨てにするなとさっきも言ったであろう」
「は、ハンコックは、まさか……る、ルフィの事を……好きになったとか……そういう訳じゃ、ないよな?」
「!!」
俺の問いかけに、ハンコックは自身の頬に手を添えた。そしてもじもじと体を揺すりながら赤くなっている。
さっきまでの俺なら、きっとそんな魅惑的な表情と仕草をするハンコックの姿にメロメロ〜となっていたのだろうが、今の俺はそれを気にするだけの余裕はなかった。
「ど、どうなんだ!? ルフィの事! 好きなのか!?」
「……ニョン婆にも、言われたな……わらわのこの気持ちは……ルフィへの、こ……恋心じゃと……♡」
「が…………ッ!?」
ルフィへの……恋心……?
違う……違う違う違う違う違う違う!! だってだってだってだって!!
「あ、あり得ないだろッ!?」
「は? あり得ない? ……何故じゃ?」
「だって……ルフィは……あ、あんたよりも……チビだから……」
「それがどうした?」
「え……」
俺の問いかけに、ハンコックは何でもない事のように答えた。
「わらわよりも身長が小さいから……それが一体どうしたというのじゃ?」
「あ゛……や゛………………だ、だって!! 女の人は、自分よりも身長の高い男性を好きになるもの、だから……」
「人が人を好きになるのに、身長など関係ないじゃろう」
「 」
頭の中が、真っ白になった気がした。
「ん? どうした? 何をショックそうに……ああ、そういう事か。ルフィから聞いたぞ。おぬし、女に好かれる為にデカデカの実とやらを探しておるのだとな……」
「う……や、その……」
「ふふふっ……デカくなれば、それだけで女に好かれると勘違いしておるようじゃから言ってやるが……それだけで好かれるようになる訳ないじゃろうが!」
「……ッ!!」
ガツンと、頭を殴られたような気がした。
黄猿の蹴りを喰らった時よりも胸が痛く、青キジの攻撃を喰らった時よりも全身が冷え切っている。
それは嘘だ。嘘なんだ……
だから聞きたくない……
聞きたくない……!!
「ルフィはな、わらわ達の秘密を知ってもなお受け入れてくれた。そんな海よりも懐の深い男なのじゃ。 ……それに比べて、おぬしはどうじゃ?」
「ぇ……」
「民から聞いたぞ。おぬし、小人流の挨拶だとかぬかして、この国の女達に卑猥な事をして回っていたらしいな」
「……!? そ……れ、は……ぁ゛……」
バレ……てる……
「民は騙せても、このわらわは騙されぬぞ! 何がぱふぱふじゃ!? そのような挨拶があってたまるか! この大嘘付きの卑怯者がァ!!」
「────!!」
う……あ……あ…………あああぁ……
………………………………………………………………あぁ……
ガクンと膝から力が抜ける。起き上がれない。
「………」
「ふんっ、何も言い返せぬか。下衆が」
「………」
「同じ男でも、おぬしとルフィとでは天と地ほどの差があるわ。たとえデカデカの実で、どれだけ大きくなったとしても、おぬしのような卑劣な男を好きになる女など、この先、一生現れるはずもなかろう!!」
ポタリ、ポタリと……
涙が溢れる。
今の自分が、あまりにも惨めで……あまりにも情けなくて……あまりにも小さくて……
ビシッとハンコックが俺を見下している。見下し過ぎて、むしろ見上げている。
「ルフィの爪の垢でも、煎じて飲むのじゃな」
それだけ言って、ハンコックは部屋を出ていった。
「………………」
ああ、ダメだ……
立ち上がれない……立ち上がれないよ……
だって納得しちゃったから。ハンコックの言葉が正しいって、俺自身が認めちゃってるから……
『あ〜、ごめん。私、自分より身長低い男子と付き合うとか、生理的に無理だから』
前世で言われた言葉だ。
『気持ちは嬉しいけど……ごめんねライン。私は人間であなたは小人。恋愛するにはちょっと体の大きさ……身長が違い過ぎるかなって……』
今世で言われた言葉だ。
どちらも身長が理由で俺はフラれてしまった。
だから身長さえあれば、それだけでモテるようになるとそう信じてきた。
だけど……心のどこかでは、もしかしたら分かっていたのかもしれない。
『人が人を好きになるのに、身長など関係ないじゃろう』
ハンコックの言葉が、俺の胸に突き刺さる。深く深く突き刺さる。
つまり……
それって……
今まで俺がフラれてきた……
本当の理由が……
「身長とか関係なく、俺に……男としての魅力が………な゛ぃ゛から゛…………だぁ……」
あ゛あ゛ぁうぁ゛…………そりゃ、そうだよなあ……
今までの俺の生き様を振り返ってみても……俺がモテるようになる要素は……皆無だもん……
ドレスローザでは日々下着を盗んで回ってヘラヘラしていた。
花畑の世話だってよくサボっては親友に迷惑かけていた。
国の王女であるヴィオラにも、その専属の侍女であるモネにもセクハラしていた。
俺の事を兄と呼んで慕ってくれたエスネにもセクハラしていた。
そんでこの国では女の子達が無知である事をいいことにセクハラ三昧……
こんな俺の事を、誰が好きになってくれるというんだ……
「……う……ううぅ……何やってんだろ……死ねよ、俺……」
下の階から、ルフィや女の子達の楽しそうな声が響きわたってくる。
誰もいなくなった、だだっ広い部屋の中で、どんちゃん騒ぎの声を聞きながら、俺は一人、涙をこぼし続けた。
前回、前々回と、下ネタまみれだった理由は、今回のお話でラインくんがメタメタにされる為の布石だったんですねぇ〜。
嘘です!
僕がただ書きたかっただけです! ふはは!