デカデカの実を求めて!   作:ナットーごはん

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ライン死す

 少し、昔話をしようか。

 

 今から約8年前……

 俺がデカデカの実を求めてドレスローザを旅立ってすぐの話だ。

 

 ドレスローザの王様であるリク王……つまりはヴィオラの父ちゃんが、お金欲しさに軍隊を使って国民たちに襲い掛かるという事件が発生した。

 狂乱に堕ちた国王は、次々と人々に襲い掛かり、斬り、撃ち、刺し、燃やし……ドレスローザを一夜にして恐怖のズンドコに叩き落としたという……

 

 そんなリク王の蛮行を止めたのが王下七武海の一角、ドンキホーテ・ドフラミンゴである。

 ドレスローザを救ったドフラミンゴは英雄として祭り上げられ、そのままドレスローザの新たな王様になったという。

 

 ……この話を聞いて、どう思っただろうか?

 

 多くの者は、ドレスローザは昔から貧乏国家だったからな〜、リク王はお金に目が眩んでしまったのか〜とか……

 ドフラミンゴかっこいいな〜、正義の味方じゃん! とか……

 そんな感想を抱くのだろう。

 

 だけどリク王の人柄を知ってる俺からすると、ちょっと……いや、だいぶ引っかかる。

 あの王様(おっさん)は良い意味でも悪い意味でも自らの懐を肥やそうとはしない。

 むしろ「金などいらないから戦いだけは避けなくては!」とか、そんな事を言い出すタイプなのだ。そんなリク王が金品欲しさに強盗を働いたとか、違和感バリバリである。

 

 仮にリク王の蛮行が事実だったとして……

 見計らったかのようなタイミングで現れたドフラミンゴの存在もすこぶる怪しい。

 な〜んとなくきな臭さを感じてしまうのだ。

 

「……」

 

 だからこそ俺は自分の船、リストラック号に乗って、ドレスローザへ一時帰還しようと考えていた。

 故郷に戻って、あの日、あの時、何が起こったのか、真実が知りたくて……

 

 

 

 

 

 

 

「フッフッフ……」

 

 だけど……

 ドレスローザに帰還する必要はなかったな……!

 何故なら今俺の目の前には、故郷で何が起こったのか、その真実を知る男がいるのだから……!

 

「お前が……ドフラミンゴかぁあ!!」

 

「フッフ……ん? なんだ、お前……?」

 

 白ひげVS海軍VS七武海という……世界最大の大戦争の真っ只中で、ただ一人笑みを浮かべながら空中にぷかぷか浮かんでいる男……

 王下七武海の一角であり、俺の故郷の“現”国王。

 ドンキホーテ・ドフラミンゴ。

 

「ら、ラインさん、どうしたんじゃ? 急に血相を変えて」

 

 ドフラミンゴを前に、突然足を止めた俺にジンベエが不思議そうに声をかけてくる。うん……分かるよ。

 今は頂上戦争の真っ最中。あちこちで殺し合いが起こってる。本気で助かりたいのなら、こんな奴は無視して、一目散に逃げ出してしまうのが賢い選択肢なのだろう。

 

 だけど………………ああっ! くそ!

 俺はドフラミンゴを前に、逃げ出す選択肢がとれなかった。

 黒ひげ相手に逃げ出せなかったエースに、偉そうな事はもう言えないな……

 

「……ジンベエ、お前、足は怪我してないよな? 歩ける?」

「あ、ああ……大丈夫じゃが……」

「なら、アーロン連れて、先行ってて……」

「えっ!?」

 

 背負っていたジンベエを下ろし、氷漬けとなっているアーロンを押し付け、俺は空を飛んでるドフラミンゴ目掛けて、勢い良く飛び上がった。

 

「しっぽコプター!!」

「ほお? 飛べるのか、小人の分際で。フッフッフ……それで? 今話題の犯罪者くん、不可視の怪盗がおれになんの用だ?」

「………」

 

 飛んできた俺に対しても、余裕の表情をまったく崩そうとしないドフラミンゴ。

 見た目は90%悪い奴なんだけど……

 もしかしたら……もしかしたら! 本当に危機的状況下にあったドレスローザを、本当に救ってくれたヒーローである可能性も0じゃない。

 俺はゴクリと生唾を飲み込む。

 

「……た、単刀直入に聞くぞドフラミンゴ…… 8年前、お金欲しさに軍隊を使って国民に襲いかかったっていうリク王……その蛮行をお前が止めたってのは本当か? 答えてくれ」

「ん? どうしてお前がそんな事──………ああ、そうか。そういう事か! フフ、フフフ……フッフッフッフッフッフッフ!」

 

 俺からの質問に、何故か大笑いし始めたドフラミンゴ。大口を開けながら「フッフッフ」。独特な笑い方だな……って、そんな事は今はどうでもいい!

 

「何がおかしい!?」

「フッフッフ……いや……おかしくはねェよ。むしろ合点がいったんだ。……モネの報告にあったトンタッタ族の男ってのは、お前の事だったんだな? 不可視の怪盗」

「………………は?」

 

 モネ?

 なんでドフラミンゴの口からモネの名前が出てくるんだ?

 

「おっと、口を滑らせちまったかな? フッフッフ……」

「ご、誤魔化すんじゃない! モネがどうした!? それにドレスローザについても答えてもらってないぞ! 答えろよ!」

「ああ、答えてやるとも……ドレスローザは何の問題もない。今も昔も平和な国だよ。これからも永遠にな……フフフフ……」

「嘘をつけぇいッ!!」

 

 どう見ても本当の事を言ってる奴の顔じゃねーだろそれ!! 信じて欲しかったらせめてグラサン外せ! それのせいで怪しさ抜群なんだよ!

 

「……ほう? 疑うのか? フッフッフッフ! モネの報告にあった通りだ……! すぐに人を信じる小人族の中で、唯一疑り深い性格をしている男……それがお前か、ライン」

「!? だ、だから何でモネの名前が出てくるんだよ! ……ま、まさかお前、モネに何かしたんじゃねぇだろうな!?」

「フフフ……安心しろ。おれはモネに何もしちゃあいないさ……むしろ逆だよ」

「逆?」

「モネ “が” お前たちに何かしたんだ……」

「???」

 

 モネが? 俺たちに? 何かした?

 ………どういう事だ?

 

「分からねェか? フフ……じゃあハッキリ言ってやろう。モネはな、おれがドレスローザを支配する為に送り込んだスパイだ

「………は?」

 

 す ぱ い?

 スパイって……スパイ? モネが? ドフラミンゴの? ドレスローザを支配する為? は? いやいやいや、何を言ってるんだ、こいつは……

 

「フッフッフッフ……!」

「お、俺は他のトンタッタ族とは違うぞ!! そんな分かりやすい嘘! 騙されるもんか!! アホ!」

「残念ながらこれは嘘じゃあない。王女専属の侍女として、2年もかけて王宮に潜入していたスパイ……それがモネの正体さ……」

「嘘だッ!」

「モネのお陰でドレスローザの間取り、戦力、人口……その全てはおれに筒抜けだった…… 不可視の怪盗、お前の情報だって送られてきてたぞ? ドレスローザにいた頃は下着ドロばかりしてたらしいなァ?」

「……ッ!?」

 

 な、なんで……! ドレスローザにいた頃の俺を知ってるんだ……こいつ……!

 ドフラミンゴがドレスローザに来たのは、俺が旅立った後のはずだろ? そ、それなのになんで知ってる!? 過去の俺を……

 ま、まさか……本当にモネが……

 

「ち、違う! 違う違う違う!! モネは……モネはスパイなんかじゃないッ! あいつは……あいつは……!!」

「ドレポリーとかいう自作のすごろくゲームでよく一緒に遊んだんだってなァ? ずいぶんと楽しそうじゃねェか。フッフッフッフ……」

「〜〜〜ッッッ!!?」

 

 そ、れは……!!

 ヴィオラかモネかレオしか知らない情報……!?

 

「モネはうちの海賊団(ファミリー)の優秀な諜報員さ。ものの見事にお前らの信用を勝ち取ってくれた」

「…………う……そ……だ……」

「フッフッフ……モネがくれた情報の中でも、トンタッタ族の情報は実に有意義だったな……」

「え……えっ!?」

「小さく、俊敏で、馬鹿力。ありとあらゆる植物を育ててしまえる手腕……そして何より、どんな馬鹿げた嘘でも信じてしまうというその生態……フフフ! 奴隷として、これほど利用しやすい種族も他にいるまい……?」

 

 ど……れい?

 

「がッッ!? があ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーッッッ!!!? 貴様ぁあ!! レオたちに何をしたァああああァあ!!!」

 

 勢いそのまま、俺はドフラミンゴに殴り掛かった。しかし俺の拳はスルリとかわされてしまう。

 

「フッフッフッフ……こえーこえー。しかし動きが単調だな。どうして政府はお前なんかの首に10億もの金額をかけたのか……おれには理解不能だよ。弾糸(タマイト)!」

「ぐが……ッ!?」

 

 ドフラミンゴの指先から、銃弾? みたいなモノが飛び出してきて俺の腹部を突いた。いっでぇ……!!

 

「フフフ、どうした? まるで壊れたプロペラのオモチャのようだ」

「うぐ……ぐぬっ! あ゛っ!? こ、このやろ……がはっ!? い゛……! ぎぃ゛……ッ!」

 

 痛い! 痛い! 痛い! ヤバイ……全弾命中……

 未来視が使えない……見聞色が乱れてる……!

 ドレスローザの現状を知らされたせいで、心が乱れたからだ……!

 落ち着け! 冷静でないと見聞色は発動しない! 落ち着くんだ俺……!

 

「はぁはぁはぁ……!」

 

 とりあえず空中戦じゃ勝ち目はない。しっぽコプターを解除して、俺は地面へと下り立った。

 

弾糸(タマイト)!」

 

「っと! ふっ! たっ! も、もう当たらねぇよ、そんな遅い弾! はぁはぁ……っ!」

 

「ほお……?」

 

 奴の指先に意識を集中していれば、多少見聞色が乱れていてもあの攻撃はかわせる。

 落ち着け、落ち着け……

 とりあえず未来視が使えるようになるまで、なんとか心を落ち着かせないと……

 

「フッフッフ……腐っても小人って訳か。そのスピードとその小ささ……本気で逃げ回られたら確かに当てるのは難しそうだ。……なら、この攻撃はどうだ? 海原白波(エバーホワイト)!」

 

「えっ!?」

 

 ドフラミンゴが右手を真下に向けた……そう思った次の瞬間、地面が……糸になった。

 はっ!? どゆこと!? やべ、足が沈む。飲み込まれる!

 

「おぼぼぼほぼ……!!」

「ラインさん!」

「ぶはっ!? じ、ジンベエ!」

 

 糸に引き込まれかけた俺を、ジンベエがグイッと引っ張り上げてくれた。

 

「ラインさん、ドフラミンゴはイトイトの実の能力者で覚醒者じゃ! あらゆる無機物を糸に変えられる!」

「い、イトイトの実? なんか昔、悪魔の実図鑑でそんな名前の実を見た事あるようなないような……って、ジンベエ! お前まだ逃げてなかったのかよ!」

「当然じゃ。ラインさんを置いては逃げられん!」

「そりゃどーも! アーロンはどうした?」

「海に投げ捨ててきた」

「おいおい……」

 

 大丈夫かよ、アーロン。

 ……まあ魚人だし、大丈夫か。とりあえず「助けてくれてありがとう」とジンベエに言っておく。

 

「フッフッフ……おいおいジンベエ……七武海ともあろうお前が、何でそんなちんけな小人風情に従ってるんだ?」

 

「ドフラミンゴ!! お前にゃ分からんじゃろうな! ラインさんはいずれ……魚人族の未来を変えてくれる男じゃ!!」

 

「小人が? 魚人族を? フッフッフッフッフ!! 笑わせてくれるなジンベエ……! 小人ごときに変えられる未来がある訳ないだろう」

 

「………」

 

 ジンベエは何でこんなにも俺の事を信じてくれているんだろう? そういや最初に会った時から言ってたな。俺は魚人族の救世主だって……

 奴隷たちを救い出したからか? それにしては大げさな物言いな気がする……

 まあ、考えるだけ無駄か。

 

 今はとにかく! 目の前の敵に集中しないと! 俺は尻尾に武装色の覇気を込める。

 

「我流・トンタッタコンバット! しっぽ──」

「魚人空手! 五千枚瓦──」

 

 ジンベエと一緒にジャンプして、ドフラミンゴへ襲い掛かる。

 しかし……

 

「フッフッフッフ……ジンベエ、お前は憐れな男だよ。不可視の怪盗、お前もな……寄生糸(パラサイト)!」

 

「う……っ!?」

「は……!?」

 

 ビキッと……急に全身が動かなくなった。

 

「は? な、なんだこれ? 動けない……! じ、ジンベエ! お前もか?」

「まずい……ドフラミンゴにはこれがあった! ……ら、ラインさん! 頼む! 今すぐ逃げてくれ! わしから離れてくれ──」

「えっ? なに──ガハッ!!?」

 

 体が全く動かない状態で、急に殴られた。

 ジンベエに。顔を思いっきり……

 

「お……ごごご……ごへぁ……」

「うおおお!! やめろ! やめるんじゃドフラミンゴォオ!!」

 

「フッフッフッフ……そんなにその小人が好きなら、お前のその手でトドメをささせてやるよジンベエ……! フフフフフフ……!」

 

「やめろぉお!! ドフラミンゴぉお!!」

 

 見るとジンベエは目に大量の涙を浮かべていた。グイッと拳を引き絞り、そのまま俺に向けて拳を振り下ろしてくる。

 

「ぴぎゃ……っ!?」

 

 なすすべなく、殴り潰される俺……

 何だ? 何が起こってんだ? 今……

 

「フフフフ……ジンベエ、せめてお前が手負いじゃなかったら操られずにすんだかもしれないのにな……! フッフッフ!」

 

 操られ……? え?

 てことは今、俺もジンベエも、ドフラミンゴに体を操られてるって事か? これ……

 

「……ッ!!」

 

 瞬間、俺はゾッとした。だって、それって、つまり……!!

 

「ど、ドフラミ゛ンゴぉ……げふっ……!」

 

「フフフ、どうした? 不可視の怪盗」

 

「り、リク王が! ドレスローザ国民に襲い掛かったってのは! はぁはぁ……! まさか! ぜんぶ! お、お前のしわざだったのかァ!?」

 

「流石に気付いたか。フッフッフッフ! そうだ! 全てはおれの手のひらの上で起きた事だ。マヌケな国民共は誰一人として気が付かない! 自分たちを襲った王が、実はおれに操られてただけなんてなァ! フッフッフッフッフッフ!!」

 

「ど、どこまでクズ野郎だ!! てめぇええ!!」

 

 俺は、自分の血管の切れる音を聞いた。分かった……今分かった……!

 こいつこそが諸悪の根源だ! こいつを倒さないと、故郷に、ドレスローザに平和は訪れない。何としてでも倒さないといけない相手だ! こいつだけは!!

 

「ぐッッ!! ギギギィギィイイ〜〜!!!」

 

 こんな奴に体の自由を奪われてたまるか!

 全身の筋肉に力を込める! なんとしてでもこのパラサイトって技から抜け出すんだ! いいように扱われてたまるか!

 そう思って、ふんばっていた、その時だった……

 

「フッフッフ……そうだ不可視の怪盗。もののついでに教えてやるよ。お前が懇意にしていた……ヴィオラ王女がどうなったかについても……」

 

「!!! ゔぃ、ヴィオラ……!?」

 

「そうだ。フフフ……どうなったと思う? あの麗しのお姫様……フフフフフフ!」

 

「ド……フラミンゴォ!! お前!! まさか!! ヴィオラにまで何かしたってのか!? ふ ざ け ろ!!! そんなの!! いよいよもって許さな──」

 

「死んだよ」

 

 

 

 

 

 ─────────あぁ?

 

 

 

 

 

 

 死ん…………死? は?

 ヴィオラ……が? あ? え? んぇ???

 

 

 

「フッフッフ……おれもな、本来なら殺すつもりはなかったんだ。

 

 ギロギロの能力には利用価値があったからな。ヴィオラ王女については、人質でも取って、海賊団(ファミリー)に迎え入れてやろうと考えていた……

 

 ……しかし、国を乗っ取られてよほど絶望したんだろうな。フフフ……ヴィオラ王女は海に飛び降りての入水自殺をしたんだ。

 

 死体は上がっていないが、ヴィオラ王女は能力者。まず間違いなく死んでいる……

 

 まったく勿体無ェ話だよなァ? あれだけの美人だ。生きていたんなら、一度くらい抱いてやってもよかったってのに、死んじまうなんてな!

 

 フフ、フフフフ、フッフッフッフッフッフッフ!!」

 

 

 

 なに……を、言ってんだ……こいつ?

 

 ヴィオラ……が、死ん…………死……死んだ?

 

 は?

 

 じゃあ、アイツトハ……モウアエナイ? ニドト……? ニドトッ??

 ヴィオラ…… ヴィオラガ…… ヴィ

 

「ヴィ………ォ…ッ が…… あ゛ッ!!? あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

 

 

「ラインさん!!? お、落ち着け! 気をしっかり持つんじゃ!! ドフラミンゴの話なんかに耳を貸すんじゃない!! ラインさん!!」

 

 ああああああああ……

 あああ……ああ……

 あ、ああ、あああああああ……

 あああああああーー

 

「フッフッフッフ……なんだ? 寄生糸(パラサイト)が解けちまった。意識を失ったのか? 10億の賞金首のクセに、脆い精神力だな」

 

 ああ……あああ……

 ヴィオラ……ヴィオラ……ヴィオラ……ヴィオラぁぁ…………

 全身がふらふらする。頭がガンガンする。気分が悪い。胃酸がこみ上げる。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

 

 前に、アーロンの過去話を聞かされた時……

 

【自分がもしもナミの立場だったら……故郷を支配され、大事な人を殺された側だったなら……俺はぜっっっったいに犯人の事を許せないと思う。それこそフィッシャー・タイガーを殺されたアーロンのように、復讐の鬼になってしまうんじゃないだろうか】

 

 ……って、そんな風に考えていた。

 

 だけど、実際故郷を支配されて……大事な人を殺された今……

 復讐なんて、考えられなかった……

 ただただ辛くて、悲しくて、涙が止まらなくて……何も出来ない……何も……

 

「あ゛あ゛……あ゛あ゛……あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛……ご、ごが……ッ ゲボッ……!!」

 

 叫びすぎて、喉が破けたらしい。口から血が出た……胃液もボタボタ落ちている。

 今、自分が息を吸ってるのか吐いてるのかも分からない……手足が震える……俺は今、どうなってる……? どうしてる……?

 

「フッフッフッフ……せめてもの情けだ。おれがヴィオラ王女と同じ場所に送ってやるよ……」

 

 ドフラミンゴの指先から、光る5本の糸が出現した……

 見聞色を使わなくても分かる……あれは、俺を斬り刻む為の糸だ……

 避けないと殺される……でも、足が動かない……死にかけの子鹿のように、ぷるっぷるだ……

 

五色糸(ゴシキート)!」

「させるかァア!!」ドンッ!!

 

 今まさに、斬り刻まれそうになった俺の前に、ジンベエが飛び出してきて、俺を庇った。

 

「ぐ、ぬ……ゥゥ……!!」

「自力で寄生糸(パラサイト)から抜け出したか。流石だな、フッフッフ。それにしても、どうしてまだそいつを庇う? ジンベエ」

「い、インペルダウンのレベル6で、ラインさんに救い出された時から、わしはもうこの人に命を捧げると誓ったんじゃ……!!」

「泣かせる忠誠心だねェ……フッフッフッフ……」

「ラインさん! ドフラミンゴはわしが食い止めておく! だから今は、今だけは何も考えずこの場から逃げてくれ!! 頼む!!」

 

「……」

 

 逃げる? 逃げたところで……どうだというのだ?

 モネは裏切り者だったし、ヴィオラは死んだ……

 生きる希望が……わいてこない……

 

「……」

 

 ヴィオラと同じ場所に送ってくれるというのなら……

 このまま身を任せても……いいんじゃないかな……?

 

 そんな風に考え始めた、その時だった。

 

 

「ライン……」

 

 

 ……不意に、ヴィオラの姿が頭の中に浮かんだ気がした。前もこんな事、あったな……

 

 俺の頭の中に浮かんだヴィオラは、8年前、最後に見たあの時の姿と比べて、ちょっぴり成長していた。

 短かった髪の毛は長くなってて、おっぱいもさらに大きくなってる。

 

 ……これは……妄想?

 

 もしもヴィオラが生きていたら、こんな感じになってるだろなっていう……俺の妄想かな……

 それとも、まだ生きてるのか? ヴィオラ?

 分かんない……

 

 分かんないけど……!

 

「ぐ、ぅ゛ぅう゛ぅ……!! う゛ぅ゛〜……!!」

 

 俺はゆっくりと立ち上がる。

 喉が裂け、全身傷だらけで、心も痛い。だけど、それでも……

 

(俺はまだ、お前の死体を、直接この目で確認した訳じゃ、ないから……! ヴィオラ……! 諦めたくない……!)

 

 ふらふらと、歩き始めた、その時──

 

 

 

「何をいっちょ前に、生き残ろうとしとるんじゃ」

「!!!」

 

 

 ──俺の前に、赤犬(しにがみ)が現れた。

 

 

 あれ? なんで、赤犬が、ここに?

 ルフィとエースの方を追いかけてたんじゃなかったっけ? なんで、俺の目の前にいるの? なんで?

 

「不可視の怪盗……おどれのせいで、火拳のエースにも、ドラゴンの息子にも、逃げられてしもうたわ……!!」

「……」

 

 どうやらエースとルフィは無事赤犬の追跡を振り切れたらしい。

 白ひげ海賊団のサポートのお陰かな。ふへへ……

 

「お陰で海軍の面子は丸潰れじゃ。……ならばせめて、元凶であるお前の首だけは、何がなんでも()っとかんとのう……!!」

 

 ゴポッゴポッと赤犬の右腕がマグマに変形していく。

 

「………」

 

 右を見る。ジンベエとドフラミンゴが戦っている。

 左を見る。白ひげと黄猿と青キジが戦っている。

 ルフィ、エース、オカマ軍団、その他白ひげ海賊団のメンバーは……今見える場所にはいない。

 ……つまり、俺を助けてくれる者は誰もいない。

 

(ふへへ……詰み……かな……)

 

 思い返せば、よくここまで生き残れた方だよな……俺……

 

「言い残す事はあるかァ……!!?」

 

 マグマの拳を振りかぶりながら、赤犬が言う。

 言い残した事か……いっぱいあるなぁ……ヴィオラに、モネに、エスネに……

 あと、レオ、マンシェリー、レイさん、シャッキー、マーガレット、デンスケにも……思えば色んな人に助けられてきたんだなぁ俺は。

 ありがとうって言いたい。だけど喉が裂けちゃってるから、何も言い残せない……

 

「無いようじゃのう……冥狗(めいごう)!!」

「!!」

 

 マグマの掌……すなわち『死』が迫ってくる。

 

「……」

 

 見聞色はもはや機能していない。

 武装色も……俺程度のレベルでは、赤犬の攻撃をガードする事はできないだろう。

 死ぬ……死ぬ……死ぬ……そして──

 

「…………ッ!!! ご ば ……!!!」

 

 俺は、マグマの手に、飲み込まれた。

 

「───……」

 

 全てを焼き尽くす灼熱のマグマ。

 熱いし苦しい……分かってはいた事だけど、これは死ぬ……赤犬も勝ちを確信したのだろう。ニヤリと笑みを浮かべている。

 ああ……でも、ふへへ……! どうせ死ぬんなら、最後っ屁だ……!

 

「──────ッッッ!!!!」

 

 ブヂィイイッッ!!!

 

「ぐおおおおおおおおおおおおッ!!??」

 

 俺は、残った全覇気を込めて、赤犬の右腕を、ちぎりとってやった!!

 

「が!? ご……!!! お、おんどれ!!! 不可視の怪盗ォ!!!」

 

 ふへへ……いくら自然(ロギア)の能力者とはいえ……

 武装色を込めて……つまりは実体をとらえながら引きちぎってやったのだ。再生は出来ないだろう。

 勝ちを確信して油断したな。ざまみろ。ふへへへへ……!

 

「………………!! ……! …………ッ」

 

 ああ、だけど……

 今のが正真正銘、最後の力だったらしい。

 全身が痺れ、焦げ付き、命が消えていく、そんな感覚がする……

 

 これは昔、一度だけ体験した事があるな……

 前世の記憶だ。雷にうたれて、死んだ、あの時と同じ感覚……

 じゃあもうダメだ。助からない。俺は死ぬんだ……

 さよなら、俺の第二の人生……いや、小人生……

 

 次生まれ変わったら、今度こそ高身長イケメンになりたいな…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………いや、チビでもいいか。

 

 

 

 

 チビで、小人のままでもいい……だから……

 次生まれ変わった時にはどうか……

 大好きな皆を、守れるだけの力を……

 俺にください……お願いします……

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな事を考えながら、俺は息を引き取った……

 

 

 




ご愛読ありがとうございました。
ナットーごはん先生の次回作にご期待下さい。
感想、高評価、いただけると嬉しいです。
それではまた!


    ……次話でお会いしましょう!
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