デカデカの実を求めて!   作:ナットーごはん

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ヴィオラ視点

 誰にも話した事はないけれど、私は幼い頃、軽い人間不信に陥っていた……そんな時代がある。

 原因は悪魔の実の能力者となってしまった事である。

 

 もう覚えてもいないくらい小さい頃、私はギロギロの実という、人の心が読めるようになる悪魔の実を食べてしまった。

 人の心が読めるなんて、凄く便利な能力じゃないかと思われるかもしれないが……

 当時の私はまだ能力の制御が上手く出来なくて、見たくもない人の心までもを強制的に見させられていた。

 

『あいつ、分隊長だからって調子乗りやがって。靴の中にゴミ入れといてやろう……!』

 

『はぁ、将来出世する為とはいえ、なんで俺がこんなクソガキの面倒見なきゃいけねーんだよ……』

 

『アタシの料理に文句言いやがって……そんな奴の飯はこうだ! ざまぁみろ!』

 

 優しいと思っていたお城の兵士さん……彼は実は他の兵士さんにこっそり嫌がらせをするような人間だった……

 子供好きで面倒見が良いと思われていた執事さんは、内心では私の事を面倒くさいクソガキだと思っていた……

 いつも美味しい食事を作ってくれる食堂のおばさんは、嫌いな人の食事に鼻クソを入れるような人間だった……

 

(もう、人の心なんて……みたくないよ……)

 

 そんな感じで、私が人間不信に陥りかけていた、そんな時だった。

 私がラインと出会ったのは。

 

「おっす! お前が第二王女のヴィオラか。俺はライン。しくよろな!」

「………」

 

 小さい……

 それが私のラインへの第一印象だった。お父様やお姉様から、この国に住む小人(トンタッタ)の話は聞いていたし、それが嘘でない事も心を覗いて知っていた……

 だけど生まれて初めて見た小人は、やっぱり物珍しい。そう思った。

 

「どうした? そんなジッと見つめて」

 

 そういえばお父様が、トンタッタという種族は誰よりも純粋で、汚れの無い心を持った種族だと……そう言っていた。だけど私はお父様のその言葉を信用してはいなかった。

 へらへらした笑顔を浮かべているように見えて、どうせこの人も心の中は汚いはず……!

 ギロリと能力を発動させて私はラインの心の中を覗き見た。すると──

 

(!!?? ふ……ふしだらなっ!!!)

 

 ラインの頭の中は、あまりにもピンク色過ぎた……

 

 エッチな妄想をしている人は他にも何人か見た事があるけれど、それでもライン程明確にしっかりハッキリと細部まで考え込んでいる人は初めてだった。

 

 ラインの脳内では、ラインはとても高身長な人間の男性の姿をしていた。……自分の事を美化し過ぎである。

 高身長ラインは、彼の妄想内にて、とてもセクシーな女の人を情熱的に口説いている。見てるこっちが恥ずかしくなるような甘い言葉をペラペラと……

 女の人を口説き落としたラインは、その人とデートをする。手を握り、キスをして、抱き合って、アレをアレして、ソレをソレして……チョメチョメチョメチョメッ!!!!

 

「いやぁあぁああーーっ!!」

「? どした?」

 

 どしたじゃない! なんて事を考えているんだ! この小人は!!

 当時まだ6才だった私にとって、ラインの脳内はあまりにも刺激が強過ぎた。……というか、私が6才だったって事はその時のラインの年齢はまだ2才だ。

 2才の癖にどうしてそんなにもふしだらな妄想を繰り広げられるの!?

 

「お、男の人のアレが……ああなって、そうなって……それでそれで……ッ!!!!」

 

 とにかく、当時の私はラインの頭の中を覗いてしまった衝撃で、人間不信とかそういう感情が全部一気に吹っ飛んでしまった。

 世界観が引っくり返ったとも言える。

 私という人間、その人格を捻じ曲げた者がいるのだとすれば、それは間違いなくラインだろう。

 

「う、ううぅ〜! ふしだら! ふしだら! ふしだら〜!!」

「うわっ、なんだよ急に、叩くなよ」

 

 エッチな事はいけない事……それは知っている。だけど気になってしまう……子供心ってそんなもの。

 それから私は、ラインと会う度に彼のふしだらな脳内を見させられた。……というより率先して覗きまくっていた気がする……

 妄想内のラインが、あまりにも幸せそうにしているから……それを見させられた私もつい釣られて幸せな気分にさせられてしまう……それが一番の理由。

 

 ライン以外のトンタッタ族は、お父様の言っていた通り純粋で、汚れを知らない、まるでお花畑のような脳内をしていた。

 それに比べてラインの頭の中は……俗物で、エッチで、嘘つきで、だけど実は優しくて……

 見れば見る程トンタッタ族とは思えない。たぶん突然変異種なんだと思う。

 

「よーしヴィオラ! 今日のおやつ、つまみ食いに行くぞ! ついて来い!」

「おー!」

 

 そんな彼と、私はよく一緒に遊んだ。ふしだらだけど、彼の心はどこか心地が良かったから……

 お父様やお姉様以外で、ずっと一緒にいたいって、初めて思えた相手だったから……

 

 一緒に遊んで、いたずらして、お父様に見つかっては怒られてを繰り返す……

 礼拝堂にある“おしおき部屋”に、二人してしょっちゅう閉じ込められていた……

 そしたら決まってお姉様が助けに来てくれた。お腹を空かせた私達の為に、リンゴを持ってきてくれて……大丈夫? って、安心させるように、優しく微笑んでくれた。

 

 その時だったかな……

 ラインがお姉様に、恋をしたのは……

 

「ヴィオラ、お前の姉ちゃん……良い女だな! 優しくて可愛いし! 最近おっぱい大きくなってきてるのもポイント高い! グッ!」

「………」

 

 優しくて、美人で、心の中も綺麗な……私の自慢のお姉様……

 そんなお姉様に、ラインの心がどんどん奪われていくのを感じて……

 私はその時、初めて“嫉妬”という感情を覚えたんだ。

 

「好きです! 付き合ってください!!」

 

 それから数年後、ラインはお姉様に告白した。

 だけど結果は……

 

「気持ちは嬉しいけど……ごめんねライン。私は人間であなたは小人。恋愛するにはちょっと体の大きさ……身長が違い過ぎるかなって……」

「…………!!」

 

 お姉様はラインの告白を断った。

 ……そうなるとは、正直思っていた。だってお姉様はラインの事を異性としては全く見ていなかったから。

 この時のラインの年齢は6才で、お姉様は16歳。

 身長も年齢も一回り小さいラインの事を、お姉様は弟みたいな存在としてしか見ていなかった。

 

「ぐっ……! う゛……! 身長……また身長……! なんだこの、呪われた体は……うぅぅ……! 身長さえあれば……! ヂクショォ……!」

「ライン……」

 

 お姉様は出来るだけラインを傷付けないように、自分達の体の大きさ、その違いを理由にラインの告白を断った。

 だけどそれは裏目に出てしまった。

 ラインの頭の中を覗き見れる私には分かる。分かってしまう……

 普段はへらへらしていて、ふしだらな事で頭がいっぱいで、のらりくらりなラインだけど、お姉様の言葉にかつてない程傷付いてしまっている事に……

 

 ラインの脳内では、彼はいつも高身長な男性の姿をしていた。

 ずっと気にしていたのだ。自分が小人である事を、小さいって事を、凄く凄く気にしていた……

 大好きだった人にその事を理由にフラレてしまったから、ラインの心は見ているこっちが泣きたくなってしまうくらい、傷付いてしまった……

 

「……ふ、ふへへ、ま、いーや! それじゃあ次の恋愛を探しますかね〜、ふへへ〜!」

「……」

 

 それから私はラインの……いや、人の心を無闇矢鱈に覗き見る事はしなくなった。

 緊急時は別だけど、できるだけ人の心は見ない。だって、顔で笑って心で泣いてる人の姿を見るのは、とても悲しい事だから……

 

 

 それから数ヶ月後の話。

 コロシアムの英雄であるキュロスが、ドレスローザ、リク王軍の軍隊長へと任命された。

 その仕事は主にお姉様の護衛。

 

 最初こそ彼の存在を訝しげに感じていたお姉様だったけど、海賊に拐われたところを助けてもらった事で、お姉様の彼を見る目が変わった。

 お姉様はキュロス相手に恋をした。ドレスローザの女は皆情熱的……それは当然お姉様にも当てはまる。キュロス相手に過剰なまでのアプローチを仕掛けるようになったお姉様。

 それに対してキュロスは、なんとも煮え切らない態度。あえて心は覗いていないが、キュロスも絶対お姉様の事を意識している。

 ……そんなキュロスの背中を押し始めたのは、他ならぬラインであった。

 

「キュロスお前! スカーレットがお前の為に弁当作ってくれたんだぞ! 何いっちょ前に照れて断ってんだ! 食え! 食わねーなら俺が食う!」

 

「スカーレットにデートに誘われたァ?! ならつべこべ言わず行けよモゲモゲ頭! 何!? 自分は護衛の身であるから無理? 知るか! 行け! 断るな!」

 

「は? スカーレットの事を好きになってしまったかもだと? なら告白しろ! そしてフラレろ! 奇跡的に上手くいったらぶん殴ってやるから早よ行け!」

 

 そんな感じ。

 口ではぶーぶー文句言いながらも、自分を振ったお姉様の恋を……

 お姉様の幸せを……

 ラインはずっと応援していたんだ。

 

「……」

 

 その甲斐もあって……かどうかは知らないけど、お姉様とキュロスは恋仲となった。結婚しようって話になった。

 ……だけど、そんな二人の結婚を邪魔するのが“身分”である。

 

 王女であるお姉様と、コロシアムの英雄ではあるが過去殺人を犯してしまった経験のあるキュロス……

 そんな二人が結婚する為には、お姉様は王女をやめないといけなかった。

 お父様はお姉様が世間では死んだという事にしようと提案した。だけど、それに対してラインは最後の最後まで反対した……

 

「は? なんで愛し合う男女が結婚するだけなのに、そんな回りくどい事しなきゃいけねーんだよ! スカーレットを死んだ事にする!? 王宮から追い出す!? ふざけんな! スカーレットはこのモゲモゲ頭が好きだから結婚する! それでいいじゃねーか! あんた王様である前に人の親だろ!? 娘を死んだ事にするって頭おかしいんじゃねえか!?」

 

 結局、ラインの叫びもむなしく、世間の目を誤魔化す為にお姉様は病気で死んだ事となった。

 その時のラインはとても……とても辛そうな顔をしていた。

 

「……」

 

 それからお姉様はキュロス兄様と一緒に花畑で家を建てて暮らすようになった。

 王宮とは比べ物にならないくらい小さな家だけど、二人とも幸せそうだ。

 

 ……とても羨ましい。

 

 お姉様は好きな人と一緒になれたけど、ラインはなれなかったんだよ?

 今ラインは、どんな気持ちをしているんだろう?

 ギロギロの能力を使えばすぐに分かるけど、なんとなく怖くて使えていない。

 ラインにはお姉様以外の良い人を見つけてもらって、それで幸せになってもらいたい。

 

 

 ……それからさらに数年後。

 うちの王宮にモネという、私より一個年上の女の人が働きにやって来た。

 大きな丸眼鏡をしていて分かりづらいけど、凄く可愛くて綺麗な人だ。おっぱいも凄く大きいから、ラインの好みにあう人だと思った。

 

 私はお父様に頼み込んで、モネを自分の侍女にした。

 私の近くにいるという事は、ラインとも頻繁に遭遇するという事だから。

 

「おおっとぉ!? なんだこの緑髪ボインボインねーちゃんは!? こんちは! 俺の名前はライン! しくよろな!」

「え? なに? こ、小人……?!」

 

 さっそくとばかりにラインはモネに興味を持った。

 モネもラインに興味を持ったみたいだったけど……やっぱり恋愛的な意味では無理だった。

 ……と、そう思っていたんだけど……

 

 なんか最近、モネの様子がおかしい。

 

「いやぁ、モネは可愛いな〜。頭は良いし、スタイル良いし、さり気ない優しさもグッ!」

「…………!!」

 

 ラインの言葉に恥ずかしそうに口元を隠すモネ。

 彼女が照れ屋である事は、結構早い段階で判明した事実であるのだが、それを差し引いても最近のモネのラインに対する態度は少しおかしい気がする。

 

 ラインが王宮にやってくると、さり気なく自分の髪の毛を整えたり、身嗜みを整えたりしている。

 ラインの好物であるリンゴを使った料理の練習をしたりしている。

 まるで雪のようにクールな口調と表情が特徴的なモネだけど、ラインと会話している時だけは自然な感じで微笑んでいたりなど……

 

 え? と思わされる事が最近よくある。

 

 これはまさか、モネもラインの事を意識しているのでは?

 まだ一度も覗いた事はないけれど、モネの頭の中を能力で覗いてみたら、どんな事を考えているのだろう。

 もしかして本当に、ラインの事を好きになっている?

 

「…………」

 

 もしそうだとしたら、ラインは喜んでモネと恋人関係になるだろう。

 そうしたらラインはようやく幸せになれる。妄想ではない、本物の幸せを手に入れられる。それは私にとって、とても喜ばしい事のはず……なんだけど……

 

「…………」

 

 姿見の前へと、なんとなく移動する。そして鏡の中に映る自分の姿を確認する。

 客観的に見て自分は、可愛い方だとは……思う。胸の大きさも、“あの頃”とは違う。モネにもお姉様にも負けないくらいのボインボインになっている。

 ……ラインはどんな髪型の女の子が好きなんだろ? お姉様くらいの長さ? ならもっと伸ばした方が……

 

「え? いや、待って待って……」

 

 私は何を考えている? なんでライン好みの女の子に、私がなろうとしているんだ?

 待って待って。本当に待って。相手はラインだ。そういうのじゃない。違うったら。やめて。好きじゃない。好き、じゃ……な……ン゛ン゛ン゛! 違うって!

 

「はぁはぁはぁ……! 私は、ラインの事を………………………………………………………………………………………………どう……思ってるんだろ……」

 

 鏡の中にいる自分の目を見る。

 ギロギロの能力を使っても、自分の心は覗き見れなかった。

 

 

 

 

 

 

 そして現在……

 

 私は今、モネと共に、レオからラインが悪魔の実を求めて海へと旅立った事を聞かされていた。

 

「う……そ……」

「嘘じゃないれす。ヴィオラ様」

 

 ラインがこの国を出て行った。

 ラインがいなくなった。

 それは本当か? 嘘じゃないか? 思わずノーモーションでレオの脳内を覗き見るも、嘘ではないという事実が私の脳へと叩き付けられる。

 

「そんな……」

 

 思わずガクリと腰が抜けて、私はその場で膝を突いた。

 なんだこの喪失感は? ラインがいない。毎日この王宮に遊びに来てくれていたラインが……

 もう来てくれない。どこか遠くへ行ってしまった……

 私を置いて……

 

「これ、ヴィオラ様とモネさん宛に、ラインが渡してくれって言ってた手紙れす」

「!!」

 

 私は半ばひったくるようにレオから手紙を受け取ると、震える指先でそれを開いた。

 モネも私の後ろから、手紙を覗き込んできている。

 

『ヴィオラ&モネへ。突然だけど俺は旅に出る。デカデカの実っていう、巨大化出来るようになる悪魔の実があるっていうのを知ったからさ。何年かかるか分からないけど、俺はかならずデカデカの実を探し出して、誰よりもデッカい男になって帰ってくるよ。だからしばらくは戻れないけど、まあ心配すんな。こっちはこっちで元気でやっとくから、そっちも精々元気でやっとけー。ヴィオラはお姫様業務、しっかり頑張れ〜。だけど頑張り過ぎるな〜。モネは侍女として、しっかり王女様を守ってやってくれな。だけど自分の事もちゃんとしっかり大事にしろよ。お前らには他にも色々言いたい事はあるけど、ちょいと照れくさいから帰ってきた時に話す事にする。それじゃまた!

 P.S. 俺が帰って来たとき、お前らのどっちか、あるいはどっちもまだ独り身だった時、そんときゃ俺とデートしてください』

 

 手紙を読んだ私は、思わずくすりと笑ってしまった。

 

「……ほんと、ラインらしい、自分勝手な手紙ね……二人同時にデートに誘うって……ふふ……」

 

 ぽろぽろと涙が溢れてくるから、私は今きっと物凄い大笑いをしているのだろう。そうは見えなくても、きっとそうなのだ。

 

(ちゃんと私の事、女の子として、見てくれてたんだ……)

 

 手紙を胸に抱く。ギュッと抱き締める。

 そうしてから手紙はモネに渡した。これは私だけでなく、彼女にも宛てられた手紙だから。

 

「ねぇ、モネ」

「…………なんですか。ヴィオラ王女……」

「アテウーマ国の王子から、縁談の話が来てるって、この前お父様が言っていたわよね」

「……はい」

「それ、破談にしちゃってもいいかしら?」

「……もしもラインがここにいたなら、ヴィオラ王女の好きにしろって……言うんじゃないかと……」

「フフッ」

 

 本当に言いそうだなって、思わず笑ってしまった。

 いいよ、ライン。私も貴方に言いたい事が出来ちゃったから、その時まで独り身でいてあげる。

 

 だから何年かかっても、ちゃんと帰ってきてね……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 三日後、ドレスローザがドフラミンゴファミリーの手に落ちる事を、今の私はまだ知らない。

 

 

 




次話、金曜日更新予定。
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