“元”王下七武海。ゲッコー・モリア……
彼は今、自身の海賊人生、その生き様についてを……まるで走馬灯のように振り返っていた。
(おれの海賊人生……一体何だったんだ……)
若い頃のモリアは、自分はだれよりも強い! どんな事でも出来る! 自分こそが海賊王になる男だと……そう信じて疑わなかった……
しかし、今から23年前……
四皇の一角、百獣のカイドウに戦争をしかけ、モリアはあっさりと敗北してしまった。
あれだけ満ち満ちていた己の過信、そして野心は、いともたやすく崩れさったのだ。
大きく名を馳せた優秀な部下たちも、全員失ってしまった……
だが、それでもモリアは諦めなかった。
「ハァハァ……! ゼェゼェ……! あ、諦めてたまるか……! 失ってたまるか……! おれを信じてついてきて、死んでいった
それからモリアは考え方を一新した。新たにスリラーバーク海賊団を立ち上げ、七武海へと就任。
生きてる仲間は必要最低限でいい……ペローナ、アブサロム、ホグバックの3人。
カゲカゲの能力を使い、影を集め、不死身のゾンビ軍団を組織する。戦闘は全てこいつらに任せよう……
既に死んでるゾンビなら、失うものは何も無い。恐れる事など何も無い。無敵で無限の兵力! これだ!
「キ〜シシシシシシ〜!! おれは! 他人の力で海賊王になる男!!」
……しかし、その考え方は所詮甘い幻想であった事をモリアは思い知る事となる……
2年前……噂のルーキー海賊団、麦わらの一味にモリアは敗北してしまったのだ。
自身の能力を利用され……しかも最後は、半ば自爆のような形で負けてしまった。
昔はコントロール出来ていたはずの力が……長年の他力本願で腕が鈍ったのか使えなくなっていた。それに気付かずの敗北。なんとも情けない……
麦わらとの戦いが終わると、次は頂上戦争だ。
しかし、ここでもモリアは良いとこ無し。良質な死体や影が手に入ると思って、喜んで参戦した戦争だったが……
「影をよこせ!!」
「ならば身長をよこせ!!」
「ブフオオーーッ!!?」
最近噂になっていた懸賞金“10億”の小人、“不可視の怪盗”ライン。
そいつに狙いを定め、影を奪ってやろうと襲いかかったはいいが……目にも留まらぬ速さでボコされた……
髪の毛も無駄に狩られ、この時点でもモリアのプライドはズタズタだった。
トドメとなったのは戦争の
「フッフッフッフ……! モリア、お前はもう七武海の称号を背負うにゃ力不足だ……」
「ガフッ……ゼェゼェ……! 貴様ァ、ドフラミンゴ……!」
突如襲いかかってきたのは同じ七武海のメンバー、ドンキホーテ・ドフラミンゴ。
なす術無く、モリアはそれに敗北してしまった。
「フフフ……政府に消されたってのより、頂上戦争で戦死したって方が格好がつくだろ? 良かったじゃねェか、ここでおれにやられて。フッフッフッフ!」
「ぐううう……ッ!!!」
モリアは……
世界政府に見限られた……
理由は力不足……
否定してやりたかったが、否定できなかった……
それだけの力が、モリアにはもう無かったから……
「畜生……!! 畜生……!!」
……
ドフラミンゴにやられた後、モリアはマリージョアへと送られた。そこでモリアに待っていたのは奴隷としての過酷な暮らし……
「さあ、とっとと荷物を運ぶんだえ! わちきの為にお前は一生働き続けるんだえ!」
「ぐ……うう……ッ! き、貴様ァ!! このおれを誰だと思ってやがる!!」
「お前が誰かなんてどうでもいいえ。元七武海だかなんだか知らんが……ただの人間がわちきに声を荒らげるとは、不愉快だえ」ドンッ ビシッ ザクッ
「ぐかッ!? あ゛ッがァ……!!」
反抗の意思を見せると、銃で撃たれ、鞭で叩かれ、槍で突かれる……
首には爆弾首輪をつけられているし、腕には海楼石の錠がハメられている……抵抗なんて出来るはずない。
「はぁはぁ……お、おのれ……!」
「反抗的な目だえ。とりあえずもう一発喰らえ」
ドンッ
「ぐあ゛……ッ」
……
奴隷として捕まってから、約半年……
「……ゼェゼェ……」
重い荷物を運ばされる。四つん這いになって背中に乗られる。意味なく暴行を受ける。
……奴隷としての惨めで陰惨な暮らしは、少しずつだが確実にモリアから生気と気力を奪い取っていった。
全身は常に傷だらけ、体型も……少し痩せてきたかもしれない。
しかし、それでも──
「ハァハァ……い、いつか……覚えてろよォ……キシシシ……」
……それでも、モリアの心が折れる事はなかった。いつか必ずこの地獄から抜け出して、こいつらに復讐を果たし、海賊王の座を手に入れてやる……!
モリアはチャンスを待ち続けた。
そして──
「……モリア様! ……モリア様!」
「!!」
「モリア様、聞こえてるか? おいらだ! 助けに来たぜ!」
「この声は……アブサロムかッ!?」
「ガルルル、そうだぜ!」
……モリアの仲間であるアブサロムが、スケスケの能力を使ってマリージョアまで助けに来てくれたのだ。
なんという忠誠心。モリアは感激した。
「キシ……キシシシ……! ありがてェ! さあ、アブサロム! 今すぐおれを助けろ!」
「勿論だ! モリア様。鍵を盗ってきたからこれで……」
ようやくこの地獄から抜け出せる。モリアはそう思ったしかし──
「一人で何を喋ってる? うるさいえ」
ドンッ
天竜人が……
モリアに向けて……
銃を発砲した。そしてあろうことかその銃弾は……
「がは……ッ!?」
……アブサロムに当たってしまった。
「うゥぐぅあああッ!! い、いでェえ!!」
「あ、アブサロムッ!!?」
「ん〜〜? なんだえ? こいつ〜? いつの間に我が家に入り込んだ?」
スケスケの能力は姿は消せても実体が消える訳ではない。つまり弾は命中する。
痛みのショックか、能力が解除され、アブサロムの姿が見えてしまった。足から血を流してうずくまっている。
「あ、アブサロム! 立て! 今はとにかく逃げろ! 逃げてくれ!!」
「も、モリア……さま……ダメだ、動け……ね……!」
……そのままアブサロムは侵入者として捕らえられた……
マリージョアに忍び込んだ罪は重い。
アブサロムは両手両足を切断された上で、天竜人の部屋の壁に、生きたまま……まるでオブジェクトのように飾られる事となった。
本来なら死刑になるところを、喋るライオンの壁掛け置物を欲しがった天竜人により買い取られた形だ。
だからアブサロムは死んでいない……が……
「たすけ……で…………も、もう……ころ゛しで……」
「あ、アブサロムゥ……!!」
手足をもがれ、身動きの取れないまま、一生
本物の海賊にとって、“死”は脅しになりえない。しかし、まさか生かされる事が脅しになるとは……
「ぐ……ぎィい゛い゛い゛ィあ゛あ゛あ゛あ゛ッ!! テメェら! よくもアブサロムを!! ぜ、絶対にゆるさな……」
「うるさいえ」
ドンッ!!
声を荒らげる事も許されず……
モリアは銃で撃たれた。
なんだこれは? なんだこの地獄は? なんだこのザマは?
自分はだれよりも強い? どんな事でも出来る? 自分こそが海賊王になる男……?
仲間一人助けられないで……何が海賊王だ……
(うおおォ……! だ、誰か頼む……この地獄からおれ達を救ってくれェ……!! 天使でも悪魔でも誰でもいい……頼む、頼む、頼むゥ……!!)
ぼろぼろと、大粒の涙を零すモリア。
この事件がきっかけで、海賊王を目指すモリアの心は、完全に折れてしまったのだった……
・
・
・
それからさらに半年が過ぎた……つまり現在。
「………」
モリアはもう、喋る事を忘れていた。
奴隷として、ゾンビのように死んだ目で、ただひたすら従順に生き続ける。そんな毎日を送っていた。
「………」
今のモリアに出来るのは、ただ祈るだけ……
祈っても助けなんてこない事は知っているが、それくらいしかやれる事はない。
毎日祈る。心から祈る。天に……神に……助けを求め続ける。
そして──
「ぎゃあああああッ!!?」
ついに、その日はやってきた──
「な、なんなんだえ!? こいつらは!?」
「うぎゃあああ!! 来るな! 来るなァ!!」
「ひいいいい〜〜!!」
マリージョア全域で、突如として謎の“赤白植物”が大量発生したのである。
その植物は二足歩行し、大きな牙を持っていて、火を吹いたり、毒を吹いたり、鉄球を吐いたりと……
おおよそ植物としてはあり得ない生態をしていた。
いきなりわいて出てきた何千もの赤白植物たちは、次々にマリージョアの美しい街並みを破壊していき、天竜人を襲い始めた。
「う、うわああああ!!? 誰か! 誰かわちきを助けろお!! 海軍大将を呼べ! く、食われるゥう!!」
謎の赤白植物は、モリアが働いている屋敷にもやってきた。
ドアを破り、窓を割り、天井を破壊して……次々と屋敷の中へ侵入してくる。……不思議な事に、赤白植物はモリアや他の奴隷たちには一切目をくれる事なく、執拗に天竜人だけを襲い続けた。
(……な、なんなんだコイツら……? 一体マリージョアで、何が起こってるんだ?)
頭の中に「?」を浮かべ、ただただ呆然と立ち尽くすモリア。すると突然──
『ジーー。マイクテスト、マイクテスト。えっと……奴隷のみんな、きこえてる? デンスケだよ!』
「……は?」
……デンスケと名乗る、謎の女の声が、頭の中で鳴り響いたのだった。
(こ、声? 誰だ? アブサロムのような透明人間が近くにいるのか? ……いや、耳から聞こえてるんじゃない……この声、一体どこから……?)
『二へへへ、いきなりでビックリした? デンスケはね、天使なんだよ!』
「て、天使……!?」
『デンスケは天使だから、こうやってみんなの
「
辺りを見回してみると、「て、天使様?」「まさか本物?」「す、凄い……!」と、奴隷達がざわざわしているのが確認できた。
どうやらこの声はモリアを含む、マリージョアの奴隷全員へと届けられているようだ。ちなみに天竜人には聞こえてないらしい。
『ジーー。えっとね……今まりーじょわでは、パックンフラワーがてんりゅーびとをいっぱいパクパクしちゃってると思うけど……奴隷のみんなは襲われないから安心してね』
「パックンフラワー?」
恐らくは……あの赤白植物の事だろう。あれは天使がばらまいたものだったのか……
今もガジガジと天竜人に噛み付いている。
『ニヘヘ! パックンフラワーはね、奴隷のみんなを助ける為に、ご主人がとくべつに用意してくれたものなんだよ!』
「……ご主人……?」
どうやらこの声の主……デンスケには、“ご主人”とやらが存在するらしい。
『ジーー、それでね……ご主人は、まりーじょわの奴隷たちを全員助けてあげるって言ってる。良かったね、みんな!』
「「「「!!??」」」」
奴隷達を……助けてくれる? しかも全員?
「い、今の声……本当なのか?」
「私達を……助けてくれるって……」
「天使様が、我々を、お救いに……!?」
「た、助けて!! 天使様! 神様!」
「お願い……お願いじまずゥ……!!」
「こんな場所もう嫌だー!!」
助けを求める奴隷達の声が、マリージョアのあちこちで響き渡る。
『ジーー、だいじょーぶ! みんなちゃんと助けてあげる! ご主人は誰も見捨てないからね! でも、いっぺんに助ける為には……みんなに1ヶ所に集まってもらう必要があるんだ』
「1ヶ所に……集まる?」
『だからみんな! まりーじょわの中央広場にしゅーごーして! そこまで来たら、デンスケたちがみんなを逃してあげるから!』
「「「「!!!!」」」」
マリージョアの中央広場……?
そこまで行けば、この地獄から、抜け出せる……!?
『足をケガしたりとかで、自分で歩けないよ〜って人は心の中で、「0120‐助けてデンスケ〜♪」って念じてみて? そしたらデンスケと通信できるから! ご主人か、エス姉か、ペローナ姉に迎えに行ってもらうね』
どうやら天使にはご主人の他に、エス姉、ペローナ姉という仲間がいるらし……
「って、ぺ、ペローナだとォ!?」
突然出てきたペローナの名前に、モリアは目を飛び出させた。
ペローナとは、あのペローナだろうか? モリアの仲間の、あのペローナ……
分からない。
「か、確認しねェと! えっと……ね、念じる事で、天使と通信がとれるって……言ってたよな? …………」
ギュッと目を閉じ、モリアは言われた通りに念じてみた。
(ぜ、0120‐助けてデンスケ……)
すると、プルルル……プルルル……と、まるで電伝虫で電話をかけた時のようなコール音が脳内にて鳴り響いた。
しばらくして……
『ガチャ……デンスケだよー!』
(!! ……き、聞こえるか? 天使よ……)
『うん。聞こえるよ。デンスケだよ。君は誰? どこにいるの? 動けないの?』
(……)
本当に返事が返ってきた。モリアはゴクリと生唾を飲み込む。
(……お、おれの名はゲッコー・モリア。天使、お前に聞きてえ事があるんだが……お前がさっき言ってた、ペローナ姉ってのはまさか……お、おれの仲間の、ペローナの事じゃねェのか!?)
恐る恐る問いかけてみる。すると……
『ジ!? ゲッコーモリヤ!? ジ〜〜! やっと見つけた! わーい! ジジジジジ〜!』
やっと? 見つけた?
『ニヘヘ〜、それじゃあすぐにペローナ姉に知らせるね! モリヤはそこでジ〜〜ッてまってて! それじゃね〜』
「あ、おい……!」
脳内会話はそこで一方的に打ち切られた。
「……な、何だったんだ……」
よく分からないが、待てと言われたので動かずに待つ。
すると2分ほどして……
「え〜ん!! モリア様〜!! 会いたかったよ〜!!」
「!!!!」
割れた窓から、モリアの胸に向かって、ペローナが飛び込んできたのだった。
「ぺ、ペローナ! …………お前……!! キ、キシシシシ! 良かった……! よく無事だった!!!」
「それはこっちのセリフだよ! モリア様〜! ちょっと痩せた?」
「キ〜シシシシシ! 良かった! 良かったァ! それでペローナ。お前、今までどこに行ってたんだ? あの天使ってのは何者なんだ?」
「うん。うん……全部説明するね。まず、デンスケっていうのは……」
・
・
・
『ジーー、ご主人! ペローナ姉はぶじにモリヤに会えたみたいだよ!』
「お、そっか。ふへへ! 感動の再会ってやつだな」
『かんどーの最下位!』
場所はマリージョアの中央広場。
大きな噴水が設置された、とても広く、美しい外観の広場。
現在そこには、天竜人たちの元から逃げ出してきた奴隷たちが……何百、何千、何万と……ぞくぞくと集まってきていた。
「うわ〜、すっげ。……こんなに捕まってたんだな。奴隷……マリージョアに……」
『ジーー。インペルダウンの囚人よりいっぱいいるかも』
こんなに多くの奴隷達をいっぺんに集める事が出来たのも、ひとえにデンスケが能力を使って呼びかけてくれたおかげだ。
俺一人だけだったらこんな大人数……とてもじゃないが集められない。
「偉いぞ〜デンスケ。よくやった!」
『ジ……!? ニ、ニヘヘヘヘ〜♪ デンスケ、ご主人の役に立てた?』
「ああ、勿論だ! デンスケは良い子だな〜、よ〜しゃよしゃよしゃ」
『ニ〜ン♡』
デンスケの食べた悪魔の実。
天使とは人々にお告げを授け、正しき道へと導く存在……らしい。
知らんけど。
この能力の主な使い方は、他人の
つまりは、心と心を繋げるのだ。いかにも天使っぽい能力である。
心を繋げる事で、繋げた相手とは“心の中”で会話が出来るようになるんだと。テレパシーってやつだな。
『プルルル……プルルル……あ、ペローナ姉から連絡きた。ご主人、ちょっと心の中でペローナ姉とおしゃべりしてくるね。ガチャ。………………』
この能力を使ってる時のデンスケは、コール音が鳴ったり、謎番号(0120‐助けてデンスケ〜♪)に反応したりと、なんというか……電伝虫みたいになる。
……いやそもそも電伝虫だったかこいつ。
『…………………………ブツッ ツーツー……』
「……お喋り終わった? ペローナはなんて言ってた?」
『ジ! ペローナ姉はモリヤと一緒にあぶさろむを助けてからこっち戻ってくるって』
「オッケー。分かった。それじゃあデンスケは引き続き、奴隷達に呼びかけを続けて」
『ニン! りょーかい!』
この能力を使って、デンスケには奴隷達に、『逃してあげるから中央広場に集合して!』とのメッセージを飛ばしてもらった。
いきなり脳内にそんな謎の声が聞こえてきたら、「なんかの罠か!?」って、疑っちゃう人とか出てくるかもな〜って思ってたんだけど……
皆驚くほど素直に集まってくれている。
すげーなデンスケ。ミスターサタン並みに人の心掴んでるわ。
『ジーー、檻の中とか水槽の中に、閉じ込められてた奴隷達はエス姉が鍵を使ってどんどん解放していってくれてる! ……まとめてこっち連れて来れるって!』
「そかそか。エスネも頑張ってくれてるな」
皆のお陰でマリージョアの奴隷達を全員1ヶ所に集めるというミッションはなんとかクリア出来そうだ。
続いてのミッションは、海軍大将が来てしまうまでに集めた奴隷達を全員逃がす。だけど……
「はたして間に合うかどうかだな……」
俺の見聞色が、強い奴の接近をビンビンに察知している。
来るぞ、大将が……!
ヒトヒトの実、モデル天使で出来る事。
1・天使の姿に変身できる。
2・天使の翼で空を飛べる。
3・他人と自分の魂を接続する事ができる。
4・魂を接続した相手とはテレパシーで会話する事が出来る。(電話みたいな感じになるのはデンスケが電伝虫だから)
5・死体に触れた状態であれば、その死体の魂とも繋がれる。(44話の冒頭で、魂状態のラインと繋がれたのはラインの肉体に触れていたから)
6・○○○○に触れた状態であれば、○○○○の力を使いたい放題。
○○○○に当てはまる言葉、皆は分かるかな?
答え合わせは……次話!