おれの名はドクトル・ホグバック!
通称、“天才”だ! フォス!フォス!フォス! ……ちょっとだけ昔話をしようか。おれが海賊になる前の話だ。
とある病院で天才外科医として働いていたおれは、それはそれは天才だった。それはもう天才だった。世界一の天才外科医だった。おれに救えねェ命はねェ! そう思っていた。
フォスフォスフォス!
おれの名は世界中に轟き、地位も名誉も名声も……医者としての全てをおれは手に入れたんだ。
……そんなおれには昔から、長げェこと惚れ込んでいた女がいた。
舞台女優、ビクトリア・シンドリー……!
人気者だが気取りがなく、家族思いで誰にでも優しい良い女……
「はい。できましたよ先生」
「す、すまねェ……! 患者にボタンをつけて貰っちまうとは……!」
「ウフフ、いいんですよ」
彼女がおれの病院にやってきて、おれは彼女の魅力にドキドキと、自分の心臓が不整脈になるのを感じた……!
「ありがとうございます。ホグバック先生のお陰で、また元気に舞台に立つ事ができます」
「あ、ああ……」
シンドリーちゃんが退院してもなお、おれは彼女の事を忘れる事は出来なかった。
おれは意を決して
婚約者がいるってんでな……
それでもシンドリーちゃんが幸せならばと、なんとか飲み込もうとしていた矢先に飛び込んできた信じがたいニュース。
それは、舞台からの転落。ビクトリア・シンドリーの死亡事故……
「あ……あああ……あ、あ……!!!!」
おれの患者が、シンドリーちゃんが、死んだ……?
そんなはずはない。彼女は誰よりも幸せになるべき女だったんだ。おれは彼女の担当医だ。だから死ぬはずない。
死ぬはずない! 死ぬはずない! 死ぬはずない!
……彼女が転落したとき、なぜすぐにおれの元に持ってこなかった!?
そのときシンドリーちゃんの婚約者は何をやっていたんだ? ……すがりついて泣いていただけ? なんだそれ……? おれなら治せたのに! おれなら救えたのに! おれなら絶対に! 助けられたのにッッ!!!
「シンドリーちゃん……」
死んだものは生き返せねェ……
天才医師のおれに、どうしようもない現実が叩きつけられる……
何もかもがグチャグチャになっていく。足元がふわふわとおぼつかない。なんとも言えない脱力感……
そんな時でもおれの元にはひっきりなしに患者はやってきた……
『ホグバック先生!』
『父を助けて!』
『子供を助けて!』
『恋人を助けて!』
『金ならある! すぐに治療しろ!!』
シンドリーちゃんは死んだのに、シンドリーちゃんは死んだのに、シンドリーちゃんは死んだのに……
どいつもこいつも……自分勝手な連中だ……互いを押しのけ合い、天才のおれにすり寄ってくる……金ならある? なら金を寄越せ。法外な金額をふんだくってやる。……それでもおれに治療してほしいのか? 天才のおれなら誰だって救えるから? フォスフォスフォス! そうだな、お前らには無理でも、おれになら救えちまう! 何だって救える! シンドリーちゃんは死んだがな! フォスフォスフォス!
頭がおかしくなりそうだった。
「…………」
仕事はいよいよ放棄した。一番救いたかった人が頭にチラついてしまい、どうしても他の患者がまともに見られなかったんだ……
そんな時におれの元にやってきたのが、王下七武海の一角、ゲッコー・モリア様だった。
最初はまた、誰かの命を助けてくれという身勝手な依頼かと思った。だけどモリア様は言った。
「ドクトル・ホグバック。お前の力をおれに貸せ!」
「……」
「おれはカゲカゲの能力で死者の蘇生をする事ができるんだ。そのために強靭な肉体を持った死体が必要だ。お前ならどんな死体でも強靭な兵士に作り変える事ができるんだろう? キーシシシシシシシ!!」
「……!!」
死者の……蘇生?
天才のおれでも、どうにもならない、死んだ者の命を、この男ならなんとか出来るというのか?
そんな……そんな奇跡が……!
おれは急いでシンドリーちゃんが埋められている墓場へと趣き、彼女の死体を漁った。
1分でもいい、1秒でもいい……また彼女と話がしたかった。生きた彼女と、また……!
……
運ばれてきたシンドリーちゃんの死体目掛けて、モリア様はどこかしらで奪ってきた影を入れた。
すると、完全に生命活動を終えていたはずのシンドリーちゃんの目がパチリと開いた。生き返ったんだ!!
「シンドリーちゃん!!」
おれは叫んだ。
すると返ってきた返事は……
「皿なんかなくなればいい」
………………え?
結局のところ、完璧な死者の蘇生なんて、そんなものはどこにも存在しなかったのだ。
シンドリーちゃんの魂はもうここにはない。黄泉の国に旅立ってしまった。
ここにいるのは、まったく他人の
頭が再びグチャグチャになっていく感覚。
ダメだ……このままじゃ壊れる。壊れちまう。このおれの、天才的な脳ミソが壊れちまう。
脳ミソ?
…………人の意識とは、一体どこに宿るのだろう?
普通に考えたら脳ミソだろう。噂によると、ノミノミの実の脳ミソ人間というのもあるらしいし……
しかし、それじゃあ今俺の目の前にいるこのシンドリーちゃんは?
シンドリーちゃんの脳ミソは、今もシンドリーちゃんの中にある。腐りかけていたのをおれが必死で治療した。しかし、ゾンビとして生き返った今、その脳ミソは使われていない? 影という、第二の魂だけで思考している? 人の思想に必要なのは、魂? それとも脳ミソ?
分からない。わからない。ワカラナイ……
一つだけ分かるのは、今おれの目の前にいるこいつは……もはやシンドリーちゃんではないってこと……
「………………違う」
違う? 違う…… 何が違う? そうさ……違う!
シンドリーではない? いやいや、どう見てもシンドリーだ!
だって……見ろ! 動いてる! こ、これは! これは完璧な死者の蘇生なんだ!
「これはシンドリーちゃんの抜け殻なんかじゃない!!」
おれはそう思い込む事にした。
「フォスフォス……フォ〜スフォスフォスフォスフォスフォスフォスフォスフォスフォス!!!」
そうだ! シンドリーちゃんは生き返った!! モリア様の奇跡的な能力のおかげで!!
魂が替わったからってなんだ! 彼女の体はこうしてちゃんと動いている! そうさ! お、おれをフッたあんな女の魂なんて……も、もう、どうでもいいだろう!! おれはついに手に入れたんだ!
いとも簡単に服従する、おれだけのビクトリア・シンドリーを!!
「フォ〜スフォスフォス! フォス!フォス!フォス!フォス! フォ〜スフォスフォスフォス!!」
・
・
・
それから……長げェ時をスリラーバークで過ごした。
おれは自分の天才的な医術を、たくさんの死体を強靭なゾンビに改造する為に使った。
毎日毎日、既に死んでしまった奴らの肉体を、ずっとずっと、いじくり回していた。
おれだけのゾンビ、おれだけのシンドリーちゃんを、使用人に添えて……
それから……どうなったんだっけ?
上手いこと思い出せねェが、
物言わぬ死体へと逆戻りしてしまったシンドリーちゃん。だけど新たな影を入れ直す気には……どうしてもなれなかった……
「………」
それからしばらくして、モリア様は七武海としての責務を果たすために、白ひげ海賊団と海軍の戦争に参加する事となったんだ。
しかし……その戦争でモリア様は、どうやら海軍の裏切りにあって捕まってしまったらしい。
そしてあろう事かそのまま天竜人の奴隷へと落とされてしまったそうだ……
「も、モリア様が捕まっちまった!! どうする!? アブサロム!」
「ガルルル……! おいらのスケスケの能力ならきっと助けられる! 我らがご主人様を、ちょっくら助けに行ってくるぜ!」
モリア様を助ける為に、アブサロムが単身でマリージョアに乗り込みにいったが……
一週間経っても、一ヶ月経っても、半年経っても……帰ってくる事はなかった……
「……!!」
頭の中が嫌な想像で満たされていく。シンドリーちゃんの時にも経験したあの嫌な感覚。
モリア様、アブサロム……おれの手の届かない場所で大切な人が消えていく……そんな感覚……
「…………!!!」
頼む……頼むから生きていてくれ……
どんなに傷だらけでもいい。絶対に治してやるから、だからもうおれの手の届かない場所で死なないでくれ……!!
祈る事しか出来ない、弱いおれ。
シャボンディ諸島で用心棒を探す。おれの代わりにマリージョアに乗り込んでくれる“誰か”を。しかし当然ながらそんな命知らずは見つからなかった。
途方に暮れていた、そんな時だったか……
ペローナと再会できたのは。
「ペローナ! 探したぞ!」
「ほ、ホグバック! お前なんでここに!?」
「そりゃこっちのセリフだ! スリラーバークで消えたきり姿を見せないで!」
「ま、まあ色々あってな……ホロホロホロ! 何にせよ久しぶりだな〜! モリア様とアブサロムは? 一緒なんだろ?」
「…………あ、ああ……その事だがな、ペローナ……」
「ん?」
ペローナに現状を説明すると、彼女の顔色はみるみる青ざめていき、すぐにでもモリア様を助けに行くと言った。気持ちは分かる……だが、なんの策も無しに突撃するのはどう考えたって自殺行為だ。アブサロムの二の舞だ。
だけど……なら一体どうすればいい? 天才のおれでも答えは導き出せねェ……
どうしようもない絶望感が押し寄せてくる。そんな時だった──
「ふへへへへ! 話は聞かせてもらったぞ!! ペローナ! そしてドクター・エッグマンよ!」
──おそらく世界で一番有名な小人……不可視の怪盗・ラインが姿を現したのである。
って誰がドクター・エッグマンじゃ!?
・
・
・
そこからはあっという間だった。
ラインと
戦闘員ではないおれは、ついて行っても足手まといにしかならないので、ペローナ達が戻ってくるのをひたすら待つしか出来ない。
ひとまずスリラーバークへと戻り、
しばらくして──
「フォス!?」
ドサドサドサッ
「ドクトル・ホグバック……だな? 急患だ……」
「ふぁーーッ!!? く、くく、くまァ!? なぜここに!?」
七武海の一角であるバーソロミュー・くまが、モリア様、アブサロム、ペローナ……そして不可視の怪盗ラインとその仲間たちを……ニキュニキュの能力を使ってスリラーバークへと飛ばしてきたのである。
さらには巨大バナナボートに乗った多くの人たちも次々にやってきた。
驚きの中、話を聞いてみると……
なんと不可視の怪盗・ラインは、モリア様とアブサロムだけにとどまらず……マリージョアに捕まっていた奴隷達を“全て”救い出したのだという。
えええええ〜〜!!?
そんな事がありえるのか? モリア様とアブサロム……その二人だけでも信じ難い快挙なのに……
全員って……!!
「……おれもライン達に助けられた。……だから今度はおれが彼らの助けになりたい……! ラインが救い出した大勢の命を救いたい! ドクトル・ホグバック……力を貸してくれ……!」
「!!」
マリージョアから逃げてきた多くの奴隷達。五体満足の者もいれば、大きな傷を負っている者もたくさんいる。
骨が折られている者、全身をメッタ刺しにされている者、目玉をえぐられてる者、出血多量で今すぐにでも死んでしまいそうな者……
そんな重傷者がたくさんだ。……アブサロムも両手両足を切断されていた……
……だけど、まだ生きてる……!!
そうだ! 生きてる! 死んでいない! なら救える! まだ救える命がおれの手の届く場所にいる!
ライン達は皆を救い出してくれた! なら! あとは天才的な医術を持つ、おれの
「フォスフォスフォス! 任せろ! ぜってェ助けてやるからな……!! 舐めんなよ天才を!!!」
重傷者から順番に、不眠不休で
襲いかかる眠気や疲労は、バーソロミュー・くまが体の外に弾き飛ばしてくれた。
こうしておれとくまの共同作業、不眠不休の集中治療は続けられていく。そしてようやく……
「……手術、完了だ……フォスフォス……」
「!!」
命にかかわるような重傷患者の治療は、見事に全て完了させてやったのだった。
流石は天才のおれ! ミス一つ無く、手術は全て成功だ。フォスフォスフォス!
「ありがとうございます! ホグバック先生!」
「本当にありがとう……! あなたは命の恩人です!」
「おれの耳……もう二度と聞こえないと思ってたのに、しっかり聞こえる……!」
「目が、目が見える! ありがとうありがとう……! うっうぅ……」
「立てる! 歩ける! ありがとうホグバック先生!」
フォスフォスフォス。なんだろうな。この感覚……
──ありがとうございます。ホグバック先生のお陰で、また元気に舞台に立つ事ができます──
遠い昔に言われたあの言葉を、何故だかふと思い出してしまった……
「フォスフォスフォス……」
チビッコ神様にもお礼を言うんだと、患者たちはニコニコ笑顔で治療室を後にした。くまも部屋を出ていった。
治療室にはおれ一人。
おれは部屋の端に置いてある、とある棺桶に向かう。
「……」
棺桶のフタをゆっくり丁寧に開ける。するとそこには、かつておれが心の底から愛した女……ビクトリア・シンドリーが眠っていた。
「シンドリーちゃん……」
今、シンドリーちゃんの死体には影は入っていない。
新たに入れ直せばまたゾンビとして動き出すのだろうが……どうしてもその気持ちにはなれなかった。
結局おれは、シンドリーちゃんをどうしたかったのだろう?
本当は……召使いになんてしたくなかった。
ただ動けば良かったなんて……思うはずなかった。
許されない事をしてきた自覚はある。
死体を掘り起こし、肉体を改造し、全く関係のない人の
シンドリーちゃんの幸せを、かつては本気で望んでいたはずだったのに、どうしてこうなってしまったのだろう?
……いや、原因は分かってる。分かっているのに、気が付かないフリをしていた。おれはずっと、現実から目をそらし続けて……そして……
「……」
ああ、ダメだ……また頭がフラフラしてきた……
と、そんな時だった。
『ジーーーーー……』
「どわっ!? で、電伝虫!? い、いつの間に!?」
ふと天井を見上げると、そこには一匹の電伝虫がいて、おれの事をじーっと見つめていた。
こ、こいつは確か、ラインの仲間……悪魔の実を食べた世にも珍しい電伝虫の……
『デンスケだよ』
「そ、そうだ。……で、そのデンスケちゃんが、おれの研究室で一体何をしているのかなー?」
『ジ。ご主人が、がんばってる“えっぐまん”に宴のごはんをとどけてやれってさ』
「エッグマンじゃねェって! ……いや、でも
『スープスパゲティだよ』
「みるみるスープが無くなるぜ!? デンスケちゃん!!」
こいつ、あろうことか天井に張り付いたままスープスパゲティの入った皿をおれを差し出してきやがった!
体勢のせいでスープがびっちゃびちゃに零れてる!
『ジ〜……だって、モリヤがホグバックはこれが好物だって……』
「それはありがてェがよ! だからって渡し方ってもんがあるだろ!?」
『スープスパゲティは?』
「く、食うよ……!」
びちゃびちゃスパゲティを受け取って、ちゅるちゅると食べていく。
その間、デンスケちゃんはじーっとシンドリーちゃんの死体を見つめていた。
『ねー、えっぐまん』
「ぶほっ!? おれはホグバックだ!」
『こっちの女の人はしゅじゅちゅしないの?』
「手術な。……そいつはいいんだ。もう死んでるから……」
『ジ〜〜』
デンスケちゃんは何か考え込むような表情でおれとシンドリーちゃんを交互に見ると、頭の輪っかをくるくる回した。
『……えっぐまんは、この人とおはなししたい?』
「え? ああ、フォスフォス……そうだな……」
たった数分でもいい……
『ジ! じゃあデンスケが黄泉の国までお電話かけてあげるよ。えっぐまんが嫌われてなかったら、たぶん出てくれるよ』
「は……?」
すると、デンスケちゃんはシンドリーちゃんの元へ飛んでいき……
「お、おい、何をやってるんだ? スープでびちゃびちゃの手で、シンドリーちゃんに触れるな……」
体にぺとりと触れた。次の瞬間──
『プルルル……プルルル……』
「!!?」
デンスケちゃんが、急に電伝虫の着信音みたいな声をだして震え始めた。……電伝虫みたいというか……電伝虫だけど……
というかいきなりどうしたんだ? ふざけているのか? と、混乱していると突然──
『ガチャ…… ホグバック先生……?』
「え!?」
デンスケちゃんの震えが止まり、彼女が発したその声は……まさか……!?
「し、シンドリーちゃん!!?」
『はい……』
聞き間違える訳がねェ!! この声、この話し方、シンドリーちゃんだ……
で、でもなんで……? いや、そういえばデンスケちゃんの能力は天使の能力……まさかそれって、死んだ者とも会話が出来るのか!? そ、そんな奇跡が……!!
「ほ、本当に……し、しん、シンドリー……ちゃん……なの? 本当に? 本当の?」
『はい。シンドリーです。本当に本当の!』
「……!!」
ドスンと、おれは膝をついた。そして、気がついた時には、涙……ではなく、全身から汗が噴き出していた。
動悸が止まらない。
もしもシンドリーちゃんと、もう一度だけ話せたならば……言いたいはたくさんあった、はずなのに……
おれは……彼女の死体を、いじくり回し……改造して……別人の
「……! ………!! ……」
頭の中が真っ白になる。なんだ今更? 後悔か? 罪悪感か? そんなものを感じる資格なんてないくせに……おれは……! おれは……!
『あの、ホグバック先生……』
「……」
『ごめんなさい』
「………え?」
ごめんなさい? シンドリーちゃんが?
な、なんで? なんでシンドリーちゃんが謝るんだ? あ、謝らないといけねェのは、おれのはずなのに……
『……あの日、舞台から落ちて……死んでしまってごめんなさい。ホグバック先生に救ってもらって繋げた命を、無駄にしてしまってごめんなさい……』
「……ッ!!?」
『私が死んだせいで、ホグバック先生をたくさん苦しませてしまった……間違った方向に進ませてしまった……』
「ち、ちが……! シンドリーちゃんのせいじゃ……!」
おれがこうなっちまったのは……全部……おれ自身の責任なんだ……!
シンドリーちゃんに責任なんてあるはずねェ!!
「全部……全部全部、おれが……弱かったせいなんだ……」
おれは天才で……
今まで挫折や失敗なんてした事がなかったから……
そのせいで……人の死にあまりにも不慣れだった……
自分が担当した患者が死んでしまうなんて、ありえねェって思ってた……だからシンドリーちゃんの死をニュースで見た時、それが信じられなくて、耐えられなくて……
「お、おれの心が……弱かったせいなんだ……! それで、シンドリーちゃんをゾンビに……怪物にしちまった……! すまねェ! 本当にすまねェシンドリーちゃん……!! シンドリーちゃんだけじゃねェ……おれは……多くの人を不幸にしてきた……!!」
『ホグバック先生』
「……!!」
『私は貴方を恨んだりしません』
「え……」
『だって、貴方は紛れもなく……私の命を救ってくれた、立派なお医者様だったから……!』
「ッ!!?」
──ありがとうございます。ホグバック先生のお陰で、また元気に舞台に立つ事ができます──
「…………!!! あ……! ぅあ゛ぁ゛……! うおおォ……!!」
気がつけば、おれの視界は涙で埋まっていた。
『覚えてますか? ホグバック先生。あなたの診療所にいた患者さん達……皆とても笑顔だった……』
「……!」
『あなただから出来たんです。本当に心の醜いお医者さんだったら、あんなに温かな診療所は作れませんよ』
「……ぉ゛ォ゛ぉ……」
『私の死亡事故があなたを狂わせてしまった。だからずっと、あなたに謝りたかった』
「ち、ちがぅ゛ぅ……シンドリーちゃんは、シンドリーぢゃんは悪ぐねェ……!! な゛んにも、謝る事ァねェ……!! 悪いのは、悪いのはおれで……!」
……おれは、おれは……
『ホグバック先生。そんなに自分を責めないで……あなたは世界で一番のお医者様だから……だからこそ、誰よりも患者の“死”を認められなかったんですよね? でも、もう私は死んでしまいました。生き返る事は、絶対にありません』
「!!」
『だからこれからは、私みたいな死んでしまった者にはとらわれず……きちんと、生きてる人と向き合ってください。貴方の手で救える命は……きっとたくさんあるはずだから』
「……ああ……っ!」
心の中の膿が、ドロドロに洗い流されていく感じがする。
ああ、そうか……おれは、ずっと……
「すまねェ……シンドリーちゃん……そして、あ゛……ありがとう……! そうだな! 天才のおれの治療を待ってる奴が、
『ウフフ、立ち直ってくれたみたいで良かったです』
「ああ、えらく時間かかっちまったけど……これでようやく、前に踏み出せそうだ……」
最後にお別れの言葉を言って、シンドリーちゃんとの通話はガチャリと切れた。
『──……ジッ! えっぐまん。どーだった? ちゃんとお話できた?』
「ああ……ありがとうな、デンスケちゃん……」
『またお話する?』
「いや……もういいよ。死んだ者と会話できるなんて奇跡、一度だけで充分だ!」
これでようやく、おれは彼女の死を受け入れられた……
「フォ〜スフォスフォス! 天才外科医! ドクトル・ホグバック! 真の意味で復活だ!」
とりあえず、シンドリーちゃんの死体は、本来の彼女の墓場へと返しにいくかな。
それでしばらくは……スリラーバークで元奴隷達の治療に専念するか。天竜人に傷つけられた者達はまだまだたくさんいる。天才のおれが、全部完璧に治してやらねェとな!
フォ〜スフォスフォス!
原作で、シンドリーの中身なんてどうでもいい! と言っていたホグバックですが、中身なんてどうでもいい! と“思い込もうとしていただけ”……って考察を見て、めちゃくちゃしっくりきたんですよね。
なので、ホグバックが救われる話を書きたいな〜ってずっと思ってて、今回ようやく書けて満足です。