意味不明な難癖をつけて襲い掛かってきたそいつをなんとか振り切った俺達は、そのままモームに引いてもらう形で船を先へと進めていく。
「モォ〜……」
「よしよし。もう泣くな、モーム。もう怖い奴らはいないから」
「モォ」
俺の見聞色によると、バンダー・デッケンは……特に追いかけて来たりはしてない様子。
かなりしつこそうな男に見えたんだけどな〜……意外なほどあっさり撒く事ができた。
「……理由は分かりませんが、お兄さんを目の敵にしてましたよね? バンダー・デッケン。ムカつくので海の藻屑になればいいと思います」
『ジ! インペルダウンのレベル3くらいに入れたらいいとおもう! キガジゴク!』
俺の為にぷんすか怒ってくれてるエスネとデンスケ。可愛い奴らである。
……しかし、バンダー・デッケンは「おれの愛しのしらほしをよくも〜!」とか言ってたけど……
“しらほし”ってなんだ? 身に覚えのない因縁でキレられても困ってしまうんだが……
とりあえず、もう二度と会わない事を祈るのみである。
『ジ〜〜…………ジ? みて! ご主人、あれ!』
「お!」
真っ暗な海溝をデンスケライトで照らしながら進んでいくと、暗闇だった世界に少しずつ光が広がってきた。
チョウチンアンコウの光よりも圧倒的に大きいあの光の正体は……! もしかして!
「うおおおおー!! ついにキターー!! 魚人島だーー!!」
『ジーー! おっきいシャボンだ〜!』
「やりましたね! お兄さん、デンちゃん。モームちゃんもお疲れ様です!」
「モォ〜♪」
深海1万メートルの世界に浮かぶ、超巨大なシャボン玉。
その中にすっぽりと収まる、魚人と人魚が住まう楽園。その島の名は“魚人島”!!
すっげぇ……夢の海底都市だ。こんな国があるだなんて、前世の記憶を持つ俺からしたら信じられない光景だな。
「ふへへへ! とうとうたどり着いたんだな! ……入り口はどこにあるんだろ?」
「あの上のところじゃないですか?」
『ジ。あそこのぴょこって出てるところは?』
「モォ〜〜」
「よく分からんからこのままモームに任せよう!」
スイスイと迷うことなく船を引っ張ってくれていくモーム。
あっという間に魚人島の入り口らしき場所へとたどり着く。すると──
「「「「ブッパパ ブパブパ ブッパッパ〜♪ ブッパパ ブパブパ ブッパッパ〜♪」」」」
突然のラッパの音。
なんだと思って音の方向に視線を向けてみると……
そこには、何十人ものタコ魚人達が、揃って口笛を吹いていた。
いやラッパじゃねーのかよ!!!
「なんだあれ……?」
「あっ! 見てください! お兄さん!」
「え……?」
ズンチャッ♪ ズンチャッ♪ ズンチャッチャ〜♪
ズンチャッ♪ ズンチャッ♪ ズンチャッチャ〜♪
タコ魚人の口笛リズムに合わせて、大勢の人魚達が踊りながら集まってきた。
そして──
「我らが救世主!!」
「ライン様のご到着〜!!」
「皆! 盛大にお出迎えだ!!」
「せーのっ!」
「「「「「魚人島へ! ようこそ〜〜!!」」」」」
ズンチャッ♪ ズンチャッ♪ ズンチャッチャ〜♪
ズンチャッ♪ ズンチャッ♪ ズンチャッチャ〜♪
それはまるでパレードのよう……いや、パレードそのものだった。
多くの魚人&人魚達が列を作り、踊りながら俺達を歓迎してくれている。
「……?? な、なんでこんなに歓迎されてるんだ?」
「さ、さあ……? 分かんないです……」
『ズンチャッ♪ ズンチャッ♪ ジッジッジ〜♪』
わけわかめ。
よく分からないが……敵意は感じないので、導かれるまま先へと進んでいく。すると魚人島の入国審査ゲートへとたどり着いた。
こんなゲートあるんだ。審査官は人魚のおっさんだった。
「え〜っと……こんちには」
「はい、こんにちは。いらっしゃいませ、不可視の怪盗・ライン様」
「え? 俺のこと知ってんの?」
「勿論でございます」
……まあ、今や高額賞金首だしな、俺……
知らない方がおかしいか。
「えーっと、入国審査って何をすりゃいいの? 俺、パスポートとか持ってないんだけど……」
「ではこちらの書類にサインをお願いします」
「書類……ってか、色紙じゃん!」
「娘が貴方のファンなので。イシリーへってお願いできます?」
なんで俺にファンがいるんだよ!? よく分からないが、減るもんじゃないのでとりあえずサインはしてやる。
ラインより、イシリーちゃんへ、愛を込めて!
「これでいい?」
「ありがとうございます!! では、入国手続きはこれにて終了です」
「終わりかよ!?」
ザルすぎる入国審査だなおい!?
……
ゲートを通り、魚人島へと足を踏み入れる。するとそこあったのは……
陸! 空! 海! まるで世界をシャボンの中に閉じ込めたかのような、広大な箱庭空間が広がっていた。
なんとなくスーパーマリオギャラクシーを思い出した。
「綺麗ですねェ……」
「そうだなぁ……」
『ジーー(
雄大な景色に思わず見惚れていると……
「魚人島へようこそォ〜ん゛ッッ!!!」
「「『ぎゃーーッ!!?』」」
いきなり目の前に0.3イワンコフくらいのオカマが飛び出してきた。
昔エスネが助けた……ハゲ、デブ、オカマのイカ人魚、ロズオである。
「お久しぶりねェん! ラインちゃん! エスネちゃん!」
「ひ、久しぶり……2年ぶりか?」
「お久しぶりです。ロズオさん」
『ジ〜、はじめまして! デンスケだよ!』
「まっ! 電伝虫が喋った!? 流石はラインちゃんの飼ってる電伝虫ねェん。……ムッシュ・パッパグみたいなものかしらん?」
パッパグ! 懐かしい名前が出た。
確か……タコ魚人のハチ、人魚のケイミー、と一緒にいたヒトデだったな。……そういやなんであいつ喋るんだろ? ヒトデなのに……
まあどうでもいいか。
「ところでロズオ。よく俺達が今日来るって分かったな。こんな迎えまで寄越してさ」
「モォ〜」
「ブッホッホ! 実はね……魚人島には、マダム・シャーリーっていう占い師の人魚がいるのよん。彼女が言うには、ラインちゃんの到着は今日だって、予言してたのよん!」
「よ、予言……?」
俺らがいつ来日するのかを、ピンポイントで当ててたってこと!? いや、すげぇなおい!?
たぶん、ウラウラの実を食べた占い人魚なんだな。知らんけど。
「魚人島の前に、出待ちの魚人達がいっぱいいたのはそういう事か……いや、でもなんで俺なんかの為にあんなに集まってたんだ……?」
「ラインちゃんは“魚人島の救世主様”だからねん。国中の皆が、今日という日をず〜〜っと心待ちにしてたのよォん♡」
「……魚人島の救世主……手紙にも書いてあったけど、それってなんなのさ?」
確かに俺は、奴隷堕ちした魚人たちを、今まで何人も救ってきた。
だけど……“魚人島”に関しちゃ何もしていない。
今日初めて来たし、救世主なんて呼ばれるような事は特にしていない……はずである。
「う〜ん……それを私の口から言うのはちょっとねん。ブホホホホホ♡」
口に手を当て、意味深に笑うロズオにイラッとする。なんでやねん。言えよ。
「ブホホ♡ まあとにかく、ラインちゃん達はこのままこの海をまっすぐ進んでいってちょーだい。そしたら港町に着くからん」
「港町?」
「そ。そこで多くの国民達が待っているわよ。この国の救世主様の……到 着 を♡」
そんな風に言われると、なんかすげぇプレッシャーなんだけど……
『ジ。ろずおは一緒にこないの?』
「私は
「ふ〜ん。そういやアーロンはどこにいるんだ? この国にいるはずだろ?」
「えーっとん……アーロン親分なら、今、魚人街ってところにいるわよん。……ちょっと色々ゴタゴタがあってねん……今はラインちゃんに会えないって言ってたわん」
「ふへ? そーなの?」
「……でもアーロン親分が誰よりも一番ラインちゃんに会いたがってたからねん。後できっと顔出すと思うわよん」
「ふーん」
とりあえず、今はアーロンに会えないって事ね。忙しいのなら仕方がない。
ロズオはそのままモームを引き連れて、魚人街って場所に向かっていった。
残された俺達は、言われた通りに船を進め、魚人島の港町を目指す。
……
「ここか」
『ジ〜! 地面だ!』
「地上と違って草や木の代わりにサンゴが生えてますね」
停留所みたいな場所があったので、そこに船を停めて俺達は石造りの地面へと上がる。
エスネは
『ご主人! 乗って! デンスケご主人運ぶ!』
「え? いや別に、自分で歩けるけど……」
『ジーー……』
「わ、分かった分かった! 乗せてもらうよ! だからそんな悲しそうな顔するな!」
『ニヘヘヘ〜♡』
謎に俺を運びたがるデンスケ。せっかくなので殻の上へと乗せてもらう。……インペルダウンの珍道中を思い出すな〜。
あの頃とは違い、今のデンスケには羽があるので、移動はかなりスムーズ。
「デンちゃんはお兄さんに乗ってもらうのが好きなんですね」
『ニン♪ ご主人運ぶの! デンスケのしごと!』
そんな感じで、魚人島の港町へと足を踏み入れる。すると……
「「「「きゃーー!! ライン様ァーー!!」」」」
大歓声が上がった。
「ら、ら、ライン様だ! ついに来たぞ! 本物だ!!」
「ぎゃ〜ッ♡ 我らが救世主! ライン様〜ッ♡♡」
「ありがたやありがたや〜」
「あ、握手とか頼んだらダメかな?」
「ライン様〜! マリージョアで奴隷にされてたうちの旦那を助けてくださり、本当にありがとうございます!」
「ラ・イ・ン! ラ・イ・ン!」
「おお! ライン様の妹君、エスネ様もおられるぞ!」
「きゃ〜〜♡♡ エスネ様〜♡♡ 私、“億狩りウサギファンクラブ”に入ってます〜♡」
「エスネ様〜♡ 好きィ〜♡」
「あれが人魚姫様や海賊女帝に匹敵すると言われている、世界3大美女の1人…か…♡」
「イヤ〜ン♡ 身も心もふやけちゃう〜〜ッ♡♡」
「「「エ・ス・ネ♡ エ・ス・ネ♡」」」
「「「ラ・イ・ン! ラ・イ・ン!」」」
なんでこんなに盛り上がってんの!?
国中の皆が今日という日を待ちわびてたってロズオは言ってたけど……誇張表現じゃなかったのね……
帰国した宙飛行士が来日したとしても、ここまでの盛り上がりにはならないんじゃないかな?
「きゃー♡ きゃー♡」
「わー♡ わー♡」
「フゥ〜ッ♡ フゥ〜ッ♡」
あまりにも大きすぎる歓声を受けて、一体どのような反応をすればいいのかと困惑していると……
「皆さん、ありがとうございます。こんなに熱烈な歓迎を受けて……とても嬉しいですっ♪」
「「「「ぎゃあああああああ〜〜ッ♡♡♡♡」」」」
軽く微笑んで、手を振っての対応。……エスネ、こいつ! 慣れてやがる……!
流石はシャボンディでヒーローと呼ばれていた女だ。
「……実際のところ、お兄さん以外の人からきゃーきゃー言われても、1ミリも嬉しくないですけど」
ボソッとそんな言葉をつぶやくエスネ。……聞こえなかった事にしよう。
『ジーー! すごいもりやがり〜! インペルダウンでの囚人どうしのケンカをおもいだすね!』
「思い出すな!!」
エスネもデンスケも、地味に闇があるよな……
そんな感じで、わいわい祭り上げられながら民衆の間を進んでいくと……
「ラインちん! エスネちん! 久しぶり! 魚人島へようこそ! 私の事覚えてる〜?」
「ライン! エスネ! おめェら会いたかったぜ〜!!」
盛り上がっている民衆の中から、ケイミーとパッパグが飛び出してきた。
「おー! 二人とも久しぶり〜!」
「ケイミーさん、パッパグさん! お元気してましたか?」
「うん! 2年前、人攫いに捕まっちゃった私を……ラインちんとエスネちん、それからはっちんに助けられてから……もう人攫いに捕まるような事もなく、元気にやれてるよ! あの時は本当にありがとうね!」
「私は何もしていませんよ。全てはお兄さんがヤりました」
「いやいや、俺一人の功績じゃねーし!」
『ジ〜……デンスケの知らない頃の話だ……』
「「電伝虫が喋った!? というか飛んでる!!?」」
デンスケの自己紹介を挟んで……
ケイミー&パッパグをメンバーに加えて、俺達は歩き出した。
「……で? この盛り上がりはなんなんだ? なんで俺ら、こんなにキャーキャー言われてんの?」
「あっ! それはね、ラインちんが“魚人島の救世主様”だからだよ」
「それそれ! それだよ! それなに? 救世主様って!」
「それはね……」
「こらケイミー! その事については、ライン本人には言っちゃダメだって、ネプチューン王に言われてるだろ!」
「あ、そうだった……ごめんね、ラインちん。訳あって私からは話せないの……」
「え〜……」
ロズオといい、こいつらといい、なんで理由を話してくれないんだよ……救世主ってなんだよ……?
気になるぅ……
「とにかく、ラインちんは魚人島では“超”がいっぱいつく程の人気者なんだよ! ほら、こういうのだって売ってるんだから」
そう言ってケイミーは貝殻の形をしたポーチの中から、とあるぬいぐるみを取り出した。
──瞬間、エスネが吠えた。
「きゃーーーーッ♡♡♡♡ な、ななな、なんですかこれぇええ!!?♡♡♡」
「等身大、ラインくん人形だよ。パッパグのお店で売ってるんだ」
「買いますッ!! 在庫全部!! 1億ベリーあれば足りますか!? 買わせてください!!」
「こらこらこらこら!!」
ツッコミどころが多すぎるわ!!
「まず等身大ラインくん人形ってなんだ!? パッパグのお店ってなんだ!? ヒトデなのに経営者かよお前!? そしてエスネ、買おうとすんな!」
この世界には肖像権はないのだろうか!?
ジロリとパッパグを睨みつけると、苦笑いしながら手を振ってきた。
「いや〜、勝手に人形作って悪かったよライン。実はおれ、売れっ子デザイナー兼社長なんだ! お前の人気にあやかって試しに人形を作ってみたら、これが大当たり! 飛ぶように売れちまって……引っ込みがつかなくなったんだよ! 売り上げの4割やるから許してくれ☆」
「金じゃねーんだよ! 問題は!」
「そうです! 問題は……この等身大お兄さんぬいぐるみにキャストオフ機能がついているのかどうかです!!」
「ちげーよ!!」
俺の人形がキャストオフ出来ても気持ち悪いだけだろうが!!
「ちなみにエスネのウサ人形も作りたいと思ってるんだが……いいか?」
「えーー……私の人形ですか? お兄さん人形との合体機能をつけてくれるんならいいですよ」
「合体機能ってなんだよ!?」
『ジーー! デンスケのお人形もつくって!』
「電伝虫の人形か〜……意外と売れるかもな!」
「俺らを使って商売するんじゃねーよ!」
「ムッシュ・パッパグがライン様と親しげに話してるぞ……」
「おれとラインはマブダチだからって話は本当だったんだ……!」
「パッパグさん、すげェ……!」