マリージョアから脱出し、
その間、渦潮に飲み込まれたり、でっけぇ魚に食われかけたり、荒波に揉まれたりと、何度も何度も死にかけた俺であったが、ようやくして陸地へとたどり着く事に成功した。
「ぜぇぜぇ……や、やっとついた……地面、大地だ……はぁはぁ……」
大地。……ん? いや、大地っていうか……この地面、木の根っこか? それになんか周りにシャボン玉がいっぱい浮いてる。不思議な島だな……
……そんな事はどうでもいいか……とりあえず疲れた。丸一日以上泳ぎっぱなしだったのだ。
「……とりま……なんか食いたい……塩水以外を飲みたい……そんで寝たい……」
お腹ペコペコ、喉はカラカラ。
島に上陸した俺は、ベタ付く大地を踏み締めふらふらと歩いていく。……食べ物が欲しい……そんで飲み物……どこかに、どこかにないか?
しばらく歩いていくと、何やら喫茶店のようなものが見えてきた。
「シャッキー'S ぼったくりBAR……?」
なんだこの名前からしてぼったくる気満々の店は……
いやしかし、
俺はこっそりと、音を立てないように店の中へと侵入した。
「…………誰もいない?」
買い出しにでも出かけているのだろうか? 店の中には客も店員も店主すらいなかった。
キョロキョロと店内を見渡していると、ある一点で俺の目線は止まった。
カウンターの奥にある冷蔵庫……冷蔵庫だ!!
まるで吸い寄せられるかのように冷蔵庫の前まで移動した俺は、ジャンプしてその扉を開ける。
すると中は……宝の山だった。
「ごくり……!」
肉に魚に野菜に煮豆! そして俺の大好物であるリンゴもある! お酒にジュースも盛り沢山!
「いっ、いっ、いただき……まぁす!!」
バクッ! もぐもぐ、シャクッごくん。グビグビ……ググんっ。ガツガツ、ムシャムシャ、もぐもぐ……
「ふへぇえ〜、美味いぃ〜、生き返るぅ〜……!」
命の危機を感じる程の空腹感なんて前世を含めてもほとんどない。
死にかけていた体が急速に息を吹き返していくのを感じる。食べ物が食べれるって幸せな事なんだなぁ。
ボリボリ、ムシャムシャ、ニマメニマメ、ごくごく……ムシャリ。シャクシャクシャク、ごくごく……
「ぷはぁ……食べた食べた……ごっそうさん」
トンタッタ史上、最も食べたと言っても過言ではないかもしれない。
それでも前世で人間だった時と比べたら、半分以下の量なんだけど。
ようやく一息つけたと、そう思っていたその時だった。
「ウフフフ……可愛らしいお客さんね。いらっしゃい……」
「はっ!?」
唐突に背後から声をかけられた。
恐る恐る振り返ってみると、そこには色っぺえ黒髪お姉さんが、タバコを吸いながらこちらを見つめてきていた。
「こ、こんちには……」
「もうすぐこんばんわよ。それで、うちの冷蔵庫の中で色々楽しんでいたみたいだけど、お代は持っているのかしら?」
「!!」
ヤバイ……
見れば分かると思うが、今の俺は一文無しである。持っている物といえばマンシェリーから貰ったネックレスくらいなんだけど、このネックレスに使われているのは宝石ではなくただの綺麗な石ころである。
たぶん10ベリーの価値も無いんじゃないかな……
「……」
「……」
見つめ合う、冷や汗ダラダラの俺と、ニッコリ笑顔のお姉さん。
よし、逃げよう。お代はまたいつか、覚えていたら返しにこよう。
「ふへへへ! そんじゃーな! 綺麗なお姉さん!」
お腹いっぱいになった事で元気いっぱい。
グッと足に力を入れ、俺はいつも通り超高速でこの場を離脱──
「あら、こんなおばさん掴まえて綺麗なお姉さんだなんて。お世辞が上手いのね、小人のボーヤ」
「!!??」
離脱──しようと思ったその瞬間、俺はお姉さんの手の中にいた。
なんだ? 何が起こった? この前の海賊みたいに何かしらの悪魔の実の能力を使われた?
「うおぉおーっ!? は、はな、離せ! 離せぇえ!!」
握力つっっよ!? 抜け出せない!? この俺が!? こんな細腕のどこにこんなパワーが。
くそっ、こうなったら……
「に、にげ、逃げないから! 逃げないから離してください! お願いします」
「本当に逃げない? なら離してあげる」
パッと俺の体からお姉さんの手が離れる。
ふへへ! 馬鹿め! レオ相手に何度も使ってきたこの技がまさか通じるとはな!
俺は瞬時に飛び上がり、店の棚の上へとよじ登った。
「ふへへへへ〜! 人間のサイズだとここまでは追ってこれないだろ〜!」
「あら、嘘ついたの? 悪い子ね」
「悪いけど、このままとんずらさせてもらうぜ。煮豆美味しかったよ」
「……仕方ないわね。レイさん、あの子掴まえてくれる?」
「んぁ? レイさん?」
お姉さんが視線を向けた先を見てみると、そこにはテーブル席にて、新聞片手にお酒を飲んでる白髪のお爺さんが座っていた。
え? あんな人いたっけ? いつの間に……
って、そんな事はどうでもいい! ていうかお姉さん、なんであんなお爺さんに俺の捕獲を頼むんだ? どう見ても無理だろ。
お爺さんが新聞から顔を上げて、俺の方を見た……と次の瞬間──
「……」ヴォン
「ッ──!?!?」
全身から一気に血の気が引いた。まるで心臓を握り締められたかのような息苦しさ。意識がフワッと飛びかけた。なんだ? 俺は今何をされた?
「ほう、今のを持ち堪えるか……ただの小人では無さそうだな」
「…………? ??」
ガクガクと膝が笑い、その場に立っていられなくなる。
……あ、てかダメだ。辛うじて意識は飛ばさないで済んだけど、それにプラスして今までの疲労の蓄積がここできた。
つまりは眠さの限界……
「ね……むぅ……zzz」
人間だろうが小人だろうが、食べたら眠くなるのは万国共通。
俺はそのまま棚の上にて、クカ〜と眠りこけてしまうのだった。
「あら、レイさん。あの子寝ちゃったわよ」
「わはは、私の覇気は耐えれたのに、睡眠欲には勝てないか。若いってのはいいな」
・
・
・
目を覚ました時、俺はベッドの上にいた。
いや、ベッドじゃないなこれ……タオルを折りたたんで作られた布団に、ハンカチのシーツ。ハンカチの枕。
寝心地はとてもよく、久しぶりにガッツリ寝られてスッキリ目覚められた。……そういやここどこだっけ……
「おはよ。よく眠れた?」
「うおぉわァ!?」
目を擦りながら視界を上げてみると、そこには黒髪タバコお姉さんがいた。
「お、思い出した……! 俺、海で漂流して、この店にたどり着いて、そんで食い逃げしちゃって……それで、えっと、捕まっちゃった……のか?」
「フフッ、まあそんなところ。海で漂流してたっていうのは初耳だけどね」
「…………ううぅ……」
俺はお姉さんから視線を外し、向こうの席で新聞を読んでるお爺さんの姿を確認する。
あのお爺さんはなんかよく分からない不思議パワーでこちらを威圧してくる。……恐らくは悪魔の実の力……
その力がある限り、俺がこの店から逃げ出す事は難しいだろう。
……これから俺は、どうなってしまうんだ……
この前遭遇した海賊は俺の姿を見て、奴隷市場に売り払ってやるとか言っていた。
もしかしたらこのお姉さんも俺の事を奴隷市場に売り飛ばす気じゃなかろうか?
途端に蘇るマリージョアで見た悍ましい記憶。俺の中でトラウマと化してしまった、天竜人による奴隷達への酷い扱い……
全身から鳥肌が立った。あんな目に遭わされるなんて死んでもごめんだ。俺はお姉さんに向かって、全力の土下座を繰り出した。
「ごめんなざぃい〜!! 出来心だったんでず〜!! 食べ散らかしてしまった分のお金は絶対返しますから! だ、だから俺を、奴隷市場に売らないでくだざぃい〜!! 天竜人の奴隷はイ゛ヤ゛だぁ゛〜!!」
「……」
何度も何度も頭を下げる。プライドなんてクソ食らえだ。許して貰えるなら靴だって足だっておっぱいだって舐めていい。……むしろ舐めさせてください。え? いらない? そっか……
「はぁ……小人のボーヤ、あなた名前は?」
「……ラインです……」
「ラインちゃんね。私はシャッキー、あっちにいるのがレイさんよ」
「シャッキーに、レイさん……」
「そう。それでラインちゃん。お金は絶対に返すって言ってるけど、あなたお金の宛てはあるの?」
「……無いです……」
「その場を誤魔化す為だけの嘘なら、あんまりつかない方がいいわよ」
ぐ、ぐうの音も出ない……!!
ガックリと項垂れる俺を見て、向こうの席で座ってるレイさんはケラケラ笑っている。なんだあいつ。他人事だと思って。
「……ちなみにラインちゃんに請求するお代だけど……」
「は、はい……」
「勝手に店の中に入った代、勝手に冷蔵庫の中を開けた代、色んな物を食べ散らかした代、逃げようとした代、見た目が可愛い代、もろもろ合わせて……400万ベリーよ」
「よっ!? よっ!? よよっ!? よんひゃくまんゔぇりーー〜〜!?」
なんだその法外な金額は!?
「待って待って待って待って! 400万て! 流石にジョーダンっすよね!? 勝手に入って勝手に食べちゃったのは悪いと思うけど、400万はあまりにもあんまりじゃないですかね〜〜!!?」
この世界の通貨は“ベリー”という。
1ベリー大体1円のイメージだ。
つまり400万ベリーってのは、400万円てこと。
今回俺が食い逃げしてしまった量は、ハッキリ言って1人前分もない。だから4万ベリーでも高すぎるくらいだと思うんだけど、その百倍……
これは〜流石に無茶があり過ぎると〜思うんですよ!
「あら? うちの店の看板見なかった?」
「……しゃ、シャッキー'S ぼったくりBAR……」
「そう。うちの店はそもそも法外なお代をぼったくる前提の店なの」
「だ、だからって、400万はあまりにも……」
「そういえば近くに奴隷のお店があったっけ」
「謹んでお支払いさせていただきます……!!」
俺はビシッと敬礼した。それはもう綺麗な直立不動での敬礼だ。シャッキーはそんな俺を見てくすくす笑っていた。
笑うところじゃないです。
「それにしても400万かぁ……400万……」
ヴィオラ払ってくれねぇかな……無理かぁ……
そもそもドレスローザとここの島ってどれくらい離れてんだろ。ぐぬぬぅ〜……
「アハハ、お金の当てがないんなら、うちの店で働いてみる? ラインちゃん」
「……え?」
「お給料はそうね、一年に200万ベリーでどうかしら? 2年間働いてもらえたらちょうど完済ね」
借金返済の為に、ここの店で働かせてもらう……か。なるほど。その発想はなかった。
それに年給200万だと。バイトで考えたらかなりの高収入じゃなかろうか? バイトとかした事無いから知らんけど……
「住み込みで働いてくれるなら、毎日三食つけてあげるわよ」
オマケに住む場所と食事も提供してもらえるだと!?
「や、やります!!」
俺は即答で返事した。
「ウフフ、それじゃあこれからよろしくね、ラインちゃん」
そう言ってシャッキーは優しげに微笑むのだった。
いやぁ、一時はどうなるかと思ったけど、年給200万ベリーの仕事を紹介してもらえて、住むところも食べる物も提供してもらえるなんて、シャッキーは良い人だなぁ!
この人の為に、頑張るぞ! 俺!
10分後……
よくよく考えたら体良く2年間のタダ働き契約をさせられただけだという事に気が付いた俺は、そこでまたガックリと項垂れるのであった。
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