異世界先生ユメセンセー   作:七日 八月

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今回はホシノ視点です。

あといつもよりちょっとだけ長めです。


二人だけの卒業式

 

「……うへ? え? 卒業式、ですか?」

「うん」

 

 最初ユメ先輩が何を言ってるのか理解出来なくて思わず呆けた声で聞き返してしまった。

 

「あの……こんな事を言うのはアレなんですけど、今のユメ先輩って既に高校も卒業されてますよね?」

 

「うん……確かに私は向こうの世界で高校どころか大学も卒業してるし、どっちの卒業式もちゃんと終えて来たよ?」

「だったら何で今更……?」

 

 一瞬また何かいつもの変な思い付きの行動なのかと思ってしまったけど、続きの言葉を聞いてから私は本気で後悔した。

 

「――でも、私はアビドスでの卒業式を迎えられなかったから」

 

「…………っ……」

 

 ……私はなんて馬鹿なんだ、そんな事も忘れていたなんて……!! 結果としてユメ先輩とこうして再会出来てどこか舞い上がっていたんだろう、数秒前の自分を殴ってやりたい。

 

「こーらっ、そんな顔しちゃだめだよ? うん……とりあえずどうして卒業式をやりたいか、ちゃんとお話するね?」

 

「……あ、はい……」

 

 ユメ先輩は特に気にした様子も無くそのまま話を続けるようだ。

 

「私ね、あの日砂漠で命を落とす間際に考えてた事があるんだけど、それはアビドスの今後の事でも、これから死んじゃう事に対する恐怖でもなかった――

 

 

 

 

 

 

――それはね、ホシノちゃん、あなたの事だったの」

 

「私の事、ですか……?」

 

 ……意外だと思った、だって先輩はいつもアビドスの為に必死だったから。自身の殆ど全ての時間を、色々な失敗も含めてアビドスの為に費やしている姿しか知らなかったから。

 

「うん、だって、私にとってホシノちゃんと過ごした日々は、あの奇跡みたいな日々は本当に大切な宝物だったから」

 

「――――――。」

 

「だからね、私が居なくなった後にホシノちゃんを一人にしてしまうのが申し訳なくて、中途半端にお別れしちゃうのが寂しくて……」

 

 そうか、ユメ先輩も同じだったんだ。私はユメ先輩を失った後に気付いたけど、あの日々は、確かに私の中で輝いていた。だから、その輝きを失ったのが、何よりも辛くて、寂しくて、苦しくて、あの日の事を何度も後悔した。

 

「何より、ホシノちゃんにちゃんとバトンを渡せなかったのがすごく悔しかったんだ」

「バトンを渡す……ですか?」

 

 うん。とユメ先輩は頷いて続けた。ここから先の話は、きっとすごく大切な事な気がする。

 

「あの日、もし私が助かっていたとしても、いずれ私は卒業って形でアビドスを去っていたでしょう? もしその時が訪れていたら……私の意志を、思いを繋ぐバトンを渡す相手はホシノちゃん、あなただと思ったの」

 

 なんとなくわかってきたかもしれない、ユメ先輩が今卒業式をやろうって言った理由が。

 

「結果的にホシノちゃんは私の落としちゃったバトンをちゃんと拾ってくれていたけど、こうして私は何の因果かアビドスに帰って来れたから……だからね、この卒業式は――

 

 

 

 

 

 

――私達の過ごしていたかつての青春の物語(ブルーアーカイブ)に区切りを付ける為の、後ろを振り返らずに前を向いて明日へ向かって歩いて行く為の、ホシノちゃんが背負っていた物を、私が背負わせてしまっていた重たい物(こうかい)を、ちゃんと心の中にしまえるようにする為の、大切な儀式」

 

 そうか、これはユメ先輩だけじゃなくて、私の為でもあるんですね。

 

「まぁ、儀式なんて言っちゃったけど略式で良いんだよ。人数も私達だけだし、卒業証書だってコピー用紙とかにそれっぽくネットにあるテンプレートを印刷したので全然「ありますよ、ユメ先輩の卒業証書」……え?」

 

 ユメ先輩が目を丸くして固まっている。それもそうか、まさか自分の卒業証書が存在するなんて思いもしなかっただろうし。

 

「ちょっと待っててくださいね、今取りに行ってきますので――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――で、なんで制服に着替えてるんですか?」

 

 えへへ、と照れ臭そうに笑っているユメ先輩の恰好はまさかのアビドスの制服だった。どうやら私がユメ先輩の卒業証書を探しに行っている間にロッカーにしまってあった予備の制服に着替えてきたらしい。

 

「どうかなっ? 私、まだまだ現役で行けるんじゃないっ?」

 

 そう言いながらくるりとその場で一回転する姿を見て、思わずため息がこぼれた。

 

「そうですね、良かったですね、当時の制服が着れて」

「ひぃん、棒読み……反応が冷たいよぉ……」

 

 略式で良いとか言いながらきっちり恰好を整えてきた事に対する呆れの気持ちがあったから思わず冷たい態度を取ってしまったけれど、その懐かしい姿に少しこみ上げてくるものがあった。

 本当にヘイローとばんそうこうが無い以外はほぼ当時のままの姿だった。そこでようやく、ユメ先輩が帰ってきた事をちゃんと実感出来た気がした。

 

「……えーと、じゃあ準備は良いんですね?」

「うん、お願い」

「わかりました」

 

 ユメ先輩へ返事を返して目を閉じ深呼吸をする。何せ略式かつ参加人数2名とはいえ初めての高校の卒業式、大事な所で噛まないように気を付けなければ、と思えば多少は緊張もする。

 そうして呼吸を整えてゆっくりと目を開くと、ユメ先輩がまっすぐとこっちを見ているのが目に入った。うん、大丈夫、ちゃんとやれる。

 

「只今より、アビドス高等学校の卒業式を開始いたします――」

 

 

 

 そうして夕暮れの屋上で、二人だけの卒業式が始まった。

 

 

 

「――卒業証書授与。3年生、梔子ユメ」

 

「はい!」

 

 ユメ先輩が歩いてきて、ある位置で礼をしてから私の正面に来た。式典に必要な物など何もない屋上が、一瞬ちゃんとした会場に見えた。

 

「卒業証書、梔子ユメ、あなたは本校において高等学校の課程を修了した事を証する、アビドス高等学校生徒会副会長、小鳥遊ホシノ」

 

 しっかりと噛まずに読み上げてからユメ先輩に卒業証書を手渡す。まさかずっとしまってあったこれを使う時が、渡せる日が来るとは夢にも思わなかった。

 

「おめでとうございます」

 

 ユメ先輩が礼をして元の位置に戻っていく。あぁ、良かった。永久に役目を果たす事のない筈だった卒業証書がきちんと持ち主の手に渡った、その事実だけで胸がいっぱいになった。

 

 

 

「――以上をもちまして、アビドス高等学校の卒業式を終了いたします」

 

 

 

 終わった、ちゃんと終わらせることが出来た。それなりの緊張から解放されたせいかわからないけど、何故だか心が軽くなった気がする。

 

「お疲れ様、ホシノちゃん」

 

「はい……その、略式とはいえ、上手くできてましたか?」

「大丈夫、びしっと決まっててかっこよかったよ!」

 

 私の隣まで歩いてきてにっこりと笑ってそう言うユメ先輩にこちらも笑顔になる。

 

「あー、終わった終わった!」

「えぇ、終わりましたね」

 

 あぁ、これで区切りがついたんだ。随分遅れてしまったけど、高校生のユメ先輩をちゃんと送り出す事が出来たんだ。

 

「そうそう、私の向こうで経験した卒業式だとね、卒業生を送り出すために歌を歌うんだ」

「歌、ですか」

 

 かつての繁栄を極めていたアビドスの卒業式ならそういう事もあったのだろうか。生徒の減少と共に様々な物が失われていったアビドスでは、小中共に卒業式は随分と簡潔に済ませていた気がする。

 今では当時の資料も随分と砂の海の中に埋没してしまった為、わからない事だらけだ。復興させていく過程でそういった物も資料を復元などして復活させていかなければならないんだろう。まぁ、それは今考えるべきことではないし、それよりも……

 

「ちなみにどんな歌を歌うんですか?」

「うーん……あ、じゃあ私が今歌ってみるね、本当は卒業生が歌う歌じゃないんだけど」

 

 ユメ先輩がスマホを取り出して「えーと、確か音源が……」なんて言いながら何かを探している。

 

「あ、あったあった! 昔友達と練習する為に入れてあった音源が残っててよかった~。じゃあ歌うね! 『旅立ちの日に』」

 

 スマホの音量を上げて私にも聞こえるようにしてくれた、ピアノによるイントロが流れてくる。外の世界、というかユメ先輩の居た世界の歌、どんな歌なんだろう。

 

「♪白い光の中に 山並みは萌えて――」

 

 1番の歌詞は、卒業生を羽ばたいて飛んでいく鳥に例えた歌詞。卒業生の為の、卒業生へ贈る、送り出す為の歌か、なるほど……なんて思っていたら2番が始まって……

 

「♪懐かしい友の声 ふとよみがえる――」

 

 ……なんだかとても自分たちに刺さるような内容で、少しだけ胸が苦しくなった。でも、勇気を翼に込めて……か、良い歌詞だな。

 

「♪いま、別れのとき 飛び立とう 未来信じて――」

 

 どうやら曲もそろそろ終わるようだ、もう一度同じ歌詞が繰り返され始めた。ユメ先輩の歌声に聞き入っていた私は、気付いたら今聞いたばかりの曲を一緒に口ずさんでいた。

 

「「♪このひろい このひろい おおぞらに――」」

 

 曲が終わり、ユメ先輩が「ふぅ」と息を吐いてから、どこかスッキリしたような顔でこちらを向いた。

 

「ご清聴、ありがとうございました♪ あと、最後の部分一緒に歌ってくれてありがとうね、ホシノちゃん♪」

「いえ、その……気付いたら口が勝手に動いてました」

 

 にっこりと笑ったユメ先輩は「そっか」とだけ言って、前を向いた。

 

「その、ユメ先輩」

「ん? なぁに? ホシノちゃん」

 

「卒業式、やって良かったです。少しだけ、気持ちの整理がついた気がします」

「うん、私も同じ気持ちだよ」

 

「あ……あと――

 

 

 

――卒業おめでとうございます、ユメ先輩」

 

「えへへ……ありがとう、ホシノちゃん」

 

 

 

「それと、改めましてこれからもよろしくお願いしますね。ユメ()()

 

「……! うんっ! これからもよろしくね、ホシノちゃん!」

 

 うん、本当に良かった……なんて思っていたらユメ先生が「あっ、そうだ!」なんて言い出した、何を思いついたのだろう?

 

「ねぇ、ホシノちゃん、校門で写真撮ろうよ!」

「あ、じゃあ私がカメラマンをやりますね」

「えー、一緒に写真に入ろうよ!」

 

 卒業の記念の写真なのに在校生を混ぜるとか何を考えているんだろうかこの人は、なんて呆れていたけれど、結局押し切られて一緒に写真を撮る事になってしまった。やれやれ……

 途中で卒業証書用のケースを出してきて証書をその中にしまったり、スマホ用の三脚を持ち出したりして校門に到着、ユメ先生はそのままテキパキと準備を進めていく。

 

「これでよしっ! じゃあ行くよー! ホシノちゃん! 笑って笑ってー!」

 

 そう言いながらこちらに来て横に並んだユメ先生、その手にはケースに入った卒業証書が握られている。

 この並び方は偶然にも、かつてユメ先生がアビドスに在学中に撮った写真と一緒だった。あの時の私はひどい仏頂面だったけど……今度はユメ先生と一緒に笑おうと思う。

 上手く笑えていたかわからないけれど、そうしているとカメラのフラッシュが光った。どうやらちゃんとタイマーでの撮影は上手くできたらしい。

 

 ユメ先生はスマホの所まで歩いて行き三脚からスマホを外した。ちゃんと写っていると、というか目をつぶったりとかしてないと良いのだけど。なんて思っていたら……

 

「ホ、ホシノちゃんっ!!」

 

 写真の確認をしていたユメ先生が突然大声をあげて私を呼んだ。どうしたのだろうか、まぁどうせ目をつぶっていたとかその程度の事だと思うのだが。だが私の予想は裏切られた。

 

「こ、これ……見て!?」

「これって一体何を…………え、えぇっ!?」

 

 私達2人並んで写っている笑顔の写真、別に目をつぶっていただとか、幽霊が写っていただとか、そういうわけではない……ないのだが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……写真の中のユメ先生の頭上に、少し薄いがヘイローが浮かんでいた。

 

 

 

 その後、お互いに慌てつつ何度も写真を撮り直したが、ヘイローが写っていたのはその1枚限りだった。

 結局私たちは何年経っても事あるごとにドタバタとしてしまうらしい。やれやれ……





次回からはまたユメセン視点に戻ります。
これが一番書きたかったんですが、あんまりにも不評だったら書き直します。
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