城南大学附属新科学エネルギー研究所。
世間ではエネルギー問題解決のため研究されているといわれているこの場所へユミは赴いていた。
アポイントを済ませ、担当研究者であるオオカワに案内されている所だ。
「すまないね、EGFのテルミさん。なんたって先日の怪獣騒動でてんてこまいで」
「いえ、お構いなく。それよりも、二体の怪獣出現について何か心当たりは?」
「うーむ、高エネルギー物質を主食とするあのタガヌラーならまだわかるんだがなぁ……うちで研究されているので言えば、アレくらいしか思いつかない」
通路を渡りながらオオカワはユミをとある部屋へと案内する。
そこは少し大きいと思えるほどの大きな部屋であり、計測器やカプセルといった様々な機器が並んでいる。
その中でユミが一際目を引いたのは、中央にある大型カプセルと、その中にある小さな欠片。
光の輝きを絶やさないその彼らは、まるで宝石のように美しいとも感じ取ることができた。
見たこともないそれを見て、ユミは訊ねる。
「あの、オオカワさん。これって……」
「例の心当たりのヤツだ。研究者である我々は、輝く欠片からスパークピースと呼んでいる」
オオカワは無駄に伸びた髪の毛を手荒くかきながら答えた。
その光り輝く欠片・スパークピースはその間にも光を出し続けており、本来なら薄暗いであろうこの部屋を明るく照らし出している。
目が眩みかねない光量を発するそれに対し、オオカワはユミへ語る。
「近年見つかった新物質でな、まるで光が固体化したような非常に純粋なエネルギーの塊……といわんばかりに謎が多いんだ」
「これがスパークピースですか。こんな小さい欠片でもこれほどの光って……」
「コイツはな、たった親指と人差し指で摘まめる程の1cm満たすか満たさないか大きさでさえ大きな都市の電力を軽く賄えるほどのエネルギーを秘めているんだ」
オオカワの口にした説明を聞いて、ユミは少し驚いた。
人が生活する電力を生み出すには発電所が必要なのは明確だが、それを小さな欠片一つで代用できるということは、それくらいのエネルギーを秘めているということになる。
それほどの高エネルギーを秘めたスパークピース……だが、ユミの中で一つだけ疑問が残る。
仮にゴメスやアーストロンがこの研究所のスパークピースに引かれて出現したとして、何故怪獣がスパークピースを求めるのか。
その理由がわかないと結論づけ、次の思考へ移ろうとしたその時だった。
突如、ユミのスマートフォンが鳴り響く。
緊急通信を示すそれに気づくと、ユミはタップ操作しながら急いで出た。
「こちらユミ、どうしましたか?」
『そこから数km先の地点に宇宙から飛来する未確認生命体の影あり。もうすぐ降着する』
「えっ……!」
通信相手から告げられた言葉にユミが驚きのその瞬間、ズドンという轟音と地響きが研究所を襲った。
一瞬地震かと思わせるほどのその揺れにオオカワや他の研究員が驚きの表情を浮かべる中で、ユミは急いで部屋から出て窓から外の様子を確認した。
遠くの街の方に見えるのは、青い外殻のような光の球体。
その球体が崩れ去り、中から出てきたのは一体の怪獣だった。
青い体色が特徴的なその怪獣……ベムラーはゆっくりと立ち上がると、焦燥めいた咆哮を上げた。
『ギャオオン!!』
ベムラーはまるで何かを警戒するように周囲を見回した後、その狙いを自分のいる方向……つまり、新科学エネルギー研究所へ定めて進撃し始めた。
まずい、と思ったユミは近くにあった警報機を見つけ、すぐに駆け寄って押した。
けたたましく鳴り響き、廊下を慌ただしく走る足音が鳴り響く。
建物内にいる人々を逃がすために、ユミは避難活動をし始める。
だがしかし、邪魔な建物を破壊しながら進行するベムラー……避難が完了する前に到達するかもしれないと、ユミは危機感を感じとった。
(お願い、間に合ってよ……ハイジくん)
内心はこの危機を何とかしてくれる人の名前の事を思いながら、逃げ惑う人々へ避難指示を行う。
だがユミの想いに反して、研究所へと迫りくるベムラー……気付いた時にはすぐ目の前まで迫っていた。
ベムラーは研究所の建物を破壊しようと口からの熱線・ペイル熱線を放とうとする。
「……!」
ベムラーが放とうとするその熱線をユミが、研究所の人々が、これまでかと心の中で思ってしまったその時。
――灰色の巨腕が、熱線を放とうとしたベムラーの口を無理矢理抑えつけた。
声にならないような悲鳴を上げているベムラーを抑えつけている。その腕の主の正体は、オライオン・イクスだった。
オライオンはベムラーを無理矢理研究所の場所から引きはがすと、そのまま勢いよく投げ飛ばした。
コックピット内にいるハイジは眼を刃のように鋭く細くさせて、モニター越しのベムラーを睨みつける。
「宇宙怪獣……地球の怪獣とは異なる、未知の外来種!」
目の前にいる相手が今まで戦ってきた地球の怪獣とは異なる宇宙からの怪獣であると認識し、ハイジはいつもより出方を警戒する。
彼の操縦するオライオンは研究所を背にする形で立つと、脚部の高機動スラスターを吹かしてそのままベムラーへと突進。
一方、ベムラーは自分を攻撃してきたオライオンを敵として見定めると、研究所から狙いを変えて迎え撃った。
その口からペイル熱線を繰り出してくるが、それに対してオライオンの頭部の刃が光り輝く。
「光刃刀、射出!」
オライオンの頭部に設けられた刃型武装ユニット・光刃刀から射出された光の刃がペイル熱線とぶつかり、その場で軽く爆発。
その際に巻き起こった爆風にベムラーは臆することもなく構わず突っ込む。
だが、爆発による煙が視界を覆った後、こちらに向かってきたはずのオライオンの姿がない事に気付く。
その直後だった、真横からオライオンの鉄拳がベムラーの顔面に決まったのは。
『ギャオオン!?』
並大抵の怪獣の攻撃なら簡単に防ぐほどの硬さを誇る強度を活かした鋼鉄の鉄拳に、ベムラーは悲鳴を上げる。
よろけたその一瞬の隙を狙って、オライオンの両腕の電磁砲が火を噴いた。
特殊合金でできた弾丸がベムラーの胴体に着弾し、ものの見事に炸裂していく。
反撃の隙も与えぬほどの猛攻にベムラーが怯み、善戦しているオライオンの光景を見て、遠くの位置にいるユミは思わず言葉を漏らす。
「頑張れ……がんばれ、ハイジくん!」
彼女の言葉が届いたのか、オライオンは高機動スラスターを吹かして大きく飛んでベムラー目掛けて突撃。
そのままベムラーを掴むと、勢いよくジャイアントスイングをかまし、大空へと投げ飛ばした。
「射程範囲の軌道修正……完了。
投げ飛ばしたベムラーに対してハイジは射程の軌道修正をすぐさま終えると、その手に握る引き金を思いっきり押して、放った。
オライオン・イクスの全武装を一斉に展開して、ベムラーへとまっすぐ飛んでいく。
放たれたミサイルや電磁砲の弾丸、光の刃は落ちてくるベムラーへと飛んでいき、ものの見事に炸裂して大爆発した。
これでひとまず危機は去った。……この戦いを見ていた誰もが、倒した本人であるハイジさえもが、そう思ったその時だった。
総攻撃に耐え切れず砕け散るベムラーの体……その中から、一つの光が零れ落ちた。
爆炎の中からでもわかるほどの強い光を放つソレを見て、既視感を感じたのは……研究所にユミだった。
何故なら、その既視感の正体は先程見たものと同じだったからだ。
「あれって、スパークピース……?」
ベムラーの残骸から零れ落ちたのは、光の欠片・スパークピースだった。
スパークピースはゆっくりと落ちていくが、次第に落下する速度が落ちていく。
さらに異変はそれだけではなかった……別の場所から、強い光が輝いた。
一体なんなのか? と、ユミがその方向へ視線を向けると、――そこにあったのは、もう一つのスパークピース。
何処からスパークピースがもう一つ出現したのか? と、まじまじと確認するとすぐにその出所が分かった。
もう一つのスパークピースの下には、先日倒したアーストロンの死骸があったからだ。
ベムラーとアーストロン、二匹の怪獣達から出た二つのスパークピースが互いに引き寄せられるように近づき、そして一つになる。
先程より強い輝きとなって光り出し、そこで奇妙な事が起きる。
――まず、アーストロンの死骸が光の粒子となって消えて、スパークピースへと吸収される。
――次に、ベムラーの砕け散った残骸が同じく光の粒子となって、スパークピースへと吸収される。
――やがてスパークピースが放つ光が一体の異形へと形どっていく。
鮮やかな青い体に、鋭い爪を持った逞しい両腕。
爬虫類のような頭部からトサカのように生えているのは鋭利な赤い刃。
何より目が引くのは、胸部にある赤い模様と、コアのような青く輝く水晶体。
まるでベムラーとアーストロンが融合したの様な容姿を有する新たなる脅威は、産声の如く咆哮を上げた。
『ギャオオオオオオン!!!』
――『極星融合獣バーニング・ベムストラ』。
異形の怪獣の登場に、研究所にいるユミも、オライオンを駆るハイジも驚く。
一体、どういう原理で二種の異なる怪獣が一体の全く異なる怪獣になるのだろうか。
そんな疑問を解決できるかどうか考える前に、目の前に危機が迫る。
バーニング・ベムストラから放たれた火炎弾が、オライオンへと直撃する。
幸いには腕を交差させて防御手段をとっていたために、何とかして踏みとどまるオライオン。
だが接敵してきた相手の容赦のない剛腕がオライオンの体を掴んだ。
「なっ!? 速……」
ハイジが言い終わる前に、バーニング・ベムストラの牙が向いて食らいつこうと頭を振り下ろす。
咄嗟に片肩のミサイルポッドを身代わりにすることで何とか噛みつき攻撃を防ぐ事はできたが、ベムストラは容赦なく食らいついた嚙み潰した。
ミサイルポッドは砕け散り、その破壊力を嫌でも感じ取ったハイジは苦虫をかみつぶした表情を浮かべる。
「このっ!」
頭部の光刃刀を向け、思いっきり斬りつけようとするオライオン。
だがバーニング・ベムストラは飛ばされた光の刃を軽く避けると、その口から熱気を吹き出し始める。
不味い、そう思ったハイジが操縦根を握り締め、機体に傷を作ってでも無理矢理距離をとって離れようとするが……その瞬間、視界は劫火に包まれた。
バーニング・ベムストラが繰り出した灼熱の熱線・ペイルサイクロンがオライオンを焼き尽くしていたのであった。
最先端科学の超合金ボディも、湖すら蒸発させ、山すら消滅させるその威力に耐えきれるはずもなく……。
「く、そ……――」
――轟音。
オライオン・イクスは大爆発した。
いくつもの怪獣達を狩ってきた鋼鉄の巨人は、未知の怪獣によって倒されてしまった。
この光景を見ていた人々は一瞬呆然とし、研究所にいた人々は目を見開いて驚いていた。
……無論、一部始終を見ていたユミも例外ではなかった。
「そ、そんな……」
ハイジの勝利を確信していたユミはオライオンの壮絶な最期を見てしまい膝から崩れ落ちた。
胸の中に抱いていた「いつものように帰ってくる」という淡い希望は砕け散り、途方にもない絶望に満ち外れていた。
ようやく状況を掴み始めた人たちの悲鳴や叫び声がユミの耳に届くかいなかの中、劫火の悪魔ともいうべきバーニング・ベムストラの侵攻が再び始まる。
巨人の名を有した英雄が死んだまま、すべてを焼き尽くされてしまうのか?
絶望の瞬間がすぐそこまで迫っていた。
~~~~
何処にも見覚えのない漆黒の空間、そこでハイジは目を覚ました。
右も左も、上も下も、前も後ろも真っ黒な場所に放り出された。先程まで戦っていたはずなのにと思いながら、ハイジはあることが頭の中に過り、ポツリと言葉をこぼした。
「ここは、あぁそうか。死んだのか……じゃあここが、死後の世界ってか」
自分の中にある最後の記憶……その状況からしてハイジ何となく悟る。
あのベムラーによく似た異形の怪獣によって、焼き尽くされて死んだのだと。
正直なところ、ヤツを倒して皆を守りたかったが死んでしまってはどうしようもない。
「ああもあっけなく死ぬのかよ……くそっ、だからって、人々を守れないで……!!」
悔しさの残る最期を迎えてしまって複雑な表情を浮かべるハイジ……。
そんな彼の元へ誰かの『声』が届いた。
『そうだろうな、お前、諦めきれないって顔しているよなぁ』
屈託のない声が耳にした後、ハイジの背後から光が漏れ出した。
一体なんなのかとハイジが振り向くと、そこにいたのは……光り輝く人型の何かだった。
頭部に当たる部分には目や鼻といった顔の掘りっぽいものはうっすらとあるものの、のっぺらぼうみたいに何もないようにも感じる。
眼球っぽいものもにも拘らず、ちゃんとこちらを見ているその人型の光はまるで親しみを込めて話しかけてきた。
「よぉ、怪獣狩りのヒーロー。臨死体験はどうだ?
「お前何者だ?」
「オレはトゥール・フィクトス。別名、融合超人だ。以後お見知りおきを、リンドウ・ハイジ」
「……何故俺の名前を? そもそも死に体のはずの俺を呼んだんだ?」
訝しむハイジに対し、人型の光――『トゥール・フィクトス』と名乗った彼は、指鳴らしをしながら人差し指を向けた。
そののっぺらぼうな顔に、いかにも不敵な笑みの表情を浮かべていると分かるほどに。
「ズバリ、お前にはまだ戦う意思がある。心半ばで命を散らせたにも拘らず、その結果に納得していないし、悔しがり結果を認めない、何よりあの怪獣を倒す事を諦めきれない……だろ?」
「ああ、そうだ……」
「喜べ、お前はまだチャンスがある!」
「ッ、だが……ここが死後の世界だっていうなら、現世とやらの無事なはずないだろ!? オライオン・イクスだって、あの怪獣に……!」
大げさに語るフィクトスの台詞を聞いてハイジは勢い余って激高する。
その脳裏にはバーニング・ベムストラの凄まじい熱線を受けて大破したであろうオライオン・イクスの姿が浮かんでいた。仮に原型が残っていたとしても、戦う機能はもう残っていない……。
だが、その言葉を聞いて二ヤリと口元を歪ませて、片手を大きく振り上げた。
黒い空間から光を灯しながら浮かび上がったのは、オライオン・イクスの機体だった。
所々焼き焦げていたりや装甲が融けていたり等、万全な状態ではない……それでも、ただでさえ出現したオライオンに驚く様子のハイジだが、フィクトスは一歩ずつ歩き出した。
「アイツの熱線によって命を落とす寸前のお前と、大破しかかったオライオンをオレが助けた。まあ、このまま動かせるかっていえば絶対動かせないし、そのそもあの怪獣は強い。並大抵の兵器じゃ歯が立たたない」
「じゃあどうするんだ? このままでは、街の人が……!」
こちらへ歩いてくるフィクトスに、ハイジは詰め寄る形で迫った。
その勢いと形相は鬼気迫るものがあったが、フィクトスは想定道理といわんばかりに冷静にふるまうと、掌を見せてある言葉を口にする。
「一つ、手がある。このオレと手を組め、リンドウ・ハイジ」
「手を、組むだと?」
「オレは地球人とは違う、特殊な力を持っている。それでこの鋼鉄の巨人を生まれ変わらせて、一緒に戦うって事さ」
『手を組め』という発言に対して目を見開いて驚くハイジと、その様子にニヤリと笑うフィクトス。
一瞬の間だけ、先程まで騒がしがった漆黒の空間に静寂が包む。
そして、先に静寂を破ったのはハイジだった。
「お前が仮に悪魔だろうがなんだろうが、その手しかないってのなら組んでやる」
その顔に浮かんでいたのは、【怪獣に襲われている人々を守り抜く】という決意。
ハイジは差し出していたフィクトスの手をしっかりと掴む。
対してフィクトスは予想通りのまっすぐな答えを聞いて嬉しそうな表情と声を露わにしていた。
「いいね、そうこなくっちゃ」
その瞬間、漆黒の空間は真っ白い閃光に包まれる。
同時にフィクトスの光の体は霧散し、オライオン・イクスへと纏わりつき、融合する。
まるで蛹から成虫へと変わっていく様子のようにオライオンの分厚そうな機体はまったく細身を帯びたスマートなシルエットへと変わっていく。
やがてそこに立っていたのは、灰色の巨人。
人の背丈すら軽く超えるその巨体の前にしたハイジは手を伸ばす。
そして今、新たなる戦士が動き出そうとしていた。