短編小説です!
最近恋愛系が多いのですが、こちらの作品も個人的に中々完成度を高くできたのではないかと思います!もし読んでみて良いなと感じたら、コメントをくれると泣いて喜び、あなたの幸せを"祈り"ます!
ちなみに、テーマは【星】です。

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【1話完結】一瞬を込めて、祈りが届くように

『ごめんね。私だけ、卑怯だよね』

 

過去の言葉が蘇る。

電話の向こうで泣いていた彼女は、何を思っていただろうか。

僕は、取り返しがつかなくなる前に、と彼女の元へ急いで走った。一生懸命走った。多分、人生で1番速く足が動いたのではないか。

 

あの日は、夜にしか輝けない星の舞う空が美しく、綺麗だった。

 

確か、あの日は七夕で、走りながらふと街中を見ると幸せそうなカップルや家族がいっぱいいて、軽いお祭り騒ぎだった。でも、そんなの僕には関係無くて、それよりも一刻も早く彼女の元へ急いでいて、七夕の事なんて頭の片隅にも無かった。

 

『綺麗な空だねぇ』

 

ようやく泣き止んだ彼女がそんな事を呟く。僕は息が上がっていたのもあって、彼女の言葉に返答はしなかった。でも、夜空を見上げると、彼女の言うとおり見とれてしまう程に夜空は美しかった。

 

『え?そんな事言ってる場合じゃないって?まったく、釣れないなぁ、君は』

 

彼女は、そんな冗談も言っていた気がする。いや、どうだったかな。ひょっとすると、ただの僕の妄想なのかもしれない。

 

織姫と彦星は、一年に一度しか会えないらしい。

 

でも、一年に一度は会えるのだから、それでいいでは無いか。僕達は今、この瞬間にも、一生会えなくなるのかもしれないのに。

 

ふと、僕の頭の中を最悪の未来が埋め尽くす。

その最悪がもし実現したら。次彼女と会うのは、60年後、いや、輪廻転生を信じるのならもっと後かもしれない。それこそ、星も呆れてしまうような気の遠くなるような時かもしれない。

 

それはそれで、ロマンチックでいいよなぁ。

 

そうやって柄に合わずふざけたら、あなたは考えを直してくれましたか?

 

あなたは、今も僕の隣にいてくれましたか?

 

そんな"もしも"を、考えてしまう。起こってしまった最悪の未来を、その避けようのない事実を、どうしてもねじ曲げようと妄想をしてしまう。でもそれは、所詮妄想で、現実に干渉する事は無い。

 

『考えるだけ無駄。私、分かっちゃったんだ』

 

 

───すごいでしょ?

 

いつもなら、そう言葉を付け加えて自分を指さして胸を張っているはずだ。そうしないと言うことは、彼女もかなり限界なのだろう。そんなことは前々から分かっていた。でも、彼女なら笑って全て片付けてくれる。そんな信頼が、僕の心に鍵を閉め、起こそうとした行動を無理やりねじ伏せた。

 

『ん、風が強くなってきたね』

 

ふと、スマホから不快なノイズ音が聞こえる。どうやら、電話の向こう側では強い風が吹いているようだ。それも当然だろう。彼女は、きっと高所で吹いている風に曝される場所にいるのだから。彼女のくしゃみの音が聞こえ、彼女は寒そうに息を吸ったり吐いたりしている。

 

良かった。まだ彼女は生きているんだ。この世界に存在しているんだ。

 

僕は、僕達が住んでいるマンションの階段を一気に駆け上がる。さっきからずっと走り続けているのに、不思議と体力が底を着く気配が無い。きっと、彼女はこの上にいる。屋上に、彼女はいる。

 

そのまま、僕は屋上まで駆け上がり、彼女の元へと───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.....久しぶりに、来たな」

 

僕は、屋上の扉を静かに開き、屋上に立ち入る。室内から屋外へと空間が切り替わった瞬間、凍てつくような寒さを孕んだ空気が僕を襲う。かなり寒さ対策はしてきたのだが、やはり冬の寒さ、更に高所の風の強さには勝てなかったようだ。

 

「もう、5年経つのか」

 

僕は、独り言を呟きながらあの日、彼女がいた場所の側まで早歩きで移動する。屋上に必要以上に硬く高く張られた鉄のフェンスに片手を添える。この寒さに影響されたせいか、フェンスは氷のように冷たくなっている。

 

もう、5年経つのだ。

 

あの事件から、きっと僕は何も成長してないし、彼女から一切離れられていない。でも、彼女との思い出は日に日に消えていくばかりだ。記憶のバックアップが取れないことが、こんなにも不便なことなのだな、と僕は痛感する。

 

今日は、あの日と同じく、星空が綺麗だ。

 

もうどれが何の星か、何も分からなくなったけれど、子供の頃から星への憧れは何も変わっていない。

星に願いをすると、"良い人"は神様が願い事を叶えてくれるらしい。逆に、"悪い人"は、神様が願い事とは逆の事をするのだそう。子供の頃に、認知症ですぐ話した内容を忘れる祖母から何回も何回も聞いた言い伝えだ。

そんな言い伝えは嘘っぱちだ、と子供の頃の僕は勝手に結論付け、"良い人"にはなろうとしなかった。

 

『君と、ずーーっと一緒にいられますように!って願い事したんだ』

 

きっと、彼女は"悪い人"だったのだろう。

それは多分、神様が彼女に嫉妬したからだと思う。彼女は、神様が羨む程に何もかもを持っていた。顔も、体型も、性格も、運動も、全てにおいて彼女は完璧だった。それが神様は気に食わなかったのだろう。

結局、"良い人"、"悪い人"と言うのは、神様基準でしかないのだ。

 

 

そして僕も、きっと"悪い人"なんだろう。

彼女を信頼した、と言う言い訳を作って、彼女の心の底に渦巻く闇を取り切れなかった。一緒に染まろうとしてあげれなかった。

 

1人の人間を救えなかった。

 

きっと、神様は僕に罰を与えて、彼女に嫌がらせと心の底からの安心を与えたのだろう。

 

僕は、夜空からこちらを見下している星を恨めしそうに睨み付ける。

織姫と彦星が、憎くて憎くて堪らなかった。今はいないけど、きっとどこかで互いに互いを想いあっているのだろう。まるで、あの頃の僕達のように。

 

「やるべき事は、やってきました。」

 

もう十分、"良い人"になる為にすべき事はやってきた。たった一つの、憎い星への祈り。結局、最後は神頼みなんだな、と僕は自分を嘲笑う。これでダメだったら、次のチャンスは何時になるだろうか。何百年、何千年、何万年、その頃には、君は僕の事を忘れているのかな。

 

「お願いです」

 

僕は、無駄に高いフェンスを無理やり登り、何とかフェンスの向こう側に着地する。危ない危ない。願いを言う前に落ちてしまったら、元も子も無いじゃないか。

 

『お願いです。どうか』

 

僕は、片方の手の指と指の間にもう片方の手の指を入れるように、祈るようなポーズを取る。そして、あの時、最後に発した彼女の声を思い出しながら、僕は役立たずの星に向かって静かに祈る。

 

『どうか、彼とまた───』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『また、出会えますように』」

 

 

 

次は、今とは違う生きやすい環境で、また。

 

 

 

 

そうして僕は、静けさが広がる真っ黒の宙に身を委ねた。

 

星へ、願いを託して。


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