-MIDNIGHT- ぼっち・ざ・ろっく! ぷらす 作:レティス
さて、今回ぼざろの二次創作小説を書きました。もしよろしければEDMガンガン鳴らしながらエナドリ片手にご閲覧下さい(できんのか?)
*9/17 描写を一部変更
それでは、どうぞ
俺は望まれて生まれた存在じゃなかった。そんな事情は俺の知った事ではない。生まれたばかりの俺に知る術などなかったのだから。
だが身体で分かる。目で分かる。生まれて早々に育児放棄という有り様を知るには時間は1分とかからなかった。所謂親ガチャに失敗したと例えるべきか…いや、失敗どころではない。失敗よりも惨い禁忌と言える。
母親と呼ぶ資格などない女は生んで早々消えた。父親と呼ぶ資格などない男は適当な理由と苛立ちと酒浸りの勢いで俺をサンドバッグ扱いして虐待する始末。残飯のようなものをぶつけられ、空の酒瓶で殴られる日々。
そんなある日、あの男は“射殺”された。奴は苛立ちが有頂天に達した余りに酒屋数件を放火したらしい。その過程で警察に包囲されたあの男は、誰にも出来ないような虐殺を引き起こした。一般人、警察、自衛隊問わずだ。嘘に聞こえるかもしれないが、俺はその光景を間近で見ていた。あんな所業は人間には出来るものではなかった。
俺はその後、身寄りがなくなった…いや、そんなもの初めから存在しなかった俺は養護施設に預けられた。これでやっとこんなクソなところから抜け出せる。あの時の俺にとってはそれだけで満足していた。
甘かった…といえばそこまでだ。
そう、預けられた養護施設で待っていたのは新たな“地獄”だった。先生や他の孤児達から迫害を受けたのだ。俺だけ食事を抜きにされるのは勿論、俺だけわざと仲間外れにされるよう仕向けられたり、自分のベッドを与えられなかったと数えきれなかった。まるで“何かの恨み”のように憎悪をぶつけられた。
まだ幼かった俺でも推測がついた。まさかと思ったが数年経ったある日、俺を虐めていた一人の少年の孤児がこう吐き出した。“お前の親のせいで父さんと母さんが死んだんだ”と。
確信へ至った。俺に差し向けられた憎悪の理由は全て明瞭なものだった。あの少年だけじゃない。施設の者全員があの男と女の犯罪の被害者達だ。あのクズ共は俺が生まれるもっと前から凶悪犯罪に手を染めていた。強盗、恐喝、そして殺人と最早地球の生命ではない程に罪を重ねていたらしい。
惨い虐待を受けた俺でさえ彼らを責める資格はない。俺は初めから何もなかったが彼らにはあった。それをあのクズ達が奪っていたのだから。ならばその矛先は俺に向く。彼らが否応なしに悉く奪われ、そして手に入れたのはやり場のない憎悪の矛先だった。
逆上なんて下手な真似はできなかった。だがそれでも、俺は安息の場所が欲しかった。理由があるからといって何故こうも虐げられ続けられなきゃならないのかだんだん分からなくなった。だから施設から脱走した。ここから逃れるために船に密かに乗り込んだ。そして俺は嵐の中で船から投げ捨てられた。
その瞬間、俺は人間全てが“敵”だと見えるようになった。
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ドゴァッッ!
「ぐべっ…!」
「く、くそ…!何なんだよこいつ!?“あんな巨大な角材”を振り回すなんて化け物か!?」
俺の視界には10人程の不良達。刈り上げだったり金髪だったりと典型的だ。だが相手じゃない。俺は身の丈以上もある太い角材を得物に不良達を薙ぎ払っている。不良達も鉄パイプや金属バットで武装していたが、パワーとリーチはこちらが圧倒的だ。
「怯むな!たかがガキ一人だ!数で攻めりゃ勝ちだ!」
「けど兄貴…。」
「ごちゃごちゃ言うな!お前ら!三方向から攻めろ!」
どうやら兄貴と呼ばれたあいつがこのグループの大将のようだ。
子分達が怖じ気づいてるようだが、意外にも連携は取れてるようで、正面、右、左の三方向から二人ずつ不良達が突撃してきた。起点作成か…。
「ふんっ…。」
ブォォンッッッ! ドゴゴゴゴゴッ!
右から左へ薙ぎ払い、不良達が伐採されるがの如く弾き飛ばされる。
「今だぁ!」
「…?」
刹那、振り切った角材に向けていつの間にか距離を詰めていた不良3人が角材を押さえつけた。そして正面からは大将が金属バットを構えて突撃してきた。
「…押さえ込んだつもりか?」
「何?…うわっ!?」
俺はそのまま力いっぱいに押さえつけた不良3人ごとまとめて角材を持ち上げる。予想外の出来事に角材を押さえていたはずの不良達は顔面蒼白でしがみつく。
「ば…ばけも」
バギャァァァァン!
俺は眼前の光景に硬直して動けなくなった大将にそのまま重量の増した角材を振り下ろした。勢いを乗せた角材は先端から粉々になり、しがみついていた不良達が弾け飛んだ。
「あ、兄貴ぃぃ!?」
「この野郎、覚えておけよ!」
大将がやられた事で、不良達が典型的な捨て台詞を吐きながら負傷した大将以下数名を連れて撤退していった。俺も角材を投げ捨てると、鞄を回収してその場から立ち去った。
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江ノ島へ漂着してから約7年は経つだろうか。結果で言えば脱出に成功した。その際、偶然その場にいた中津という男性に拾われた。身元不明という事もあり手続きに紆余曲折あったが、最終的に中津さんに引き取られる形で住民登録が完了した。幸いな事に、“あの場所”から大分距離があった事からあのクズ共の悪評がそれ程浸透していない事、そして地毛が何故か銀髪に変色していた事から本当の身元が特定されづらくなっていた点があった。
そんな俺、“中津鍵人”は中学3年まで進学した。ちなみにこれは登録される際に名付けてもらった名前だ。生まれた時、俺には“名前”すら与えてもらえなかった。ずっと“名無し”だの“サンドバッグ”だの言われてたからな…。
中津さんとは現在一緒に住んでは“いない”。中津さんには感謝してはいるが、信用しているかと言えば話は別だ。中津さんさえ俺は信用してはいない。いつ裏切られるか分かったもんじゃないからだ。だから独りで生きていくのに必要な知識を多く学び、そして中学生になったある日に目を盗んで逃走した。
誰も彼も信用しない。自分自身さえもだ。そうすれば裏切られはしない。
俺は今、何処に住んでるのかと渋谷だ。とはいっても引っ越しを繰り返しているからこれで3件目だ。中学生になってから、不良にからまれて喧嘩に明け暮れる事が多くなった。尤も、成績は上位な方だし喧嘩も積極的にやっている訳じゃない。あれから俺はいつ厄介な敵に遭遇してもいいように己を鍛え続けている。巨大な角材を振り回す時点で完全に人間以外を想定していないかと思うが、それぐらいが丁度いい。
俺の周りの人間全てが“敵”だからだ。
「……はぁ。」
ため息混じりに、青信号になったスクランブル交差点を渡る。360度から雪崩れ込む人混みという名の猛獣の鋭牙。あるいは全てを飲み込むブラックホール……俺はこの感覚が嫌いだ。下手をすればすぐに飲み込まれてしまうからな。
周囲には様々な人達がいる。夕食何するとかの話をする子連れの家族、仕事疲れを労るサラリーマン達、秋葉原へ行こうとするオタク達、恋人と待ち合わせしていたと思われる“レーシングカートチームに所属しているという少年”、数名の知人達とオカルトな話題を語りながら歩く“オカルトマニアな少年”と、様々な人達が人混みという牙を噛み合わせながら歩いていく。
四面楚歌だ。今でもあのおぞましい感覚が頭を打ち付ける。人に囲まれるだけで吐き気と恐怖と殺意が沸き立つ。いっその事アンデッドにでもなれば楽だったか?誰かに噛み付いてバイオハザードでも起こしてしまえば楽だったか?
「あ…。」
ふと夜空を見上げる。そこには満天の星空が広がっていた。特に目立ったのは、“ピンク色と黄色と青色と赤色の星”が“銀色の星”を囲んで環を成していた事だ。まるで“結束バンド”のように固い結び付きのようだ。銀色の星は明らかに俺の事だろう。あの四色は何だ?後の何かを示すサインか?
「…。」
養護施設に入ってた頃、夜空を見上げる機会は何度かあった。村八分の鬱憤を晴らすかのように星を見ていた。誰とも語らず、孤独に星々を見つめる。そんな日課が毎日だった。だからこそ
「…ッチ!」
今日ばかりはあの夜空が“気に食わなかった”。何なんだあの囲いは?四つの星は?星々まで俺の敵に回る。そういう事なんだな?
軽く舌打ちしながらその星空にやり場のない憎悪を向けた。夜空を見て淀んだのは初めてだ。あーあ……
あんな
そう願った瞬間、環を成していた四つの星を断ち斬るように“銀色の流星”が迸った。
本作のオリ主設定
中津 鍵人(なかつ けんと)
本作品の主人公。生まれた時から父親から暴力を受け、更に街中から村八分の憎悪を向けられてきた。その後、海へ落ちたところで江ノ島の浜辺で中津という男性に拾われて育った。
人間が嫌いであり全ての人間を信用していない。なお、鍵人という名前は中津という男性に付けられたもとであり、元は名前すら付けられず、“サンドバッグ”やら“名無し”と吐き捨てられていた模様。