-MIDNIGHT- ぼっち・ざ・ろっく! ぷらす 作:レティス
「え~、であるからして…」
校長先生のクソ長い無駄話が続く入学式。皆つまんなそうなのは顔を見る以前から分かる。俺は高校への進学には秀華高校という所を選択した。それに合わせて、そこから比較的近い場所に通えるよう4度目の引っ越しを行った。理由はどうでもよかった。ただ通いたいからそれだけ。
この入学式の後は部活動の勧誘があちこちから来るだろうが入る気は微塵もない。全部薙ぎ払ってやるだけだ。入るだけ無駄なんだよ。
『起立、礼。』
入学式がやっと終わり、生徒全員が教師達の案内に沿って体育館から退場していく。そして各々ホームルームが終わって下校する事になった。
「やっと終わった…。」
俺はそのまま鞄を持って自宅までの道のりを歩こうとする。教室から出る直前、今度こそ絶対バンドやるとかほざいていたギターケースを机に掛けて何故かピンク色のジャージを着たピンク髪が視界に入ったり、廊下では会って早々出来たと思われる友達に誘われた赤髪が視界に入ったりしたが、無視する。
話かけてくる奴らはいない。こんなハリネズミのように威圧感を醸し出した奴に話しかける輩はいないだろう。だが、昇降口から出た瞬間、待ち構えていたかのように部活動の連中は群がり出した。
「あの、野球部に興味は…」
「もしよろしければ文芸部に…」
「なぁ、サッカーやろうぜ!」
「プログラミング部、募集して…」
「道を開けろ。」
「「「「ひっ…!?」」」」
群がってくる部員募集の奴ら共を一蹴し、俺はそのまま学校の外へ出た。さっきすれ違った“赤髪”と“ピンク髪”の視線を感じたが知ったことではない。
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~数十日後~
「ここの連中、妙に手慣れてたな…。」
人や部活を払い退けながら、1ヶ月の月日が経った。あれから俺に話しかけてくる輩はいなくなった。やるだけ聞くだけ無駄な授業をやり過ごす日々、ただひたすらに自ら群がってくる敵をねじ伏せる日々が続いた。
夢なんてクソ食らえ。生き甲斐なんて豚のエサ。それは人間全てを敵視してから染み付いた。
俺は学校終わりに御茶ノ水辺りを歩いていたところ、やはり不良グループに遭遇。だがこれまで戦った奴らと違い、ここの連中はやけに手慣れている。全員が格闘技の類いでも習っていたのか、攻撃喰らっても受け身ですぐ態勢立て直してたし、丁度あった角材をぶつけてもピンピンしておりなかなか怯ませられなかった。その影響で俺も腕と肩に何発か貰っちまった。
「これは…買い物した方がいいか…?」
そろそろ自衛手段を買う必要が出てきたか。俺は近くの銀行に立ち寄ると、ATMを操作して口座からお金を引き出す。一応バイトはしており、それに中津さんと同居してた時からひっそりと積み込んできた“資金”もある。一応金にはそこまで困ってない。
「さて、どうしようか…?」
引き下ろしたはいいが、俺は何処で何を買おうか悩む。スポーツ用品店でアイスホッケー用のスティックとか野球の金属バットでもいいが、それを購入してしまうと高校の部活動共が余計にうるさくなる。ナイフとメリケンは物騒過ぎる………あっ
「…“楽器”もありか。」
よくよく考えれば楽器を自衛手段に使う手もあった。例のピンク髪もギターケースを常に背負っていたし、カモフラージュにはなる。強度こそあれらよりかは不安だし、だからといってケースの方を何処ぞの西部劇みたくロケットを発射できるような改造は不可能だ。けど選択の余地はある。
「ここから近くだと……ここか。」
スマホのマップで検索し、最寄りの楽器屋が何件か出たのでそこまで歩く。ブランド等の拘りは一切ない。近ければ何でもよかった。
「…ここだな。」
『イシバシ楽器』…ぱっと見で店内を見る限りギターとベースがメインの楽器屋のようだ。まあ、ドラムで
「「いらっしゃいませ。」」
「…。」
金髪と緑髪の女性店員二人を無視して店内に入る。店内には様々な種類のギターやベースがアコースティック、エレキ問わず並んでいる。別の箇所には音を出すためのアンプ、商品棚にはピックやストラップ、シールド、エフェクターなどのアクセサリー、更には教本も並べられていた。
「…まずはギターか。」
アコースティックはスルーし、俺はまずギターを手に取る。ストラトタイプのギターだ。しっかりとした重みがあり、弦も手入れされてある。ペグを少し弄ればいい感じの音が出せるはず………なに考えてんだよ俺?
「あの、お客様?もし宜しければ試し弾きされていきますか?」
「こいつじゃダメだ。軽すぎる。」
金髪の店員が話しかけてくるが、俺はギターを元の位置に戻しながら却下した。誰が試し弾きなんかするか。
続いて俺はベースを手に取る。ちなみにベースとギターの違いは重さ、長さ、そしてのペグの大きさだ。"6弦だからギター"だなんてくれぐれも言わないように。多弦ベースの存在があるからな……誰にいってんだろうな。
「お客様「惜しいけどこいつもダメだ…。」…メタル系のギターをご希望でしたら2階にごさいますので。」
却下しながらベースも戻していると、ここで金髪の店員が二階にもメタル系のものがあると薦めてきた。俺はそのまま二階へ上がると、聞いた通りにメタル系のギター等が置かれていた。ダブルネックもある。
「…だめだ…。」
とりあえず一通り見てみるが、どれもピンとこない。奇抜な形状をしている物は何かと性に合わないし、ダブルネックも一応持ってはみたが持ちにくくて即戻した。
「演奏せずに見定めてますね。ギターとベース問わず…。」
「ぱっと高校生ですけど、もしかしたら相当ロックやメタルを研鑽されているかもしれませんね…。」
店員二人のひそひそ話が先程から聞こえてくる。高校生は合ってるが、音楽などに興味はない。俺が楽器を見定めている基準は3つ。強度と長さと重量だけだ。
一応、全く弾けない訳ではない。だが烏合の衆とバンドするなんてもっての他だ。
「あの…お客様、何かお探しでしたら「一際重量のあるやつはないですか?」…お客様、失礼ながら当店にはピアノの類いは並んでおりませんので…。」
緑髪の店員に重量が際立ったやつがないか尋ねたが、ピアノは流石に並んでないと返された。まあ、ピアノを引き摺ってまでは戦いたくはないな。
「…ないならもう帰ります。」
ピンと来るものはなかった。ならばここには用はない。不遜な態度を取ったが、俺は謝らない。出禁にしたきゃ勝手にすればいい。
俺は不機嫌のまま入り口まで踵を返そうとした。
その時だった。ふとした所に目が入ったのは…
「……ん?あれは…。」
俺が視界を向けた先には、恐らく唯一並んでいるといえる一台のショルダーキーボードが置かれていた。
だがそれは、ショルダーキーボードというには“あまりに大きすぎた”。その全長は俺の身長を超えてざっと1.9mには達するだろう。本体を支えているスタンドさえこいつのために作られたとしか言い様がない程に重量感を醸し出している。フレームやら電子機器やら等をその本体に次郎系の如く詰め込むためか幅がぶ厚く、そして鍵盤やパネルの類いが複数付いているために大雑把に見えて繊細過ぎるという。それはまさに外見も合わさって
音が鳴る“大剣”だった。
「これは…。」
「あぁ、そちらのショルダーキーボードは“『SW-DragonSlayer』”という機種です。」
「ここってギターやベースがメインの店ですよね?なんでこんなものが?」
「思いもよらない所から流れてきたんです…ですが、こちらはただのディスプレイのようなものですので。」
名前の通り“ドラゴンすら殺せそうな巨大な剣”の如き姿を有するショルダーキーボードを説明する緑髪の店員。だがこれは実質売り物ではないと説明する。
店に置いてあるからには売り物のはずだ。ディスプレイ扱いってどういう事だ…?
「売り物じゃないんですか?」
「いえ、こちらもれっきとした商品です。しかし、ただでさえショルダーキーボードは演奏難易度が非常に高いにも関わらず、これは“あまりにも重量がありすぎて”一人では保持する事さえままならないんです。」
外見で察しはついたが、重量の問題で一人では保持する事すら不可能だと金髪の店員は言う。大雑把に例えるならグランドピアノを持ち上げながら弾くようなものか…。
「はい。スピーカーも内蔵してる関係上、全長が通常のショルキーよりも二倍も長くなっているんです。」
「…グリップ辺りも長いな。」
「グリップの方も、本体とのバランスを取るために延長してあります。さらに“フレームや外装の方も強靭なもの”が使用されてるので“並大抵の衝撃ならびくともしません”。」
……ほう、並大抵ならびくともしない代物か…。
俺は店員二人の説明を受けながらそのショルダーキーボードに興味が湧いた。誰にも演奏できないと揶揄される程に凄まじい重量、更にはキーボードにはあるまじき驚異的な耐久性……
「ですが、いくらロックなミュージシャンでもキーボードは繊細ですのでそこまで「持ってみてもいいですか?」…え?」
「あの、お客様?それは出来ますが、流石にお一人では…。」
「構わない。あれを一人で持ってみたい。」
俺の言葉に戸惑っている様子の店員二人。そのまま目の前のショルキーまで歩み寄る。その佇まいはまるで物語に出てくる選定の剣のようだ。或いは人間を破滅へと惑わしてくる邪な魔剣の類いか…いや、どっちでもいい。
「すぅ…。」
ショルキーのグリップを持ち、一旦呼吸を整えてからそのまま持ち上げる。あの店員二人がかりでも動くか分からないと言われていたそれは、スタンドに立て掛けられた状態から一気に空中へと浮いた。腕を通して分かる途轍もない重量、並大抵の奴らだとバランスを崩すのが想定できる長さ、そしてゴンッと金属音が鳴るのが高い耐久性を物理的に物語っている………“これだ…!”
「くくっ……あるじゃないか、“俺向きのやつ”がここに…!」
ここでそのまま帰ってたら二度とこいつには出会えなかっただろう。この楽器屋の中でひっそりと潜り込んでいた異端児…あるいは迫害されたこいつはまさに俺に相応しい“剣”だった。
「え?嘘…持ってるよ…あの“鉄塊”を一人で…?」
「お客様、大丈夫ですか!?」
「あぁ…何ともない。」
金髪の店員はただひたすらにショルキーを鉄塊と揶揄してひたすら戦慄しており、緑髪の店員は心配していたが、問題ない。
身の丈以上の物を持ち上げるのには慣れている。むしろこれぐらいじゃないと馴染まない。恐らくギターやベースはおろか、ただの楽器には興味がない断言できるぐらいだ。
「…ところで聞きますけど、こいつは音は出せるのか?」
「あっはい、状態は新品同然ですので…。」
バンドをする気はないが、このままだと用途を疑われるので一応聞いてみる。どうやら状態は新品同然らしい。スピーカー内蔵って言ってたし、電池入れれば動かせば一応音はなるだろう。
「それで価格は?何も貼り付けられてないけど。」
「え?」
「だから、価格を尋ねてるんですよ。」
「もしかして、こちらを買われるんですか?」
「はい。」
「「ええええええええええええええええ!?」」
「ッ!……何だよ…?」
刹那、店内に絶叫が響いた。そりゃ確かにこんな曰く付き誰も買わないだろうって思ったやつを買うってなったら驚くだろうが、そんなに驚くのか?
「はっ!?失礼しました。ですがお客様、こちらの商品はかなりの高額となりまして…。」
「いくらだって構わない。それとこいつに合うストラップとケースは?」
「ストラップとキーボードケース、それからスタンドの方は付属しております。あの…ミニアンプとシールドの方は…?」
「…買います。」
どうやら元々こいつに付属しているストラップとケースがあるらしい。まぁ何でも……いやストラップはまだしもケースはまた後丁度よさげなのを探そう。多分ここに並んでるケースだと絶対入らない。
ミニアンプは…誤魔化しで買っとくか。衝動買いにもならねぇ勿体ない買い方だけど。
俺は一旦キーボードをレジに置くと、適当にアンプとシールドを選んでレジに置いた。その間にキーボードは店員によって付属品と思われるケースに仕舞われた。スタンドも折り畳まれ、恐らくストラップもケースの中だ。
「あの、お客様?本当によろしいでしょうか?お値段は合計で“700万”となりますが…。」
ぽんっ!
「「」」
「これで丁度のはず。」
トレーに置かれた“700枚もの諭吉先生”。その光景に店員二人は出す言葉を失った。
会計を終わらせた俺は楽器屋から外へ出た。背中に背負った“掘り出し物”と共に。
これで“残高の半分”が消し飛んだけど、今日は間違いなくいい買い物したな…。
「…あ、まだ夕飯の材料買ってない。」