-MIDNIGHT- ぼっち・ざ・ろっく! ぷらす 作:レティス
Side 鍵人
『お前は所詮俺のサンドバッグなんだよ。サンドバッグは人間じゃねぇ。だからお前には名前すら必要ない。分かるか?このクズがぁ!』
『“名無し”に与える居場所はないわよ?この施設には。』
『いずれお前もあの男のようになるのだろう?“名無し”。』
『近寄らないで!“名無し”のくせに!』
『おい“名無し”!お前、また食事抜かれたんだって?ダッセぇ!はははは!』
『オラッ!とっとと死んじゃえよ“名無し”!』
『お前のせいだ“名無し”!お前とお前の親のせいで僕の父さんと母さんが死んだんだ!!』
『これで皆も浮かばれるだろう…“名無し”。』
「はっ…!?」
全身から大量の汗を流しながら飛び起きる。またあの“悪夢”だ……名前さえ与えられず暴力と迫害、憎悪をぶつけられてきたおぞましい日々が今でも俺を蝕み続けている。
俺の両親…いや、両親と呼びたくもないあいつらは凶悪犯罪に手を出し続けたのは知ってる。だが養護施設の人達や街の連中が憎悪を抱く理由は父親だったらしい“あの男”だ。あいつは“誰にも出来ない程の大事件”を引き起こした。息子にあたる俺に恨みをぶつけるのに、理由は十分過ぎる。だからこそ周囲の人間達が“敵”に見える。もし真実を知れば、その瞬間殺しにかかってくるだろう。
「…。」
まだ深夜。自宅のベランダから見える街並み。時間帯的に灯りは減ってはいるもののまだ輝いている。だが星空は見上げない。昨日起きた出来事に巻き込まれてから凶星など見るだけ無駄になったからだ。
いつ“裏返って”もおかしくはないだろう。その時が来るのが恐ろしくてたまらない。
あいつが…“あんな事件”さえ起こさなければ……
「“『ゴッドハンド』”さえ起こらなければ…。」
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「…。」
自分の席で一人、購買で買った昼食を食べながら投資している“『八雲重工』”と“『グレモリー・エンタープライズ』”の上昇幅を確認する。最近だと『八雲重工』の株価が上がってきてるな…。
一人暮らしの身だ。俺も当然バイトはしている。在宅ワーク系のバイトではあるが。だが何故引っ越しの費用やショルキー…“竜殺し”の購入費用を賄えたかというと、俺は中津さんの家から抜け出す前に株取引の知識を習得していたからだ。流石に俺も資金持ち逃げなんてクズな真似はしない。自分の食い分は自分で稼ぐ。だからこの面に関しては迷惑はかけていない。
「そういや、あれってたった“3本”しかなかったのか…。」
俺は株のアプリを閉じながらリョウがあのショルキーの事を語ってたのを思い出す。強制的にバンドの手伝いされたのには腹が立ったが、これだけは俺にとっては重要な情報だった。あの竜殺しはぶっ飛んだ仕様と価格のせいで世界にたった3本しかないという。それはつまり、再購入が極めてやりづらいという事だ。プロジェクトの面々が全員総辞職したぐらいだ。恐らくメーカーサポートも効かないだろう。
俺はするつもりはないが、中の電子部品の類いの修理等は中津さんから教えてもらったから一通りできる。キーボードの鍵盤の交換も問題ない。だが問題はフレームと外装だ。こいつ専用の特殊な製法の金属フレームと外装というからには、普通の楽器屋にはまともに修理できないだろう。
「…いい修理屋、目処立てておくか…。」
人を信じるのは癪だが、竜殺しの修理をも請け負う場所に粗方目印を立てておこう。引っ越しを続けてきたから流石に金属の類いの加工なんてやろうとすると近所迷惑になってしまう。そういう時だけは専門業者に頼ってみよう…。
「……っ…ぁ…あ…お…あ…。」
「…何だよ?」
さっきから視線を感じる。ぼっちだ。俺を『結束バンド』へ連れ戻すために近づいてきたのだろう。“逃げたギター”に続いた“逃げたキーボード”とみなして。そもそもで俺はバンドに加入するだなんて一言も言ってないぞ?
「…先週言った通りのはずだ。他あたんな。」
「ぁ…は…はぃ………。」
その一言であっさりとぼっちを撃退した。
結束バンドとかいう烏合の衆を払い除けて約1週間が経っている。早々にSTARRYから去ったおかげで連絡先の交換を強いられる事はなかった。もし退去が遅れてたらしつこく付きまとわされていたはずだ。俺はもうあの面々と会うつもりはない。
連絡手段さえなければこっちにコンタクトを取る術もない。俺の現在の自宅が、『STARRY』のある下北沢なのは玉に瑕だが、無闇に近づかなければいい話だ。一応の留意点として下北沢高校に通ってる虹夏とリョウに遭遇しないよう帰りは遠回りする必要がある事、『結束バンド』に加入したであろう同じクラスのぼっちがいる事だ。
ぼっちは相変わらずのコミュ障のせいで自滅しっぱなしだ。今日も昼休みに“階段の片隅らへん”におったぐらいだし、軽く頭の片隅に入れておくだけで後はもう何も問題はないだろう。問題はあの二人だが…。
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~2日後~
「…。」
「…。」
「…。」\キタァァァァァァァン☆/
由 々 し き 事 態 に な り ま し た 。(´・ω・`)
放課後、俺はそのまま下校しようとするが、廊下から昇降口へ向かおうとするとやはりぼっちが尾行してきている。そこまでならまだ問題なかった。だが5組の教室から別の人物が出てくると、こっちに向かって歩いてくる。ギターケースを背負った赤髪セミロングの少女…“喜多郁代”が。
あれはぼっちとは全くの正反対である陽キャの結晶。人との関わり合いにめちゃめちゃ積極的だという。
まずいな…もし喜多も『結束バンド』のメンバーになってるとしたら今後加入するまで延々に付きまとわれる事になるぞ?けど流石に俺もこんな場所で争い事は起こしたくはないし、何より喜多に向かって手荒なあしらい方なんてしたらそれこそ別の意味で大変なことになってしまう。しかもなんだ?さっきからぼっちが焼け焦げてるぐらいに眩しいオーラは?さっきから後ろからキターン☆って聞こえるし何これ?
こうなったら、あいつがぼっち達とは無関係である事を願うしかない…
声かけられたら終わりだ…!
俺は黙って歩く。校舎から普通に出ればいいだけの話だ…。
頼む、無関係であってくれ。頼m
「中津君。“私達”、貴方に話があるの。」
あ、ダメだわ。完全に声を掛けられた。しかも“私達”って事は絶対ぼっちも含んでるなこれ。昨日からギターケース背負い出したからまさかとは思ってたけど…ブルー“喜多”、お前もか。
「…一旦、校舎出ないか?話はそれからで。ここじゃ迷惑になっちまう。」
「ええ。」
この廊下で話し合いなんてしてると他人に迷惑がかかるともっともらしい事を言う。話は外ですると了承を得ると俺と喜多さん、そしてぼっちは廊下を昇降口を経て校舎を出た。よし、プランBだ。(あ?ねぇよそんなもん)
「それで、二人がかって何だ?」
「ぁ…実は…その…。」
「実はね。中津君に『結束バンド』に戻ってきて欲しくてこうして尋ねてきたの。」
「やっぱりそれか…ぼっちにも言ったけど、俺はもう『結束バンド』に戻る気はない。そもそもで俺は一回限りの助っ人だ。正式なメンバーじゃない。二人に会ったら言っておいてくれ。俺にはもう関わらないでくれってな。」
俺はぼっちと喜多からの再勧誘を断ると、虹夏とリョウへこの伝言を伝えておけと言った。そして俺はそのまま校門を出て駅までの道のりを歩く。
Sgde 喜多
私と後藤さんの言葉に耳を貸そうとはせず、中津君はそう言って駅までの道のりを歩いていってしまった。正直驚いたわ。中津君がキーボードをやっていたなんて。入学初日から部活動の人達に威圧を放って退けた逸話からあまりいい噂を聞かなかったけど…。
そういえば、虹夏先輩やリョウ先輩が言ってたわ…『結束バンド』は5人になったとか、腕のいいキーボーディストが来てくれたとか。私が
「後藤さん、中津君を追いかけましょう!」
「はっ!えっ!?」
私は後藤さんの手を引いて中津君の後を追いかける。私はギターが上手く弾けなくて、それで虹夏先輩やリョウ先輩に迷惑をかけてしまった。逃げ出したけど、後藤さんのおかげで私はもう一度『結束バンド』のギタリストとして頑張ろうという気持ちが出来た。けどまだ罪滅ぼしには程遠い。多分これこそがその一つだと思う。
虹夏先輩とリョウ先輩、後藤さんのためにも中津君をバンドメンバーとして復帰させよう!
Sgde 鍵人
俺は下北沢駅の改札を出て、西口から駅を出る。先を進んだ所にある集合住宅の一室が俺の自宅だ。
「…。」
関わるなって言っておいたはずなんだけどなぁ…ステータスが極端なやつってこうも存在感が分かりやすいんだな。“
「…おい、いつまで後をつけてくつもりだ?」
俺の声に反応して物陰からぼっちと喜多が出てきた。こりゃずっと俺の事尾行していたな?このまま自宅を特定されたくないな…いざという時は猛ダッシュで振り切るか。
「あ…えっと、後を追うつもりは…その、なかったんですけど…えっと…。」
「もちろん、虹夏先輩とリョウ先輩のバンドに連れ戻すまでよ!」\キタァァァァァァァン☆/
あぁ、やっぱりそうなるのか…!
ぼっちが言葉を詰まらせてるのを余所に、喜多は単刀直入に言い切った。いや予想はしてたさ。昨日からギターケース背負い出した時点でもう察しはついてたけどそりゃないなぁ。
「断るの一言だっ!」
シュバッッ!!(全力ダッシュ)
「あっ!!中津君、止まって!」
「ちょっ!?ぐえぇ!?」
当然、喜多も俺の事を追いかける。ぼっちの手を引いた状態で。二人揃ってギター背負ってる状態で俺に追い付けると思ったら大間違いだ。生憎今日は竜殺しを自宅に置いてきてある。高所への飛び降りやフェンスを利用したりすればすぐに振り切れるだろう…。
20分後……
「ぜぇ…ぜぇ…ぜぇ…。」
舐 め て ま し た。 (´・ω・`)
いや、バスケ部の手伝いを依頼されてるところを見たから予想はしてたけど、やたらとスタミナと運動神経いいなオイ。そもそも喜多、お前“目が椎茸”みたいになってる時の探知能力どうなってんの?さっきから行く先々で読んだかのように先回りしてるし、フェンス飛び越えてアドバンテージ取ろうとしたら満身創痍で人の原型が留まらなくなりかけてるぼっちを強制連行しながら越えてくるし、お前ら何なの?(震)
まるでナニカサレタかのようなスキャンモードか、あるいは吸血鬼滅せそうなぐらいのエネルギーで探知してるのか…これは、多分後者だ。廊下でぼっちが焼け焦げてたし…。
「そうだ…この先で撒けるか…!?」
この先には俺も馴染みのある喫茶店がある。そこの店主に匿ってもらおう…!後ろから喜多の声が聞こえてくる。いつこちらの姿を捕捉してもおかしくない…!
突き当たりを左側へ曲がってすぐのいかにもレトロな雰囲気の喫茶店に入る。思いっきり扉を開けるとカランカランとベルがなってしまうため、静かに開ける。閉じる時もしかりだ。
「いらっしゃ…おぉ、鍵人君じゃないか。こんな静かに…」
「しっ!法焔さん、ちょっと匿ってくれ。追われてんだよ。」
「追われてる?」
俺は喫茶店の店主・法焔さんに匿うよう頼むと、俺はすぐ側のカウンターの裏側に姿を隠す。店内の客の目線は知った事ではなかったが、入った時の視界では“黒い眼帯を着けたボロついた服装の男性”しかいなかったので多分問題はない。
「あれ?鍵人君何処に行ったのかしら?」
「…ぜぇ…はぁ…はぁ…。」
「後藤さん、大丈夫?」
「あ…はい…中津君、今日はキーボード背負ってなかったから…速い…。」
「そうだよね、けどさっき"左側へ曲がっていく"のを見たから絶対こっちにいるはずよ。行きましょう後藤さん!」
「えっあえ…ちょぁぁぁぁぁぁぁ…!」
数秒経って、喜多とぼっちが追い付いてきた。どうやら左側へ曲がったところを見られたようだが、足が速いという合理的な理由で二人はそのまま直進していった。ぼっちはもう体がスライム状になりかけている。喜多、お前ぼっちを少しは労ってやれよ…。
「ふぃぃ…行ったか…。」
何とか追跡を撒いた事で、緊張の糸が解れた。不良共を撃退するより何十倍も疲れた。あの辺に無闇に近づかなけばいいと思ってたけど、どうやら状況が変わったようだ。
「女の子二人に追いかけられるとは、あの鍵人君がようやく他人と馴染んできたか。」
「そんな訳ない。しつこく付きまとってくるのを馴染むなんて言わないよ。」
先程の光景を見て法焔さんは微笑みながら言ってきたが、俺はそれを否定する。ここの喫茶店『いっしん』の店主である壮年の男性・天羽法焔さんとは俺がまだ“名無し”だった頃から会っている。人間を信用していない俺にとって唯一の例外といっていい程に信頼している。再開したのはまだ港区にいた中2の頃で、今では時折ここに来る程には常連になっている。
「さてどうするんだい?いつものやつかい?」
「あぁ、頼むよ。それとブラックコーヒーも。」
あの二人が追跡を諦めて『STARRY』へ行くぐらいまではここに留まった方がいいだろう。俺は法焔さんに
「いずれ“決断”する時が来る。」
「!?」
刹那、眼帯の男はすれ違った際に耳元でそう囁いた。何の事か聞き出す前にそのままレジに向かって会計を済ませて店を出てしまった。“決断”…?何の事だ…?
俺は眼帯の男が囁いた言葉を理解出来ないまま席に座る。あの男、俺が入ってきた時からずっと視線を向けてたよな…?“太陽を間近で見てるかのような熱い視線”をいや、あの男どころか“沢山の気配”を感じたような…ざっと“100”ぐらいの気配を…。
カランカランカランカラン…\キタァァァァァァン☆/
「いらっしゃいませ…おや?」
「…。」
新しい客が入ってきた…隠す気がないようなオノマトペと共に。そしてぼっちが焼け焦げるような視線と共に………まさか…。
俺は恐る恐る視線を横に向けると、そこにはやはりいた。喜多とぼっちが…おい、ぼっち顔面蒼白じゃねぇか。おまけに体がスライム状になっちゃってるし…しかも発火してるじゃねぇか!?
「見つけたわ中津君!」
「…ぁ…ぁ…。」
「ちょっ!?何故ここが分かった!?」
「さっき“眼帯の人”がここにいるって教えてくれたのよ。」
絶対さっきの人じゃん!何してくれんだよ!いずれどころか決断もう間近にまで迫ってきちまったじゃねぇか!?それともう原型を留めていない“ボチナシ”、お前はもう休め。疲れただろう(喜多のせい)。(´・ω・`)
「言っとくけど、何度尋ねても出す答えは同じだからな?早く帰ってく「中津君。」…何だよ?」
「私達がフェンスを越えてた時、“見てた”でしょ?」
「っっっ!!!!!」
刹那、耳元まで寄ってきた喜多の囁きで雷に打たれたかのように背筋が痺れた。おいその手口は汚いぞ。喜多だけに。(大変面白くないギャグ)
いや、確かに後ろの様子を確認するために振り返った瞬間“見てしまった”けどよ……男の習性を利用するのは無しだぜ…。
「…ここのメニュー奢ってやるからそれ以上聞くな…。」
俺が口止め料を差し出すと、喜多は俺の弱点を得たのかニヤニヤと笑っていた。あぁ散々だよ…俺の憩いの場の存在を知られるわ、弱点握られるわで…。
「…とにかくっ!後の二人にはこの場所の事は内緒だからな?」
カランカランカランカラン…
「ぼっちちゃん、喜多ちゃん、こんなところで……あっ、ガッツ君!」
「ガッツ、捕まえたんだ。ナイス。」
「あ、虹夏先輩。リョウ先輩。ようやく中津君捕まえました!」
(`O言Ó*)<ヴェアアアアアアアアアアア!!!!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「いやーよかった。ガッツ君も無事に見つかって、これでようやく五人揃ったね!」
「あのさぁ…バンドに入るなんて一言も言ってないんだけど?何で勝手に押し進めてんだよ。」
「…あれ、言ってなかったっけ?」
「捏造すんなっ!」
結局通りすがりの伊地知虹夏と山田リョウにも俺の憩いの場がバレる事となってしまった。ちなみに結局四人の注文を俺が奢る事となった。特にリョウに関しては奢りというワードに過敏に反応したのか、やたらデカイパフェを頼むという馴れ馴れしさ…ふざけんなよお前…。
「ガッツ、連絡先聞いてなかったからぼっちを通してしか知る手立てがなかった。進展がなかったからてっきり死んだかと思って毎日お線香焚いてた。」
「あ…すみません…中津君と話す機会を…見つけられなくて…。」
「リョウ先輩、それ“私の時も”同じだった気が…。」
リョウはパフェを口にしながらあからさまに失礼な発言をした。液状化と顔面蒼白から回復したぼっちは時間がかかり過ぎた事をリョウに謝罪していた。連絡先交換をしなくてよかった。
一方喜多はデジャヴを感じたのか、苦笑いの様子……“私の時も”…?あぁ、そうか…そういや虹夏が逃げたギターがいたって事を呟いてたな…。
「あの“逃げたギター”ってお前の事だったのか。だから昨日からギターを…いや、昨日は何故か“ベース”背負ってたか。」
「え"っ…な、中津君…どうしてそれを…?」
「気づいてないと思ってたのか?ギターにしては“ネックが長かった”んだよ。ケース越しからでも分かる。お前、“6弦あるからギター”だと思ってあれ買っただろ?」
「がっ…!」
図星だったのか、若干顔面がひしゃげてショックを受けている様子の喜多。さっきのお返しだ。
目視で分かるギターとベースの違いはネックの長さ、重量、そしてペグの大きさだ。最近だと弦が5、6本の多弦ベースも増えているため、弦の本数だけでは区別がつかなくなってきている。
「あれ?そういえばガッツ君、例のキーボードは?」
「今日は持ってきてない。けどそんなの俺の自由だろ?」
「多分…中津君は今日も何処かの草むらに隠してるかと…。」
「それなんて忍者!?ってかあれ隠せるの!?」
「はい…その光景見たので…。」
虹夏は俺が竜殺しを背負ってない事に気づいたが、そう言い返す。高校における竜殺しの隠匿場所を知っているぼっちは今日も何処かの別の草むらに隠していると推測を立てていると、虹夏が驚いていた。だが今日は本当に自宅に置いてきてある。
「キーボード?」\カタカタカタカタカタカタ…/
「喜多ちゃん、パソコンのやつじゃないからね?」
「キーボードは電子化したピアノみたいなもんだ。様々な音を出せるから、こいつの有無で音の厚みが違う。」
俺の竜殺し…キーボードの事を聞いて絶対に頭の中でパソコンの方のキーボードを連想している喜多。虹夏が察して突っ込む中、俺はキーボードの特徴と需要を簡素に説明した。
「けど別に必須って訳じゃないし、インディーズでここまでメンバー揃ってんならキーボードまでは無理に求めなくていいだろ?」
「もちろん必須だよ!」
「自分で言ったじゃん。こいつの有無で音の厚みが違うって。」
「中津君も"逃げたキーボード"なんて言われたくはずよね?」\キタァァァァァァァァン☆/
おう元"逃げたギター"が何言っとんじゃ。
インディーズの域に留まりたくない意向なのか、虹夏はキーボードも必須だと言ってきた。それを促すかのように、リョウは先程の俺の発言をそのまま引用してきた。そして喜多は例のオノマトペを出しながらブーメラン発言。
「仮に必要だとしても、その枠が俺である必要はないだろ?どうしてもキーボードが必要なら別の誰かを見つけてくれ。」
「むむむ、無理です!これ以上は…!」
「何でだよ?前に喜多を連れ戻したんだろ?なら…」
「むむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむ!!!!」
「おいやめろ!他人の店だぞ!?大穴空ける気か!?」
某ゴーグルをかけた少年となんか逞しい兄貴が乗ってそうなロボットのドリルみたく、これ以上は無理と断固拒否しながら頭を天元突破させてくるぼっち。法焔さんの店に大穴空ける訳にはいかないので俺は高速回転するぼっちの頭部を片手で押さえつける。すみません法焔さん。(´・ω・`)
「ここまでキーボードの知識詳しいのにどうして入りたがらないの?」
「言ったはずだ。他人とつるむ気なんて死んでもごめんだからだ。それと単純にバンドそのものが嫌いだからだ。勝手に人を巻き込む態度もな。」
何故バンドに入りたがらないのかという虹夏からの質問に猛毒を吐き散らすかのように答える。一回きりの約束を反故にしておいてこれかよ。
「あ、そういえばあの時は突然ごめんね!否応なしにガッツ君を巻き込んじゃって。でも私達はガッツ君にもこのバンドに戻ってきてほしいと思ってるんだ。」
「バンドが嫌になったその気持ち、分かる。私もそうだった。」
求めてもいない謝罪をしておきながらありふれたお願いをする虹夏。かつてバンドそのものが嫌になったと語るリョウ。誰が戻るか…何が分かるっていうんだ…何も分かってねぇよ。俺の気持ちなんか…いや、分かってたまるか…!
「さ、最初にライブした時…中津君、たたでさえ重いあのキーボードを持ち上げながらあんなに上手に…アドリブもしてくれたの…ダンボール越しでも分かりました…。キーボードは…かなり難しい楽器です。嫌いって言ってたけど…中津君も心の何処かでバンドをやりたかったんじゃないですか…?」
「…お前に何が…。」
「アドリブをしてた時、とても楽しそうだったんです…。」
いつの間にか"ギガむむむブレイク"を止めた、無駄に勇気を振り絞ったぼっちも口を開いた。最初のライブ…虹夏に無理矢理ライブを手伝わされた日の事を言った。
俺が…楽しそうだった…?こっちは嫌々やらされて頭にきてた俺が…?アドリブはお前らが下手くそだったから仕方なくのはずだ…。
…何故だ?何故即答できない。拒絶し切れない?まただ…またあの“疼き”が…。
「私も虹夏先輩達からこの事を知って正直驚いたの。だけど中津君が先輩達のバンドを手伝ってくれたのを聞いて、私も結束バンドのギターとして頑張ろうって思ったの。一度脱退した私が言う台詞じゃないけど、中津君も私達と一緒にバンドをやりましょう!」
これに続けと言わんばかりに喜多も結束バンドへの再加入を促してきた。例のオノマトペは発してきてはいない。これは真剣な様子だ。
誰に対しても好意的に接する姿勢、健やかな笑顔、そしてまるで物語のヒロインのような振る舞い…。
「…黙れよ。」
「「「「っ!?」」」」
そんなお前が俺は“憎い”。俺は人には有り余り過ぎている憎悪を受けて生きてきた…いや、“無理矢理生かされている”と言ってもいい。なのに…お前はよくもまぁ勝手に人の心に…!
ドスの効いた声で威圧をかけて四人を怯ませる。この光景をカウンター越しから見ていた法焔さんには申し訳ないが、この四人を“暴力以外”で黙らせるにはこれしかなかった。
ああ、やっとあの“疼き”が消えてくれた…。
「悪いが俺はここでお開きにさせてもらう。」
「ガッツ君!私達はまだ…」
「俺が入ったところで、どうせお前らも“裏返る”んだろ?」
「…え?」
「…知らない方がいい。」
俺が席から立つと、制止しようとする虹夏に分かりきった予測を言う。怯えた様子の四人が“裏返る”という意味に困惑している…ただ一人、法焔さんはこの言葉の意味を理解していた。
「法焔さんすみません。こんな険悪な空気を作ってしまった上に"迷惑客"を招いてしまって…。」
「…。」
俺は悲しそうな目で察している様子の法焔さんに会計を済ませる。五人分の注文の金額をだ。喜多に嵌められたとはいえ、奢るという約束は守らないと。
俺は金額を支払うと、そのまま店を出た。
side 虹夏
私達はガッツ君が店を出ていくのを黙って見ているしかなかった。
私が立ち上げたバンド…『結束バンド』にぼっちちゃんが加わり、喜多ちゃんも戻ってきた。だけどまだ完全じゃない。ガッツ君は未だにこのバンドに戻るのを拒み続けていた。喜多ちゃんが音信不通になったあのライブの日、助っ人のギタリストとしてぼっちちゃんを見つけて『STARRY』に戻ってきた私は偶然入り口付近にいたガッツ君と出会った。本人が嫌々な様子だったのは、無理矢理誘った私にも自覚はあった。でもガッツ君はあの巨大なショルダーキーボードで、私達の演奏を全力でアシストしてくれた。ぼっちちゃんと同じでガッツ君も本当はバンドをやりたがっている。けど"何か"が邪魔をしている。私達が知らない得体の知れない何かが…。
「ガッツのあの目つき、何かある。」
「中津君、どういう意味で"裏返る"って言ってたんでしょうか?ねぇ、伊地知先輩…先輩?」
「…虹夏?」
「コ…怖カッタァ…。」(´;ω;`)
「い、伊地知先輩!?」
「…だいぶ殺気でやられてる。」
この状況下で正直に言うと、ガッツ君の殺気のこもった一言と眼光に私は耐えられなかった。リョウ…喜多チャン…ゴメンネ、弱クッテ…。
「ぁ…ぁ…。」
「後藤さんまで放心状態に!?」
あぁ、ぼっちちゃんもやられちゃってる。ぼっちちゃんもネガティブな部分があるけど、ここまでベクトルの違う拒絶のされ方だと余計にくるものがあるよね…。
「…無理もない。ここまでに至る程に、彼は憎悪を受け過ぎたんだ…。」
「「「「…え?」」」」
刹那、喫茶店の店主さんが口を開いた。確かガッツ君は法焔さんと呼んでいたような…。
憎悪を受け過ぎた…?もしかして、それがバンドに入る事を拒絶してるのと関係があるのかな…?
「店主さん、もしかしてガッツ君の事を知ってるんですか?」
「あぁ。前に住んでた街にいた頃に会っているよ。」
「あの、もしよろしかったら、中津君の事について何か教えてもらえませんか?」
「無理だ。君たちも鍵人君から警告されたはずだ。知らない方がいいと…彼の受けた憎悪は並の人には耐えられないものだ。」
法焔さんはどうやら以前のガッツ君を知ってるらしい。続いて喜多ちゃんが尋ねてみるも、知らない方がいいと拒否される。どうやら相当に深い事情が絡んでいるらしい。
「お願いします…!中津君に一体何があったのか、私達は知りたいんです!」
「っ!…私からもお願いします!ガッツ君は私達の大切なバンドメンバーなんです!」
「…。」
喜多ちゃんは頭を下げてまでお願いした。私も一緒に頭を下げるが、法焔さんは未だに口を開こうとしない。
「…お願いします。これはガッツのためでもあります。」
「…はっ、えっ…な、何がどうなって…と、とりあえず…お、お願い…します…。」
ガッツ君のためと言ってくれたリョウと、放心状態から回復したばかりで状況が全く掴めてないぼっちちゃんも頭を下げた。
「…君たちなら、鍵人君の心の傷を癒してくれるかい?」
「…はい。」
「一つだけ忠告だ。この件は絶対に鍵人君に知られてはいけないよ。」
ガッツ君には知られてはいけないという絶対の条件の下、私達はガッツ君の過去を法焔さんから聞いた。
それは法焔さんの言う通り、"並の人間には耐えられない"ものだった。
キターン☆とギガむむむブレイク、今作の清涼材として使える(おい)