ウマ娘 Meteor Oscillates Between 作:別れました
0話 L Dorado
「ねぇ君、中等部の模擬レース会場ってここのグラウンドであってる?」
私は声のする方へと振り返る。
最初に目に入ったのは手入れの届いていなさそうな髪だった。
ぼさぼさの頭、灰色のパーカー、ジーパン、踵の少し潰れた靴、荒い息、額から滴る汗と僅かにコーヒーの香りを漂わせた男。
私はシャーロック・ホームズなんかじゃないけれど状況は容易に想像が出来た。
この人はトレーナーで、模擬レースの視察をしようとしていたのだろう。
「レースならもう終わりましたよ。残念ながら有望そうな子はみんな所属決まったみたいです」
男は少し遠くを見るような目で私の顔を見つめる。哀愁漂うその姿を見てから少し言い過ぎたかもしれないと心の中で反省をした。
ただ、それが私の口から音として出てくることはなかった。理由は明解、模擬レースは8時からであり、今の時刻は昼前だからだ。
4時間近く遅刻したトレーナーが才能のあるウマ娘をスカウト出来るほどトレセン学園は甘くはない。それこそ、実績があるトレーナーであれば可能性が0ということは無いけれど、実績のあるトレーナーはレースを見ずにスカウトすることなんてまず有り得ない。
「まだ声掛けられてない子とか知らない?俺ここでスカウトしとかないと冬が━━」
「だから、有望な子はみんなスカウトされてます!」
震えた言葉は静寂に響き渡った。
何が悲しくてこんな事を言わなきゃならないんだ。
才能があるウマ娘は全員所属が決まった。
そう、才能があるウマ娘は。
「決まったんですよ!私以外!」
「早く言ってよそれ」
私の頭の中にクエスチョンマークが飽和する。この人には言葉が通じないのだろうか。
「最初から言ってるじゃないですか!」
「初めて聞いたけど」
「絶対言いました!」
「言ってたら最初から君をスカウトしてるって」
「スカトぅる……ゑ?」
耳に入ってきたのは今日一度も聞かなかった言葉だった。
そして一番欲しかった言葉でもあった。
「余りもの同士で徒党を組む…とか、なんかカ
ッコ良くない?」
「嫌いじゃないですけど…」
「じゃあよろしく」
しばらくの沈黙の後、私は静かに「はい」とだけ返事をした。
トレーナーの差し出した手に応えるように私も手を差し出して、軽く握り返す。
まるでスポーツの試合後にするような、形式だけの握手だった。
「じゃあ今日はとりあえず登録の申請だけして他の手続きは明日やろう」
トレーナーが決まった。
あぁ、こんな感じで決まるんだ。案外あっさりしたもんだな、もっと━━━━━━━
もっと…?なんだっけ。
それは一番私がわかっているじゃん。