ウマ娘 Meteor Oscillates Between   作:別れました

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10話 冬休み寮にて

 東京も本格的な冬に入り、景色はクリスマスに向けて準備を始めていた。

 

 トレセン学園は数日前から冬休みに入っていた。毎年この時期から年始にかけて帰省するウマ娘が多いため、寮は静けさに包まれている。

 

 私は帰省することなく寮で年末年始を過ごすことにした。というのも、冬休みの期間もトレーニングがあるものだとばかり思っていたので長期の外出届の書類の申請すらしていなかったからである。トレーナーからトレーニングをしないという旨の話を聞いて慌てて日付を確認したが、煩雑な書類の上に不備で何度も返却された前年の記憶が蘇って書くことを諦めた。

 

 数日過ごしてみても、冬休み期間は寮内で食事が提供されないことくらいしか不便に感じることもなさそうだった。

 

 最初の数日は皆で食材を持ち寄ってご飯を作ろうなんて盛り上がっていたが、カットした食材が不揃いだったり、味が薄い、濃い、肉に火が通りきっていないなどの技術的な問題と昼夜逆転した子が来なくなるなどの人員的な問題から自然消滅し、今では時間の合う子たちと外へ食べに行っている。

 

 帰省しなかったウマ娘達はコンビニでお菓子やアイスを買ってきて食べたり、普段は別室の子たちと同じ部屋で寝たり、レクリエーションルームに集まって映画を見たりとかなり自由にしているが咎める者もいない。

 

 

 大浴場も時間さえ調節すればほぼ貸し切り状態になり、周りを気にせず長風呂だって出来る。お湯も普段より綺麗な気がするし薔薇の花弁などが浮いていることもない。いつもは縮こまって入る浴槽も、こうして脚を伸ばしてゆっくりとくつろげるのはありがたかった。

 

「となり、良いかな?」

 

 そう声をかけてきたウマ娘に私は慌てて返事をして身体を畳んだ。どこかで見たことのある顔だったというのはわかったが、それがどこだったかは思い出せずにいた。

 

 浴槽に身体を沈めながら彼女は名乗る。肌と肌が擦れ合いそうなほど近くにくるとは思っておらず私はどぎまぎする。

 

「メイデンマチルダ…って言ったらわかるかな」

 

 メイデンマチルダ。その名前を聞いてすぐに思い出した。メイクデビューの日に転んだ子だ。けれど本人が転んだこととその後の騒動についてどう思っているのかもわからない状態でその話題に触れるわけにもいかず、私は久しぶりだねと無難な返答をした。

 

 会えて良かった。と、ふたこと目に言われたときに私は内心ほっとしていた。声色から彼女は彼女なりの形で問題を解決していたのだとわかったからだ。

 

「レースとライブで迷惑かけちゃったから、ずっと謝りたくて」

「いいよ、私の方こそ何も声かけられなくてごめん」

 

 今だからこそ、こうして会話が出来るのだと互いにわかっていたからそれ以上なにかを言うことはしなかった。加えてリラックスしていたからか、初めて話すにもかかわらず古くからの友人のような不思議な空気が2人の間にはあった。

 

「知ってるかもしれないけど。わたしね、あのあと変な人気出ちゃってね。色々あって…多分これからも色々あるんだろうけど……偏見のまま終わったらそれが本当になっちゃうから、頑張ろうって。堂々と応援できるウマ娘になりたいなって」

 湯気の上る水面を見つめながらマチルダは言った。

 

「強いね、マチルダは」

 

「強い…そうかな…? でも、もっと強くなるつもり」

 

 マチルダは照れくさそうに笑った。私は自分の発した言葉が妙に引っかかることに気が付いた。決して世辞などではなく、本心からの言葉であったからこその違和感。しかしマチルダは全く気にしていないようだった。意図して無視したわけでもなさそうだ。そんなことに興味はなく次はあなたの番だとでも言いたそうに私を見つめている。

 

「私はなんか…おっきい目標とかさ、何もなくて。ただのその場しのぎの連続が他から見たら人生に見えてるっていうか。そんな感じだから先を見据えて打ち込める人がときどき羨ましいなって」

 

 私はそう口にしながら、努力をしなくていい理由を探しているだけなのかもしれないなと思った。

 

「ならさ、探そうよ。26日から休み明けまで特別講師のレッスン教室があるらしくて、もしかしたら何かみつかるかもしれないよ?」

 

「っていうのは建前で1人で行く勇気がでなくて…寮の子たちは休みの期間にトレーニングするつもりもなさそうだし。それに…距離を感じるっていうかね。うっすらとバカにされてる空気があるんだ、やっぱり」

 

 私はマチルダの気持ちとイクシーから聞いた話、どちらも知っていたから言葉に詰まった。すれ違いが起こっていることは確かだがキャッチーな噂ほど広がりやすい。私がそれらについて明言することはなかった。私にこの話をしてくる理由がそうさせたのかもしれない。

 

 他に予定もないのでレッスンに参加する意思を見せるとマチルダはほっとした表情で「断られるかと思った」と笑った。

 

 断れそうな空気でもなかったと心の中では思ったが、マチルダの嬉しそうな顔を見ると些細な問題のように思えてくる。それに、始業日まで今の調子でいる訳にもいかないことは確かだった。私を今の状態からアスリートに軌道修正するいい機会だと捉えるしかない。

 

 奇妙な縁で出来た友人と話しながら、寮に残る選択が失敗だった訳ではなかったと感じていた。

 

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