ウマ娘 Meteor Oscillates Between   作:別れました

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11話 特別講師

 特別講師。と聞くと凄い感じがするが、話を聞くに秋川理事長が寮に残るウマ娘達の生活態度を憂いての措置らしい。生活の乱れが長引いて年始に体調を崩すウマ娘が各クラスに数人出て保健室がパンクしたという噂も誇張はあれど嘘ではないのかもしれない。

 

 集合場所の教室には私とマチルダ、他にも数人の参加者がいる。中には交流こそないもののお互いに顔を知っているウマ娘も何人かいた。休みの期間にも学校主催の企画に自発的に参加する意識の高いウマ娘達と上手くやれるか開始前から不安だった。

 

 集合時間を5分程過ぎたあたりで特別講師が入ってくる。

 

「ごめんね~学校広くて迷っちゃった~」

 

 不真面目な態度と格好に私は見覚えがあった。

 

「うわっ…トレーナーさん!?」

 

 特別講師と言うくらいだから誰もが一度は名前を聞いたことのある有名トレーナーやトレセンOGのウマ娘が来ると思っていた私にとっては衝撃だった。休日を返上してまで来る意識の高そうな生徒達とトレーナーの噛み合わせについてはあまり想像したくない。

 

「え……実家帰ってなかったの?それとうわって言った?」

「色々ありまして…」

 

「まぁとりあえずトレーニング始めようか」

 

 後で聞いた話によると休暇中の教官たちを呼び出すことなく解決する為の手段としてトレーナーに業務委託の形で依頼しているらしい。

 元々が個人事業主のトレーナー業は正社員である教官に比べてスケジュールの融通が効く。休暇中の教官を呼び出す必要もなければ代休などで平日のスケジュールに穴が空くこともない実に合理的な判断であった。

 

 教官は立場上、良い印象を持たれない事が多い。参加者を増やしたい本プログラムとの相性の悪さは容易に想像がつく。加えて、生徒の間ではトレーナーを神聖視する風潮がうっすらとあった。その辺りの事情も影響しているのかもしれない。

 

 

 レッスン内容は2つのグループに分かれて午前中は体育館で遊び、午後はレースに向けた特訓をするという至ってシンプルなものだった。1日の最後にリレー形式のレースを行うらしい。途中、10分程の個人面談を何度か挟むこと以外は特異性は見られない。

 

 午前は2チームで出来るスポーツで遊んだ。名目上はウォーミングアップとなっているがトレーナーから何か指示があるでもなく紛れもなく遊びである。

 間の面談の内容も雑談のようなもので肩透かしをくらいつつ、将来について説教されるよりは幾分もマシだとチームの皆で笑った。午後の練習も普段しているものと比べると負荷も少なく、脱落しない為の練習のようだった。

 残るはリレーだ。

 

 初日のリレーは私たちのチームが圧勝だった。

 2日目にチームの入れ替えがあり、私たちのチームが数バ身差で勝った。

 3日目になると相手チームが追い上げてきて私たちは負け、4日目も似たような展開で負けた。

 

 遊びだと理解しつつも負けが込むと面白くはない。むしろ遊びだからこそ、みな真剣になっていた。

 競技の世界は才能がはっきりと出る。接戦のように見えるレースも終わってみれば地力の差が結果として見えるものだ。だからこそ始まる前から結果に見当がつく。

 しかしこのリレーは多対多のチーム戦。かつ即興チームと成熟しきっていない環境。手探りだからこそ、まだ定石も無く工夫1つで勝てる余地があった。

 

 5日目、マチルダの提案で走る順番を変えて臨み、接戦の末に負けた。私はここで初めて午前中の遊びの時間はコミュニケーションに充てる時間なのだと気が付いた。

 思い返してみれば面談の内容は殆ど雑談で中身が薄い。これは面談自体に意味があるのではなく、メンバーが欠けた状況でのリカバリ、最適解を探す練習なのかもしれない。そのためには相手を知り、仲間を知り、自分を知らなくてはならない。

 

 短期間の練習で身体的な成長は見込めないと考えてからは迷いは殆どなくなっていた。

 

 6日目、私の考えを共有しチームで改善案を出した結果、意外にもあっさりと勝利した。チームも今まで以上にまとまりをみせていた。

 

 明日は皆で初詣に行こうとトレーナーが言って、今年最後の練習が終わった。

 

1月1日、参加者全員で神社にお参りに行き、全員で手のひらを合わせて一斉に願い事をした。私はそれに少しの恐怖を感じていた。形だけの真似事をしただけで何も願っていなかったと気が付いたのは帰り道に何をお願いしたのかと問われた時だった。この頃から私には何かが見え、違和感が音として聴こえるようになった。

 

 

 それからあっと言う間に冬休みが終わった。リレーの最終的な勝率は4割程に落ち着いたが、これはトレーナーが暇そうな友達がいたら誘ってほしいと言い続けた結果である。練習がハードじゃない事を知った寮生たちが来るようになってチームは4つになり、展開が複雑になった。そのせいで私たちが立てた作戦は日を追うごとに意味をなくしていった。それでも勝ち越せたのは応用が運よく活きたからである。

 

 当初の目的であった目標をみつけることも叶わず、成果といえば友人と顔見知りが増えたくらいだ。マチルダに誘われた時から薄々は予想していたので殊更驚くことでもない。そもそも、十余年をひっくり返せるたった1つの出来事なんて存在するのだろうか。

 

 

 新学期を告げるチャイムが私たちをまた退屈な日常へと呼び戻した。

 

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