ウマ娘 Meteor Oscillates Between   作:別れました

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19話 小惑星帯から

 試合当日、時刻は待ち合わせの時間である午前8時を迎えようとしていた。

 

 シャワーを済ませ、髪を乾かし、ヘアオイルやスキンケアを終わらせる。今日は髪の乾きが早く、予定よりもかなり早く身支度が終わった。このペースなら10分前集合も余裕で出来そうだ。現地の気温は低いらしく、カーディガンを制服の上から羽織る。

 

[明日は朝の8時にロビーに集合です。到着したら連絡下さい。]

 

 昨日のLANEを読み返しながら私はロビーへと向かう。トレーナーの送る文章は簡素で随分とそっけなく、文面からは親しみやすさが感じられない。文章に絵文字を入れたり、その日の出来事や写真だけでも送ってみたり、もう少し会話を楽しんでくれてもいいのにと思うからすると業務連絡に過ぎないのかもしれない。

 

 ロビーに到着して辺りを見渡すと入り口付近の椅子にトレーナーは座っていた。声をかけようとしたが、熱心にスマホを眺めていたので邪魔をしたら悪いと丸テーブルを挟んで向かいに座った。8時までまだ少し時間がある。それまではこのままでも良いだろう。

 

 しかし、ここまで熱心にスマホを見つめるトレーナーは初めて見る。何を見ているのだろうか。今日の試合のことか、何かゲームをしているのか、SNSをしている可能性もある。私はトレーナーの趣味も嗜好も殆ど知らない。唯一好きだと知っているラーメン屋も私が好きではないと言った日から一度も一緒に行っていない。

 

 まじまじとトレーナーを見ていると私のスマホが震える。通知を見るとトレーナーからであった。

 

[まだ時間かかりそう?]

 

 私に気付いていない。これだけ近くにいるのに。通知を見てロビーに着いたら連絡するように言われたことを思い出した。返信するためにスマホのパスワードを入力していると続けてメッセージが届く。

 

[今生徒にガン飛ばされてるから早く来てほしい]

 

 周りを見てもウマ娘は数人しかいない。その中にガンを飛ばしているウマ娘などいない。何のことを言っているのだろうか。私はもう一度辺りを見回して気が付いた。私を別のウマ娘だと勘違いしているのだ。

 

[通報されそう]

 

 ただ声をかけるだけでは面白みに欠けると思い、私はトレーナーに電話をかけた。私からの着信にトレーナーの顔が少し明るくなる。

 

「今どこ?」

 

 トレーナーは目の前にいるウマ娘に聴こえないように小声で喋る。

 

「目の前にいますよ」

 

「えっ…?え…」

 今日初めてトレーナーと目が合った。トレーナーは数秒フリーズした後、状況を理解したらしい。

 

「髪、切ったんです」

「あぁ!だからか…印象変わりすぎて別人かと思った…」

 

 髪を切ってからというもの、寮ですれ違う友達が口を揃えて褒めてくれるものだから、トレーナーにも褒めて貰えるつもりでいた。その考えに疑いすら持っていなかった自分に恥ずかしさを覚えると同時に他人と間違われたことに少し腹を立てる。

 

「ふ~ん……」

「似合ってるよ凄く。あと服も凄くオシャレ」

「これ制服ですけど…」

「…………」

「別に怒ってないですよ」

「あぁ…」

 

「今度からは髪を切るときは前もって教えてほしい」

「……?はい」

 

 

 2人は車に乗ってトレセン学園から出発する。福島レース場まで車で4時間弱かかるらしい。着くまでの間寝ていてもいいと言われたが、旅行気分が勝っていて眠気などなかった。

 

「向こう着いたら有名なとこ行きません?」

「いいね~福島ってなにがあるの?」

「……………調べますね」

 

「ばん…磐梯熱海温泉?ってところが有名らしいです。入ると美人になるらしいですよ!」

「ははっ」

「笑いました?」

「いやいやいや…俺も美人になったらどうしようかな~的なね……確かリハビリ施設の近くだよね」

「美人になったら私の制服貸しますよ」

 

 

「わっ…すご!水族館ですかね、あれ」

「んー…?」

 

「聞いてます?」

「ん?何?」

「さっきジンベエザメが上にのってる水族館があって、帰りに行きません?」

「んー…今日勝ったらご褒美ねー」

 

「やった!絶対ですよ?」

「んー」

 

 

 

 

 出発から5時間弱、2人は福島レース場に到着する。11月の東北は晴れていても肌寒い。制服は冬服といえど外の寒さに耐えうるほどの機能はなく、寒がっているとトレーナーがアウターを貸してくれた。

 

 会場でのエントリー確認、バ場の視察、勝負服への着替え、蹄鉄の確認をしていると2時間はあっという間に過ぎていく。

 

 選手達の待機所にパドックへ移動する旨のアナウンスが入り、一同はパドックへと向かって行った。その背中を追うように私もパドックへと向かう。選手たちの背中は堂々としていて緊張とは無縁に見えた。重賞のプレッシャーは計り知れない。少なくとも普通に暮らしている同年代の少女たちはまず味わうことがないだろうそれに耐え、慣れ、ここにいるのだと思うと足がすくみそうだ。失敗を望む訳ではないが他人の不完全さを願わずにいられない。

 

 

 選手全員が揃い、ゲートが開く前のレースが始まった。

 

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