ウマ娘 Meteor Oscillates Between   作:別れました

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この話は本編開始時から十数年前の時間軸です。


おまけ それは誰かの

 吐く息に色が付き、冬が半分その姿を現し始めた頃。1人の男性がトレーナー室へ訪ねてきていた。

 

「水野さんはいるかな?」

「いえ……」

 

 トレーナー室には伊織がただひとり。頼まれた訳でもないが、水野の代わりにレースのデータを集めていた。

 

「君が水野さんの……伊織君だったか。僕は櫟隆晴(いちいたかはる)だ。よろしく」

 

 櫟は大柄な身体を丸めるようにして伊織に握手を求めた。伊織もまた知りうる限りの礼儀で応える。

 

「イチイ……イチイサモンとかイチイスカイのイチイさん?」

「流石、詳しいね。その櫟で合っているよ」

 

 テレビCMでたまに見かけるイチイホールディングスというのも、櫟の家系の関係なのだろう。佇まいからそれが見て取れる。いわゆる名家の出身というやつである。

 

「先生はもうすぐ戻ると思うので中で待っていてください」

「そうしたいところなんだけど、娘を外で待たせていてね」

 

 その言葉にただ了解して自分だけ部屋の中にいるのも憚られて、伊織は櫟と共に外で待つと提案した。外は日差しもあって思いのほか暖かく、ゆっくりとした秋の時間が流れている。

 

 気遣いのつもりで外に出てみたのに、先程までの屋根と壁に囲まれて資料を眺めていた時間は何だったのかと考え始めてしまうほど、心地の良い天候なのだ。

 

 冬になると、ここから更に色が減る。だからなのか、わけもなく間に合ったと伊織は感じていた。

 

「あれが娘のオブイクシーだ」

 

 櫟の指さす先には、桃色の髪をした5歳くらいの少女が落ち葉をかき集めて遊んでいる。落ち葉で作った山に飛び込んでニットの上着に落ち葉のかけらを纏って、けたけたと笑いながらそれを繰り返していた。

 

「なんであの子にはイチイの名前をつけなかったんです?」

「え?ああ……櫟は名の知れた家だけど、僕は分家だからというのは答えになるかな?」

 

「う~ん……一応は…?」

 

 伊織はその意味を共感こそ出来ないが、漠然と理解は出来る。そういった家のことは基本的には長男が継ぐのが普通である。だからといって次男以降が関わらなくてよいといった理屈が成り立つわけではない。

 

「もしくは僕が親になってしまったからなのかもね。生まれた家で人生が決まってしまうのもそれはそれで楽じゃない」

 

 櫟は自身と重ねるようにオブイクシーを見ていた。

 

「姪の…イチイスカイの戦績はクラシックまでだった。シニアは怪我続きで病院にいた時間の方が長かったよ。あれを見た後じゃどうにもね。名を冠するのは一族の誇りかもしれないが……」

 

 本心が零れた。というより、言葉に飾り気のない人なのだという印象を伊織は受けた。この姿が最初からなのか、飾ることに疲れた結果なのかは知りようはない。

 

 「わぁぁぁっ」という甲高い声が聞こえて、目で追うと、オブイクシーは学園の生徒に囲まれて先程よりも大きな山を作っていた。

 

「ああやってのびのびと過ごしていてくれれば、それでいいじゃないか」

 

 櫟が静かに決意したように見えた。

 

「それでも、もしもあの子が走りたいと言った時は、君にお願いしようかな」

「先のことは、なんとも」

 

 伊織もまた、飾らなかった。

 

「ははは、10年は君にとって殆ど倍だものな」

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