ウマ娘 Meteor Oscillates Between   作:別れました

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5話 学園にて

「トレーナー付いたんだって?おめでと」

 

 声を掛けて来たのは中等部からの親友であるオブイクシーだった。

 彼女とは中等部2年からの仲で、田舎育ちで右も左も知らない私に東京がどんなところかを教えてくれた大先輩でもある。彼女は名家の出身、なんて噂もあるけれど、にわかに信じ難い。口調も普通だし、カップ麺を美味しそうに食べるし、ハンバーガーで感動したところを見たこともない。

 

 良家の出自であることが特に珍しさを持たないトレセン学園であるが、そういった噂話がよく飛び交う。

 本人が否定したところでキャッチーな噂話以上に広まることなど殆どないため、実像とかけ離れたウマ娘やトレーナーがトレセン学園にはたくさんいる。噂話が盛られ過ぎて本人が本人だと気付かれないといった笑い話もあるくらいだ。

 

「で、どう?トレーナーは」

「まだわかんないかな〜。こう、スパルタって感じでもないし…」

 

「違う違う。顔」

 

 イクシーは面食いである。

 

「イクシーは相変わらずだねぇ。結構イケメン」

「マジ?写真は?」

「撮ってない」

「え~……」

「顔は置いといてイクシーが求めてるタイプではないかも…」

 

 心底つまらなそうな顔をするイクシーに少し困惑したが、これは彼女に限った話ではなかった。中央と言えばエリートの集まりであり厳格なイメージを持たれがちだが、十代の少女であることに変わりはない。学校自体も女子校のようなものであり、加えて大半の生徒は寮暮らしである為に身近な異性がトレーナーくらいしかいないのだ。そのため、この手の話は盛り上がる。

 入学当初、私も例に漏れず殺伐とした空気が流れているのだと思っていた。いざ箱をあけて肩透かしを食らったものだ。

 

「でもいいな〜私も早くイケメントレーナーの元で特訓した〜い!」

「あはは、それ『ウマ☆恋』の見過ぎ〜」

「あ~…私も早くイケメントレーナー探さなきゃ………」

「目的変わってるって」

「私はずっと1本だよ」

 

 イクシーが真剣な表情で言い放つものだから、なんだかおかしくて私は笑った。それにつられるようにイクシーも笑う。

 こんなにも俗っぽい子が名家のお嬢様だと噂されているのだから世の中というのは面白いものだ。

 

 

「そーだ、ウマダッチの今月号のネイル特集見た⁉」

「夏色のやつ?」

「そう、それ!月末買いに行こうよ」

「あ~…ごめん、月末トレーニングで埋まっちゃってる…」

「そっかー……」

 

「これから遊ぶ時間も減ってさぁ退屈になっちゃうなぁー……」

 

 寂しげに語るイクシーがいやに印象的に映ったのは偶然などではないだろう。それを上手く言語化の出来ず、もやもやとしたまま私はイクシーの発言に補足を入れた。

 

「オフの日なら遊べるよ」

「そーなんだけどね…」

 

 イクシーは歯切れの悪い返事をした直後に時計を見てはっとする。

「そうだ私そろそろ基礎トレ行かなきゃ…そっちも練習あるっしょ?メイクデビュー見るからヘマすんなよ~」

 

「ま、見てなって!」

 私は堂々とした態度で胸に手を置いた。

 

「それ負けたらハズいやつ!ほいじゃね」

 これが強がりであると一瞬で見抜いたようでイクシーは笑いながら茶化した。

 

 トレーニングに向かうイクシーを姿が見えなくなるまで見守ると、張り詰めた緊張が一気に抜けるように溜息を吐いた。親友の前で冗談交じりに強がってみたものの勝てるビジョンが全くといって良いほどに見えないのだ。

 

 メイクデビューか……勝てなかったら契約打ち切りになるのだろうか。トゥインクル・シリーズは他のプロスポーツとは違い、負け続きだとしても退学とはならない。今までの学園生活に戻るだけである。ただ、戻ったら戻ったで気まずさというものがあるのだろう。精神的な部分からくる不調で不登校になり、そのまま退学するケースも少なからず目にしてきた。競争に敗れたという烙印は真皮まで達する深い傷となる。完全に元通りになるはずもない。

 

 そういえば冬が越せないと言っていた人もいたっけ…。

 途端に嫌な予感がした。私の負けでトレーナーが舞台を降りる可能性が脳裏をよぎる。トレーナーという職業は一定期間内に、ある程度の功績を残さなければ担当を外される事があるのだ。あまりに続くとライセンスの剥奪もあるらしい。

 

 中央所属のトレーナーは倍率も異常に高く、激しいパイの取り合いでもあるため地方よりもライセンスの取得難易度が高い。一度ライセンスを失うと中央に戻ることは出来ないとさえ言われている。例外として実務経験での実績などが挙げられるが、制度の構造上の問題も多く是非についてよく議論されているとか。

 

 とにかく、運命共同体の私たちに勝つ以外の選択肢は残されてはいなかった。

 

 あと4ヵ月、私は周りとの差をどこまで埋められるだろうか。今まで以上に練習を頑張らなくてはならない。4ヵ月後、少なくとも藁よりは浮力を持っていられるように。

 

 私の為にも、トレーナーの生活の為にも。

 

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