ウマ娘 Meteor Oscillates Between   作:別れました

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6話 あの子も

 ひと月が経ちメイクデビューに向けての準備が着々と進んでいた。私のフォームも荒削りではあるが段々と綺麗になってきている。

 この調子で進めていけるならデビュー戦で他の選手にも引けを取らないだろうとトレーナーは睨む。

 

 問題があるとするならば、契約してから今まで一度も併走トレーニングをしていないという事くらいであった。くらい、で済ませられるほど小さい問題では無いのだが、何にせよ併走相手がいないのだ。

 

 メイクデビュー前のウマ娘の情報は隠される傾向にある。

 レースによって出走条件というものがあり、OP戦以上からは条件に勝利経験が含まれるのが一般的である。

 

 そこでチームの情報を秘匿しつつ相手チームの分析をすることによって勝率を上げようとする動きがある。規模の小さなチームであればあるほどその傾向が強い。一方、強豪チームは強いウマ娘の名と功績が新たな強いウマ娘を呼ぶシステムが既に出来上がっているため、わざわざ隠すメリットがない。むしろ公開することによる中堅のチーム以下への牽制が主となっているのが現状だ。

 

 置かれた立場のみで話を進めるならば小さなチームと併走するべきなのだが、学園の練習場を使う以上ギャラリーが集まるのは避けられない。デビュー前の露出をよく思わないトレーナーばかりで思うように事を進められないこともざらである。

 

 

「それで私が呼ばれたと」

 

 その通りですと伝えると女は不服そうにこちらを凝視する。併走しているウマ娘達を横目に2人は会話を続ける。

 

「弱小チームでもなく強豪でもない、でもってそれなりのウマ娘が所属している練習相手に丁度よさそうなのがウチ、というわけか」

「そこまでは言ってないじゃないですか…頼れるトレーナーが先輩しかいないんですよ」

 

「だから人脈は作っておけとあれほど…」

「ヒメとは連絡取ってますよ」

「あの子はやめておいた方がいい。色々と緩いというか」

「そうですかね、案外引き締まった奴ですよ」

「…………」

 

 

 同じ師を持つ同僚であり中堅トレーナーの篠崎はなにかと当たりが強い。師の元を離れてから数年ぶりに会ったが、以前より髪がだいぶ伸びており別人と間違えたほどの変わりようであった。

 

「まぁ、小さいチームはどこも排他的だからね。ウマ娘の為だの何だのと言って中央のエリート様は小さなプライドを守りたがる。それと忠告だが、私らの使っていたおこぼれ制度を嫌う奴も少なくないから人脈を作るにしても敵は多いぞ」

 

 篠崎の突っかかってくる性格は昔から変わらないが、より一層面倒くさくなったように感じる。

 

「あぁ、あと私のこと面倒くさい女だと思っているだろ?私にはわかるんだキルドレ。君の嘘には不快感を感じないからね」

 

「はぁ…それより良いんですか、練習見なくて」

 

 彼女はコースを走る自分の担当を1〜2分眺めると、おもむろに本を取り出し読書と会話だけをしていた。昔はもっとまっすぐな人間だったように思う。中堅トレーナーに上りつめるまでに色々な苦労があったのだろうか。咥えている飴からもそれが感じられる。

 

「もう見たさ。だいたいウチはデビュー戦に挑もうって訳じゃないんだ。今はそっちに合わせて走らせている。これ以上見る理由がないだろう?」

「ポージングくらいは取ってもいいと良いと思いますけど」

 

「そうじろじろと見てやるな、私らの視線は緊張を生みやすいんだ。まぁ何にせよ、キルドレが物好きだということがよく分かった。あの顔がキルドレの好みなのか?それとも初恋の人間の代替品…とか?」

 

 篠崎は顔色1つ変えないでこちらに視線を向ける。冗談にしては面白みに欠けるが、本気にも聞こえない。言葉のひとつひとつに何かを探るような意図が感じられた。

 

「別にそんなんじゃ……」

 

 はぁぁと大きなため息が聞こえた。

 

「私はさ、同じ師の元で育った君と将来的にはライバル関係になるのだろうと信じて疑わなかった。魔法使いだのパンドラがどうのだのと持ち上げられた君が今となってはコレだ。玩具を拾って遊んで。夢を見せるだけならば詐欺師にだって出来る。それともあれか、匣の中身は空だったか」

 

 トレーナーは日頃のストレスのはけ口に利用されるのが併走の対価ならば安いものだと少しばかり冷ややかに対応していたが、彼女の吐き捨てた皮肉にも嘆きにも聞こえる言葉が異質に感じた。

 怒りよりも失望に近い鋭い感情が向けられている事に気が付きはしたが、そこに触れるべきではないと判断し返事を濁す。篠崎もそれを感じ取ったのであろう、少し間を空けてから問う。

 

 

「教えてくれよ、顔でなければなんなのだ」

 

 

 

だって――。 篠崎は続ける。

 

 

 

「あの子もまるで才能がない」

 

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