法失き世界、人の道は険しくとも 【旧題】チャリオットに轢かれて   作:大洲やとこ

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6-11-1.貴石(前回の冒頭抜け部分)

 

 貴石が好き。

 美しく輝き色褪せない貴石が好き。

 ぎんぎんぎらぎら光を弾く。

 

 美しくて価値がある。

 ずっと昔、幼かったビッテスの身体と引き替えに渡されたガラス玉を目にした時、それには人の心も体も命や生き方も転がすほどの力があるのだと知った。

 瞳と心に焼き付いた。

 

 

 影潰しになって、色んな人から貴石をもらった。

 陽灯司であったり、貴族であったり、商人だったり安宿でビッテスを抱いた盗っ人だったり。

 きらきらと輝くそれはビッテスの心を華やかにしてくれた。

 

 もっとほしい。

 もっともっといっぱい、きらきらいっぱい。

 夜空を彩る満天の星空みたいに、尽きることなく全部ほしい。

 

 汚いものも嫌いじゃない。

 濁った汚泥のような欲望やつまらない男の体液に塗れても、余計に貴石のきらきらは際立つ。汚いものがあるからこそ美しさに価値がある。

 精液臭い売女だって、胸を飾る貴石には価値があるのだもの。美しいのだもの。

 貴石の価値は損なわれない。

 

 

 価値があるものだから。

 だからこそ、力がある。

 まだ影潰しのトップではなかった頃に、今ほどの力がなかった頃に、任務をしくじって窮地に陥ったことがあった。

 

 当時からビッテスの能力は突出していた。

 異様に鋭敏な感覚と反射神経。それは天性のものだった。

 天性の力と、女としての美しさ。柔らかさ。

 快楽を愛する性分は、相手をする者も悦ばせる。

 殺すべき敵に近づき肌を重ねることも(いと)わなかった。好んでやった。

 殺す相手のことを深くふかぁく知った方が気持ちよかったから。

 

 

 そんなビッテスでも、ビッテスを覆い尽くすほどの力には敵わない。

 数十人の敵に囲まれて逃げ場を失い、命を失うと覚悟した。

 

 最後に、手元に残っていた貴石を見つめ、ビッテスが失われてもこの貴石の価値は残るのだろうな、と思った。

 深い緑色の貴石で、その奥が見通せないほど美しく輝いていて。

 

 ――わたしの価値と、どっちが大きいんだろう?

 

 この世界に存在するビッテスとその緑の貴石の価値は、どちらが重いのだろうか。

 死ぬ前にそんな疑問が浮かび、それから続けて浮かんできた。

 

 ――取り替えっこしたいなぁ……

 

 大きくて重い価値があるものと、ビッテスの存在を。

 もっともっといっぱい取り替えっこして、そうしたらビッテスの価値も輝きももっと大きくて強いものになるのかも。

 満天の星空を抱く空みたいに。全部ビッテスのものになるのかも。

 

 

 気が付くと緑の貴石は粉のように崩れ去り、その価値と引き替えに起きた真空の烈風が、数十人の敵とその他大勢を周囲の建物ごと切り裂き、吹き飛ばしていた。

 星光のビッテスが生まれた瞬間だった。

 

 

  ◆   ◇   ◆

 

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