法失き世界、人の道は険しくとも 【旧題】チャリオットに轢かれて   作:大洲やとこ

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1-3.見てはいけない

 

 

「事情はわかりました。なるほど、レーマ・ルジアと通ずる波長の魂がレーマ・ルジアを呼んだのですね」

「それってわかってたわけじゃないんだけど。なんかこう、惹かれた感じ?」

 

 轢かれたんですけどね。

 ははぁと頭を下げてレーマ様と地球の神様の会話を聞く。

 アユミチは地球の神様の顔を見てはいけないそうだ。

 

 

「たしかに、この者は生身でありがならレーマ・ルジアを知覚したようですね。無意識に呼びかけていた可能性もあります」

「だろ?」

「しかし」

 

 抑揚のない淡々とした声音で、弾んだレーマ様の言葉を遮った。

 

「レーマ・ルジアが次にこちらと魂交できるのは1047日後です。今回のこれは規定に合いません」

「そこをなんとか特例で。ほら、これってあれだろ。霊的親子の関係。切っても切れないやつ。これを無理に引っぺがすのは逆に世界に悪影響だって」

「……」

 

 頭を下げたままのアユミチの頭に視線を感じる。圧がかかる。

 直視したら潰れそう。

 だから見てはいけないのか。

 

 

「いいでしょう」

「マジか? 助かるぅ」

「いいでしょう。本来の倍の2095日を魂交禁止期間として、特例を認めます」

「はあ? 六年ってそりゃ……あーわかったって」

 

 反論しかけたレーマ様だが、頭を上げかけたアユミチを片手で押さえつけて承諾した。

 よけいなことを言うと思われたのかもしれない。

 

 

「アユミチでしたか。お前はそれでいいのですね?」

「はい、もちろん。寛大な神様に感謝します」

「レーマ・ルジアの使徒となれば苦労するかと思いますが」

「どんな苦労も(いと)いません」

「……ならば、これ以上私から言うことはありません」

「キモ男だけど感心な奴だぜ。ああ、アユミチの肉体ももらっていくからな」

 

 その場でレーマ様が何かを肩に担ぐような仕草をするのを感じた。

 地上にあったアユミチの体を拾い上げたのか。土下座状態で上は見えない。

 

「均衡を保つ為にそちらからも肉を送りなさい」

「わかってるよ。同じ重さの生きてない肉な」

 

 身元不明の死体になるんじゃないの、それ。

 今までもそんな取引があったのかもしれない。

 

 

「あの、神様……地球の神様」

「なんですか?」

「俺の死体……俺の死因とかどうなりますか?」

「その上着を置いていきなさい。千切って川辺に引っかけておけば、後は人間たちが理解するでしょう」

 

 残された家族、知人への説明はどうなるのかと思ったのだが。

 最初からなかったことになるとかじゃなくて、雑な偽装工作で済まされた。

 

「神は人間に虚偽を伝えることができません。ですが人間が勘違いするのは問題ありません」

「ありがとうございます。じゃあそれで」

 

 死んでしまった説明もなにもできない。まさか女神に轢かれて死んだなんて想像もできないだろうし。

 心残りがゼロではないが、死んだらどうしようもない。

 せめて何かしら痕跡があれば、行方不明のアユミチをいつまでも探し続けることもあるまい。

 

 

「じゃあいくぜ、アユミチ。約束忘れんなよ」

「もちろん――ひゃっ!」

 

 ひょいっと左肩に乗せられ変な悲鳴をあげる。

 地球の神様の顔を見ないように目を瞑った。見ちゃいけないと本能で感じるのだ。さすが神様。

 右肩に肉体、左肩に霊魂の俺をまとめて運んで、戦馬車に放り込んだ。

 

 担がれてみてわかったのだが、レーマ様自身もものすごい力持ちというか存在感というか。霊魂のランクみたいなものが圧倒的に違うことを思い知る。

 プロレスラーに捕まれたハムスターみたいな気分。

 

「じゃ、六年後にな」

「次はちゃんとノックをなさい。レーマ・ルジア」

「お、あー、わかってるって。じゃあな」

 

 

  ◆   ◇   ◆

 

 

 二頭の天馬に引かれた黄金の戦馬車が、燃える(わだち)を残して空へと消えていった。

 逃げるように。

 

 それを見送った白い影はふうと息を吐いて、残っていた上着を地上にはらりと流しながらもう一度溜め息をつく。

 

「そちらがどう転ぶかわかりませんが、そうですね。せめてハードディスクはまっさらにしておいてあげましょう」

 

 ふっと地上に息を吹きかけて。

 

「褒美……いえ、慈悲ですよ。アユミチ。私は寛大なので」

 

 

  ◆   ◇   ◆

 

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