法失き世界、人の道は険しくとも 【旧題】チャリオットに轢かれて 作:大洲やとこ
立て籠もったファニアがまず考えたのは火をつけられる可能性。
野盗の言い分を聞いて、すぐに焼かれることはなさそうだと判断する。
「ファニア様……」
「心配するな。ゴロツキの十人程度なら問題ない」
病で数か月
万全の状態で、敵の数と構成を把握して、守るべきものがなければ。
声の様子から外の敵が二十より少ないと考えつつ、しかしファニアにとって悪条件は変わらない。
「私はトローメで最高の鬼巫様の
「はい。さっきの矢も当たったと思ったのに」
「するっと避けて、その、すごかったです」
半分強がりの言葉だったが、プレヴラの母コニーともう一人の女がファニアを称える。
壁に突き刺さった矢を見て息が漏れた。
ファニアを警戒させた最初の一撃。かなり遠くから正確に足を狙った。
正直、胴体を狙われていたら完全に
足の怪我には苦い記憶がある。
躱したというより逃げたという方が正しい。
――うひぃぃっ!
――従う! あんたらに従うから助けてくれ!
――老いぼれを殺してもなんにもぐぇ……
外の声を聞いて決断した。
待ちは愚策だ。
敵側が集落を掌握してからでは打って出る機会がなくなる。
囚われれば、若い女がどう扱われるかなど考えるまでもない。
「私は奴らを切り捨てる。出たらすぐに戸を閉めてくれ」
「わかりました」
「お気をつけて」
二人の女に頷き、震えている幼女プレヴラの頭を撫でた。
「安心しろ。大丈夫だ」
「……うん」
子供を守りたいというアユミチの気持ちはファニアにもわかる。
実際にこの国では……世界中どこでも、子供の命は軽く扱われている。
病や飢餓で十まで生きられない子は多く、労働力にならない幼児は大事にされない。死んだらまた産めばいい、というように。
多産多死。
それが多くの人々の日常で、よいことではなくとも現実として受け入れられてきた。
アユミチはそれが嫌いらしい。
命の恩人の望みが子供を生かすことなら、ファニアができる限りのことをするまで。
屋外にはカヨウたちもいるのだ。敵に見つかっていなければいいのだが。
「扉の左右に立って。プレヴラ、つっかえ棒を頼む」
「うん」
建物の内側で横にスライドする戸。
これも丸太を噛み合わせて組んだ造りで、とても重い。重くて頑丈なのが今はありがたい。
集落で一番丈夫な建物だから女子供を住まわせた。
「では……っ!」
話している時間も惜しい。
目くばせで呼吸を合わせて、つっかえ棒を外すと同時にドアを開けて飛び出した。
「ふ」
扉近くに立っていた男に斬りつけながら出たファニアに、二本の矢が飛んでくる。
当たる軌道。
だが来るとわかっていれば対処できる。
肩に当たりそうな一本を切り払い、腹に向かってきた一本を左手で掴み取った。
次は――
「しま――」
矢をつがえる男の姿を確認したのはその瞬間。
最初にファニアの足を狙った男だ。先の二本とは精度も勢いも違う。
呼吸をずらして、最初にいた場所から移動して二射目。
他のは囮だ。
剣を払った後の姿勢の、重心がかかった側。右太もも辺りに鋭い矢を放たれた。
「くっ」
転がる。みっともなく転がりながら、左の二の腕辺りの皮が矢の摩擦で削がれるのを感じた。
避け切れなかった。射貫かれるのは避けたが。
痛い。
けれど利き手でなかったことを感謝すべきか。
熟練の弓兵程度の腕前がある。
部下を囮に使うのにためらいもない。
ぎり、と歯を噛みしめながら転がり、すぐ立ち上がろうと――
「あ」
集落を守る為に戦うだろう人間は、ファニアだけではない。
もう一人の心当たり。
いつも、何年も。
この集落を見守り、警備まがいのことをしてきた男がいた。
「トバ――」
その男がなぜ村に近づく野盗に気づかなかったのか。
誰より先に察知してそれと戦ったか。
ならば死んでいただろう。誰より先に。
そうでなくて、矢を避け転がったファニアの前に立っているのなら――
◆ ◇ ◆