よもやま学マスギャグ話   作:五百田わいゆ

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花海姉妹が好きです!




咲季「攻撃をうけているわ、プロデューサァ──ッ!」

 

 

 ある日のことである!

 

「この気配は……」

 

放課後、プロデューサーを空教室で待つ花海咲季は、とあるアイドルからの交信を受信した!

 

「この強烈な姉性……あなたは個別プロデュース時空で true end まで到達した "姫崎莉波" ね!」

 

「ふふふ、さすがだね!」

 

 咲季は、自らのアイドル空間(※1)にて具現化した姫崎莉波のイメージを視認する。

 

 (※1注:アイドルが個々に有する独自の心理的領域。アイドルってすごい)

 

 ドン! と漫画の見開きのように登場した彼女は、とんでもなくお姉ちゃんであった。雰囲気、表情、まなざし、あらゆるすべてがお姉ちゃん然としている。常にお姉ちゃんであろうとする、静かな意志を感じるのだ。

 

「そっちこそさすがね……、到達したみたいじゃない。至高のお姉ちゃんの極みへ」

 

「ふふふ、──公式でまだちゃんとした絡みがないから、こう呼ぶことにするね──ありがとう、花海咲季ちゃん」

 

「どういたしまして、姫崎莉波」

 

咲季ははわざとらしく敬称をはずして言い放つ。「それで、なんの用?」

 

 咲季の眼力を涼しげに受け流して、姫崎莉波は天真爛漫に言った。

 

「あなたを、あなたのプロデューサーくんのお姉ちゃんにしに来ました!」

 

「はあ!?」

 

とんでもないこと言われて、さしもの咲季もひるんでしまう。

 

 だが、勝負事の気配を感じ取った彼女は、すぐにこうしたときの基本を思い出し、立ち直った。こういうときは、たじろいだら負けなのだ。

 

「私にはわかるよ。あなたもきっと、プロデューサーくんのお姉ちゃんになりたがってる」

 

とはいえ、相手はおそらく true end に到達したであろう猛者だ。もしかしたら A+ かもしれない。そう思わせるほど、姫崎莉波のアイドル魂はすさまじかった。

 

 ──仕切りなおすか──、いやまだ全然始まったばかりじゃない──。気おされ、弱気になっている自分に気づいて、咲季は歯嚙みする。

 

「ねえ、そうでしょ? 花海咲季ちゃん」

 

だが姫崎莉波は待ってはくれない。祝福を与える女神のように続ける。

 

「実際、あなたは佑芽ちゃん以外の子に対しても、お姉ちゃんでいようとするじゃない」

 

「それとこれとは話が別よ」

 

 スタートダッシュに失敗した咲季だったが、スタンドプレーには慣れている。挽回すればいい。

 

「どうして私がプロデューサーのお姉ちゃんになりたがってるって? そもそも彼は年上よ、弟にはできないわ」

 

「だってわかるの。あなたの心からあふれる姉性が、求めているもの──弟を。必要なのはそれだけ。年齢は関係ないよ。私だって私のプロデューサーくんのほうが年上だけど、お姉ちゃんになることができたんだから」

 

カッとどこからかスポットライトの群れが出現し、まるで舞台の始まりの合図かのように姫崎莉波を照らし上げた。

 

「そう! お姉ちゃんであることに年齢は関係ないの。必要なのは意志。お姉ちゃんになろうという強い意志と──、同じくらい強い欲望!」

 

「姫崎莉波、それが私にあるって?」

 

「そうだよ、花海咲季ちゃん!」

 

「クッ──!」

 

 実は、ある。花海咲季には実は、プロデューサーのお姉ちゃんになりたい意志と、欲がある──だって結構ほっとけないところがあるし、ずっとそばにいてくれるから──。

 

「ばかばかしい」

 

だが、それを認めるわけにはいかなかった。

 

「私は佑芽だけのお姉ちゃんよ。たしかにお姉ちゃんぶることはあっても、プロデューサーのお姉ちゃんになることはないわ!」

 

「ふふふ、強情だね、花海咲季ちゃん」

 

 突然、姫崎莉波は距離感を詰めて情熱的にターンしたかと思うと、ある映像を咲季に見せた。

 

「ひ・ざ・ま・く・ら♡」

 

それは架空の咲季がプロデューサーを膝枕で寝かしつけている映像だった。映像の中のふたりは、とても幸せそうな顔をしている──。

 

『咲季さん──』

 

『こら、お姉ちゃん、でしょ?』

 

『すみません。咲季──お姉ちゃんの膝枕は、固いですね』

 

『なによ、不服なわけ?』

 

『いいえ。そのほうが咲季お姉ちゃんらしい。固い姉の膝枕なんて、世界中探してもどこにもない』

 

『ほめてるの? けなしてるの?』

 

『ほめてるんですよ。この固さは、お姉ちゃんの強さの証なんですから──』

 

「ウッ! 惑わされないわ!」

 

 ──たしかに私のプロデューサーはこういうことを言う。こっちの気持ちを知ってか知らずか、コールしたらほしいレスポンスが返ってくるのだ。まさに弟にすれば、理想の愛らしさを補給できるだろう──。

 

「だめよ咲季!」

 

 喝を入れるように自分へ声援を送る。耽美な妄想を両腕でぶんぶんと払って、意地でも認めまいと頭を振った。

 

「ふふ、いつまでもつかな? ──か・ん・びょ・う♡」

 

 次は体調を崩したプロデューサーを、咲季が看病する映像だ。普段は完全無欠の完璧超人のような彼が、甘えた声で咲季のなすがままになっている。

 

『すみません、お姉ちゃん』

 

『まったくよ。だめじゃない、体調管理もプロデューサーの仕事のうちよ』

 

『面目ない……』

 

『はあ……、もういいわよ。まずはゆっくり休みなさい。とりあえず、汗かいたろうし体を拭いたげるわ!』

 

『え、そこまでは──』

 

『なに遠慮してるのよ。いまさらじゃない』

 

『うう……』

 

『……あなた、見た目によらずいい体よね』

 

『お姉ちゃん、えっちですよ……』

 

『そ、そういう意味じゃないわよ! はあ……でも、こんなふうに風邪をひいちゃうなら、まだまだ鍛え方が足りないのかしら? 私がトレーニングプランを組んであげましょうか!』

 

『……──いえ、結構です』

 

『なんでよ、私の──』

 

『だって。たまにはこうして、お姉ちゃんに世話を焼かれたいかな、と──』

 

「ガッハァーーーッ!」

 

 危ないところだった。媒体が媒体なら安易に吐血していたところだ。至高のエンタメとはまさにこのことだ。あまりにも咲季の欲望に忠実すぎる。

 

「ゼェーー、ハァーー、い、いやでも、ぎりぎりプロデューサーはそんなこと言わないわ……。か、解釈違いよ!」

 

「でも弟になってくれたら、こうやって甘えてくれるかもよ? 甘えてほしくない?」

 

「グッフゥ」

 

嗚咽で同意してしまう咲季は、しかし持ちこたえた。

 

「こ、この花海咲季には成就すべき夢がある! そのためには、そのためにはプロデューサーはプロデューサーのままでいてもらう必要があるの! 断じて弟などではないわ! この花海咲季、そんな誘惑に負けたりしないんだから!」

 

「こ・く・は・く♡」

 

「ヒュッ──」

 

強い西日、暗いけれど力強い夕暮れ。夕日のせいばかりではない顔を赤くした咲季と、もたれるような夏を吹き飛ばす笑顔のプロデューサー、ふたりきり。夏の終わりかけ、うるさいアブラセミがむしろ恋しくなる、ヒグラシの鳴くころ。

 

『やりましたね、咲季さん! H.I.F 優勝です!』

 

『お姉ちゃん』

 

『お姉ちゃん! 優勝です! やりました! ああ、ああ、やはりあなたは本当に……、ありがとう、ありがとう咲季お姉ちゃん!』

 

『ねえ──』

 

『……どうしました? あまり嬉しそうではありませんね。ステージが終わってからというものの、ずっと浮かない顔だ。今日ばかりはお祝いしましょう。あなたの努力の勝利なのですから! あなたは勝ったのです!』

 

『そうだけど! そうじゃないというか……。まだ私の勝負は終わってないというか……』

 

『はあ……?』

 

『あの、あのね。お姉ちゃんとしてこういうことを言うのはどうなんだって思うんだけどね……』

 

『……聞きますよ。この際です。すべてお聞きして、受け止めましょう』

 

『……本当にそういうところよ、ばか』

 

『……すみません』

 

『いいわ、許したげる。それでね、えっと……。えっとね。実はね、実は……私。あなたのことを──』

 

「ストップよ」

 

 一転、凍てつく鋭い声が突如として空間を切り裂く。

 

「──Fighting My Way(絶対に負けない)。これは私の勝負なんかじゃない」

 

「ふうん……」

 

姫崎莉波の余裕が、次第に失せていく。理解したのだ。彼女は、触れてはいけないものに触れてしまったのだ。

 

()()()()()()()()、あなた」

 

()()()()? はみだす必要なんてないわ。どうして私が、私の道をはみだそうというのかしら」

 

 ゆらりと動いて、咲季は姫崎莉波をしっかりと見据えた。

 

「この花海咲季には叶えたい夢がある! 絶対に負けないということよ! 勝ち続ける! それは何人たりとも侵せない! あなたにも、ましてやプロデューサーにも!」

 

咲季は確信していた。最後に見せた映像は、姫崎莉波の欲望が見せた映像だ。そこに、咲季とは似ても相いれない違いがあった。

 

「言ってあげるわ! それは──!」

 

「クッ、やめて──!」

 

「咲季さん、何を騒いでるのですか?」

 

「プロデューサー!?」

 

 そのとき、ふいの闖入者が現れた。咲季のプロデューサーだ。

 

「どうしたんです? 戸の外まで聞こえてきましたよ? いったいひとりでなにを?(※2)」

 

(※2:プロデューサーはアイドルではない。であるからして、アイドル空間を観測できず、干渉もできないのだ! アイドルってすごい)

 

「ぷ、プロデューサー! 近づかないで!」

 

咲季は絶叫する。「私たちは、たったいま攻撃をうけているわ、プロデューサァ──ッ!」

 

「ジャンプ読みました?」

 

「ふふふ、形勢逆転だね花海咲季ちゃん」

 

「……それはどうかしら姫崎莉波」

 

「え、姫崎さんがなにか? 3年生の方ですよね?」

 

 プロデューサーが蚊帳の外の中、内でふたりのアイドルが──、否、お姉ちゃんがしのぎを削る。

 

「あなたはさっき、徹底的な弱みを見せたわ、そう、あなたは結局、お姉ちゃんになりたくてなったわけじゃないの。あなたはね、本当に大事なことを見落としている──」

 

「……どういう意味かな?」

 

「焦りなさんな、言ってやるわよ。それはね──」

 

花海咲季は不敵に笑って、まるでバズワードを口にするように宣言した。

 

「お姉ちゃんは弟からプロポーズされない」

 

「ウワーーー!」

 

 突如、姫崎莉波は悶絶を開始した。

 

「あーっはっはっは! どうよ姫崎莉波!」

 

高笑いして、咲季は次の手札を切る。

 

「ちなみに私は、すべてが終わったらプロポーズしてきなさいと宣言したわ!」

 

「グワーーーッ」

 

超恥ずかしかったけどね、というのは心にしまって、次の攻勢に出る。

 

「あなたは焦ったの! もっとメンタルを強化してきなさい! アクティブに攻めるには、それ相応のメンタルが必要なんだから!」

 

「ハァーーー、ハァーーー!」

 

 それこそジャンプ漫画の悪役みたいな様子になった姫崎莉波は、しかし潔くいった。

 

「そうだね。そのとおりかも」

 

「え?」

 

「はみだしたいんだ。でも、それってはみだすってことなんだよね」

 

「姫崎莉波……」

 

 無意識だった。咲季はずかずかと姫崎莉波へ近づいて行って、彼女の手を固く握った。

 

「まだ負けてないわ!」

 

「え──」

 

「まだ負けてないって言ったの!」

 

 咲季は姫崎莉波の目をじっと見ていった。「あなた負ける気?」

 

「負けない」

 

驚くほど早い返答に、しかし当然だと思った咲季は笑っていった。

 

「なら行きなさい。あなたが戦うべきは、わたしじゃないわ」

 

「咲季ちゃん──」

 

「ふふ、ようやくちゃんと呼んでくれたわね──、莉波先輩」

 

「咲季ちゃん!」

 

「莉波先輩!」

 

 咲季と莉波はひしと抱き合った。お互いにお互いを強敵と認め、友と認め合った。

 

「頑張りなさい!」

 

「うん、咲季ちゃんも──」

 

 そうして莉波のイメージが透けていく。

 

「応援してるわ、利波先輩のこと」

 

「私もよ、咲季ちゃん」

 

どこからか鐘がなる。咲季は、ああきっとこれは、近い将来にいずれ聞く旋律なのだろうと、目をとじた。

 

 そして、目を開ければ莉波の姿はなかった。

 

「……咲季さん?」

 

困惑した面持ちの──たまに見せるかわいらしい顔の──、プロデューサーを咲季が射止める。

 

「あらいたの。プロデューサー」

 

「いましたよ、さっきから。なにがあったんです?」

 

「そうねえ──」

 

 いたずらっぽく笑って、咲季は舌を出す。

 

「あなた、私の弟になる気はない?」

 

──答えはきっと、決まっている──。

 

 





なんか思ったままを書いてるだけなんですけど、これでいいんでしょうか。
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