「アイツの特殊能力か? この結界から抜け出さないとヤバそうだな」
一護は再び、斬月に力を込めた。
今度は黒い月斬だ。
「月牙天衝!」
マグマの壁に向かって斬撃を飛ばす。
しかし、斬撃は壁を貫通するとなく、マグマの中に沈み込んでしまった。
「…なん…だと…?」
「無駄だ。この領域には細工がしてあってな。内側の呪力の強度を上げて外側の強度を下げることで、相手をこの場から脱出できないようにしているのだ」
赤黒いマグマが次々と一護に向かって飛んできた。それを一護は斬月を使ってはたき落としていく。ふと違和感に気づく。マグマをはたき落とせば落とすほど威力は上がって行く。それはやがて、一護の卍解の力にまで匹敵しようとしていた。
「せいぜい足掻くが良い。領域展開ば必中の術式。当たるまでここから出れんぞ!」
漏瑚は領域の天井ギリギリまで飛んだ。
構えた右手に領域内のマグマが集まってくる。それは一つの巨大な隕石となって領域を覆い尽くした。大きく目を開ける漏瑚。
「極ノ番・隕!」
領域内を覆い尽くすほどの隕石が現れた。
それは呪術において、極めたものだけが許される切り札だった。
「隕石なら切れば終わりだ。月牙天衝!」
一護は霊圧を斬月に込めた。
そして、放つ。
強力な一撃が漏瑚の領域中で放たれた。
それに対して、漏瑚は不適な笑みを浮かべた。領域内にあるすべての呪力が極ノ番・隕に込められる。
月牙の刃は領域内を飛んでゆく。そして漏瑚のいまいましい巨大な隕石と激突した。卍解の力で真っ二つになる隕石。なんだよ。自信満々に言っていたけど、こんなものかよ。一護は安堵した。これならやれる。
そう思った瞬間。
領域内の壁のマグマに取り込まれる月牙。そして、その後、月牙によって一度真っ二つになった隕石の内側からドロドロの粘液質なマグマが出てきて、隕石は引き寄せられ、再び一つになった。
「…なん…だと…?」
驚く一護。
「終わりだ。死神!」
必中の隕石が一護には当たる。
ズ…ゴゴゴゴゴァァァァァァァァ。
領域内で隕石が地面と衝突して、大きく音を立てる。
「肝心の呪力は…まだかろうじて感じるな。だが、極ノ番を直接喰らったんだ。もう立ってはいられまい」
漏瑚はそう呟いて領域を解こうとしたその時。隕石が落ちた衝撃によってできた火山の中に、人間の形をした影が見える。それは、紛れもなく黒装束。一護の姿だった。
「なんだ…そのお面は?」
そして、なんだ。この圧力は。
ここは儂の領域だぞ。なのに、まるで他人の領域にいるかのような感覚。
漏瑚は異様な圧を間に受けて、全身に粟が立った。
「火山頭。お前が死ぬ前に教えといてやる。これは虚化(ホロウカ)といってな。虚(ホロウ)に近づくことで一時的に戦闘力を上げることができるものだ。そしてこれは卍解との併用が可能だ。悪いな。お前はもう終わりだ」
「なっ…何を言ってるのか分からんが、領域展開とは概念が絡む術式。そして、この領域が解けぬ限り、必中でお前に攻撃は当たる」
漏瑚はマグマの壁を掬った。そして固めたマグマを投げる。これだけで大抵の人間は高温に焼かれて死ぬ。お前もそうなるのだ一護とやら!
「俺は守るべきものがあるから戦ってんだ。だから、未知の力だろうが、必中で攻撃が当たろうがお前を倒す。それだけだ」
刹那。
一護は動いた。
それは特級呪霊である漏瑚ですら、追いきれないほどのスピードだった。
必中だろうがなんだろうが、当たらなければ意味がない。空振りしたマグマが一護の背中で弾ける。
『月牙天衝!』
斬月が帯びたその力は今までとは違っていた。
黒い月牙。
卍解の時からさらに威力は倍増している。
バシュッ!!
漏瑚の肩から足にかけて、黒い月牙の刃がめり込む。
「………!」
漏瑚が当たってから始めて、自分が負けたのだと気づいた。同時に納得もした。今の一護は、五条や宿儺と同じだ。あっち側に行ったのだ。
「一つだけ勘違いをしているなら教えておいてやろう。100年後の荒野で笑うのは儂である必要はない。呪いが人として立っていればそれでいい……」
言い終わる頃、漏瑚の身体は真っ二つになっていた。
同時に一護を覆っていた領域がスッと消えた。
人も自動車も電車も止まり、静まり返った渋谷で一護はポツリと1人佇んでいた。
「終わったか…」
手で仮面を払い、状態を解く一護。
ゾクッ!
「いや、まだいる。新手か!」
今まで隠れていた呪霊がいるのだろう。一護はそちらに向かって走って行った。
夜一は油断していた。真人のことは完全に倒したと思っていたからだ。魂の形を自由に変えれる真人は、攻撃を喰らいながらも極小の魂となって分裂した。そしてスルスルと排水溝通って逃げることに成功した
。
真人はすでに心身共に限界が来ており、これ以上術式は使えない。しかし、逃げるだけならこれだけで十分だった。
夜一は呪術師ではないため、真人が魂と僅かな呪力だけになって逃げたことに気が付かなかったのだ。