ザッザッザッ。
1人の人物が歯を食いしばってこちらに歩いてくる。脹相だった。夏油の顔を見て物思いにふけっている。過去の嫌な記憶が脹相の中で風船のように膨らんでいく。
「アイツは…!!」
脹相には三人の親がいる。母と母を孕ませた呪霊。そして、その間に血を混ぜた、母を弄んだ、憎むべき--。
「気づいたようだね」
ようやくか。
振り返って脹相を見る夏油の目は、憐れみに満ちていた。
「そういうことか!!」
ただでさえ歯を噛んでいた脹相が、完璧に悟ったことで、噛む歯の力を強め、もはや血が出そうになっている。
「加茂憲倫!!」
脹相は怒りをぶつけるように夏油に向かって叫んだ。
「加茂……憲倫⁉︎」
「私⁉︎」
京都高専のメンバーそして、後ろでこっそり待機していた日下部も驚いたようにその名を口にした。
「何⁉︎ どういうこと⁉︎」
理解できなかった西宮が誰からかまわず尋ねた。
「加茂家の汚点…!! 史上最悪の術師。本当なら夏油の中身は150歳を超えていることになるわよ」
前で生徒を庇おうと庵歌姫が質問に答えながら出てきた。
「加茂憲倫も数ある名の一つにすぎない。好きに呼びなよ」
「よくも……!! よくも俺に!!」
脹相が夏油に向かって勢いよく走っていく。
「虎杖を!! 弟を!! 殺させようとしたな!!」
ザザッ。
夏油の横に白い髪に袴着姿の呪詛師がやってきた。裏梅だった。
「新手か!」
京都校のメンバーと夏油、そして脹相のやり取りに目を奪われていた一護は悟った。この男とも女ともいえる感じのヤツ。強い。ここにいる呪術師じゃ歯が立たないレベルだ。
「引っ込め三下。これ以上私を待たせるな」
裏梅はスッと手に呪力を込めた。
「そこまでだ!」
雷に匹敵するスピードで人が飛んでくる。裏梅はそれが自分に向けられた敵意だと知った瞬間、何かとんでもないことに力で地面にえぐられながら吹き飛ばされた。
「この霊圧。夜一さんと…浦原…さん?」
瞬閧によって発せられた高濃度の鬼道によってできた砂埃の中、一護は感じ取っていた。浦原喜助。その男は、計算高く、何を考えているか分からない不気味な男だった。
流石の夏油も冷や汗をかいている。
「いやァ。みなさん熱いですねー♪ まぁ若者の中心地、渋谷がこんなことになっているようじゃ、学生さんは特に怒りますよね」
「何しに来やがったんだ!」
「おや、一護サン。どうやら元気そうでなによりです。虚の力まで使って、随分と活躍したようですね♪」
「ようですね。じゃねーよ! 呪術は斬魄刀というより、鬼道に近かったぞ! やりにくかったんだよ!」
「でも勝てた。結果オーライじゃないですか。さて」
浦原は夏油に向き合った。
「五条サンは、我々に協力体制を持ちかけました。現世で呪霊が暴れるのから人々を助けて欲しい。見返りに尸魂界からくるであろうこれからの脅威に個人的に協力する、でした。これに対して私は懐疑的だった。現世しか知らない呪術師が、果たして世界を潰そうとしてくる破面たちに勝てるのかどうか。しかし、五条サンの能力を見た時に、そんな心配は吹き飛びました。無下限呪術は、破面相手でも有効。むしろ、知らない力ゆえに、動揺を誘える効果があると。だから、必要なんスよ。封印解いてくれないですかね?」
「嫌だと言ったら?」
夏油は笑いをしながら聞いた。
「時間がもったいないので一瞬で片付けまーーす」
浦原は仕込み杖の形をしている刀を解放した。
「啼け『紅姫』!」
浦原の始解が発動した。それに伴い、あたりがピリピリし始める。浦原の霊圧に、ここにいる全ての者が押されていた。
「なるほど、これが死神とやらの力か」
夏油は手の甲の指を合わせて、印を結んだ。
「ご存知で?」
「互いの力が煙たい時、どちらがより強い一撃を入れれるかで勝負が決まる。そうだろ浦原喜助」
領域展開「胎蔵遍野」
「!」
「この術式は…!」
日下部は思わず声が漏れた。その場にいた誰もが、息を呑むほどの威圧感。ムンクの叫びの様な絶望した表情をした無数の顔で構成された幹。そして下部はアフリカの呪術師風の妊婦、上部は顔をもぎ取られ磔にされた妊婦が囲む樹木のような模様をしていた。
だが、それだけでは、数々の呪霊を祓い続け、修羅場を潜ってきた呪術師が驚きや恐怖、絶望が混じった今の表情をすることはないだろう。
夏油の中の呪霊が放った領域展開は、宿儺だけが使用が確認されている、結界を閉じずに領域を展開し、術式を発動させる離れ業だった。
「浦原喜助。お前がどんな未知数の力を持っていようが、必中の術式の前では無意味だ」
これで終わりと言わんばかりに、夏油は片手を天に掲げた。
それに対して、一護は加勢をしようと斬魄刀を構えた。
「一護サン。手を下ろしてください。そして呪術師の皆サンも。巻き込まれるのは、私だけで良い--」
卍解『観音開紅姫改メ』
浦原の傍に聖母を思わせる巨大な女神像が現れた。