「急ごう菜々子」
美々子が急かす。
気絶した虎杖は、菜々子によってトイレ内からズリズリと引きずられていた。外では、右手に宿儺の指を持った菜々子が待っている。
「指で呪霊が寄るかも」
心配する美々子。
「分かってる」
菜々子は、しゃがんで虎杖のほっぺたをつかみ、もう片方の手で美々子から宿儺の指を受け取る。
「お願い出て来て。宿儺様」
菜々子はそう言いながら、虎杖の口に宿儺の指をぐいっと喉の奥に押し込んだ。
ゴクン!
滑るように虎杖は宿儺の指を飲み込んだ。
虎杖の身体は、宿儺の呪いに適した作りになっているかのようだった。
虎杖が宿儺の指を飲み込んだことにより、渋谷全土に新たなる旋律が走った。
宿儺は呪いの王。
その呪力は、誰もが恐怖し、畏怖するものだった。
卍解状態の月牙天衝によって、再び片腕を切られた漏瑚にとってもそれは同じだ。
しかも、漏瑚にとって宿儺の復活は己の悲願だったのだ。
何者かに、それを先取られる訳にはいかない。ましてや、この気配。おそらく指を持っていたのは人間だ。
漏瑚は逃げるのではなく、宿儺に頼ろうと考えた。宿儺なら、このオレンジ髪の青年にも勝てるだろう。
月牙天衝の爆風と隕石が切られた時の土煙似よって視界が遮られている。今なら、移動できる。例え、オレンジ髪の青年が気づいたとしても、追いつくまでに、指の解放地点に到達できるはずだ。漏瑚はそう考えた瞬間から、一護から背を向けて全速力で走った。
当然一護もそのことに気づいた。
「あ、待てよ!」
一護は声をあげた。
わずかに遅れて、七海、真希、直毘人、伏黒も気づいた。
「我々も行くぞ! 一護!」
すでに漏瑚のいるところに向けて走り始めた一護に七海が声をかけた。
「ああ」
一護が返事をする。
「なんだ?」
伏黒は妙な気配がすると思い、下を見た。すると、黒猫が伏黒たちと並走するように走っているではないか。
「な、ウソ…だろ…?」
「式神ではない。ただの猫っぽいな。ほっとくぞ恵!」
真希が声をかけた。伏黒は黒猫を警戒しつつも、気にしないようにした。
卍解状態の一護と、呪術師の中でも、走りには自信のある七海、真希、直毘人、伏黒に並走する猫など初めて見た。もっともその正体は、死神の四楓院夜一なのだが、それを知っているのは一護しかいなかった。
【同時刻 渋谷トイレ内】
ザッ!
漏瑚現着。
美々子と菜々子はそれにすぐ反応する。しかし、漏瑚との呪力量のレベル差に圧倒されて、動けなくなっていた。
対する漏瑚も、気絶した虎杖と、人間のおそらく呪詛師であろう少女2人との間に起きた出来事を把握するのにわずかに時間を要した。
そのわずか数秒の間に、虎杖の顔に宿儺の紋章がスゥと刻まれていく。
「チッ」
漏瑚は舌打ちした。
「貴様ら、指を何本分喰わせた!!」
次に一つ目を見開いて、漏瑚は怒鳴った。
「美々子!!」
「言…言わない!!」
「そうか」
漏瑚は手のひらを美々子と菜々子に向ける。
「死ね」
その瞬間、菜々子が美々子を抱き寄せて、スマホを漏瑚に向ける。
ボウッ!
「きゃあっ」
燃える美々子と菜々子。
漏瑚はもはや目もくれず虎杖に近づく。
時間はない。
懐から巻き物を取り出して、ほどいた。中には10本の宿儺の指が、並べらて吊るしてあった。
「起きろ宿儺!!」
「月牙天衝!!」
一護の声が駅の壁に反射して聞こえる。
その刹那、漏瑚の脳内に再び、例の斬撃と切られた腕が思い浮かぶ。
「クソッ!」
漏瑚はパッとその場を離れた。
そこを斬撃が、床と天井を垂直に切断していく。
さらに直毘人が術式、投射呪法によって最速で虎杖を掴み確保した。そして一護の近くに虎杖を担いで歩み寄ってきた。
「ナイスだ、ひげのおっさん」
「ひげのおっさんではなく、ワシの名前は禅院直毘人だが、家入のところまで連れて行きたかったが、まぁ…この感じだとまた狙われるな」
「ああ。それにしても、この火山野郎。虎杖のこと狙ってたな。こいつに何かあるのか?」
「…そうか。一護とやら。思えば呪術師ではないのか。虎杖は呪いの王である宿儺の器として、呪霊にも狙われる存在なのだ」
直毘人の言葉に一護は納得して頷いた。
間に合わなかったか。また状況が振り出しに戻ってしまった。漏瑚はそう思いながら、宿儺の指の吊られた巻き物を服の中に閉まった。
「手伝おうか漏瑚?」
どこからか声が聞こえて来た。
「真人か⁉︎」
魂の形を変形できる真人が細長い形となって排水溝から這い出てきた。
「虎杖がああなってしまったらしょうがない。邪魔な呪術師どもを殺さないと、あいつら意地でも虎杖のこと守るでしょ」
「ゲームはどうする気だ?」
「お預けでしょ。フツーに。ここは協力する方が早い。なんか特級クラスの強そうなやつもいるし」
真人はチラリと一護を見た。
「ふん。俺がお前ら2人をやったらシメーだろ」
一護は斬魄刀を構えた。
「待て、一護」
黒猫が喋った。
「…なん…だと…⁉︎」
伏黒は驚いて声が出てしまった。やはりただの猫ではなかったのか。
コイツまさか、一護の仲間なのか?
「此奴の力は五条から聞いておる。触れたもの魂を強制的に変えさせられるようだ。儂がでる」
黒猫の姿が変形していった。